破滅へのカウントダウン(バルバトス視点)
メリークリスマス!
ということで、今回で第一章が完結します。楽しんで頂けると嬉しいです!
「――という訳でして、裏切り者のリアナはバルバトス様に“さよなら”と」
「…………」
「なんせエルトナ王立ギルド、あのリアナに固定給で百万ラルドもの大金を渡して子飼いにしている様でして。リアナの奴も自らの力に気付いてからは、任意に魔力の受け渡しを――」
「もう良い……」
「はい?」
「もう良いと言っておる!!」
ワシは間抜け面をしたポールを怒鳴りつける。
この無能はガキ一人連れ戻せんのか。何が百万ラルドの固定給だ。何がSランカーだ。
そんなものより、エルロンの血を引く者としてエルロン・ガーデンの繁栄のために尽力することこそ幸福だと何故説得できん?
育ててもらった恩を忘れておるわけではあるまい。
「パワースポットがリアナであった以上、あいつは力ずくでも連れてかえらなくてはならなかったというのに、尻尾を巻いて逃げ帰ったとは何たる醜態!」
「そ、それが出来るものならそうしましたよ! しかしながら、リアナにはあの“神眼使い”がボディガードのようなことをしておりまして――」
「それがどうした! 言い訳をするな! これで我がギルドの信頼が無くなり没落しようものなら、ポール……貴様のせいだぞ!」
リアナなんぞにあの“神眼使い”がボディガードだとぉ? 神眼といえば一度見た武術などをその優れた観察能力で修得しているという、武芸百般の伝説級の傑物。
だから、この男は駄目なのだ。他人を素直に信じすぎる。
十中八九、偽物に決まっておる。ちょっと脅しをかければボロが出たというのに、なぜ分からぬのだ。
「とにかく、このギルドの信頼がこのまま落ち続けたら貴様に責任を取ってもらうから覚悟しろ!」
「そ、そんな……! 元はといえばバルバトス様がリアナを追放したことが原因ではないですか! 無一文で追放などしなければ、こんなことにならなかったというのに!」
「黙れ! 貴様とて、隣国で野垂れ死にしたらティナの追及を免れられるというワシの提案に賛成したではないか!」
このうつけ者め! 今さら、ワシがリアナを追放したことを言及しおって。
たまたま、魔力を分け与える能力があったから家族として認めてやろうとしただけで、それまでは間違いなく無能者であった。
だから邪魔だと追い出そうという話を提案したとき、お前も異議を唱えなかったということは同罪だ。
「そもそも、だな――」
「その話、本当ですの!? リアナお姉様を無一文で追放したという話は!」
「「――っ!?」」
てぃ、ティナが何故ここに居るのだ!?
今、パーティーを組ませて危険指定生物の討伐に向かわせたばかりだぞ。
それよりまずい。今の会話をティナに聞かれてしまったとすれば……きっとこの娘は怒り出す。
どう説明すれば――。どこから聞いていた?
「ティナよ。お前には最重要依頼を任せていたはずだが?」
「パワースポットの効果が無くなって、共にパーティーを組む予定の魔法士の方々が全員このギルドを辞めていかれたのですよ。それなら、能力相応でもっと雇用条件の良いギルドに行くと。ですから、代わりの要員を補充するようにお願いに参ったのですが――」
な、何だと? ティナと組ませようと要請を出したAランクの魔法士共が軒並み辞めただと?
くそっ! ちょっと力が出なくなって危険に晒されたくらいで日和るとは……。
リヴァリタ王宮からの直接の依頼で――討伐難易度★★★の危険指定生物を複数倒さねばならぬ任務故に先方からAランクのみでパーティーを組むことという条件を出された。
こういう依頼にも対応するために、せっかくBランク共をAランクに昇格させてやったのに恩知らず共が……。パワースポットが無くとも死ぬ気で頑張ろうという根性で何とかしようとせんか!
「そ、そうか。そうだな、誰か行ける者を探そう……。ティナも大変だろうが――」
「質問に答えたところで、お父様にもわたくしの質問に答えてもらいますわ。無一文でリアナお姉様をエルロン・ガーデンから追放したという話は本当ですの?」
ちっ、やはり誤魔化せぬか。
本当のことを言う訳にはいかない。しかし直ぐに分かる嘘を吐いても――
「追放されたとリアナが勘違いしているという話をしていたのだ。なんせ、たったの十万ラルドしか与えなかったからな、そんな端金……慣れない土地では無一文も同然だろうから。それで、リアナのやつが拗ねてな。向こうから戻らぬと言ってきかぬのだよ」
ど、どうだ? 断片的に聞いたのなら誤解したと解釈出来るが……。
とにかくリアナのことを薄情者ということにしよう。うん、それがいい。
「パワースポットの正体はお姉様だったのですよね? エルトナ王立ギルドでSランカーとして活躍されている新聞記事はわたくしも拝見しました」
「そ、そうか……。ならばこのエルロン・ガーデンの危機はリアナのせいだと言うことも理解出来るだろう?」
「いえ、わたくしはお姉様の性格を知っております。リアナお姉様は決して薄情な方ではありません。帰ってこられないのはお父様が先に薄情なことをされたのだと考えられます。例えば……わたくしの留守を狙って無一文で隣国に追放するとか――」
ぬぐぅ……、勘付かれておるか。
ティナは異常にリアナに懐いておるからな……。
ワシの言うことを全然信じる素振りがない。だが、ワシは諦めん……。
「ティナよ! このワシを疑うのか! 確かにリアナに厳しくしていたことは認める! だが、それは魔法士としての将来が絶望的だったからこそ強く生きて欲しいと願った親心ゆえ――! 可愛い娘を野垂れ死にさせようとする親が何処におる!」
涙を流し。必死そうな表情を作り。主演男優賞モノの演技を決めるワシ。
知らんかった。ワシには演劇の才能があったようだ。
この悲壮感漂う演技で、ワシはティナの心を繋ぎ止めてみせる――。
「ふぅ、分かりましたわ……」
「分かってくれたか!?」
ちょろーい! ワシの娘って実にチョロい。
ふっふっふっ、女の涙は武器と言うが親父の涙も中々ではないか。
そうだ。ワシのハイクオリティの演技にかかればティナに限らず、リアナだって――。
「リアナお姉様に直接事情聴取をしましょう」
「へっ……?」
「お父様、ごめんなさい。しばらくティナはバカンスを頂きますわ。次第によっては永遠の休暇になるやもしれませんが」
「ちょ、ティナ、ちょっと……」
最速の魔法士と呼ばれていた聖女ティナは最近覚えたという空間移動術式で瞬きする間に消えてしまった。
えっ? えっ? えっ? 唯一の依頼達成率100%を誇る我がエルロン・ガーデン最強にして最大の戦力であるティナが消えたら誰が難関依頼をこなすのだ?
は、破滅する……。このままだと、ワシの、ワシのエルロン・ガーデンは破滅だ。
「ぎ、ギルドマスター! リヴァリタ王宮の憲兵隊がギルドランク不正について事情聴取がしたいと」
け、憲兵隊までここに? 不正扱いなどされたら、ワシは監獄行きだ。
ど、どうすればいい? ワシが、ワシはもう終わりなのか――。
◇ここで第一章が完結です◇
バルバトスへの最初のざまぁパートが終わりました。今後、彼はどう破滅するのか注目して頂けたら嬉しいです。
※最後にお願いがあります!
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