聖女ティナ
「お姉様~~~」
エルヴィンの屋敷に戻ると、妹のティナに抱きつかれて顔をスリスリされる。私と同じ長い銀髪を振乱しながら。
何故にエルロン・ガーデンからこっちに来たんだろう。まさか、私を連れ戻しに――
「おう。感動の対面は一段落ついたか?」
いつから見てたのか若干呆れ顔のエルヴィンが出てきた。
いや、ティナも感極まって抱きついてるだけで普段からこんなことはしないから。
そんな変わった姉妹みたいな顔しないでよ。私が変なのは認めるから。
「エルヴィ~~ン。これって、どういうこと?」
「それは妹に直接聞けよ。まぁ、立ち話もアレだし……リアナ、夕飯は?」
「まだ食べてないよ。こっちで食べた方が美味しいし」
「じゃ、妹さんの分も用意させるよ。ちょっと待ってろ」
どうやら、ティナは今さっきやって来たらしい。
それで私が留守なのを知ると待たせてもらうと居座ったとか。
これはポールを追い返したから私を連れ戻しに来たこと確定かな……。
エルヴィンに案内されるがままにティナは食卓につく。
さっきから思ってたんだけど、ティナはエルヴィンと何か話したんだろうか……?
――うーん、まぁいいか。とりあえず、本題に入ろう。
「それで……、ティナは私を連れ戻しに来たのかなぁ? ポールみたいに」
「その話の前にはっきりとさせたいことがあるのですが」
「はっきりとさせたいこと?」
なんだろう。はっきりとさせたいことって。
よく考えたらティナはエルロン・ガーデンの看板だ。
超難関の聖女試験に合格したって聞くし、父の性格上……バカみたいに働かせるはず。
私を連れ戻すなんていう、お金にならないことに彼女を回すなんて思えない。
ということはここに来たのはティナ自身の意志ってことになるけど。
「お父様がお姉様を無一文で追放したという話が本当かどうかです」
「あー、それは本当だよ。実際困ったんだー。二日も飲まず食わずでさ。エルヴィンがご飯食べさせてくれなかったら、野垂れ死にしてたかも。あははは」
「笑い事じゃねぇから」
追放されたときは悲しい気持ちもあったけど、今は笑い話に出来るくらい私の精神は安定してる。
あの日、エルヴィンに食べさせてもらったご飯……人生で一番美味しかったかもしれない。
「本当なのですね……!?」
「「――っ!?」」
てぃ、ティナから感じる威圧感がグンッと上昇した。
お、お、怒ってる。ヘラヘラ笑って野垂れ死にしかけたことを話したから? いやいや、平気だからね。大丈夫だから、心配しないで……。
「やはりお父様が嘘を吐いていましたのね……! 許さない!」
「ちょ、ちょっとどういうこと? 父さん、何か言ってたの?」
「お父様、お姉様を追放したことをわたくしに黙っていただけに飽き足らず、それがバレそうになると誤魔化そうとしたのです。だから、わたくしは――」
うわぁ……。ティナったら、父とポールの会話を偶然聞いちゃったんだ。
で、父は私が留学したことにして、その上で十万ラルドも渡したとか嘘ついたんだね。私が拗ねて実家に戻らないって作り話をしたくて……。
それでティナは私にそれを確かめるべく、ここまで来たんだ……。
「なんつーか。かなり余裕がないんだな。お前さんたちの実家のギルドは――」
「それは間違いありませんわね。パワースポットがエルロン・ガーデンからこの屋敷に移ってますから。この魔力が充実する感じ……間違いありません。パワースポットでなくなったエルロン・ガーデンの魔法士たちは力を落として次々と離脱しています」
「あー、やっぱり分かる人には分かるんだな。この感じ。ポールってやつは分からなかったみたいだが……」
どうやら、父が運営しているエルロン・ガーデンは大ピンチらしい。
魔法士たちが私から魔力を受け取れなくなったせいで、力が落ちちゃって、それでも父が危険な依頼に行かせようとするもんだから、ギルド辞める人がすごく増えたんだって。
それにしても、いつの間にかエルヴィンの屋敷がパワースポットになってたんだ……。
「それで、お姉様。ここからが本題なのですが」
「へっ……? 父さんの話が本題でしょ?」
「そうですわね。ここに来るまではそれが本題でした」
ティナはその琥珀色の瞳でジッと私を見つめながら、この屋敷に来て本題が変わったとか言い出した。
いやいや、そんなことってある? 父のギルド潰れそうとか、私が無一文で放り出された話よりも重要なことって何だろう……。
「リアナお姉様、実家を出て随分と経ちますが……。エルヴィン様のお屋敷がパワースポットと化すまで、ずっと住んでいますの? 殿方とお姉様のように可憐な乙女がひとつ屋根の下に」
「うん。ずっとここに住んでるよ。ご飯美味しいし」
「昔、子供の頃にな。野良猫に餌付けしたが、こんな感じだったなぁ」
何か、ティナは私がエルヴィンの屋敷にずっと厄介になってることに腹を立ててるみたいだ。
確かに独立出来るだけのお金はあるんだけど、エルヴィンの特訓を受けたりしてるし、ご飯美味しいし、ベッドもフカフカで居心地いいし、やっぱりご飯美味しいし、出て行きたくないんだよね……。
やっぱり図々しいって怒ってるのかな? エルヴィンの優しさに甘えてるのが……。
一応、少ないなりには家賃くらいは払わせてもらってるんだけど。
「そういう問題ではございません! いいですか、リアナお姉様! 男というのはオオカミなのです!」
「エルヴィンってオオカミなの?」
「大人のお姉さん限定でな」
「ふーん」
よく分からんけど、ティナは私と男性であるエルヴィンが同じ屋敷に住んでることが気に食わないらしい。
そして、エルヴィンは時々オオカミになるらしい。
「分かりました! リアナお姉様が一人暮らしをされないなら、わたくしも此処に住みます!」
「「――っ!?」」
ええーっ!? ティナも此処に住むって……。
どういうこと? まさか、ティナ……、エルロン・ガーデンを辞めるつもりなの?
いつの間にかエルヴィンの屋敷はパワースポットに。ティナもこのまま彼の屋敷に住むことになるのか!?
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