最強の二文字(ブルクハルト視点)
「首尾はどうだい? ジルノーガくん」
僕は最高級ワインを片手に、ソファーに座っているジルノーガに話しかける。
ここはエルトナとの国境沿い。リヴァリタ宮廷ギルド第五支部にある僕の執務室。
今は夜中で、部下たちはもう眠りについている時間だ。
「ええ、順調ですよ〜。すでに宮廷ギルドの中枢メンバーは、ほぼ洗脳済みですからね〜。もっともリオンくんだけは“神の見えざる手”でそれを防いだようですね〜」
「ああ、あの子かい。彼は本当に優秀な男だねぇ」
「まぁ、彼にはアムルスター殿下のクローンを仕留めるように指示は出しておきました〜。くくく、ブルクハルト殿下も予想外だったんじゃあないですか〜? 王宮ギルドがSランカーを四人も向こうに回すとは思わなかったでしょう?」
「ふむ、確かにそれは誤算ではあったかな。だが、まぁ、問題はない。戦力分散の愚を犯したのだからね。奴らは我が宮廷ギルドの真の強者四人を神棒聖戦に出さずに温存していたことを知らないのだから」
おそらくSランカーを分散させたのはブルクハルトのクローンとその一味を殲滅しつつ、同時にこの僕を叩くためだろう。
しかし、それは逆効果だ。
なぜなら、こちらには最強の切り札がいるからだ。
悪魔との契約を使って元々Sランカー級の力を持っていたにも関わらず、さらに改造を施した究極の戦闘マシーンであるリヴァリタ宮廷四天王。
貴重なSランカーの戦力を奴らが分断した時点で勝敗は決しているのだ。
各個撃破される可能性を考えなかったのだからな。
「四天王に任せておけば、たとえたった三人しかいない連中を落とすのは容易い。……ジルノーガよ、すまないな。君の出番はなさそうだ」
「いえいえ、お気になさらずに〜。それよりも、これからが本番なのでしょう? 我らが新世界の盟主ブルクハルト殿下〜」
「もちろんだとも。我々がこの国を手に入れるための作戦がいよいよ始まるのだから。楽しいな! 革命前夜というものは!」
自分に酔いしれるというのはどんな美酒をも凌駕する極上の体験だ。
ようやく見えてきた。真の強者であるこの僕があの日和った無能者の第一王子を引きずり落とし、玉座に腰掛ける未来が。
そして、いずれはこのエルトナ王国すらも手中にする!
僕の思い描いた理想の世界の実現だ!!
「ブルクハルト殿下! 殿下!」
そのとき、ノックもせずに扉が勢いよく開け放たれた。
慌てふためくように入ってきたのは、一人のAランクギルド員だ。
その顔色は悪く、額からは汗が滴り落ちている。
この男も確か洗脳済みの部下の一人だったな。一体、何があったのか。
「エルトナ王国の刺客三名止まりません! まもなくこちらへと到達します!!」
「なんだと!? どういうことだ!!」
想定していたよりも遥かに早い到着。
エルトナ王国の精鋭がまさかこれほどまで早くここまで辿り着くなんて。
いったいどうやって……四天王をかいくぐって来たのだろうか?
「至急、宮廷ギルド四天王を僕のもとへと呼び戻せ! 急ぐのだ!」
仕方ない。想定外だが楽しくなってきたではないか。
四天王が最強と謳われた王宮ギルドのSランカーどもを蹂躙する様子を見物するのもまた一興というものだ。
「……そ、それが四天王は全滅いたしました!」
「ほぇっ?」
…………今、なんと言った?
ふっ、この僕としたことが、想定外のことに動揺して幻聴が聞こえたらしい。
「ですから、宮廷ギルドの四天王は全員討ち取られました!!」
「えっと、ちょっと待ってくれるかい。聞き間違いかもしれない。もう一度言ってくれないか?」
「宮廷ギルドの四天王は全員、エルトナ王宮ギルドの三人に負けました!!!」
……どうやら僕の耳は正常みたいだ。
まったく、こんなときに冗談を言うとは、空気を読んでほしいものである。
「おい、君……。いくらなんでも笑えないぞ? そんな嘘をついて僕を怒らせたいわけじゃあないだろう」
「本当です。信じてください。私は真実しか言いません」
馬鹿な……! そんな馬鹿な話があるか!
