ギルド運営権(バルバトス視点)
「だから、何度も言っとるとおりだ! リアナとティナは戻ってくる! 二人はワシの娘だぞ! 今は留学に行かせとるだけだ!」
くそっ! 何がどうなっとる!?
ティナが出ていってしもうて帰って来ないと思うとったら、エルトナ王立ギルドに入りリアナと活躍しているという新聞記事がリヴァリタ王国で広まってしまう。
討伐難易度★★★★の白髪の巨人を二人で十体も討伐したらしい。
ティナの能力は知っとる。あいつの力は素晴らしいが、超危険指定生物を複数相手に出来るほどではない。
とすると、リアナの力のおかげということになる。あの娘、パワースポットとしての力を更に上げたというのは本当らしいな。
だから、か。二人が優秀であるが故にこんな記事が――
『英雄エルロン姉妹を出奔させた、エルロン・ガーデン、ギルドマスター・バルバトス・エルロン――深まる疑惑』
なんじゃこれは!? バカにしおって、バカにしおって、このワシをバカにしおってぇぇぇぇ!
隣国の王立ギルドで娘二人が英雄視されとる現状でワシのエルロン・ガーデンは依頼が失敗続き、キャンセル続き、で経営破綻寸前。
本来ならエルトナの英雄は父親であるワシの元で活躍してるはずなのでは?
ギルドマスターである父親のギルドを抜けるとは、余程ワシの運営がブラックなのでは? という疑惑が次から次へと上がっているらしい。
『エルロン・ガーデン? ああ、あそこのギルドにだけは入らない方が良いですよ。依頼報奨金の中抜きがエグいですし、寮なんか入ったら食費だけで五万ラルドも一月で取られるんですよ。訳のわからん食券渡されて。その上、ギルドマスターはワンマンで――』
そして、ワシが弱ってると見て、次から次へと匿名の密告者があること無いことを記者連中に告げるから、評判も最低ランクに落ちて、ワシ自体の人格も疑われるようになる。
「先日も憲兵隊に連行されてましたよね? ギルドランクの昇格に不正があったからじゃないんですか?」
「ちっ、だから、それはリアナの能力で魔力が上がっていた魔法士たちの力が落ちたせいで。昇格試験時には力は基準値を示していたと説明したのだ。だから、不正は無かった!」
「じゃあ、何でリアナさんは隣国へ? 力が落ちるのでしたら、ギルドが忙しくなる時期に留学なんてさせませんよね? そんな見通しも立たなかったのですか?」
あー、言えば、こう言う。記者も憲兵も同じことを質問する。
リアナの力のことを知らなかったと答えれば無能扱いされ、知っているなら尚さら無能扱いされる。
おまけに元ギルド員からリアナを冷遇していた話まで漏れてるし……。
世間のワシの評価は人格破綻者の無能者。リアナを無能だと扱った自分が無能だったとは、と笑われておる。クソがっ……。
とにかく、とにかくだ……。ギルドランク昇格試験に不正は無かったのだから、ワシは無罪。
そのせいでリアナの力やパワースポットの秘密はバレてしもうたが、仕方あるまい。
ここから、破綻寸前のギルドを何とか立て直すために――
「バルバトス・エルロン! お前はリヴァリタの名を穢したと国王陛下の不興を買った! 今日を以てしてお前のギルド運営権を剥奪する! これは陛下の勅命だ! 如何なる法も凌駕するゆえ、反論はさせんぞ!」
再び憲兵たちがワシの元へとやってきてギルド運営権を剥奪するとかほざく。
ふざけるな、そんな理不尽が通るものか! ここは名門エルロン家の老舗ギルドだぞ!
エルロン家がどれだけ長い間、この国に貢献したと思うとるんだ!
「そんなことがまかり通るか! ワシのギルドは誰にも奪わせはせん!」
「ぐっ――! 風系統の魔術を使う気か!? 反抗すると罪を重くするだけだぞ!」
ギルドは渡さん! 魔法士として、せっかく這い上がったんだ。
エルロンの分家に生まれ、本家の当主である妻と結婚し、妻が亡くなり、このギルドはワシのモノになった。
このエルロン・ガーデンはワシの人生の集大成。絶対に大きくのし上がると決めて、心を鬼としたのに、志半ばでこんな妨害が、許されてなるものかぁぁぁぁぁ!
ワシは両手に魔力を充実させる。このバカ共に痛い目を見せて陛下に直談判してやろう。
ワシは、このエルロン・ガーデンは生きとるとな――。
そうだ。ワシはまだ負けとらん! まだやれ――
「ぐぎゃあっ!!」
「そんなにカッカしても無意味だよ。それに人生は楽しまなきゃ損じゃあないか。バルバトスくん」
ワシが魔法を使うよりも早く、頭上に途轍もない衝撃が走る。
だ、誰だ? 誰がワシを攻撃――
「「ブルクハルト殿下!?」」
ぶ、ブルクハルト殿下だと!? な、何故、リヴァリタ第三王子のブルクハルト殿下がワシのギルドに……。
長く美しい金髪に、張り付いたような笑顔と甘いマスクで国内でも人気のある王子が何をしに来たというのだ。
「まぁ、バルバトスくんの無念も分かるかな? だが、この世は理不尽も受け入れなきゃ楽しめないぞ」
「ぐぐっ……」
「ということで、君の夢は僕が引き継ごう。今日からこのギルドの運営権は僕のものだ。エルロン・ガーデンはリヴァリタ宮廷ギルドに名前が変わる。どうだ? 楽しそうだろ?」
はぁ!? 何を言っとるんだ若造が! 運営権がこんな王宮暮らしの素人に移るのか?
バカにするな! ワシの、ワシの立場はどうなるというのだ――!?
「とりあえず、バルバトスくん。父上が怒ってるから牢獄行きね」
「ろ、牢獄!? ま、待ってくれ! なんで、投獄されねば――」
憲兵隊はワシの言葉を無視して淡々とワシを投獄するために動く……。
くそっ! 全てを失って、なぜ牢獄に入れられねばならん――。
ということで今回はざまぁパートでした。バルバトス、ギルド運営権を奪われた上に投獄されました。
しかしながら、彼の転落(ざまぁ展開)はまだ続きます――
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