引き抜きと妨害
「リアナお姉様が手を出すまでも無かったのですが――」
ティナが聖光の刃で父を攻撃しようとした瞬間、私が父の腹をぶん殴って吹き飛ばした。
あの人との決着は私がつけなきゃいけないし、妹の手を汚させるのは違うと思ったからだ。
父、バルバトス・エルロンは必死だったんだと思う。
エルロン・ガーデンをリヴァリタで一番のギルドにするという野望を持っていたから。
その目標の障害になりそうな私が憎くて、憎くて仕方なかった。その憎しみが歪みきった結果、ああなってしまったのだ。
私と父の間に入った亀裂はもう治らない。あの日、あの人は私が野垂れ死にすることを本気で願っていた。
さすがに笑えないよ。私も……。
「ごめんね、ティナ。私、あの人を一発殴ってやりたかったからさ。あはは……」
「はぁ、お姉様は嘘が下手ですね。強がりは止めてくださいな」
ティナに上手く笑えていないことを見透かされ……、私たちは屋敷へと戻った。
それにしても、リヴァリタ王国も宮廷ギルドを作ることにしたのか。
私やティナを勧誘しようとするくらいだから人材は足りていないのかな?
まぁいいか。どうせ、私には関係が無いことだ。リヴァリタ王国に戻ることは二度とないのだから……。
◆ ◆ ◆
「リヴァリタ宮廷ギルドへの引き抜き……今月に入ってもう十人目だ。ったく、オレがせっかく新人を入れたっていうのに」
父が私たちを勧誘してから、二週間ほどが経過した。
エルトナ王立ギルドは離脱者が急増している。
リヴァリタ宮廷ギルドから勧誘を受けてそちらに入るというギルド員が出てきたからだ。
王立ギルドを辞めることは自由だ。固定給が貰えなくなるだけで、ペナルティは特に設けていない。
そもそも王立ギルドよりも好条件の冒険者ギルドはこの辺りには無かったので辞めるという人間が殆ど居なかった。
リヴァリタ宮廷ギルドはオープン記念と称してBランク以上のギルド員に契約金を渡すとして勧誘していた。
それが結構纏まったお金で、それなら――ということで心が揺らぐ人たちも多かったみたいである。
そもそも、私たちみたいに国外から来ている人たちにとってはエルトナ王国との絆はお金だけで、貰える金額がそれを上回ればリヴァリタだろうと関係ないのだ。地獄の沙汰も金次第とは良く言ったものである。
「リヴァリタ宮廷ギルド……お父様が契約金を十億出すと言っていましたが与太話ではなかったみたいですわね」
「お前ら姉妹なら十億どころか二十億出すって言われても不思議じゃないぞ。ていうか、たったの十億ラルドだったのか……意外だな」
いやいや、何言ってるの? 誰が私とティナに十億ラルドずつお金を渡すって?
エルヴィンもたったの十億とか、感覚が麻痺してるな……。
「二十億なんて大金、私たちに用意するなんて言ったら、絶対にネコババしようとするよ。あの人……」
「リアナお姉様、鋭い指摘です。流石ですわ」
「父親に向かってスゲー言い様だが、リアナを追放しておいて笑顔で迎えに来るような奴なんだもんな。セコい人間なのは間違いないか……」
私とティナが父は必ずネコババしようとすると断言すると、エルヴィンは苦笑いした。
だって、あの父は本当にがめついんだもん。お金のことしか考えてないんだもん……。
「私は別に十億貰えてもエルトナ王立ギルドから離れないけどね。エルヴィンに拾ってもらった恩もあるしね」
「わたくしはリアナお姉様から離れるつもりはありませんわ」
「ははは、エルロン姉妹がエルトナ王立ギルドに残ってくれりゃあ安泰だ」
だけど、私は幾ら積まれてもエルトナ王立ギルドから離れるつもりはない。
だって野垂れ死にするところを助けてもらったんだもん。その恩はお金には変えられない……。
「だが、依頼達成の妨害には注意してくれ。リヴァリタ宮廷ギルドが絡んでるのか分からないが……最近、何者かが妨害してるみたいなんだ。王立ギルドメンバーの仕事を」
「「えっ……?」」
「王立ギルドからの離脱者が出た原因の半分がこれさ。依頼に向かったギルド員が何者かに襲われて、脅されたりしたんだと。王立ギルド辞めないと命はないってな。十中八九、宮廷ギルドが絡んでるはずなんだが、尻尾を出さない……」
リヴァリタ宮廷ギルド、勧誘するためにそんな乱暴なことまでやっているのか……。
エルヴィンの言葉からだと、証拠を掴んでないだけで宮廷ギルドが王立ギルドの仕事を妨害したりしていることは間違いないと確信してるみたいだ。
その話を聞いて私は何故か父の顔を思い浮かべる。
まさか、あの人が絡んだりしてないよね――?
宮廷ギルドはダーティープレイをしてるみたいです。
さて、依頼の妨害をしてるのは誰でしょう?
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