闇に落ちた男(バルバトス視点)
「いや~~、お見事、お見事。思ったよりも良い手腕で驚いたよ~~」
「ちっ、どこが良い手腕だ。お前が雑な仕事をするから、既にワシが容疑者になってしまったではないか」
畜生、なんでこのワシがジルノーガのような下賎な男の手先にならんといかんのだ。
シルクハットに真っ白の仮面で顔を隠しているこいつはリヴァリタ王国の人間すら素顔を知らない。
そして、ワシは顔が割れておる。エルロン・ガーデンのギルドマスター、バルバトスの名は隣国であるエルトナにも多少は知れ渡っておるからな。
まったく、有名人は辛いということだ。このセリフを嫌な時に使うとは思わなんだ。
普通は有名人になるって、良い意味でしか使わんし。
とにかくジルノーガがリヴァリタから呼び寄せたならず者共に混じってワシは王立ギルドの連中の依頼の妨害工作を開始した。
最近、負けてばっかりいたがワシって本当は強い。
巷ではギルドを潰した無能と言われているかもしれんが、エルロン・ガーデンにバルバトス有りと言われるくらいのAランク魔法士なのだ。
王立ギルド員だろうが、Bランク以下なら相手にならんし、Aランクだって不意討ちすれば何のその。
とにかく、こいつらの邪魔をしまくって依頼を失敗させた上で脅迫と勧誘をするという手段でワシらは宮廷ギルドへの引き抜きをドンドン成功させる。
なのに、なのに、このジルノーガという男は――
『いやー、ちょっと眠ってたらさ〜〜。人が通ってたみたいでバルバトスくんの顔を見られちゃったかも〜〜』
『ごめんね〜〜。まーた、ミスっちゃったよ〜〜』
こいつ、最初の方はきっちりと仕事をしていたクセに段々とミスが目立つようになった。
そして、ワシは顔が割れてしまい……リアナたちの目撃情報からこの国にいるという事実も裏付けとなり、容疑者として指名手配されるに至ったのだ。
「お前のせいで、お前さえ居なければ、ワシは、ワシは……!!」
「まー、そんなに怒んないでよ〜〜。ぎゃはは、人生は楽しまなきゃ損だってブルクハルト殿下も仰ってたでしょ〜〜」
「うるさい! 指名手配犯になったことを喜べる馬鹿が何処にいる! ――っ!? な、何だ? それは……?」
「君が指名手配犯になった成果だよ〜〜。楽しいこと起きてるの、わかるか〜い?」
ジルノーガはケラケラと笑いながらワシに新聞を見せる。
な、なんだ、この記事は。まさか、この男……この為にワザとワシを指名手配犯に――。
『エルロン姉妹にスパイ疑惑!? リヴァリタ宮廷ギルドの刺客として父親の手先となり王立ギルドの諜報活動をしていた疑い。現在、王宮の地下牢に身柄を拘束中――』
その記事はリアナとティナが王宮ギルドに拘束されたという内容だった。
ワシが指名手配されたので、娘であるあいつらにも容疑がかかったらしい。
も、もしかして、これってチャンスなのでは? あの二人を連れて帰る絶好の――。
「大チャ〜ンスの時間が到来だよ、バルバトスくん。このまま、リアナくんたちがリヴァリタ王国に強制送還される」
「な、なるほど。ワシらはそんな二人を確保すれば良いのだな」
「そゆこと〜〜。まー、確保はリヴァリタ国に入ってからで良いかな〜〜。こっち側の国の法律もあまり知らないし〜〜」
これでリアナとティナの二人を手に入れれば、ワシの元に消え去ったと思われた二十億が転がり込むということか。
むふふふふふ、キタキタキタキターーーー!!
今度こそ勝ち確定! 略して勝ち確!!
流れ続ける……! 流れ続けるぞ……! 頭の中でファンファーレの演奏が!!
それはもう、ワシの勝利を祝うかのように荘厳に!!
神様……! 今日までの運命を呪ったことは何度もあったが、どんな人生も報われるということを教えてくれてサンキュー!
神様サンキュー、略して神キュー、神キューな気分なこのワシである。
「さてさて、バルバトスくん。ニヤニヤするのはまだ早いよ〜〜。僕らもこの国から脱出しなくちゃならないんだけれど〜〜」
「関所か……」
「そうそう。顔が割れてる君や、如何にも怪しい僕。来るときと違ってそう簡単には逃してくれないね〜〜」
「ふはははは、関所がなんぼのもんじゃい! 正体を隠しつつ力尽くでぬけでることくらい容易い! この国を抜けるために何でもしてやるぞい!」
なんせ、二十億ラルドもの大金がかかっとるんだ。
多少の犠牲は出ても構わんから、この国を脱出するのは最優先だろう。
その為なら鬼になる覚悟は出来ておる。
「さぁすが、バルバトスくんだ。じゃあ、特別にこの薬を上げるよ。リヴァリタ王国の開発した秘密兵器だ……!」
「なんだ? この薬は……。まぁいい、貰っておいてやる」
「逃亡決行は精霊魔術士リアナくんと聖女ティナくんが強制送還された直後だよ〜〜。一番油断してるだろうしね〜〜」
◆ ◆ ◆
「父さん、いやバルバトス・エルロン! やっぱり現れたな!」
「あなたとリヴァリタ宮廷ギルドの下手な工作もここまでですわ!」
「ひぃぃぃぃぃ!! どーしてぇ!!」
手錠をかけられたリアナとティナが強制送還されるために関所に入ったのを見計らって、ワシらも関所に侵入した。
それなのに、何故、何故お前たちが準備万端で待っとるのだ〜〜〜!
スパイ容疑をかけられたはずでは? こ、これではワシの二十億がパーになるではないか――。
前半のバルバトス(`・ω・´)シャキーン
後半のバルバトス(´・ω・`)ショボーン
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