悪魔の刻印
「うらぁ!」
「ぬぐっ!? な、なぜだ!? なぜ、余の神盾が機能せぬのだ!?」
やっぱり、私の拳は効いている。
この人はレイスとアリシアの同時攻撃すら防いだのに……。
「うらうらうらうらうらうらぁ!」
「ぐはっ! うぐぅ! この小娘、なんてパワーだ……!」
『いいか、リアナ。流れが自分にあると思ったら勢いで押し切れ。それが実力差をひっくり返す秘訣だ』
エルヴィンからの教え。優勢だと思ったら、ガンガン攻める。
相手に考えさせるスキを与えないことが肝心なのだとか。
自分が不利だと思わせられれば、たとえ相手が格上でも関係ない。
動揺による思考力の欠如は相手の力を封じることに繋がる。
「うらうらうらうらうらうらぁ!」
「ぐぅぅ! 獣化騎士共と似たような実力だと思っていたが、この力は」
真・精霊強化術は吸収して垂れ流していた魔力を完全に体内に閉じ込める強化魔法。
魔力を吸収すればするほど、力が増すので尻上がりでパワーアップする。
エルヴィンとの特訓の甲斐があって、体内に蓄積できる魔力の量は私の父、バルバトス・エルロンとの戦いのときよりも遥かに大きくなった。
だけど――。
「うらぁ!」
「がふぁっ……!!」
「リアナお姉様、すごい……」
アムルスターのクローンが遥か彼方まで吹き飛ばされる。
変だな……。魔力が吸収されて強化されると言っても結構時間がかかるはずなのだけど……。
今の私のパワーはほとんどフルパワーに近い。
いつもよりもずっと早く魔力が吸収されている気がするのである。
「それがあなたの本当の力ってわけね」
「なるほど、悪魔の刻印とはよく言ったものだ」
「二人とも当事者置いてけぼりにして納得するのやめて!」
めちゃめちゃ頷きながら、全部わかったみたいな顔をするアリシアとレイス。
いやいや、なんかすごい秘密が判明した雰囲気だけど、なんのことなのか全然わからない。
「神盾の正体、それは自然界に存在する魔力を利用して物理攻撃、魔法攻撃を無効化する防壁を作り出す能力のようだ」
「断定はできないけど、その可能性は大きいわね。スキルホルダーたちの固有スキルは大体精霊の魔力に由来するものが大きいから」
「へぇー、そうなんだ。知らなかった」
「この前、エルヴィン様が仰ってましたよ。お姉様」
あれ? そうだっけ?
じゃあ、あの無敵の盾はマナブーストやマナバーストと似たような原理で攻撃を防いでいたってわけか。
まぁ、私のは無効化なんてできないからあっちのほうが完全に上位互換だけど……。
「ですが、それではお姉様の攻撃が通じたのはなぜですの? すべてを無効化するんじゃ……」
「そこでその悪魔の刻印さ。そいつがなにを行っているのか知っているだろ?」
「悪魔の刻印……、精霊の魔力を絶えず吸収している。はっ――!? なるほど、そういうことでしたか!」
「どういうこと!?」
ティナも私を置いてけぼりにした!
もー、いつものことだけど酷いよ。こんなにちょっとした会話で普通理解できないと思う。
私は察しが悪いのはそのとおりだけど、これはさすがにわからなすぎるよ。
「お姉様は右手であの男のスキルの根本を奪い取って、スキルを封じたのですよ。精霊の魔力で盾を作るのが彼の能力。つまりお姉様がその魔力を吸収してしまえば――」
「盾がなくなっちゃうってこと?」
「そのとおりです! さすがはお姉様!」
へー、この右手って、そんなこともできるんだ。
つまり、たまたまあいつが精霊の魔力を使っていたからラッキーが起こったというわけか。
「その上、あんたは吸収した魔力をそのまま戦闘力に変換してあいつに返した。良いじゃない、そういうの好きよ。あたし」
「つまり君の悪魔の刻印は神から与えられた能力に反逆する力ってわけだ」
この呪われた右手がそんな力まで持っていたなんて……。
いや、神に反逆とか罰当たりな力すぎて嫌な予感しかしないよ。
「信じられん……! 余の神盾が……。こんな、小娘に……!」
黄金の翼をはためかせて、空中へと舞い上がるアムルスターのクローンは怒りの形相を浮かべていた。
さっきまで余裕綽々な感じだったけど、私に殴られたのが相当頭にきたみたい。
「残念だったね、クローンとやら。君のネタは割れている。無敵の盾は確かに厄介だが、ここにいるのは君の天敵だ」
「ぐっ……! こんなやつがいたとは……! しかし、距離を保てばなんてことはない! 要するに、右手にさえ気を付ければ恐れるに足らん!」
あー、なるほど。そうくるかー。
あいつ、羽根を撒き散らして爆発させる技とか翼を伸ばす技とか使っていたもんな。
対する私の遠距離技は超精霊魔力砲か精霊憑依術くらい。
両方とも使うとリスクが高い上にそもそも神盾で防がれる可能性が……。
「ふはははは、やはり貴様らは虫けらだ! 神に等しき存在たる余が――」
「ベラベラとうるさいわね。たかが人間のくせにあたしを見下してるんじゃないわよ。魔剣・餓魔我得」
「なっ――!? ば、バカな……」
斬られた!? アリシアの剣が確かにクローンの腹部を切り裂く。
傷は浅いけど、彼の目は信じられないという表情だ。
「悪いけどあたしもあの子と似たようなことができるの。剣で魔力を喰らう……。もっとも、こんな子供だましはあいつには通用しなかったけどね」
うわー、アリシアすごいな。魔力を食べる魔剣……。恐ろしい技だ。
「結局、君の能力は魔力によって防壁を張っているに過ぎない。ネタがバレてもどうってことない、とか考えていただろう? 生憎、僕らは王宮ギルドのSランカー。致命的なのさ、それは」
「ぬっ!?」
そしていつものように花びらと共にレイスがクローンの後ろに現れる。
アリシアもだけど、当たり前みたいに空中浮遊魔術使うよね。高等魔法なんだけどさ……。
でも、変だな。いつもの花びらと違って色が黒い……。
「そいつはいけ好かないハーフエルフにリベンジするための切り札だったけど、仕方ない。まぁ、僕は一流だからね。ネタがバレても対応できるだろう。君と違ってね……」
「――っ!?」
「中級火球魔術!」
「ぬあっ!?」
今度は魔法が効いた!? 反射的に避けたかど、熱そうな顔している。
マナプラウスで強化されたレイスの魔法は中級とはいえ最上級並の威力があるからまともに食らったら黒焦げだったかも。
「その黒い花びらはね。魔力を吸収する特性を持つ魔物の血液を使って作ったんだ。封じさせてもらったよ、君の拠り所を」
「うぐぐ……」
「「チェックメイトだ(ね)」」
本日、コミカライズ第3話更新日です!
た介先生がめちゃめちゃ面白い漫画を描いてくださっていますので是非ともご覧になってください!
↓↓で読めますので、よろしくお願いいたします!
https://comic-boost.com/series/316




