エルトナ王立ギルド
エルトナ王国は二十年ほど前までは大陸に数多くある小国の一つだった。
その状況を変えたのが現在のエルトナ国王、オウルストラ三世である。
きっかけは新たに数多く発見された魔法石の鉱山の取り合いだったらしい。
小国ながら資源に恵まれたエルトナ王国は周囲の国から度重なる侵略戦争を挑まれた。
オウルストラは戦争の天才とも呼ばれ、その全てに勝ち続け……優秀な人材はたとえ元敵国の人間だろうと重用したのだそうだ。
戦をする度に強くなるエルトナはいつしか大国と呼ばれるまでとなり、確固たる領土を築いた。
それでもなお、更なる発展を目指すオウルストラ三世は王立ギルドを設立。大陸全土から優秀な人材を発掘し、自国の繁栄に役立てようと金銭を惜しみなく使っているという。
――国を作るのは王族でもなく、金でもなく、人。
国王であるオウルストラ三世がそう断言するのだから、他の貴族は何も言えない。
かくして、王立ギルドの人材は重宝されており特にSランクギルド員には莫大な報奨金と伯爵級の地位が得られるとのこと。
これって、凄くない? 私の家は一応、聖女を何人も輩出した名門とか言われているけど平民だし。他国の人間が貴族クラスの地位まで貰えるって、相当だと思うよ。
「どうだ。ちょっとは王立ギルドについて分かったか?」
「うん。オウルストラ三世が気前が良い人ってことは分かったよ。この国の歴史も……。この本、すっごく分かりやすく書いてあるね」
「そりゃあ、子供の教育用の絵本だからなぁ」
相変わらず宿無しの私はエルヴィンの屋敷に厄介になっている。
仕方ないよね。Sランクギルド員の特別報奨金が出るのはまだ先だし、基本的には冒険者ギルドって完全歩合制だから……。
こういう所はどこのギルドもブラックだよなぁ。ウチのギルドも新人はタダ働きみたいなことさせてるし。
食いっぱぐれないように、近所の食堂の食事券だけは渡していたけど。
世の中には少額ながら固定給を払う律儀なギルドがあるという噂は聞いたことある。でもなぁ、王立ギルドといえども歩合制に決まって――
「で、年に二回の特別報奨金の他に固定給があるんだけどさ」
「えっ? こ、固定給? 冒険者ギルドなのに固定給出るの? あー、わかった。それって食券とかのことだよね?」
「バカ、どこのギルドで固定給を食券制にしているところがあるんだよ。例えば病気になったり、怪我をして動けなかったら給金が殆ど入らなくて困るだろ? 毎年査定はされてランクが落ちたりクビになるってことはあるけど、基本的にはDランクだろうが食っていくに困らないくらいは渡しているんだ」
何それ、凄いホワイトじゃん。何もしなくても給金貰えるなんて。
実力主義、競争主義の冒険者ギルドでそんなに人材を大事にしてくれるのは驚きだなぁ。
「ちなみに、Sランクの固定給は月にこれだけだな」
「はぁ? ゼロの数一つ多くない?」
「いや、百万ラルドきっちり貰えるぞ」
「えーっ!? これに依頼達成の報奨金もプラスされるの?」
目玉がチカチカしてきた。あまりの金額に……。百万って、意味が分からない。
基本的にタダ働きしかしたことないから、お金が貰えることだけでも凄く嬉しい。
いや、ちょっと待てよ。Sランクのギルド員になったってことは。必然的に……。
「ねぇ、Sランクの私に振られる仕事ってさ。もしかして、危険なヤツばかりだったりするの?」
「もちろんだ。高難度の依頼が殆どだからな。必然的に危険を伴うものが多い」
「あはは、やっぱりそうだよね。よく考えたらお金ってあの世には持っていけないもんなー。死なないようにしなきゃ」
思ったとおり、Aランクの更に上……Sランクというくらいだから危険な仕事が多いらしい。
私って、パンチしか出来ないからかなり不安だ。
いくら待遇が良くても死んだら終わりだし。
「すげー、当たり前のこと言ってるぞ。基本的にはSランクはギルドの運営から仕事を振られる。病気や怪我以外で拒否はなるべくしない方が査定的には良い。ソロの仕事もあるが、大抵はパーティーに入ってリーダーとして他のギルド員を引っ張る感じだ」
んっ? 今、聞き捨てならないことをエルヴィンが言ったぞ。
Sランクギルド員は六人しか居ないから運営が仕事の割り振りを決めるというのには異論はない。
むしろ、優柔不断な私には好都合だ。だけど――。
「リーダーとしてパーティーを引っ張るって無理なんだけど。だって、私って頭悪いし」
「…………まぁ、そりゃ否定しないがよ。大丈夫だって。初仕事までにちゃんと戦ったり出来るように精霊魔術の基礎を叩き込むから」
ただでさえ、Sランクギルド員に振られる仕事が出来るのか不安なのに、リーダーにならなきゃならないって……。
私には前途多難な道筋がはっきりと見えた。
でもさ。エルヴィンに会って、王立ギルドの入試を受けて、合格して……。
誰かに必要とされることが嬉しいって分かったから。
私は頑張ろうと思う。たとえ、一歩が小さくてもちょっとずつ前に進めるように。
「この前みたいに優しい特訓じゃないぞ。付いてこい!」
そして、精霊魔術の特訓が始まった。
不器用な私は物覚えが悪かったし、エルヴィンの指導も厳しかったりしたけど、出来る事が増えるのは楽しかったりする。
でもね。実際、私はエルヴィンの神眼を以てしても予測できなかったくらい覚えが悪かったらしい。
結局、精霊魔術の基礎の1ページ目が終わるところで、私は最初の依頼に挑戦することになる。
「エルヴィン、助けてよ。無理だって、絶対に」
「うーん。確かに覚えてほしいことの一割くらいしか教えられなかったけど、大丈夫だと思うぞ。精霊魔術ってそれだけで凄いから」
きっちりとした王立ギルドの制服の襟には特殊な加工によって作られた、金でも銀でもない光を発しているオリハルコン製の王家の刻印が記されたバッジが付けられていた。
これがSランクギルド員の証らしい……。
「よ、よろしくお願いします」
ほんの少し人見知りしながら、私は最初の依頼を共にする仲間たちに頭を下げた――。
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