あの最強の四人。世界の摂理すら捻じ曲げるチートスペックの化け物たちが負けた? しかも、たった三人のギルド員に――。
……ありえない。ありえるはずがない。
身体を液状化、気体化、自在に操れる能力者、瞬間移動、時間停止、そしてあらゆる魔法を無効化できる女騎士に、魔力を吸収し、それを自らの力に変える吸血鬼。
そしてその三人の能力すべてを使うことができるリヴァリタ最強戦士、人造人間マクシス。
あのマクシスすらも勝てない相手などいるはずがない。
「うーん。まさかマクシスくんまで負けちゃうとは誤算でしたね〜。ブルクハルト殿下、ギャハ!」
「き、貴様ァ! 何を他人事のように言っているんだ! 君のせいだろうが!」
「いやぁ、ブルクハルト殿下だって四天王は最強だからクーデターは九割方成功するって言っていたじゃないですか〜」
「ぐぬぅ……」
確かにそう言ったが、それはあくまで予想の話であって実際にそうなるとは思っていなかった。
……だが、こうなった以上、もはやプラン変更だ。
「ジルノーガ、君は命を一つ使って自爆したまえ。僕がここを撤退したら、連中を巻き込んで爆発させろ」
「はい、かしこまり〜。ぎゃははは! では、ご武運をお祈りしております……っと言いたいところですが」
「あらぁ、王子様。アタシを置いて逃げるなんてひどいわねぇ」
ジルノーガの言葉を引き継ぐようにして部屋に入ってきたのは、金髪碧眼の妖艶な美女。
その手には血塗られた剣が握られている。
彼女は……、いや彼はエルトナ最強と謳われる剣聖シオン。あんな見た目と話し方だが性別は男というふざけた奴だ。
「くそッ! もう来てしまったのか!? シオン貴様! どんな卑怯な手で我がギルド最強の四天王を倒した!!?」
「んふふ、四天王? ああ、変わった子たちがいたわね。吸血鬼ちゃんはちょっぴり好みのガッシリ系の身体つきだったけどぉ。そうねぇ、他の子たちは特にアタシ好みじゃなかったわね」
「はぁ?」
「なんせ、アタシの周りにはいい男が揃っているから。ねぇ、エルヴィンちゃん。ゼノンお兄さん」
突然話を振られた僕はビクゥと肩を震わせる。
シオンの背後から二人の男がでてきたからだ。
―――そのことに気がついたとき、僕の背筋が凍った。
「よぉ、久しぶりだな。ブルクハルト王子」
「ま、まさか、お前たちまで!?」
「ほっほっほ、ワシらいい男じゃって、エルヴィンくん」
その二人の男とは“神眼使い”エルヴィンと“武神”ゼノン。
なんということだろうか。まさかこの二人まで四天王が犠牲になったにもかかわらず、ほぼ無傷でここまで乗り込んでくるとは……。
ど、どうする。この僕が大ピンチだと? い、いや、そんなことはない。
僕にはまだ切り札があるのだ。使うのはずっと先だと思っていたが、この際仕方あるまい。
「おい、ジルノーガくん。早くしたまえ。まだか?」
「はい、準備できました〜。ぎゃはは! さぁ、これで終わりですよ!!!!」
僕の背後――窓の外に巨大な魔方陣が浮かび上がる。
その中心から現れたのは、全身が真っ黒な巨人。天をも穿つその巨体はすべてを蹂躙する。
こいつはかつて魔王軍が使っていた最強兵器。暗黒巨人デウスである。
「ふふ、よくやった。ジルノーガくん。王宮ギルド諸君、せっかく来てもらったところ悪いが僕はこの最強――」
「万物切断……!」
「ほぇっ!?」
ガラガラという音を立てて、窓の外にいるはずの暗黒巨人デウスが粉々になり崩れ落ちていく。
……なにが起きた? 何が起こったんだ!?
「悪いな、ブルクハルト殿下。俺たちは最強と言ったらこの人しか知らないんだ」
「ほっほっほ、相変わらずワシらの出番を奪って終わらせよるわい。シオンちゃん」
「あら、ごめんなさいねぇ。二人とも。でもぉ、夜遊びは美容の大敵だから――」
ヒュンとひと振りしたその剣は、万物を切断する。
それだけのスキルだと思っていた。
だが、その万物という概念は真の意味で万物という意味で――。
僕はようやくとんでもない女、いや男を敵に回してしまったことを理解するのであった。
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