夏の女王様と王妃
従者のアリフはあの日ゾーマ様に出会ってから、従者として、それはそれは素晴らしい働きをしてきました。頼みとあればどこへでも行き、どんな頼まれごとをしても、それを叶えました。アリフはそれを、当然と思っていましたし、ゾーマ様はそんなアリフに大変感謝していました。
しかし、しばらく夏が春の様な温かさと秋の様な涼しさを見せるようになった夜、アリフは女王様に声をかけました。自分からアリフが声をかけるなんて、と夏の女王様は驚きましたが、しばらくアリフの言葉を聞くことにしました。
アリフは大男ですから、その声はよく通ります。羊飼いですからその声はなおさら遠くに届きます。でもその時だけはアリフは声をひそめます。まるで、ネズミ一匹にも聞かれてはいけない、秘密を話そうとするように、言いました。
「夏の女王様、いやゾーマ様。俺は3回月と太陽が交替する前のことだが、エステル様を見た気がするんだ」
「貴方はエステルを見たことがないのに、見間違いではないの?」
「見間違えるはずもない、だって、俺の大切なゾーマ様と同じ顔立ちをした、美しい娘なんているはずもない。双子のエステル様に違えねぇ」
「エステルは魔女と一緒でしたか?」
「いいや、それが困ったことに、俺は最初、そのエステル様が魔女だと思ったんだ」
アリフはベールをかぶり、真っ黒な服を着たエステル様を、魔女だと思い、声をかけようとしました。しかしアリフが悩んでいる間に、エステル様は姿を見せて、それからすぐにいなくなったというのです。自分の主が探している妹様をそのまま逃がしてしまったことに悔やんだアリフは、3回付と太陽が交替する間、ずっと悩んでいたのです。
しかし、そんな悩むアリフ以上に、夏の女王ゾーマ様は顔を真っ青にして小窓から小さく叫びました。そんなこと、あってはなりません、そんな……それだけ言うと、アリフの見る目の前で、ゾーマ様は塔の部屋の中で倒れてしまったのでした。
「大変だウィンテールの妹様、主が、ゾーマ様が」
夜、月が顔をだしてすっかり静かになった頃、ウィンテール様はアリフの良く通る声で起こされました。白く長い髪をまとめ、寝着を着替えて城を出ると、アリフが塔の前で慌てふためいているのです。大男で、初めて会った時は怖いと思った彼が、ここまで“とりみだす”姿をウィンテール様は初めて見ました。
「まぁ、アリフ。夜にそんな大きな声を出しては、あなたの大好きな羊さんたちがみーんな起きて、寝不足で草が食べられなくなってしまいますよ」
「そんなことはどうでもいいんだ、ゾーマ様が、夏の女王様が」
「ゾーマお姉さまに何かあったのですか?」
「俺が魔女の様なエステル様を見たと言ったら、倒れてしまったのが見えた」
「まぁ!」
「俺が悪ぃんだ、俺があんなことを言わなければ」
アリフが大きな体を揺らしおいおいと泣き始めてしまったので、ウィンテール様は慌てて塔の中に入りました。なのでその日は、いつにもまして涼しい夏の夜となりました。
ゾーマ様は妹のウィンテール様が塔の中に入り、肩を叩くとすぐに気が付かれました。一体何があったのかとウィンテール様が問いかけられると、ゾーマ様は「これは私だけの問題ではありませんよね」と誰かにたずねるようにお返事されたのでした。
「お姉さま?一体それは誰に話しかけているのですか?」
ふと思えば、ウィンテール様が塔の中に籠っていらしたとき、こんなにも塔の中は本で溢れていたでしょうか。本棚に入りきらないほどの本が、寝床の近くまでおいてあります。ゾーマ様は少しだけ疲れた顔で、妹に伝えるのでした。
再びお読みいただきありがとうございます。
更新は数日またあきますが今週中には。




