降臨
「ったく、考えなしに破壊すれば良いってものじゃないだろう。いくらなんでも短慮すぎる」
レイスは瓦礫の山と化した古城だったモノを一瞥して、アリシアに文句を言う。
うーん。見るも無残な状態とはこのことを言うんだろうな。
こんなのアムルスターのクローンも、探すというか、まず生きているかどうかだよね。
「じゃあ、あんたはちんたら一部屋ずつ探したかったの? あたしは御免よ。だから全部壊すことにしたの」
「それを浅はかだと言っている。この瓦礫の山から人一人探すのも同じくらい手間がかかるだろう」
「うっ……、うるさいわね! わかったわよ。瓦礫の山も全部処理すれば良いんでしょ」
確かにあの中から人を探すなんて簡単なことじゃない。
アリシアも痛いところを突かれてムッとしている。
瓦礫も全部処分って、また何かするつもりなのかな……。
「また力任せか。脳筋はこれだから困る」
うっ……、なんか私の心を抉るようなことをレイスが言ってくる。
まぁいいじゃないか。全部瓦礫を処理してくれるのなら。
その方法はとてつもなくやばい気がするけど……。
「いくわよ! 魔剣奥義――」
「その必要はない。余は逃げも隠れもせん」
「「――っ!?」」
ズガーンっと鼓膜が破れそうなくらい大きな音を立てて地下から黄金の光の柱が天へと昇る。
その黄金の光に飲み込まれた瓦礫は粉々に砕け散って、周囲に四散した。
さっきまでの獣化騎士たちとは比べものにならない光量だ。
どんどん光が強くなる。まだ強くなるのか。ちょっと眩しいな……。
―――いや、めっちゃ眩しい! 見ていられない。
「下賤なる者共よ。見るが良い。これが全世界を支配する神の姿である……!」
「見えないよ!」
太陽みたいにピカピカに光っている自称神の姿を私はまだ拝めずにいた。
あんなに光っていると戦いにくいだろうな。
「で、あんたがアムルスターのクローンってわけ? 目くらましなんて、狡辛いことするじゃない」
「目くらまし、だと? そんな卑怯な手を神である余が使うものか……! 下賤なる者には余の神々しさは目の毒だと見える」
「あっ、眩しくなくなった。で、でも、この感じは……」
アリシアが光量に文句を言ったら、ようやく姿が見えるようになった。
長いウェーブがかった銀髪、そしてめちゃめちゃ美形。
貴族っぽい服装を着て、マントを羽織っていた。
黄金の翼をはためかせているが、獣化騎士と違って6枚ある。
そして何よりも威圧感。思わず跪きそうになるくらい、圧倒的な迫力。
討伐難易度★★★★★クラスの最高危険指定生物と対峙したとき以上に私は恐怖し、気付いたら震えていた。
「獣化騎士は全滅か。情けない。せっかく神の力を譲渡してやったというのに役に立たん」
「そういうこと。つまり残るは君だけだ。偽王子くん」
「偽王子? ふははは、神に等しき力を持つ余が偽物だと? 無礼なエルトナ人よ。その妄言は死罪に値するぞ」
「――っ!?」
ピカっと光った。アムルスターのクローンの瞳が。
そう私が思ったときは既に手遅れで……。レイスは血まみれになって倒れていた。
ちょっと、待って。今、何が起こったというの?
「あの翼よ……」
「えっ?」
「あの翼が超高速でレイスの胸を切り裂いたの。咄嗟にあいつは後ろにジャンプして致命傷を避けようとしたけど、遅かったみたいね」
アリシアは見えていたみたいだけど、顔色が悪い。
いつも自信満々なのにこれはどういうことだろう。
「ほう。今のが見えていたとは愚図でない者も居たか」
「人間の癖にあたしを見下すとはいい度胸ね! 神焔一閃!」
相手の言い回しにカチンときたのかアリシアは大剣を片手に相手の懐まで一気に踏み込む。
燃え盛る火炎に覆われた剣は、全てを焼き尽くす地獄の業火にも見えた。
「ふむ、魔法と剣技の同時使用……。エルフ族を研究材料にしたときに見飽きるほど見たな」
「――っ!? あ、あたしの剣を翼も使わずに指で防いだ?」
ジャイアントヒュドラの首をも切り裂いたアリシアの魔剣を人差し指で止めるアムルスターのクローン。
やっぱり、あいつは化物だ。私も腕が痛いなんて言ってられない。全力で戦わないと殺される。
「マナ……!」
「お姉様、お待ちください」
加勢に向かおうとしたらティナに制止される。
私を心配してくれるのは嬉しいけど、放っておくわけには――。
「神の力、恐れ入ったか。では、仲間と同様に切り裂いて――。んっ? なんだ? この花びらは」
あれ? あの光の翼に花びらが……。
そう思った瞬間に血まみれのレイスの体がドロリと溶けて、光の翼は大爆発を起こす。
「陽動ご苦労。アリシア」
「得意げにあたしと戦ったときと同じ手を使うんだから。特別に付き合ってあげたのよ」
「――っ!? よ、余の翼を……」
早くも驚愕した顔を見せるクローンに、アリシアとレイスは互いにアイサインを送る。
まさか、2回戦でレイスがアリシアを追い詰めた手を使うとは思わなかったな。
やっぱり、あの二人は良いコンビなんだ。互いの力を認め合っていないとこうは行かない。
「属性の四重奏」
「魔剣奥義・魔刃国崩」
至近距離からの最大火力攻撃を二人は浴びせる。
完璧にこの辺り一帯が荒野になってしまったな。
粉塵が舞い上がってどうなったか見えないけど、これは絶対に勝ったでしょう。こんなの誰も耐えられるはずないもん。
そんなこと考えたのも一瞬だけだった。視界がはっきりしたとき、腕を組んで無傷のアムルスターのクローンが仁王立ちしていたのだ。
「下賤なる者にしてはやりおる。だが、それが限界のようだな」
目の前の相手は間違いなく、今まで対峙した中で最強の敵だった――。
ついに明後日(10/8)、穢れた血〜が発売されます!
ここまで来たら
とにかく、続刊出来るように祈るだけです!
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