決別宣言《さよなら》をもう一度(バルバトス視点)
「おおー、リアナ! ティナ! 可愛い、可愛い、ワシの娘たち! 元気にしておったか!? ワシはお前たちのことが、心配で、心配で……!」
ワシは両手を広げてフレンドリーに娘たちに接しようとした。
一人頭、十億ラルドもの契約金。
むふふ、それだけで、こんなにも憎たらしかった娘たちが可愛く見えるなんて……!
自分でも驚いたわい。あれほど、ムカついていたリアナの阿呆そうな顔もキラキラと輝いているから不思議だ。
今なら、父親として二十億、じゃなかった二人の娘たちを平等に愛せそうだわい。
さぁ、ワシの胸に飛び込んでこい。ワシらは血が繋がった家族だ。世の中にこれ以上強い絆はあるまいて。
「えっ……? お父さん、何やってるの? ちょっと気持ち悪いかも」
「人目があるところで、大声を上げないで下さいな。ついでに消えてもらえるとありがたいですわ」
リアナからは引かれたような視線で、ティナからは侮蔑が込められた視線で、ワシの「大好きな娘たちよ飛び込んで来なさいポーズ」は完全に無視される結果に終わる。
ちっ、やはり誤解によって生じた壁が邪魔をしとるようだな。
リアナを追放したのなどシャレに決まっておるじゃないか。能力を知ってたら、それなりの待遇を与えておった。
なるほどな。ポールの説明の仕方が悪かったのだろう。ワシが誠実さを見せれば、きっと受け入れてくれるだろう。
「ちょっと、ちょっと~~。もー、父親に向かって、二人とも冷たいぞ。反抗期かもしれんが、父親に敬意をだなぁ」
「いや、だって……父さんが私と縁を切ったじゃん。今さら、そんな風にフレンドリーになっても怖いよ」
「お父様、リアナお姉様を無一文で追放して、更にわたくしに嘘を吐いたこと。到底許せるものではありません。わたくしが戻らなかったのは、即ちあなたと絶縁したと受け取ってもらえればと思っています」
えっ? もしやフレンドリーな父親って不評なの?
ていうか、リアナもティナも思った以上にワシのこと根に持ってる?
いやいや待て待て、まだ金の話をしとらんかったじゃあないか。
そうだ。契約金が貰えるって話をすれば、尻尾を振るに決まっとる。
なんせ、二十億だぞ。二十億……。
いや、待てよ。二十億の話をするにしても……。
「すまんかった! リアナ! お前にワシはきつく当たってしまっていた! 憎しみをぶつけてしまっていた! このとおりだ! 反省しとる! もちろん、無料で許して欲しいとは言わん! 詫び料としてお前たちに十億ラルド払おう!!」
「「――っ!?」」
くっくっくっ……。驚いとる、驚いとる。
そうじゃよ。十億も二十億も大金じゃ。この娘たちには十億も渡せば文句はないだろ。
契約金のことは黙っておいて、その後で好条件の宮廷ギルドについて説明してやれば良い。
「お父様が十億ラルド払う? そんな怪しい話がありますか?」
「うん。食券で給料払おうとする人の言葉とは思えないよ。私、バカだけど、さすがに変だなって思う……」
「えっ……?」
何それ、酷くない? ワシってそんなにケチな男だと思われとったの?
十億ラルドって言葉のせいで更に怪しまれるとは思わなんだ。実の娘にそこまで疑われて泣けるんだけど――。
「父さん、何か悪いことをしたの? それで国外逃亡したとか」
「それはいけませんわ。キチンと自首をして罪を贖いませんと」
誰が犯罪者だ! 確かにこの前まで監獄の中で臭い飯を食っておったがそんなものノーカンだ、ノーカン!
