聖女ティナの憂鬱
神捧聖戦の儀とかいうトーナメント戦に参加することが決まって、三日後の朝。
妹のティナもその実績から出場要請が届いた。
彼女は私から話を聞いていたのである程度は覚悟が決まっていたのだと思うんだけど――。
「お姉様やエルヴィン様が出場なさる大会にわたくしも出る――やはり力不足が否めませんわね。エルトナ王国の代表として足を引っ張らないか不安ですわ」
「ティナ……?」
子供の頃から魔法の天才で、リヴァリタ王国史上最年少で聖女になった私の自慢の妹であるティナが「足を引っ張る」という言葉を出したことに本気で驚いた。
こんなに自信がないというような顔をした彼女を見たことは今までにない。
そもそも、誰もが認めているから選ばれたわけだし……。
「ティナが足を引っ張るわけないじゃん。あのレイスよりも魔法を早く発動させて連発出来るんだよ」
「しかし、先日……あの仮面の男と戦闘した際に私の魔法は何発撃とうとも無駄撃ちにしかなりませんでしたわ」
ティナはあのときバルバトスと一緒にいた仮面の男と戦ったときの話を持ち出す。
外道強化術とかいう魔法も武器も分解するっていう怖い技でエルヴィンのオリハルコン製の武器じゃなきゃまともに攻撃をすることが出来なかった。
「いや、あれは私だって手が出せなかったし」
「リアナお姉様はお父様と……、バルバトスと戦って消耗していたからですの。わたくしはお姉様から魔力を分けて頂いてパワーアップした上で手も足も出なかったので」
そうだったっけ? たとえ全力が出せても、ちゃんと戦えたか分からないって印象だったけど。
私はダメな姉だな……。
妹が悩んでいて、何か気の利いたことを言いたいのに何も出てこないよ。
今までこの子が悩むってこと自体無かったし、何でも出来る凄い妹だと思ってたから。
でも、何か言わないと。姉としての威厳は無いのは分かっているけど、ちょっとでも自信を回復してもらわないと。
「――じゃあさ、今度はもっといっぱい魔法を撃てば良いよ。あの仮面くらい強い奴が出てきても、倒せるくらい沢山。魔力なら私が幾らでも渡すから」
「お姉様……?」
「いや、ティナの特技は魔法の発動速度が早いってことでしょ? だから、それを極めたら防御する暇もないくらい沢山魔法が撃てたら凄いことになるんじゃないかなーって。えへへ……」
言ってから私は気付く。
我ながら馬鹿な発想だったかもしれない、と。
防御出来ないくらい、沢山の魔法を撃ち出すなんて簡単に出来るわけ――
「お姉様! それですわ! 十発で足りなければ百発! 百発で足りなければ、千発撃てば良いだけのことでした!」
「せ、千発……?」
「リアナお姉様は努力して途轍もなく強くなりました。ティナも研鑽を続けて追いついてみせます……!」
「ちょ、ちょっとティナ~~!?」
やる気を出したティナは空間移動術式でパッと消えてどこかに行ってしまった。
それから、彼女は一ヶ月もの間帰って来ていない……。
ギルドの仕事も神捧聖戦の儀まで入れないようにしているみたいで、どこかで特訓しているらしいけど――。
◆ ◆ ◆
「真・精霊強化術ッ!」
「風精霊召喚ッ!」
召喚士のルーシーもエルトナ王国の代表として選ばれて、エルヴィンの指導のもとで特訓を受けることになった。
ティナもこっちで頑張れば良いのに……、と思ってたんだけど。
「妹ちゃんは、俺よりもすげー奴と特訓してるからな。安心しなって」
エルヴィンよりも凄い人と特訓って誰とだろう?
うーん。分からないけど、エルヴィンが信頼してる人っぽいし大丈夫だよね。
「リアナさん……! まさか、ボクが国の代表として戦うなんて思ってもみませんでしたが。が、頑張ります」
ついに、ルーシーは私から魔力を受け取らなくても完全に召喚術を使えるようになった。
しかも、体力もつけて以前よりも長い時間、精霊を維持出来るようになっている。
エルヴィンによると、私から精霊の魔力を渡されて体質が変化して召喚術のコツを掴んだらしいのだ。
他の人は渡された魔力は無くなっちゃうけど、召喚士のルーシーだけは魔力の絶対量も増えてるんだって。
こうして、私たちは神捧聖戦の儀が開始されるまで特訓してレベルアップを目指した――。
ティナは強い設定なんですけど、あまり活躍させられなかったので……!
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