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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
8th AID 神様の脳みそ

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乾坤一擲の大博打

 学校の七不思議は七つそれぞれの怪異でありながら学校で一括りにされた珍しい怪異だ。どうしてそんな事が分かるか? 話は単純だ。怪異の力は噂に左右される。学校の七不思議と呼ばれる噂に定番な締め方を知っているだろうか。



 七不思議全てに遭遇すると、死ぬ。



 そこまであって七不思議。だからこそ七不思議を調べようとする人間は後を絶たない。皆、その先が気になるのだ。死ぬと言われているが死んだら語り継がれない。その矛盾は最早怪談話にとって定番ではあるが……そういうもので終わらせないのがオカルト好きの性。好奇心旺盛な所は科学者とそっくりだ。まあ、科学に未来はあってもオカルトに未来はないが。

「それは……可能なのですか? そもそも怪異は物理法則に縛られていない奇妙奇天烈な存在。損得や善意など持ち合わせているとは思えませんが」

「まあそうだろうな。しかし何で怪異が俺達を襲ってくるかって言ったら……一部、明確に敵意を持っている奴を除けば、自分のテリトリーに勝手に足を入れるからだ。あっちに法律とかあるのかは知らんが、怪異達のルールでは不法侵入者は一審で死刑が決まる重罪。俺達に協力はしないだろうが、要は使い方だ。外様の怪異に好き放題暴れられて良い気分だとは思えない」

「ではもし私達の方を敵として認めたら?」

「もしもはない。絶対に認めて来るだろうな。だからやるなら安全な七不思議からだ。あの怪人はお前が倒してくれるなら一先ず気にしなくていいだろう」

「私頼みですか」

「頼りにしてるぞ。他にあんな真似出来る奴いないからな。最先端ウーマン」

 ジョークを交えて頼み込む。薬子は特別な反応を見せなかったが、沈黙は肯定の理論で勝手に話を進める。今は泣き止んでくれたがまたいつ乃蒼が決壊するとも限らない。

「安全なのは……順に『あがくいかのて』『しらゆき』『ほねほね』『惚子さん』『メガネ女』、『凶犬』『屋上』だな」

「柳馬さん。あの……全然分からないんだけど」

「まあ覚えにくいか。よし、じゃあ今から七不思議を簡潔にまとめた唄を歌うからメモを取れ―――」

 おそれうたをこんな所で使う事になるとは思わなかった。何が役に立つか世の中分からないものだ。度々何処かでそれを実感する。実態は親友が適当にそれっぽく仕上げた即興の歌だが、乃蒼は熱心にメモして歌詞の指し示す怪異を繋げていた。

「鏡がしらゆき……だよね? ほねほねが理科室で―――あれッ、屋上って何ッ?」

「名前が無いのですか?」

「……名前は付けられないんだよ」

「つけられない? 何故ですか?」

「名前を付けようとした物好きは全員死んだって話だ。怪異の力は噂の範囲。尾ひれがつけばその分強化されたりもする。だから場所だけが伝わってるんだ」

 それに大抵、七不思議の調査は途中で頓挫する。対処法を間違えたり、体調不良だったり、想定しない事故が起きたり……木辰中学七不思議全てを体験した人間はいない。生還者は居ないと言った方が良いかもしれない。もしかしたら『隠されただけで』居る可能性も無きにしも非ずだ。

「―――因みに向坂君。貴方は随分と詳しいようですが、経験は?」

「ない。別に命かけてまで体験したい事でもないからな……」

 正確には珍しく乗り気になったのを鳳介に本気で止められたという珍しい経緯がある。曰く『在学中にだけはやらない方がいい』との事で、詳しく聞いてみれば仮に生き残る事が出来ても目をつけられて最悪昼間に遭遇する可能性があるからとの話。

 昼間に幽霊が出るのかと言いたい人間は多いだろうが、そもそも夜間にしか出られないというルールは誰が言いだしたのか。確かに丑三つ時に代表される出やすい時間帯はあるが、では昼間には聖なる力が世界中に滾っているとでもいうのか。それは違うだろう。夜間の方が都合が良いだけで、出ようと思えば時間は問わない。怪異が人間の都合など考えてたまるか。

「ここからは二手に分かれよう。その方が手っ取り早く終わる。乃蒼と赤子は薬子と行動して『あがくいかのて』『しらゆき』『ほねほね』『惚子さん』を頼む。俺は危険な方三つをやるから。対処法は……リン。覚えられるか?」

「無論です。私が主導する形で大丈夫ですか?」

「ああ。取り敢えず七不思議は出せばオーケーだ。攻撃するなよ。フリじゃないぞ」

「貴方は私を何だと?」

「最先端バーサーカー」

「失礼ですね」

 文句を言いつつ薬子が俺の口元に頭を傾けた。出来る限り正確な情報を伝えると彼女の口元が同時通訳さながらに小さく動いていた。聞いた言葉を口に出して唱える事で記憶力は飛躍的に上昇する。彼女なりに覚えようという気概が見られてちょっと嬉しかった。

 雫の敵というのは一旦忘れよう。超人の手も借りなければこの状況は詰みだ。さっきまで本当に詰んでいた。

「私達が薬子さんに行って柳馬さんはひとりぼっちなのッ? 死なないよねッ!?」

「対処法を教えたのは誰だと思ってるんだ? 安心してくれ乃蒼。君達だけでも助けると言っただろ。君と遠くの親友に誓って―――絶対に生き残る」

 見ていてくれ、鳳介。

 


 今度は俺が、お前みたいに誰かを助けるんだ。













 

 

 





 格好良く決めたと思ったか?

