真・精霊強化術《マナバースト》
レイスも戦線に復帰し、沼地の帝王の体は更に小さくなってきてた。
もうこのまま、火力で押し切れるってくらい。
「「とどめだ!!」」
「螺旋の一閃ッ!!」
「炎の精霊ッ! お願いします!」
「最上級閃光魔術!!」
「最上級獄炎魔術ッ!!」
トドメとばかりに四人が最大火力の攻撃をしようとしたとき――
沼地の帝王の身体がみるみる縮む。
あれ? 人型くらいの大きさになったぞ――。
「ミギア……!」
ドロドロの巨人だったに沼地の帝王は2メートルくらいの銀色に鈍く光るボディに変身して――四人の攻撃を受けても傷一つ負っていなかった。
無傷ってこと? 今まで、こんなの見たことない。ティナやルーシーの術が効かないなんて……。
「精霊強化術と同じ原理だ。巨大な液状の身体を超圧縮して、全てを弾く無敵のボディを手に入れた……」
マナブーストと同じ原理? それなら、全てを弾く身体だけじゃなくて……。
身体能力も、もしかしたら――
「ミギニャアアアアアアア!」
「オレとリアナ以外は下がってろ!」
沼地の帝王は一瞬で私たちとの距離を詰めて、エルヴィンを殴りつける。
エルヴィンはトンファーで沼地の帝王の腕をいなして、頭に一撃入れながら、レイスたちに間合いを取るように忠告した。
「うらぁ! うらららららっ! うらぁっ!」
「ミャアアアアアアアアアアアアアアア!」
エルヴィンと私は沼地の帝王と近距離戦を行う。
しかし、あの銀色ボディはノーダメージも良いところで、その上……沼地の帝王は素早くて私は神眼で見切っているエルヴィンと違って攻撃を何度か受けていた。
「ミギニャアア! ミギュウウウウウウッ!!」
「や、やばっ!!」
「リアナっ!」
沼地の帝王は急に腕を刃状に変化させて私の身体を貫こうとした。
あれは多分、精霊強化の防御を貫く。直感でそう感じたとき――
「ぐふっ……」
「えっ……? え、エルヴィン?」
串刺しにされたのは私ではなくエルヴィンだった。
まさか、エルヴィンが私を庇って……。そんなことって――。
「いやー、ドジッちまった。見えてるのに、足を滑らした。久しぶりに攻撃をマトモに食らったな!」
「ミギュウアッ!」
沼地の帝王が刃状の腕をエルヴィンから引き抜いた瞬間に彼は大槍を出現させて、それを叩き落とす。
しかし、エルヴィンの腹からは大量の血が溢れ出て……、顔色は明らかに悪かった。
え、エルヴィン……。私のせいで……。
「ご、ごめん。エルヴィン、私が――」
「おーい! レイス、ちょっとミスって怪我しちまった! 治してくれ!」
「ちっ、君は肝心なときに足を引っ張る……」
レイスが空間移動術式を使って一瞬でエルヴィンの元に近付き、彼と共に距離を取る。
治癒術を施してくれてるみたい。でも、傷は相当深そうだから、治るのに時間がかかりそう。
エルヴィン、下手な嘘まで吐いて私のことを庇って傷付いたことを黙ってた。
こんなダメダメな私のためにエルヴィンは……。
「ぐすっ……、エルヴィン……」
「泣くな! 前を向け! リアナ! 一緒に戦えなくなっちまって、ごめんなぁ! 後は頼んだぞ!」
「バカか!? 君は! 傷が開くだろ!」
前を向けと彼は言った。泣くな、とも。
私に託してくれたのは、信じてくれてるから?
ごめんって、言うのは私だよ。本当にエルヴィンはバカだなぁ――。
「ミギュウウウウウウッ!!」
負けちゃいけない。負けるなんてあり得ない。
勝たなきゃ、エルヴィンのためにも。仲間を守るためにも。
私がやらなきゃ。この身体が燃え尽きても、絶対にあのヌメヌメをぶっ倒すんだ。
リスクなんて知るもんか。エルヴィンにはまだ使うなと言われたけれど――。
――私は、力が欲しい!
