午後の予定
「獣化騎士って大仰な名前だったけど、大したことないじゃない」
アリシアは自分よりも大きなその剣に付いた返り血を拭いながら、目の前に倒れている敵を一瞥する。
最初の見張りはレイスがトドメを刺したけど、それ以降は全部一撃。目にも止まらない速度で動き、バチッという破裂音ともに斬られた獣化騎士たちはその場になす術もなく倒れてしまう。
あいつらマナバースト使って思いきり蹴り飛ばしても立ち上がるくらいタフだったんだけど。
やはりアリシアの戦闘力は桁違いだ……。
古城の門をくぐった私たちは獣化騎士たちと遭遇しつつもアリシアのおかげで未だに無傷だった。
「雷系統の魔法剣。惜しみなく使っているな。随分と警戒しているじゃないか」
「えっ?」
「身体に流し込めば確実に意識を断つ、雷系統の魔法は確かにあの女にしか使えない特別な術式。しかし弱点がない訳じゃない。強力すぎるあの魔法は術者の魔力を極端に消費させるんだ」
「へぇ~」
「連発しているということは、相手がそれだけのポテンシャルを秘めていると恐れがあってのことってことだね」
「ほぉ~」
「つまり、アリシアは――って、君の相槌は分かってて、やっているのか!?」
「ううん。全然分かんないや」
ようやくレイスは私が腰を折らないように適当に相槌を打っていたことに気付いたみたい。
いや、だってさ。話が思ったよりも長かったんだもの。
弱点とかポテンシャルとか言われてもイメージできないよ。
「レイス様、お姉様に説明するんでしたらもっと簡潔に分かりやすく短い言葉を選んでくださいまし」
「僕の説明が悪いとでもいうのか!? かなり簡単に説明したつもりだぞ」
「でしたらあなたの認識が甘いと言わざるを得ませんわ。お姉様の理解力を侮らないでくださいな」
「ティナ、フォローになってないよ!」
一番、ティナの言葉に傷付いた……。
彼女は私にめちゃめちゃ甘いけど、たまに無自覚でディスってくるんだよね。恐ろしい妹だ。
「アリシア様はたくさん魔力を使う雷系統で早めに敵を倒しています。切り札を出されるのが厄介だと思われているのでしょう」
「あー、なるほど」
「僕の説明とどこが違うんだ!」
「あんたたち、さっきからうるさいわよ!」
そういえば、シオンと一緒にこいつらの仲間と対峙したとき、金色の翅が生えて天使みたいな形態に変わった気がする。
シオンが一瞬で倒したから忘れていたけどただならぬ雰囲気だった。
アリシアはそれを警戒してその前に倒していたのか。
「魔力増幅術……!」
「あら、ようやく自分のやるべきことの本当の意味を悟ったみたいね」
沢山の魔力を消費するなら私がアリシアにその分の魔力を譲渡してあげればいい。
なんせ私の魔力は無限にある。それは即ち、私が魔力を渡せる限り、パーティーの魔力もまた無限ということだ。
しかし、アリシアの魔力量はダントツで多いな。これがハーフエルフと普通の人間のスペックの差なのか……。
「雷帝ノ一閃ッ!」
「「「――っ!?」」」
また一撃で三人も倒した。
ティナもレイスも退屈そうだ。
すっごいなー。年間で十億エルド以上稼いでいるのも頷けるほど、彼女の実力は桁違いだ。
「安心したまえ、君との戦いのときはあんなに大技を連発しないさ」
「私との戦い? なんのこと?」
レイス、訳のわからないことを言わないでくれ。
私との戦いって、誰が好んでアリシアと戦うというのだ。
そんなのよっぽどの物好きじゃないと――。
「神捧聖戦の儀のことだと思われますわ。お姉様の次の試合はアリシア様ですから」
「ええーっ!? 中止じゃないの!?」
「中止? 誰がそんなのことを言った?」
「いやいや、だってもう今日じゃん。お昼過ぎに準々決勝なんて無理だよ〜」
あんなのとっくに中止になったものだと思っていた。
だって、国の一大事だよ? そんなことやっている場合じゃないじゃん。
「君は相変わらずだね、だから僕らがこうして出張っているんじゃあないか」
「あたしたちSランカーが総出で依頼達成のために動いているのよ。午前中に終わらないはずがないじゃない」
「アリシアもこのあと試合する気満々なんだね……」
「当ったり前でしょ。あんたが棄権するのは勝手だけど、あたしは降りるつもりはないわよ」
この自信見習いたい。
そうかー。このあと、ゴタゴタを片付けて、その足であのアリシアと試合か。
トホホ、大丈夫かな? 今日が私の命日なんてことないよね……。
毎回書いていますが、10/08発売です!
書籍版のアリシアの挿絵めっちゃ可愛い……!
イメージどおりの余裕の表情が本当に好き!
アリシア好きな方、是非ともご予約の方をよろしくお願いしますm(_ _)m




