外界精霊《アナザーエレメンタル》
あれだけ当たらなかった、ルーシーの攻撃が当たった。
エルヴィン曰く、【神の見えざる手】が発動する前に攻撃するしかリオンを倒す方法はないって言っていたけど……。
ルーシーの攻撃がもの凄いスピードだったのだろうか。
彼女の背後には目を閉じた黄金に輝くドレスを着た女性が浮いている。
「まさか、外界精霊を召喚するとは……!」
はい、いつものパターンがきた。
とりあえず、私の知らない単語出しておけば凄いこと起こっている感が伝わるだろう、みたいな。
当たり前の顔をして謎キーワードのお知らせをしないで欲しい。
エルヴィンは解説役なんだから、そろそろ分かりやすい解説をしようという努力をしてよ。
「あ、アナザーエレメンタルですか? では、まさかルーシー様は光の精霊を召喚したということでしょうか?」
そして、最近はティナもエルヴィンの言葉を聞いて更に知らない言葉を口にするという。
お姉ちゃん、悲しいよ。ティナがいきなり裏切るなんて。
決して私が勉強をサボったとかそんなんじゃない。
「お姉様、外界精霊とは四大精霊の上位にあたる伝説級の存在ですわ。光の精霊であるポスポロスもその一角を担っており、その力は四大精霊を遥かに凌ぐと言い伝えられています。光の速度なら【神の見えざる手】発動前に攻撃を当てることは可能でしょう」
ティナ、大好き!
全部、説明してくれた。
私が分からないという顔をしていたかどうか知らないけど、分からない点を全部教えてくれた。
光の精霊か。何か凄そうだな……。
「くっ……、まさか、この僕の【神の見えざる手】で回避出来ない攻撃があるなんて……」
リオンは自分がダメージを受けたことが信じられないという顔だ。
そりゃそうだよね。あんな掟破りの能力持っていたら自分のこと無敵だって勘違いするもん。普通なら……。
「すみません。ボクもあまり時間がありませんから――。光の精霊、お願いします」
「承知しました、マスター。千輝ッ……!」
「――っ!?」
驚くほど、静かに。
認識出来ないほど、早く。
多分、リオンも何が起こったのか分かっていないだろう。
気付いた時には、リオンは場外付近で倒れていた。鎧はひび割れて、手足に打撲痕が無数に浮かんでいる。
「千発叩き込みやがった。光属性の魔力の塊を限りなくゼロに近い時間で。恐ろしいくらい優しく、な」
「……殺さない方が難しいということですね。ポスポロスの速度で普通に攻撃すると、間違いなく身体中が蜂の巣になりますから」
よく分からないけど、ポスポロスは手加減を頑張っているみたいだ。
身体中が蜂の巣って、想像するだけで怖すぎるよ。
ルーシーは優しい子だからそんな怖いことはしないと思うけど。
これなら勝てる! ルーシーが負ける姿が想像できない!
「負ける姿が想像出来ないって顔してるな。俺もそう思うが、あいつは違うみたいだぞ」
「えっ?」
エルヴィンの視線を追うと、リオンはちょうど立ち上がろうとしていた。
確かに表情には余裕が見られるし、負けるなんてこれっぽっちも考えていない顔をしている。
「くっくっくっくっ! あっはっはっはっはっはっ!」
「――っ!?」
「ルーシー・マファラ……! その優しさが命取りになりましたよ! 最初から僕を殺す気でやっていれば、僅かに勝機があったかもしれないのに……!」
高笑いしながら、ルーシーの優しさが命取りだと言い放つリオン。
いやいや、殺しちゃったら反則負けだってルール忘れちゃったの? なんか宮廷ギルド側ってそういうタイプ多くない?
アリシアとレイスの戦いだって、死闘だったけどお互いに殺さないように気を遣ってはいたし……。
「もう、見てしまいましたから。2度も、この目で」
「――マスター、下がっていてください。千輝……!」
「効きませんよ。もう、その術は……!」
あ、あれ? ま、また、リオンが無敵状態に入ってしまった。
さっきあれ程、ボコボコにやられたのに、なんでまた……攻撃が効かなくなったの?
「癖を読んだのさ。ルーシーからの魔力の供給で召喚された精霊たちは動いている。ポスポロスがルーシーから魔力を受け取る瞬間に先出しで【神の見えざる手】を発動させて光速に対応したんだ」
「そ、そんなスキルも持っているの? あいつ……」
「いや、戦闘経験……、勝負勘と言ってもいい。あの男は【神の見えざる手】なんてスキルがなくても強い――!」
なんとリオンはルーシーが術を使う寸前に【神の見えざる手】を発動させて、再び無敵の防御を再開させたらしい。
そんな……。
ルーシーは努力して、努力して、完全に精霊召喚をマスターして、その上の次元まで成長したっていうのに……。
「マスター、最大火力で吹き飛ばします。――白閃……!」
「我流・竜殺し……!」
「「――っ!?」」
ポスポロスも近付いてくるリオンを危険だと読んだのか、さっきまでの静かな攻撃ではなくて、頑丈な闘技場が抉れるほどの高出力の攻撃を繰り出した。見えなかったけど……。
だけど、リオンの力も物凄くて――。
「まだやりますか? お嬢さん」
「いえ、魔力が尽きました。ボクの負けです……」
いつの間にかポスポロスは消えてなくなっていた。
ルーシーの魔力がゼロになったからだろう。
こうなったら、凄腕の剣士であるリオンに勝ち目はないもんなー。
でも、ルーシーは間違いなく一流の召喚士になっていた――。
初見殺ししておけば、ルーシーも勝てたかもですが、惜しくも脱落です。
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