本番はここから
シオンとヘルマイヤーの戦いは闘技場が崩壊するほど、苛烈を極めた。
壊したのは殆どヘルマイヤーの剣撃なんだけどね……。
魔族として、数百年もの間……剣の腕を磨いていたという彼の技術と人間を遥かに超えた魔族の身体能力。
リヴァリタ宮廷ギルドが冗談みたいな金額を支払って引き抜いただけはある。
はっきり言って人間の勝てる相手じゃないと思ったんだけど――。
「わ、我の剣が!? お、折れた、だと!?」
いつの間にか、シオンはヘルマイヤーの剣をポッキリ折っていた。
彼女の得意技は“万物切断”。その名の通り何でも切り裂いてしまうらしい。
「あなた、中々強かったわ。降参なさい。今はまだアタシの方が強いから」
自然体で、いつも酒場で雑談している時と変わらない感じで、シオンはヘルマイヤーに降参を促す。
でも、それが逆に怖い。周りが瓦礫に変わっちゃうような戦いで普通に喋ることって出来ないもん。
「あいつ、いっつもあんな感じなのよね。あたしが何回挑戦しても涼しい顔して受け流して……」
私の考えを読んだかのようにアリシアが呟く。
一緒に仕事したことがあるから知ってるけど、アリシアもアリシアでとんでもなく強いんだけどな。
そんなアリシアが一回も勝ったことないって……。
「仮に殺し合いだったら、とっくに戦いは終わってるだろう。ヘルマイヤーも俺らが戦ってたらかなり苦戦する相手なんだけどな」
「ふん、野蛮な魔族になんかに優秀なハーフエルフである、あたしが苦戦するはずないじゃない」
アリシアは強がってるけど間違いなくヘルマイヤーは強敵だ。
ジルノーガとか、あたしの父のバルバトスとか、その辺りと比べてもかなり格上っぽい感じの。
「剣を折られたからなんだ!? 魔族の誇りにかけて人間などに負けん! はぁああああああッ!」
「まだ、戦う気なんだ……」
ヘルマイヤーは目にも止まらないスピードでシオンに飛びかかって拳を繰り出す。
あいつ、私みたいに真・精霊強化術とか使ってないのに、なんて身体能力なんだ……。
「至近距離からの肉弾戦か……。斬られりゃ、死ぬが。シオンは殺さねぇだろうし、考えたな」
「考えた? バカね。あいつはただ、単純に逆上しているだけでしょ。情けないったらありゃしない」
アリシアはエルヴィンの言葉を否定する。
ヘルマイヤーはやけっぱちで戦っていると……。
うわぁ、やけくそなのかは知らないけど、拳の弾幕が全く当たってないじゃん……。
「ふははははは! 底が見えたな! 避けるだけで精一杯ではないか!」
私からは全然掠りもしてないって印象なんだけど、ヘルマイヤーからすればシオンが避けるのに必死に見えてるみたいだ。
うーん。それはどうなんだろな。ポジティブ過ぎるような……。
「…………かしら?」
「はぁ? 何を言っているのだ?」
「そろそろ、終わらせちゃっても良いかしら?」
「へっ? へぶぅッッッッッ――!!」
何かを、シオンが呟いたと思った瞬間……ヘルマイヤーは一気に場外まで吹き飛ばされていた。
顔が半分潰れた感じになっているから、多分殴られたんだろう。全く見えなかったけど。
「万物を斬る程の剣技の使い手だ。そりゃ、そんな腕で殴られたらああなる」
「結局、一歩も足を動かさずに勝っちゃったわね。横着なんだから」
『勝者! シオン選手!』
「ごめんなさいねぇ。でも、顔が潰れたって、あなたがイケメンだという事実は変わらないわ……。それに、アタシ、見た目よりも身体を重視するタイプだから♡」
多分、聞こえてないと思うけど、シオンは気絶しているヘルマイヤーに声をかけていた。
これで、一回戦は終わりか。
王宮ギルドも、宮廷ギルドも、八人ずつ残った。
ここからは、同じギルド同士で戦うこともあり得るのか……。
なんか、嫌だなぁ。仲間と戦うなんて……。
「リアナ、お姉様。次の試合は場所を予備の闘技場に変更するらしいですわよ」
「ああ、そうなんだ。エルヴィンの言うとおりだったね」
どこでシオンの試合を観ていたのか分からないけど、試合が終わってすぐにティナが私の元に現れた。
二回戦の第一試合から別の闘技場に場所を変えるらしい。まぁ、ここの闘技場は壊れてるから当たり前だけど。
「……あの、お姉様。本気で戦ってもらえませんか?」
「ティナ……? あっ、そ、そういえば……」
私はティナの言葉に大事な話を思い出した。
そうだよ……。なんてことだ……。
――次の対戦相手は妹のティナだった。
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