神の見えざる手
『勝者! エルヴィン選手!』
おおーっ! エルヴィンがゼノンに完勝しちゃった。
さすがだなー。神眼って、この大会で一番便利な能力かも。
ゼノンのあの素早い動きを全部見切って、躱した上で決定的なタイミングでカウンターだもん。
「相変わらずエグいのう。その眼は」
「へへっ、ゼノン爺さんこそ、もう歳なのに衰えないんだから凄いぜ。殺し合いだったらやばかったかもな」
「まったく、年寄りだと思っているならもうちょっと労らんかい」
エルヴィンの差し出した手を握るゼノンは悔しそうな顔をしていた。
あのお爺さん。エルヴィンとほとんど互角の戦いを繰り広げていた。
とんでもない人もいたもんだなー。
「おう! リアナ、妹ちゃん、お疲れ」
「エルヴィン、お疲れ様。やっぱり、強いね」
「まぁまぁ、でしたわよ。お姉様に準決勝で叩きのめされるとは思いますが……」
いやいや、ティナ。
私は今、次にアリシアと戦うことだけで戦々恐々としているから。
てか、あの人に勝てるのってシオンぐらいじゃ……。
「あっはっはっは、そりゃいいな。俺がスカウトしてきたやつに負かされるなんざ、楽しい展開じゃないか。まー、簡単には負けてやらんけど」
「えへへ、そうだよね。私がエルヴィンに勝つなんて――」
「全然、無理じゃないって。前にも言ったろ。精霊魔術士は最強なんだ。シオンに勝てる可能性があるのはお前だけだ」
頭にポンと手を置いて、シオンに勝てる可能性があると口にするエルヴィン。
いやいや、あの色んな意味で常識外の魔神みたいな人に勝てるはずないって。
あと、気安く頭を触らないで欲しいんだけど。
「ふっ、シオンに勝てるのは精霊魔術士だけですか……。残念ですが、それは違いますよ。神眼使いさん」
あー、なんか全然知らない人が出てきた。
訳知り顔して、会話に割り込んで来たけど本当に知らない人だったからびっくりしてる。
謎の大物感があるけど、やっぱり知らない人だった……。
「剣帝リオンか……。まさか、あんたが宮廷ギルドに入っているとは思わなかったぞ」
「ええ、わたくしもトーナメント表を見たときは驚きました。十歳にして討伐難度★★★★★の最高危険指定生物であるジャイアントワラビーを一撃で葬ったという逸話のある天才剣士が参加しているなんて」
ちょっと待って。
なんかエルヴィンとティナが皆様ご存知の……、見たいな感じで話しているんだけど。
この人、ジャイアントワラビーを一撃で倒したの?
十歳のときに……? すごいじゃん。
見た目は長い金髪を三つ編みにして、一見女の子に見えるくらい華奢な感じの人なんだけどな。
青色に光る目つきは鋭くて強そうだけど。
「で、剣帝さんよ。あんたがシオンを倒すっていうのか?」
「ええ、そのとおりです。僕もあなたの神眼と同じで神から授かった固有スキルを持っていますから」
「……なるほど、スキルホルダーか」
「神眼で自由に観察してもらっても結構ですよ。僕のスキル【神の見えざる手】からは決して逃れられませんから。神眼も、万物切断も――」
そう言い残して、リオンという男は去っていった。
只者じゃあない感じだけど、あの人の次の相手っていうのは――。
『それでは、神捧聖戦の儀、二回戦第六試合! エルトナ王立ギルド所属! ルーシー・マファラVSリヴァリタ宮廷ギルド所属! リオン・セイファーの試合を開始します!』
そう、リオンと戦うのはルーシーだ。
精霊召喚を完璧に覚えた彼女の火力は私やティナ……、あるいはアリシアをも凌駕するかもしれない。
「よ、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしく」
リオンは剣を抜かない。
精霊召喚を駆使するルーシーだけど、唯一の弱点は召喚する前だ。
パーティー戦なら彼女を守る仲間がいるけど、今は一人だからなー。
てことは真正面から精霊召喚を破る自信があるってことだよね。
どんな能力を使うんだろう……。
「はーはっはっはっは! 我の鋼の肉体はマスター、あなたの為にある! ノーム推参!!」
「ノーム、あの人を場外に落としてください!」
「任せよ! 我の力はパワーの中のパワー! 大岩落としッ!!」
ルーシーは四大精霊で最もパワーのあるノームを召喚する。
ノームは腕を振り下ろすと、空から大きな岩が降り注いできた。
うわー、あんなに広範囲に岩を落とされたら、場外に逃げるしか手はないんじゃないかな。
「「――っ!?」」
しかし、リオンはそれでもお構いなしにルーシーに向かって歩いて近付こうとする。
あ、あれ? 岩がリオンを避けてる? な、なんで……?
「なるほどなぁ。【神の見えざる手】は未来を改変する力か……」
「はい……?」
「あいつ、自分に岩がぶつかるという未来を見えない手を使って、変えてやがるんだ」
ええーっと、久しぶりに意味が分からないんだけど。
未来を改変する力って何それ――。
スキル【神の見えざる手】は主人公に覚えさせて作品を書こうとしたのですが、断念した能力だったりします。
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