目を閉じて精神を集中させる。今の私に出来ることを出し惜しみなく、全部ぶつける。
そうだ。私はまだ強くなれる。まだ頑張ることが出来るんだ――!!
「真・精霊強化術ッッッッッッ――!!」
「ミギニャアアアアアアア!! ミギャ!?」
刃状に変形させた沼地の帝王の刃を私は指で抓む。
こんなので、こんなので、エルヴィンは刺されたのか。痛かったろうな……。
「許せない!!」
「――ッ!? ミギュゴホッ――」
沼地の帝王の腹を思いきり蹴り上げると、くの字に身体が曲がって天高く吹き飛ばされる。大量の灰色の液体を吐き出しながら……。
真・精霊強化術は僅かに開いていた魔力の出口を塞いで、体内に最大圧縮させた精霊の魔力を充満して、それを身に纏うという精霊魔術士の切り札の一つだ。
超高濃度の魔力による強化は徒手拳の威力が大隕石拳撃並の火力まで強化され、防御は絶対防御と言えるほど強固になる。
「あ、熱い……、体が焼け付くみたいに……」
本来は体内の高濃度魔力から自らを守るために更に高濃度の魔力でガードしなきゃならないんだけど、不器用な私はそれが出来ない。
だから、段々と体内が自分の魔力で破壊されていく。
つまり、死ぬ前に決着をつけなきゃならないってこと。
「ミギュアアアアアア!」
「うらぁっ! うららららら! うらぁっ!!」
沼地の帝王の蹴りを肘でガードして、腹を五発殴る……そしてついでに頭突きしてぶっ飛ばす。あいつは地面に激突して大穴を開けた。
おおよそ、魔術士を名乗る者の戦い方では無いことは自覚しているけど、なりふり構っていられない。
「うららららららららら!!」
「ミギュアアアアアア!!」
沼地の帝王はすぐに穴から飛び出て私に攻撃してくるので、こっちも全力で応戦する。体が熱くて火炙りされてるみたいだけど、そんな苦しみ知るもんか。
殴っても、殴っても、一応効いてる感じはするけど、時間制限の内に倒せるかどうか微妙な感じだ。
とにかく、柔らかくて硬いという意味の分からない体質が私の打撃と圧倒的に相性が悪いのである。
こうなったら――
エルヴィン、この前……出来るようになったアレを使うよ。
この状態で使ったことはないけれど。
使ったら、しばらく動けなくなっちゃうから、これで決めないと終わりだけど。
このまま、時間制限が来るのは絶対に嫌だ!
「泣くまで殴るつもりだったけど――」
「ミギュアアアアアア!!」
私は両手を広げて手のひらに全身の魔力を集中させる。
そして、両手を合わせてカパッと開く。
狙いを定めて……、外さないように集中して――。
「マァァァァァナァァァァァァ!! ブラストォォォォォォォォ!!!」
「――ッ!?」
私の両手から繰り出されたのは超圧縮された魔力そのもの。この魔術は全てを吹き飛ばすシンプルな力技なのだ。
超精霊魔力砲――体内に極限まで溜めた魔力を超圧縮して放つだけの術。これは精霊魔術士の使う魔術の中で最も火力のある術だとエルヴィンは言ってた。
本当に魔力が空っぽになるから、永続的に魔力を吸収している私も体内に魔力が充実するようになるには若干のインターバルが必要になる。
五分間くらいだったかな? とにかくその間、無防備も良いところだから、これで決められないと完全に私は負けちゃう。
「……はぁ、はぁ。か、沼地の帝王は? ど、どこに行ったの……?」
それなのに、私はポカをしてしまった。
沼地の帝王の姿が見えないのだ。
十分に引きつけたつもりだったけど、避けられてしまったみたい……。
もう、力が残ってない。私はそれでもキョロキョロと沼地の帝王を探す。
「探しても無駄だよ。もう、いなくなっちまったんだから。この世のどこにもな」
「えっ?」
「お疲れさん。リアナ、お前の勝ちだ……」
エルヴィンにポンと頭を撫でられて私は沼地の帝王を討伐したことをようやく知る。
最高危険指定生物・沼地の帝王討伐という超難易度の依頼を私たちはようやく完遂させた――。
最後は主人公らしく活躍して終了。
祝勝会を書いたら、バルバトス視点に移行します。
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