神の心臓《デウス・コア》
「お姉様! 今です!」
「うん!」
ティナの合図に合わせて私は駆け出す。
レイスの魔法で隙だらけのクローンに向かって、一直線に。
「ちぃっ……!」
「遅いよ!」
振り向きざまに神盾を展開しようとしたのだろう。
しかし、それも無駄に終わる。私の拳が彼の腹を捉えていたからだ。
「がはっ……!」
そのまま殴り飛ばす。
背中から地面に落ちた彼は口から血を流しながら苦しんでいた。
「ぐぅ……! 貴様ら……! この余を……!」
「もう終わりだよ。君の負けだ、クローンくんとやら」
レイスは冷たく言い放つ。
その瞳は今までで一番冷たいものだった。
「僕とアリシアの攻撃を二度も受けた時点で君は詰んでいる」
「神盾に頼り切っているならお笑い草ね。そもそもあんた、自分のスキルについて理解が浅かったんじゃないの?」
「なっ……! き、貴様ら……!」
「残念だが、君の負けだ。大人しく負を認めろ」
「ぐっ……!」
レイスの鋭い視線と言葉にクローンは悔しそうに顔を歪めた。
「さて、それじゃあ君には色々と聞きたいことがある。君を創り出した者のことだ……アムルスター王子のクローンを創ろうと提案したのは誰だ?」
「……クローンなど知らぬ。余は神の門を開く者。神に等しき力を持ち、この世のすべてを統べる唯一無二の存在だ」
「そうか……。ならば質問を変えよう。君をそそのかした者は……宮廷ギルドのギルドマスター、ブルクハルト殿下だね?」
「えっ?」
私はレイスの声に驚かされる。
だって、こいつらと宮廷ギルドは敵対していた。なのに……。
「ふん、愚弟が余をそそのかしただと? 違うな。余があの男を利用したのだ。このスキルを存分に活かして、すべてを支配する絶好の機会をな……」
「…………」
クローンの言葉を聞いてレイスが黙る。
その表情はひどく険しいものだった。
「なるほどね。こいつもあのいけ好かないバカ王子の子飼いだったってこと。クーデターを成功させるための陽動として利用しようとしたのね」
「んっ? アリシア?」
アリシアが納得したようなセリフを吐くも、全然理解できない。
こういうときって本当に頭が悪いと困ってしまう。
「つまり最初からアムルスター殿下のクローンを暴れさせるだけ暴れさせるのはブルクハルト殿下の計画の内だったということです。おそらくスキルの弱点も知っていて用済みになったら切り捨てる算段もつけていたのでしょうね」
「うわぁ……」
なにそれ怖い……。
そんな計画があったなんて……。全部ブルクハルトの計画だったってことか。
「勝手なことを抜かすでない! 余が利用されたなど――」
「いや、君は利用されていたのですよ。ギルドマスターに」
「ぐふっ――!」
「「――っ!?」」
そのとき、アムルスターのクローンの心臓を刃が貫く。
この剣には見覚えがある。あの強かったルーシーの光精霊召喚すらも破ってみせた……宮廷ギルドのSランカー。
「剣帝リオン・セイファー……なにをしにきた!?」
アムルスターのクローンが倒れた瞬間、私たちは返り血を浴びた男の顔を見た。
リオン……王宮ギルド最強の剣聖シオンの息子だという、あの男がなぜここにいるのか。
「君たちの邪魔をする気はありませんよ。ただ、こいつの粛清がギルドマスターより僕に与えられた依頼でしたから。それだけです」
「なに……?」
「Sランカーを四人もこちらに派遣するというのはブルクハルト殿下としても想定外だったみたいです。ですから、彼が敗北したらいらぬことを話す前に殺すようにと命じられていましてね」
「……っ!? あたしたちを前にして、そんなことが許されると思って――!」
アリシアの怒りの声とともに剣を構えるも、リオンは無言で剣を振り上げる。
そして容赦なく振り下ろした。その顔に一切の感情はない。
ただ、淡々と仕事をこなしただけだった。
コロンとアムルスターのクローンの首が転がる。そしてアリシアの剣は虚しく空を切っただけであった。
「王宮ギルドのナンバー2のアリシアさん。僕の固有スキルをご覧になっていなかったのですか? “神の見えざる手”は僕を切るという未来を改変する……。そして神盾によって軒撃が無効化される未来をも改変します」
「ちっ、一回躱したくらいで調子に乗ってんじゃないわよ」
絶対防御と必中が同居するようなリオンのスキルに、さすがのアリシアの斬撃も当たらなかったみたいだ。
「これで任務完了です。ブルクハルト殿下への義理は返しました。報酬はこれで良いでしょう」
リオンはアムルスターのクローンの遺体の心臓部に手を伸ばして鈍く金色に光る宝玉を取り出した。
「これが“クローン”の力の拠り所の正体です。神から与えられし固有スキルを人の手で再現したという奇跡の産物」
「力の拠り所の正体だと?」
リオンの言葉にレイスが訝しい顔をする。
あー、よかった。レイスがわからないなら、私がわからないのも当然だよね。
「これは“神の心臓”と呼ばれるアーティファクトです。最強の生物を創る研究から偶発的にできたものだと聞いています。本来はアムルスター殿下の身体にしか適応しないものですが――ゴクリ」
「「――っ!?」」
リオンは金色の宝石を口の中に放り込んだ。
すると、彼の全身を白い光が包み込む。
その光景はまるで――アムルスターのクローンが現れたときにも似た神の降臨のようであった。
眩い白き閃光が消えると同時に、リオンはゆっくりと拳を握る。
その瞳は、赤く輝いていた。
「神の見えざる手で“神の心臓”が僕の体に適応する未来へと改変しました。……これで神盾は僕のものです」
その瞬間、リオンの背中から黄金の翼が生えていた。
その姿に私たちは圧倒され言葉を失う。
「そのチンケなスキルを自分のものにするっていうのもあんたに課せられた依頼だったってわけ?」
「いえ、そうではありません。僕が仰せつかったのは彼の粛清まで。どうせ報酬は貰えないのですから、報酬としてこれはいただいたのですよ」
「報酬は貰えない?」
「嫌ですよ、アリシアさん。わかっているんでしょう? あのシオンがブルクハルトや宮廷ギルドを潰しに行ったんですよ。無事なはずがないでしょう?」
リオンの言葉に私はハッとする。
確かにそうだ。
あの反則的な強さを持つシオン、それにエルヴィンやゼノンもあっちに向かったんだ。
宮廷ギルドの主力は壊滅していて、ブルクハルトも拘束されていても不思議じゃない。
「あの男を殺せるのは僕だけです。だけど保険は必要でしょう? だから力は得ておきたかったんです」
「…………」
「さぁ、もういいでしょう。僕は行きますよ。神捧聖戦の儀でシオンを倒すところを是非ご覧になってください」
リオンは踵を返してその場を去っていった。
私たちは呆然とその背中を見守る。アリシアとレイスすら彼と戦うのは避けたいと思ったのだろう。
「……とりあえず、あたしたちの依頼もこれで終わりね。帰りましょう」
「そうだな。君やリアナくんは午後から試合があるわけだし」
「お姉様! ファイトです!」
そうだったーーっ! てか、こんなことがあって、本当に神捧聖戦の儀って中止にならないのかな?
何はともあれ、レイスやアリシアが行ったとおり……無事に早朝で私たちは決着をつけることができたのだった。
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「土下座なさい」追放宣告したはずの勇者、なぜかフルボッコにされ聖女様に土下座を強要される〜勇者を見限った聖女様は気ままなソロライフを送りたい
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