精霊魔術士、未来へと歩む
「魔剣士・アリシアに剣聖・シオン。エルトナ王立ギルドの誇る二強のお出ましか~~。いや~~、エルヴィンくんってさ~~。性格悪いね~~。とんだ隠し玉を用意してたもんだ」
とんでもない力を持っている魔法士たち10人に囲まれて、あわや全滅と思ってたんだけど――シオンとアリシアがこっちに駆けつけて一瞬で全員倒しちゃった。
私はバルバトス一人に苦労したのに、この人たちはやっぱりとんでもない。
「へへっ、だからさっき言ったろ? 多勢に無勢だって。俺の神眼はお前が予備戦力を待機してることくらいお見通しだったのさ。だから、最初から増援を陛下に頼んでおいた」
あー、エルヴィンが呼んでくれたのか。
流石だなー、私なんて慌ててることしか出来なかったのにさ。
だけど、これならあの仮面の男も取逃さないで済むよね? 絶対にこいつだけは許せなかったし。
「で、この仮面付けてる雑魚っぽいのが親玉? ふざけた喋り方してるし、あたしが黙らせてあげようか?」
「あらやだ、アリシアちゃんったら。気が短いんだから。そんなことで目くじら立ててたらお嫁さんに貰ってくれるイケメンがいなくなるわよ」
「うっさい……」
和やかな空気が流れる。
まるで、もう決着がついたようなそんな気配。
だけど、なんだろう。すっごく胸のあたりがザワッとする――。
「僕を捕らえるなんて簡単か~~。言ってくれるじゃんって言いたいとこだけど――事実だもんな~~」
「随分と余裕そうですわね。何か切り札でも隠してるのでしょうか?」
「そんなの関係ないわ。このアリシア様がいるのよ。雑魚が足掻いたところで無駄よ。無駄、無駄」
そう、ティナの言うとおりあいつの気配って何か全部の技を見せつけた上で裏技を持ってるって感じなんだよね。
何をするつもりなのかっていうのはわからないけど――。
「あーあ、仕方ないな~~。大事な命だけど、一個使うしかないか」
「「「――っ!?」」」
「バイバイ、皆さん。また会えたら良いね~~。超自爆魔術……」
えっ? 今、こいつ……なんて言った? まさか、スーサイドバーストを使うつもりなの……?
それって、命を燃やして三分で町一個消し飛ばすくらいの大爆発を起こすっていう禁呪法だったと思うんだけど。
仮面の男がプルプル震えて今にも爆発しそう。見た目で爆発しそうって解るくらいだから相当ヤバい。
「はぁ~~、最後っ屁が自爆? どこまでふざけてんの?」
「なるほどね。アリシアちゃん、あいつを上までぶん投げて。リアナちゃん、上空で一瞬だけ爆発を抑え込んでくれるかしら? アタシが何とかしたげるわ」
シオンは町一個消すくらいの爆発を何とかするらしい。
そのために私が爆発を抑え込む必要があるんだけど――。
「えっ? えっ? 私……?」
「ったく、仕方ないわね。しくじったら許さないわよ――」
アリシアは剣を地面に刺すと、仮面の男の足元から突風が吹き上げて、彼は上空に飛ばされる。
「リアナ! マナブラストだ!」
「わ、分かった――精霊魔力砲ッ!」
既に魔力が満タンまで溜まっていた私は仮面の男が大爆発を起こす刹那、マナブラストを上空に向って放つ。
こ、これって抑えられてる? で、でも、絶対にすぐに限界が――。
「万物切断――!」
そのとき、シオンが剣を振る。
彼女、いや彼の万物切断は文字通り全てを切り裂くというが――。
この非常時にそれが活かせるの……?
「やるわね。あの男の周りの空間を全部切り裂いて別次元に爆発を押し込むなんてこんなのシオンにしか出来ないわ」
「万が一のときのために上空で一時停止させたんだろうな。お疲れさん、一日に二発も撃ったら、身体がしんどくて堪らんだろう」
ポンと頭に手を置かれた私は自分の身体中が痛いという事実に驚愕した。
マナブラスト二発目の反動なのか、エレメンタル・コネクトの使いすぎなのか、思い当たる節が沢山ある。
あ、駄目だこりゃ。耐えられないや――。
◆ ◆ ◆
「ねぇ、エルヴィン。そろそろ、外に出たいんだけど」
「バーカ、あと二日は休んどけ。マジで無茶しやがって。ちょっと間違ったら死んでたぞ」
あれから五日後、私はエルヴィンの屋敷の一室で引きこもっていた。
どうやら、色々と力の使い方を間違っていたみたいだ。
身体が痛すぎて酷い有様だったけど――。
「あと、明日には報奨金が出る。そういや、結構な金額が貰えるけど、お前って何か使いたいこととかあるのか?」
「うーん。とりあえず貯金かな」
「なんだ? その、つまんない答え」
なんだとは何だ。
貯金っていい響きじゃないか。
褒められたって良いのに、つまらないって酷い。
「お金を貯めたいんだよ。夢の為に……」
「夢……?」
「いつか、お金を貯めて。ギルド運営資金にするんだ~。エルロン・ガーデンを復活させるために」
「へぇ~、良い夢持ってるじゃん」
そう、私の夢はギルドマスターになること。
酒場で楽しそうにやってるシオンを見たりして思ったんだ。
私のしたいことって何なのか……。
バルバトスみたいにはならないように注意して、未来へと一歩ずつ進みたい。
「エルヴィン……、なんかさ」
「んっ?」
「夢を持って生きるのって楽しいね。明日が来る嬉しさって、何にも変えられない気がするよ――」
「それが分かってたのなら問題ない。待ってるぞ、未来のギルドマスター」
未来、か……。
以前は、父のもとにいたときは、早く死にたくて堪らなかった。
でも、今は違う。明日っていう未来が輝かしいから、私は前に一歩ずつ進もうって思えるのだ――。
これで第二章が終了します。如何でしたでしょうか?
ここまで、毎日更新頑張りました。
実は書籍化を目指して初めてプロットから書いた作品でして、ここまで十万字くらいだろうと区切った場所でもあります。
今後は週に2回(日曜日と水曜日)の更新を目指して書籍が無事に刊行出来るように努力します。
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