決着
「はぁ、はぁ……、ま、魔法士、に、200人分の力が……、はぁ、はぁ……、まさか……、こんなちっぽけな落ちこぼれに……、はぁ、はぁ、がふっ……」
体中がボロボロになったバルバトスは膝をついて大量の血を吐いた。
私のマナブラストに加えて自分の魔力も全部身体に受けたのだ――マナバーストと同レベルの防御力だったとしても、そのダメージは計り知れないだろう。
このままだと、あの人は完全に死ぬ。それは間違いない……。
「ティナ! バルバトスを治癒魔術で治して! お願い!」
「しょ、承知しましたわ……! 体内の器官が損傷しているレベルですと気休めにしかならないかもしれませんが……」
ティナにヒールでバルバトスを治すように頼んだけれど、彼女は自分の魔法では気休め程度にしかならないと思ってるみたいだ。
でも、さすがに縁を切ったとはいえ血の繋がった父親を見殺しには出来ない。
「その必要は無いよ~~」
「ぬわーーーーーーーーーーっ!!」
ティナが駆寄ろうとしたとき――エルヴィンと戦っていた仮面の男が手刀でバルバトスの腹を貫く。
そして、断末魔が響き渡りバルバトスは絶命した。
「リアナくん、見事な戦いぶりだったね~~。ああ、そのお礼だから気にしなくていいよ~~。誰だって自分の父親を殺した犯人にはなりたくないもんね~~」
仮面の男は悪びれもせず父親殺しをしないで済んだことを感謝しろみたいなことを言ってくる。
こいつ、何でそんなこと平気な顔して言えるんだ。私がどんな想いなのかも知らないで……。
「くっ……、何なんだよ。お前! 絶対に許さないぞ!」
「どうしてだ~~い? 知ってるよ、君ってさ~~。バルバトスに人間扱いしてもらってなかったみたいじゃん。ぎゃはは、落ちこぼれだと、憎まれ続けて生きていたんでしょう~~」
「――っ!? そ、それは……」
「いい人の真似は止めろよ~~。人間ってのはさ~~。誰しも殺したい奴の一人や二人は居るもんさ~~。なーに、それが普通なんだ。悲観することはないよ~~」
目の前でバルバトスが殺された怒りをぶつけようとすると、仮面の男は私が父親から疎まれて育てられた話をする。
父を恨んでいたはずなのに、殺されて怒るのは変だという理屈らしい。
確かに誰だって殺したいくらい嫌いな人はいるかもしれない。
それが普通だというあいつは正しいのかも知れない。
「だけど、本当に死んでいいって思うはずないだろうッッッ!」
憎い人間でも関わりたくないと思うことはあっても死んでほしいなんて思わない。
そりゃあ、私よりももっと憎しみが強い人は殺意っていうものが芽生えることもあるんだろうけど。
「あ~~、リアナくんはそっち系か~~。どこまでも甘い。甘いから、すんごい力を持っていても~~。バルバトスくん如きに苦戦するんだよ~~。ゴミ掃除をしてあげたのに怒られるなんてね~~」
だけど、仮面の男はそれでも口を止めなかった。
まるで私を挑発するように、向かってこさせようとするように……。
「黙れ! 精霊強化術ッ!!」
「やめろ、バカ! マナブラスト使ったばかりだろうが。魔力不足で火力出てないぞ……」
「あっ――!?」
「ちぇ~~、もう少しだったのにな~~」
私が飛びかかろうとした瞬間にエルヴィンが腕を掴んでそれを止めた。
よく考えたら全身に魔力がまだ行き渡ってない。その上、精霊憑依を使ったからなのか、身体が重くて仕方なかった。
「冷静になれ。こっちの方が人数が多いんだ。多勢に無勢だと焦ってるのは向こうだぞ。まぁ、父親が死んで冷静になれっていう方が無理かもだけどな」
「エルヴィン……」
「お姉様のお怒りは尤もですが、魔力が回復するまで弔い合戦はわたくしとエルヴィン様にお任せを」
エルヴィンがこっちの方が人数が多いのだから落ち着けと声をかけ、ティナもそれに同調した瞬間に光の刃を無数に繰り出し、仮面の男にそれを飛ばす。
最速の魔法士と呼ばれていた彼女の術式の発動速度はやはり凄まじく、仮面の男の逃げる道が完全に塞がれる。
「外道強化術……!」
しかし、仮面の男が両手を広げるとティナの放った刃は全てかき消されてしまった。
あのヘンテコなマナブーストみたいなやつ、物理攻撃を溶かすだけじゃなくて、魔法の攻撃も消しちゃうの……。
「あいつに生半可な魔法は通じない。悪魔との契約によって得られる魔力に付与される力の性質は“分解”。魔法だろうが武器による攻撃だろうが全部分解しちまうんだ」
「流石は“神眼使い”だ。全てをお見通しって訳だね~~。だけど、君の武器に使われているオリハルコンは分解出来ないから非常に面倒だよ~~」
「だから、俺がお前の相手をしたんだ。マナブーストやマナバーストなら分解されずに済むだろうが、ダメージは受けるからな」
エルヴィンは仮面の男の能力を既に把握済で、その対策も打っていた。
それなら、私たちは援護に徹すれば――
「「「最上級獄炎魔術ッ」」」
「「――っ!?」」
「「「最上級氷竜魔術」」」
次々と私たちに向って放たれるのは最上級魔術――しかもバルバトスに引けを取らない威力だ……。
「エルヴィンくん、こっちが多勢に無勢とか言ってたね~~。僕が連れてきたのはバルバトスくんだけじゃなかったのさ~~」
ズラッと仮面の男の横に並ぶのは10人のフードを目深く被っている魔法士たち。
この感じ……この人たち、全員あの薬を――?
「あの丸薬を飲んで生きていられるのはバルバトスくんを含めて数人くらいしか居ないけど~~。使い捨ての魔法士で良ければ幾らでも補充出来るからね~~」
「催眠術か……!? 下衆なことをしやがる……!」
「ご明察~~。だから、ごめんね~~。加減が出来ないから――諦めてね~~」
催眠術で操ってあの死ぬかもしれない魔力が強くなる薬を飲ませて戦わせてるの?
む、酷い……、そんなこと許されるはずがない――。
「さぁ、リヴァリタ宮廷ギルドの為に栄誉ある死をもって戦うんだ人形たち――! ぎゃはは、僕はその間に帰らせてもらうよ~~」
「「……………」」
仮面の男の指示で魔法士たちが一斉に襲いかかると思いきや動かない……。
あれ……? 何があったの……?
「うふふふ、リアナちゃん、ティナちゃん、しばらくぶりねぇ。アタシが来たからにはもう安心よ」
「ったく、こんな雑魚共の相手をさせるためにあたしたちを呼んだの? 呆気なさすぎるわ」
フードの魔法士たちが倒れた後ろからシオンとアリシアが現れた。
王宮ギルドのトップ2はあっさりと魔法士を倒してしまったのである――、
父娘対決決着……!
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