精霊魔術
一瞬、お城だと見紛う程の大きな屋敷。それが宮廷鑑定士エルヴィンの家だった。
この人ってこんなにもお金を稼いでいるの? だって、人材を集めるだけの仕事なんでしょう?
羽振りは良さそうに見えたけど、これはあまりにもだよ……。
「どうやって金稼いだんだって顔してるな?」
「し、神眼ってそんなことも分かるの?」
「いや、割と心の中の声が駄々漏れだぞ。そんなの神眼を使うまでもない……」
「あはは、よく反抗的な顔とか言われてたけど、あれって本当に出てたんだ顔に」
私が何を考えているかお見通しだというエルヴィン。
そんなに顔に出ているのかな? 何だか凄く恥ずかしいんだけど……。
「オレは有能な人材のスカウトもしてるが、一応……王立ギルドでは五人しかいないSランクのギルド員なんだ。ここ一ヶ月でも難しい依頼を幾つもクリアしている。エルトナ王国はSランクのギルド員には特別ボーナスを支給してくれるから、そこらの貴族よりも羽振りが良くなるんだよ」
「へぇ、太っ腹なんだね」
「結局、金って人を繋ぎ止めるには一番効果的なアイテムだからな」
うんうん。お金が沢山貰えれば頑張ろってなるし間違いじゃないかな。
それでも、これは貰いすぎだと思わずにはいられないけど。
「さて、新しいギルド員を入れるための試験がさっそく明日開催される。リアナは精霊魔術をそこで披露するんだ」
「へっ? 明日試験があるの? 精霊魔術って凄く難しいんでしょ? 試験で披露するなんて無理だよ。雑用とかなら得意だし、そっちで――」
「バーカ。オレが連れてきたヤツが雑用ってあり得ないだろ。大丈夫だ。基礎の基礎で十分だからさ」
エルヴィンはめちゃめちゃ無茶振りをしてきた。
なんと、王立ギルドに入る試験は明日なのだという。あなた、さっきはあれだけ精霊魔術は難しいとか言ってたじゃん。
一日で何とかなる代物だったら、伝説の人物しか使えないマイナー魔術になんてなっていないでしょう。
基礎の基礎って言われてもなぁ。私は初級魔術も使えない有様だし……。
「右手をグッと握って、前に突き出してみろ」
「えっ? もう始まってる感じかな? 右手を握って前に……? こ、こう?」
「そのままにしておけよ。今、この刻印は魔力の吸収と排出を同時に行っている。お前さんが今日一日で覚えるのはたったの一つだけ。魔力の排出を止めることだ」
エルヴィンは私の悪魔の刻印を指で触りながら、魔力の排出を止めろとか言ってきた。
もう、それだけで分からない。概念みたいな話は苦手なのである。
「眉毛をハの字にして、分かりやすく分かんないって顔するなよ。お前にも魔力の流れを見せてやるから。ちょっと熱いが我慢しろよ」
「熱いっ!? な、何これ、目が熱い……!」
私の右のまぶたをエルヴィンは指で軽く撫でる。
すると目頭が燃えるように熱くなり、私は思わず叫んでしまった。
あ、あれ? 何だか緑色の光の束が私の右手に入っていって、青色の光の束が出ていっている様子が見えるんだけど。これって……どういうことなの?
「神眼を一時的に使えるように、リアナの目にオレの魔力を少しだけ貸してやったんだ。どうだ光の束が見えるだろ? 緑色の光の束は精霊の魔力で、青色の光の束はお前さんの体の中で自らの魔力に変換されたモノだ。リアナはずーっと魔力をこうやって漏らし続けていたんだよ」
そんなことってある? だってこの光の束の量って尋常じゃないよ? 滝くらいの勢いで吹き出してるじゃん。
こんなにも多くの魔力を私は駄々漏れにしていたってこと?
「魔力が出る場所が分かったろ? この髑髏の口みたいな場所から出ているのが見えるな?」
「う、うん。そうだね……。こうしてみると気持ち悪いなぁ……」
私の右手の刻印を髑髏マークに例えて、エルヴィンは口みたいな所から魔力が出ていっていることが分かっているか確認した。
ここから、魔力が出ているのは分かったけど――。
「これ、どうやって止めるの?」
「んっ? 簡単だぞ。頭の中で口を塞ぐ蓋みたいなモノを思い浮かべて、そいつで塞ぐイメージをするんだ」
「そんなに簡単なことで? ふーん。蓋で塞ぐイメージねぇ。……うーん。こ、こんな感じかな?」
あー、ホントだ。青色の光の束が吹き出していたのに、それがピタリと止まったよ。
それと同時になんか右の拳が段々と青白い光に包まれて、段々と熱くなってきた……。
あれ? これ、変だぞ。うん、何ていうか……。
「熱い! 熱いって! 拳が燃えるみたいに……すっごく熱い……! どうしたら良いの?」
「大量の魔力が拳の中で凝縮されているんだよ。蓋を外せばすぐに楽になる」
「……蓋を外す? こ、こうかな……? あっ! 楽になった……」
「よし、これで合格は間違いないだろう。明日もこの調子で頑張ってくれ。お客さん用の寝床に案内してやるからついてきな」
「えっ? もう終わり?」
◆ ◆ ◆
「宮廷鑑定士殿が連れてきた逸材。しかも精霊魔術の使い手とは。凄い人材を連れてきたものだ」
いやいや、これはないよ。確かに寝室に案内された私は疲れてすぐにグースカ寝ちゃったけどさ。
起きてすぐに石畳の闘技場みたいな場所に連れて行かれて、偉そうな人たちの前で力を示せって……。
「リアナ、昨日教えたみたいに魔力の蓋を閉じるんだ……」
「そんなことをやって、何になるの? ただ、右手が熱くなるだけじゃん」
「今度は、な。熱さが限界になったところで、思いきり……この石畳をぶん殴ってみてくれ」
「石畳を殴る? 無理無理、右手が骨折しちゃうって」
「絶対に大丈夫だから、さ。オレを信じろ」
むぅ~~。こんな硬そうな石畳を殴るなんて……。
熱さが限界になったら? もう既にすっごく熱いけど……。
「よしっ! 今だ! リアナ! お前さんの力を見せつけろ!」
「んもう! 仕方ないなぁ!」
私は半ばヤケクソになって、石畳を思いきり殴りつけた――。
絶対に骨折すると思ったんだけど……石畳はまるでビスケットみたいに柔らかくて――砕け散ってしまう。
そ、そんなバカなことってある?
私の足元には底が見えないほどの深くて大きな穴が空いていた。
「なっ? 精霊魔術って凄いだろ?」
「どう見ても魔術じゃなくて、ただの暴力だよ! 床を殴る魔術がどこにあるのさ」
大穴を見つつ。私はエルヴィンの言葉にツッコミを入れた。
それにしても、でっかい穴だなぁ……。
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