くそっ、くそっ、くそっ! ブルクハルトは失敗は即ちワシの国外追放を意味すると言っておった。
ワシが金を出すと言ったのは失言だったか。国が金を出すと言えば納得してくれたか……。
よし、それならば――
「すまんかった。説明が不足しとったな。実は、ワシ……エルロン・ガーデンをリヴァリタ宮廷に譲った。エルロン・ガーデンは新しく リヴァリタ宮廷ギルドに生まれ変わり、ワシは副ギルドマスターとなったのだ」
「へぇー」
「やはりエルロン・ガーデンは潰れましたか」
「そこで、お前たちをSランクギルド員として宮廷ギルドに招き入れたい。契約金としてワシはお前たちに十億出すことを決めたのだ。だから、怪しくない金なのだ!」
どうだ……? 嘘はないぞ。正真正銘、本当の話だぞ。
契約金を出すと言ったのはブルクハルトだけど……。金額もワシが半分は貰っとこうと思ったから誤魔化したけど。
これなら安心できるだろ? ほれ、ほれ、首を縦に振らんか。
「あのさ、お父さん……」
「なんだ? 宮廷ギルドは固定給もだすぞい! 月に百万ラルド程出すとのことだ。他にも特別報奨金と言ってな――」
「ごめん! もう駄目なんだよ……!」
ワシが宮廷ギルドの素晴らしさを説こうとすると、リアナがそれを遮った。
なんだ? そんなに泣きそうな顔をして。感動して泣いとる訳じゃないようだが。
「もう、父さんの顔を見るだけで動悸が治まらないんだ。吐き気もするし、頭も痛くなる。親から捨てられたことってあるかな? 私はあの日のことを一日だって忘れたことがないんだよ? だから、もう戻れないよ……。たとえ、十億でも百億でも……、無理なんだ。ごめん!」
「いや、待て。待ってくれ! リアナ……! 待たんか!」
クソッタレ! 逃してたまるか! ワシの二十億ラルド!
屋敷の中に逃げようとするリアナの背に向かって、ワシは中級突風魔術を放った――。
し、しまった。つい、いつもの折檻癖が出てリアナに攻撃を――。
「精霊強化術――」
「へっ……? ワシの魔術を弾いた……?」
ワシの魔術が効かない? あれが精霊魔術……。
リアナのやつ、本当に化物じみた実力を――
「お父様、今のではっきりしましたわ。――二度とわたくしたちの前に出てこないで下さいな。帰って下さい。さもなくば、わたくしがお相手することになります」
いつの間にか、ティナは聖光の刃を幾重にも出現させてワシを威嚇していた。
最速の魔法士と呼ばれていた娘は、以前よりも更に術の発動速度を上げておったようだ……。
「くそっ! 親不孝者め! ワシはもう後には引けんのだ!」
斬れるものなら、斬ってみろ!
ワシはまだ諦めんぞ――! うおおおっ!!
◆ ◆ ◆
「…………はっ!? わ、ワシは……、一体……」
「クスクス……、ダメ親父丸出しだったね~~。何が、“ワシに任せろ”だよ~~。ブルクハルト殿下も失望してるだろうな~~。娘に腹パンされて倒れるなんて〜〜。ぎゃははは」
気付けばワシは気絶しておった。
そして、気分の悪い嘲り声で目を覚ます。……ワシはリアナに殴られて気絶しておったのか……。
そ、それに、こいつはブルクハルトの護衛の一人――
「ワシを処分しに来たのか!? ジルノーガ……!」
ジルノーガ・オルコット――幼い時より戦闘訓練を積み、第三王子ブルクハルトの護衛隊の幹部となった強者。
リヴァリタ宮廷ギルドの立ち上げにあたって、Sランクの称号を得てギルド入りをしたと聞いたが……。まさか、失敗したワシを消しに来たのか。
「それなんだよ~~。僕ぁ、殺すべきかな~~って進言したんだけどね~~。ダメ親父にも、まだ使い道があるって殿下が言うからさ~~。どうやら、君は八割くらい失敗するって思われてたみたいよ~~。ぎゃははは」
ジルノーガの間延びしたような声に苛つきながらワシはブルクハルトがリアナたちをリヴァリタに連れ戻す以外に何かさせようとしていることを知る。
畜生……、ワシはあんな青二才の言いなりにならなくてはならんのか――。
バルバトスはもはや玩具扱いです。
姉妹に相手にもされませんでした。
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