開会宣言
「ティナ! 良かった〜! 元気そうで!」
「リアナお姉様〜〜! ご心配おかけ致しました! ティナはお姉様に会えぬ日を寂しく思っておりましたわ〜!」
仮面の男、ジルノーガ・オルコットを前にしてティナが勝つのは自分だと宣言した。
そんな緊迫感を出したかと思えば彼女は私に抱きついて朗らかな笑顔を見せる。
ティナに限って遅れるとかそんなことは無いかと思ってたけど、やっぱり心配だったからね。
「おやおや、誰かと思えば妹くんじゃあないか〜〜。君の魔法って僕には全然効果無かったの覚えていないのかな〜〜」
ジルノーガ……さっき名前を知ったけど、こいつマジでムカつくなぁ。
でも……、ティナは確かにこいつにダメージを与えられなかったことを気に病んでいた。
たったの一ヶ月の特訓で勝てるのかというと難しいかもしれない。
「そうですわね。以前のわたくしなら、勝つのは不可能でした。しかし、今のわたくしを以前と同じだと思わないことです」
「ギャハハ、そうか、そうか〜〜。じゃ、せいぜい楽しみにしとくよ〜〜」
手を振りながらジルノーガは去って行った。
ティナのこの自信。きっと勝算があるんだろう。
何をどうするのかは分からないけど……。
「おーいたいた。お前らも自分が誰と戦うのかチェックしとけよ。あっちに組み合わせ表が貼られているからさ」
「エルヴィンはもう見たの?」
「もちろんだ。安心しなって、一回戦は必ずリヴァリタ王国のギルドの連中と当たるようになってるから」
「あー、そうなんだ」
私たちはエルヴィンに案内されるままに、トーナメント戦の対戦相手を確認しに向かった。
エルヴィンによると、私たちの最初の対戦相手は絶対にリヴァリタの人になるみたいだ。
いきなりヤバい人と戦うことになったらどうしよう……。
一気に不安になってきたよ……。
「私の最初の対戦相手は、ええーっと、マカチャッパ・メカチャッパ……? へぇ、宮廷ギルドの人なんだ。知らない人だなー。ティナは知ってる?」
「いえ、殆ど知りません。メカチャッパ拳法の創始者にして、1000人以上の門下生を持つメカチャッパ道場の総帥。生体破壊を極めたその力はどんな魔物であろうと確実に息の根を止めるほど――ということくらいしか……」
「めっちゃ、知ってるじゃん」
知らないことなんかないでしょってツッコミたくなるようなティナの解説に私は思わず苦笑いする。
そっか、リヴァリタ宮廷ギルドの人が相手か。気を引き締めないといけないな……。
「じゃ、ティナにそろそろ魔力増幅術を使っておこうか?」
「いえ、結構ですわ。自分だけの力で戦ってみます」
「えっ? そうなの?」
「ご心配なさらずにわたくしは勝ちます。そして、お姉様と――」
ティナはそう呟いて、精神を統一し始めた。
迷いのない顔つき、そして何よりもその気迫。
今までの彼女とはまるで違う――そう、Sランカーのみんなと会ったときのビリビリした感じが出ている。
私の力は必要なさそうだね。強くなっている。確実に……。
『これより! 神捧聖戦の儀を始める! それでは、聖戦の儀主催者であるリヴァリタ王国、第三王子――ブルクハルト殿下! 挨拶をどうぞ!』
声の大きさを大きくするという拡声魔道具によって聖戦の儀の開始が宣言される。
これをエルトナ国王に提案したというリヴァリタの王子が挨拶をするそうだ。
『まずはゲスト席で観戦されている神捧聖戦の儀を快く受けて立つと仰せになってくれたエルトナ国王に感謝します。エルトナ王立ギルドは世界で最も強力なギルドだと私は確信しておりましたので、挑戦を受けて頂き光栄でした』
へぇ、この人がリヴァリタの第三王子なんだ。
私って全くと言っていいほどこういう階級の人と縁がなかったからなー。
どうも、私たちをものすごく評価しているみたいだ……。
『だからこそ、真の最強軍団はリヴァリタ宮廷ギルドだとアピールするのに相応しい踏み台だと判断しました。大陸中の要人たちも是非ご覧になってください。リヴァリタの強さを』
何これ、この人は自分のところのギルドの宣伝に来ただけ?
まるで、私たちが噛ませ犬みたいじゃん。
「ほっほっほっ、面白い男じゃのう」
「捻り潰してやるよ。僕の魔法で……」
「あーあ、可哀相。ボロ負けして、恥かくだけじゃない」
ゼノン、レイス、アリシアが殺気を漲らせてブルクハルト王子を睨む。
これは、このトーナメント……荒れそうだなぁ――。
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