大賢者の実力
「まったく、アムルスターとかいう王子のクローンなんてどこにもいないじゃない」
切伏せられた、獣化騎士は数知れず。
古城の三階まで上って散策している私たちだが、目的の人物は見つからない。
獣化騎士は強いんだと思う。
エルヴィンはその戦闘力の分析をAランク以上としていた。切り札を使えば、Sランクにも届きうるとも言っていた気がする。
そしてそんなのを何十人も束ねて、攻め込めば国家転覆も可能だったかもしれない。
まぁ、ここまでアリシア無双で切り札を使わせずに終わらせている感じで、このまま敵を全滅しちゃいそうだなーって思えてきたから驚異は薄れてきているけど。
「面倒だな……」
「えっ?」
唐突に、レイスはメガネをクイッと上げて前方を見据える。
何か起こったんだろうか。ずっと順調だし、アムルスターのクローンを見つけるのも時間の問題だと思ったんだけど。
「へぇ、ちょっとは頭を使うようになったじゃない」
「「――っ!?」」
そんなアリシアの声が聞こえた瞬間に、鈍い金属音と共に彼女は吹き飛んだ。
熊のような顔をした騎士が金色に光る翼をはためかせて、彼女に斬りかかったのだ。
アリシアはその大剣で咄嗟にガードしたが、熊男の力があまりにも強かったのか、そのまま飛ばされて壁に激突してしまう。
「アムルスター様より獣化天使形態で戦えとのお達しが出た。このベアード様が同胞たちの仇を取らせてもらう」
ああ、獣化天使とかそんなこと言っていたな。
シオンが一瞬でその力の根源みたいなのとの繋がりを切っちゃったから、どの程度のものなのかさっぱりだったが、かなり強そうに見える。
待てよ、具体的にどのくらい強くなったのかもご丁寧に教えてくれたような気がするな。ダメだ、思い出せない。
「獣化天使形態、神々との契約によって得た力ですわね」
「ティナ、知っているの?」
「いえ、すぐに退散されたのでよく分かりませんでした。あの朽ちない翼は神々の金属と言われたあのオリハルコンにも匹敵する硬度を誇り、戦闘力が五倍以上に跳ね上がったことくらいしか……!」
「十分すぎる情報だよ!」
神眼ほどとは言わないがティナの分析力もすごいと思う。
てか、さっきまでの五倍の戦闘力って化物じゃん。
嫌な予感していたんだよ。あのまま戦ったらまずいって。
「まずは一人、葬った。さて残りは三匹か。このワシの獣化天使形態と戦えるのは幸運だぞ。これほどの力に叩き潰される経験など、一生出来ないのだからな! ――っ!?」
「誰を葬った、と言っているのかしら?」
「なんだ、まだ生きておったのか」
「随分と頑丈な翼ね」
アリシアの魔剣を受け止めた? 今まで、圧倒的に一撃で仕留めていたのに……。
あのベアードという男は剣すら使わずに、その金色の翼でアリシアの剣技を防いで見せたのだ。
うわ〜、あのアリシアの魔法剣と打ち合えるなんて、信じられないよ。
剣と翼がぶつかる度に耳を防ぎたくなるくらいの轟音が鳴り響く。
ちょっと待ってよ。私は血の気が引いてきた。
獣化天使形態とやらが獣化騎士たちがみんな使える技なのだとしたら……。
あのベアードみたいなのが、沢山出てきて一瞬で詰むんじゃないだろうか。
「ねぇ、レイス。さっき面倒だって言ったのって……」
「んっ? ああ、今こっちに向かっている五人が全部あいつと同等の戦闘力を有していることだが。それが何か?」
「ご、五人も!? てか、なんでそんなこと分かるの!?」
「足音に決まっているだろ? 耳くらい鍛えておけ。いや、五感全てだな。神眼に対抗するつもりなら――」
耳って、鍛えられるものなの?
Sランカーで年間報奨金3位のレイスは間違いなく強者なんだけど、それは魔法での攻撃力が凄いからだと思っていた。
でも、どうやらそれだけじゃあないらしい。
「精霊魔術士、今日は特別に見せてやろう。この大賢者がパーティー戦闘において、どれだけの真価を発揮するか」
舞い上がる花びらと共にレイスの姿が消える。これは、彼の得意のテレポートだ。
「筋力増強魔法……!」
「――っ!? レイス、横槍入れるつもり!?」
「そのとおりだ。そろそろ主役交代の時間だろ?」
そして、アリシアの背中に手をかざして筋力強化の補助魔法をかける。
身体能力強化系の魔法って実は高等魔法なんだよね。私の精霊強化術は自身の力を上げるだけだけど、他人の強化となると難易度は桁違いだ。
「雑魚が二人に増えたところで、関係ないわーーーー!」
「弱体の四重奏!」
「貧弱な魔法など効かん! ぬぅぅぅぅ!?」
レイスが四つの魔法陣を展開して4種の魔法を同時に発動させる。
これは、前に見た四属性の攻撃魔法を同時に放ったのとは違う気がする。
ベアードという男も、翼でガードしたけど何か様子が変だ。
「レイスの魔法をまともに受けるなんて馬鹿な子ね」
「か、身体が鉛のように重い……! それに力も入らん……」
「当たり前だ。弱体の四重奏は力、速さ、守り、そして魔力。その全ての出力を同時に弱体化させる僕の切り札……」
なんか、恐ろしい切り札の解説をしだしたぞ。
そんなの逆マナブーストだよ。怖すぎる……。
一気にあらゆる力が弱体化するって、どんな気分なんだろうか。
「五倍に上がった戦闘力が自慢なら、その心の拠り所を砕いてやればいい。そして――」
「あたしの戦闘力を上げれば良いとでも言いたいのかしら?」
「ご不満かい?」
「いいえ、弱っちい人間の知恵だと思っただけよ。生まれながらの強者のあたしには思いつかない手段だもの」
「こんなもの、神の力で! この黄金の翼でぇぇぇぇぇぇ! ぐはッッッッ!!」
弱体化させられたベアードは防御が追いつかないみたいだ。
そんな彼に筋力が強化されたアリシアの一閃が容赦なく襲いかかる。
「あの二人って、仲悪いけど組んだらとんでもなく強いんじゃ……」
「だからこそ、エルヴィン様は同じパーティーにしたのでしょうね」
壁に幾つもの穴が空いて、ベアードは見えなくなるくらい吹き飛んでしまった。
大賢者レイスは魔法において人類の最高到達点にいるって前にエルヴィンが言っていたっけ。
アリシアやシオンを追抜こうと、日々研鑽を怠らずに魔法の研究をしているとも。
なんか、パーティーでの戦闘って奥が深いや。
さっきまで1対1の戦いを見ていただけに余計にそう思う。
それにしても、頼りになりすぎる二人だ……。
ちょっと、活躍が少ないなーって思っていたのでレイスの強さを描いてみました。
そんなレイスは書籍版の挿絵でキリッとした格好いい姿を見せてくれます。
いやー、毎回宣伝して申し訳ありませんが、本当にこれはここまで読んでくれた皆さんにこそ読んでほしいです。
ご予約がまだだよーって方は、↓↓の発売日のところをポチッとしてみてください!
このあたりのエピソードは2巻に該当するので、本になるかどうかは皆様のご協力が必要なんです……!
何卒、何卒……、よろしくお願いいたしますm(_ _)m




