不穏な空気
獣化騎士と名乗る連中に強襲された私たちだったけど、シオンがあっさりと倒したおかげで事なきを得た。
両手が使えない状態だったし、何かとんでもなく強そうだったから焦ったけど、彼女が居てくれて良かったよ。
「ティナやルーシーが心配だよ。エルヴィンが付いているとは思うけど」
「今のリアナちゃんより戦えるから、大丈夫と思いたいわねぇ」
「あはは、両腕が使えないのって不便だね」
エルヴィンに言われたから使わなかったんじゃない。
少しでも動かすと無数の針で刺されたような痛みが走るので動かせなかったんだ。
そんな会話をしながら、エルヴィンたちが向かった宿舎へと急ぐ。
「血の匂いがするわね」
「クンクン、言われてみたら何か生臭いような」
シオンの声に反応して私も鼻に意識を傾けると確かに血のような匂いがする。
まさか、ティナやルーシーが――。
「お姉様~! リアナお姉様!」
「ティナ!?」
匂いに反応していると後ろからティナに抱きつかれた。
良かったよ、無事で。よく見たら服が汚れている。
どうやら、一戦交えたみたいだ。
「もう、お姉様が付いてきていると思ったら。どこかにフラフラ行ってしまって心配しましたわ」
「ご、ごめん。シオンとリオンが気になって」
「あらぁ、リアナちゃんったら、黙ってこっちに来てたの? それはイケナイわね」
えっ? えへへ、そういえばフラッと気になって二人の方を見に行ったらはぐれたんだっけ?
なんか、悪いことしちゃったなぁ。これからは気を付けよっと。
「ティナも獣人たちに襲われたの?」
「ええ、正確にはルーシー様が襲われていたのをわたくしとエルヴィン様が助太刀に入ったという感じですが……」
「じゃあ、ルーシーとエルヴィンも無事なんだね」
「はい。厳しい戦いでしたが、何とか無事です」
そっかー、エルヴィンもルーシーも無事なら良かった。
でも、やっぱり凄いなぁ。ティナもエルヴィンも。
あの得体の知れない連中にちゃんと勝つんだもん。
「リアナ、無事だったか。まぁ、シオンと一緒だったのは知っていたから心配していなかったが」
「リアナさん、良かったです。怪我もなさそうで」
「あらぁ、エルヴィンちゃんったら。知ってて、リアナちゃんを放っておいたのぉ? 悪い子ねぇ」
エルヴィンとルーシーがこの場に姿を見せる。
エルヴィンは私がシオンのもとに向かったのを知っていて放ったらかしにしていたらしい。
だったら、付いてくるか止めるかすれば良いじゃんか。
「しっかし、あいつら思った以上に強かったなぁ。仕留める前に逃げるし」
「えっ? 逃げちゃったの?」
「ああ、神の力ってのが厄介でな。アムルスターの私兵団にも困ったもんだよ」
「やっぱり、強かったんだ。あの変な力……」
あの神眼を持つエルヴィンすら逃してしまったという獣化騎士。
神の力とか色々訳のわからんこと喚いていたけど、かなりの実力者だったんだ。
こっちは実力を見る前にシオンがバッサリと倒しちゃったからなぁ。
「まったく。これじゃ、多額の報奨金が貰えても割に合わんぞ」
「うんうん、報奨金が貰えても死んだら意味ないもんね。って、報奨金って何!?」
何かノリで適当な返事をしたけどいきなりエルヴィンが報奨金がどうとか言い出して私は驚いた。
あいつら、倒したら報酬とか貰えるの? どういうことなんだよ、それ。
「おっと、リアナたちにはまだ言ってなかったな。非常に秘匿性が高かったから、俺とシオン以外には伝えられていなかったんだが、状況が変わった。実はこの神捧聖戦の裏で隠れた依頼が王宮ギルドには入っていたんだ」
「か、隠れた依頼?」
「エルヴィン様、それがあの獣化騎士なる不届き者と何か関係がありますの?」
突如明かされる衝撃の事実、もとい後出しジャンケン。
えっと、あの大会って茶番なの? 裏で王宮ギルドに依頼ってどういうこと?
シオンとエルヴィンが何か訳知り顔だったのは気になっていたけど。
「依頼は宮廷ギルドなるものを私物化してクーデターを企むブルクハルトの野望を阻止しつつ、暴走を始めた獣化騎士たちを制圧すること。緊急招集レベルの超難度依頼だ」
「「――っ!?」」
超難度依頼だ、じゃないよ。
それじゃ、まるでこの神捧聖戦がブルクハルトの野望のために開かれたことを最初から王宮ギルドというか国王陛下は知っていたみたいじゃないか。
獣化騎士とかが乱入してくることも含めて。
「ちょっと待ってくださいまし。最初から全てを承知して陛下が神捧聖戦を受けられたことは分かりました。しかし、依頼というからには依頼主がいるはずですわ」
「そ、そういえば! 依頼主って誰なの? だって、こんなのリヴァリタの問題じゃん」
ティナの発言で私は基本的なことを思い出す。
これって、全部リヴァリタの国内の問題に私たちは巻き込まれているんだから、王宮ギルドは本来無関係のはずだ。
でも、エルヴィンはこれは依頼だと言った。じゃあ、依頼主って誰なの? 陛下じゃないよね?
頭がこんがらがってきて、話が全然掴めない。
「依頼主はアムルスター殿下だよ。リヴァリタの第一王子にして、次期国王と言われている」
「「――っ!?」」
ええっ!? なんでそんな話になっているの?
だって、アムルスター殿下の私兵とやらがあの獣化騎士なんでしょう?
あまりにも複雑な話に私は頭から煙がでそうになっていた……。
書籍化作業も一段落!
第一巻は二万字程の加筆に加えて、番外編も収録しております……!
さらにコミカライズが始まる予定なんですけど、売上が悪いと容赦なく打ち切られるのが、この世界の怖いところ……!
一巻で打ち切りは本当に嫌すぎるので、どうか、どうか、Amazonなどで予約の方をよろしくお願いいたします!




