エルロン・ガーデン(バルバトス視点)
「待っていたぞ! ティナ! 聖女の称号を歴代最速で獲得したと聞いておる! 今日からお前が我が“エルロン・ガーデン”の看板だ! Aランクギルド員の模範となる活躍を期待する!」
あの無能者を追放した翌日の夕方、次女のティナがギルドに帰ってきた。
ティナはワシに似て優秀だ。光属性の魔術の素養は勿論のこと、魔法を使う際の魔力のタメの時間が極端に短く“最速の魔法士”という通り名を持っていた程である。
聖女になった今は“最速の聖女”になるかな……。
パワースポットとしての我がギルドの名声は年々強まっているし、これからは聖女ティナの活躍により更に上にステップアップするだろう。
今は国内で四番手のギルドに甘んじているが、今年こそトップギルドにのし上がってやる。
あの、足手まといのクズでエルロンの名を穢した目障りが消えて清々したわい。いつもヘラヘラした態度で本当に気に食わなかった。
早速、宮廷からの高難度依頼をコネをフル活用してタップリ仕入れたからな。これらを全て達成すれば、我がギルドも三強の一角だ。
大丈夫。エルロン・ガーデンはパワースポット。魔法士たちの実力アップも最近は特に甚だしい……。
「ふふ、三強の一角……」
「……様。あの、お父様……!」
「うおおっ! ティナ、急に大きな声を出すでない」
「お父様がずっとブツブツ独り言を呟きながら、ニヤニヤしているからですわ」
「ぬぅ……」
ティナが不機嫌そうな顔をしてワシの顔を覗き込む。
イカン、イカン。つい、気分が高揚して妄想の世界に入ってしもうた。
父としてギルドマスターとして威厳のある顔をしなくては……。
「ティナ! 今日からお前が我が“エルロン・ガーデン”の看板だ! Aランクギルド員の模範となる活躍を期待する!」
「それは、先程聞きましたが……」
「……コホン。良いか、ティナ。聖女とは賢者、勇者と並び称される最上級職だ。今年は勝負の年となる。お前にもより多くの依頼を振り当てるからそのつもりでいなさい」
「はぁ……、承知致しましたわ。お父様」
ティナはもちろんのこと、魔法士たちのランクを一斉に引き上げて高ランクの依頼を優先的に割振ろう。
もっと早くから魔法士優遇の改革をすべきだったが、魔法士以外の古参のギルド員が煩かったから遅れてしまった。
エルロン・ガーデンは魔力が増える不思議なパワースポットが売りなのだから、そうなることが必然ということが何故わからぬのだ。
「そうですわ。お父様……。下位ランクの魔法士たちを一斉に引き上げる改革……。止めておいた方がよろしいかと」
「なんだと!? ティナ、お前も古参共の味方をするというのか!?」
「いえ、今日このギルドに帰ってきて感じたのですが……魔力が充実するような、あの不思議な高揚感が薄れているような気がするのです。ですから、パワースポットに頼りきるような人事は止めておいた方が良いとアドバイス差し上げていますの」
ティナが何やら訳のわからん事を言い出した。
この子は優秀なんだが、時々天然でワシらを振り回すし、適当なことを述べているだけなのだろうが……。
パワースポットに頼るなだと? ウチのギルドはもう15年以上もの間、これでやっているのだ。今さら変えられるものか。
「エルロン・ガーデンが誇るパワースポットは絶対だ! 魔法士たちには存分にその力を発揮してもらい、このギルドの繁栄の為に力を尽くさせる! お前のアドバイスだろうと聞いちゃおれん!」
「そうですか。……あと、もう一つだけお聞きしたいのですが、リアナお姉様はどちらに?」
ちっ、やはりリアナのことを聞いてきたか。
ティナは何故か姉のリアナのことを慕っていて、色々とうるさいのだ。
虐めるなとか、長時間働かせるなとか、毎日のように騒ぐからティナの前だけリアナに対する態度を変えねばならなくて面倒だった。
ティナがギルドの主力となり、遠方への依頼でギルドを空けることが多くなってからは小言を言われることが少なくなったが……。
「ああ、リアナはなぁ。魔法士以外のスキルを身に着ける為にエルトナ王国のギルドに留学に行かせた。あいつに雑用以外の仕事をしてもらおうと思ってな」
「まぁ、そうでしたの。やっとお父様もお姉様を目の敵にすることを止められたのですね。安心しましたわ」
ふん。こんなところでいいだろう。あいつは金を持ってないから、どうせどこかで野垂れ死にするだろうが、隣国で事故死したことにすれば良い。
とにかくリアナのことでティナがへそを曲げるのだけは避けなくては、な。この子は落ちこぼれのクズと違ってエルロン家の至宝なのだから。
くっくっく。いい波が来ている。今年のバルバトス・エルロンはいい波に乗っているぞ。
エルロン・ガーデンの魔法士たちよ。宮廷からの依頼を最優先でクリアして、エルロンの名をこの国だけに留まらず世界へと轟かせるのだ――。
――もう、このワシに怖いものは何もない!
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