 残念。男前要素は何処にもない。薬子の手前単独行動を偽ったが俺には最初からもう一人同行者がいるのをお忘れだろうか。

「所長、お待たせしました」

「おお、柳馬君。僕の所に来たという事は、髪の毛が見つかったのかな?」

「その言い草だとカツラか何か落としたみたいですね。その通りです」

 乃蒼達が薬子の前で所長の存在をバラさなかったのは幸いだった。彼は俺の依頼を薬子に隠したうえで徹底的に協力してくれている。流石に気付いていたら事務所に被害が出ている筈なので、今の所はまだバレていない筈だ。

 

 ―――多分。


 因みに髪の毛の守りは薬子が拾ってきていた。道中で見つけて気になったから持ってきたらしい。何故それを俺の持ち物だと思ったのかは議論の余地というよりは純粋に心外だが、うまい事言ってもらってきた。俺一人なら不安が残っても九龍所長はこの手のプロ。有識者が二人も居ればまず安心だ。俺は知識だけ補えばいい。

 フェンス越しにお守りを投げる。所長は二本指で挟む様にキャッチすると、わざとよろめいてギリギリを演出し、不可抗力と言わんばかりにお守りを口の中に入れた。

「―――ええッ!? そうやって使うんですか?」

 汚え。

 一番汚いのはこの雨だが、お守りをそんな風に使う奴が何処に居るのだろうか。大体髪の毛なんて細いと言っても食べ物ではない。間違っても栄養にはならない。異物と判断されれば人体はそれを吐き出さんとせき込むだろう。二重の意味で食べたくない代物を躊躇なく口にした所長にはある種の経緯を抱いた。異食症でもないなら相当に気持ち悪い。見ていても気分が悪いのだから当人はこの倍以上は難くない。



 所長は一言も漏らさず、雨の中に飛び出した。


 

 雨粒が一滴たりとも彼の身体に触れない。雨の中に居ながらその身体は晴天に晒された時の様に乾いている。厳密には雨―――水ではないので理屈は分かるのだが、視覚情報として雨に見えるせいで所長に人間味を感じない。雨がなければ障害は何もない。そのままプールを出て俺の横までやってきた。

「―――げえええええええええええええ!」

「うわああ!?」

 そして吐いた。口元の布をぎりぎりで首におとせたのは幸運だっただろう。目の前で嘔吐された事実に『当たり前だろう』と考える自分と単純に気持ち悪がる自分が同居して複雑な表情になる。眉を顰めて、笑えばいいやら怒ればいいやら。ひとしきり吐き出して所長はスッキリしていたが、視覚的に貰い事故を食らった俺はもやもやしている。

「……他に方法無かったんですか?」

「仕方ないだろう。一時的にでも身体に取り込まないと防げないんだ。しかしこれで、この雨は一般的な雨じゃないと証明出来たなッ!」

「分かり切ってたじゃないですか。何を今更」

「百聞は一見に如かずだ。限りなく正解な推論をしようが、現実には遠く及ばないんだよ。まあ吐いたのは―――ごめん。毒を一時的に摂取するみたいなものだから、我慢出来なかった……雨で流れないかな」

「これ雨じゃないんですよ。モノ流す力もないんじゃないんですかね」

 ゲロに神秘性は皆無。この事件を解決した後もここに吐瀉物が残り続けると思うと季節的にもここを利用する中学生が気の毒でならな…………ああいや、こんな事があったのだ。当分は休校か。瑠羽も当分家に居ると思うと少し気が重い。喧嘩してしまったし。

 現状とは何ら関係ない不安に心を悩ませていると、吐瀉物の付着を確認していた所長が口元の布を持ち上げて本題を仕切り直した。






「で、何か用があるんだろ? 現況は?」 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最先端バーサーカーってw [気になる点] はてさて、狩也君とこの七不思議とどっちがヤバたんなのか……死ぬって言われてるくらいだからこっち? [一言] 七不思議、自分の学校には無かったな………
[気になる点] 鳳介が死んだのは所々出てるけど情報としては紅一点の人とはその時別行動、死体が持ち帰れないほどに追い詰められていた、それが解決できたかはわからない(時限爆弾).思い出したらしいが死因や死…
[一言] 乃蒼と赤子は在学中なんだけど....大丈夫かな....?
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