オウルストラ三世
「ふわぁ、おはよ。あれ? エルヴィン、何でそんなお洒落してんの? あー、わかった。またナンパでしょ」
清々しい朝だ。寝覚めがいい……。
なんてことを思いながら、朝ごはんを食べようと食卓に向かうとエルヴィンがまるで貴族みたいな洒落服を身に着けていたから思わず笑いそうになってしまった。
ははーん。これは、間違いなくデートか何かですな。
「ちげーよ、バカ。お洒落じゃなくて正装っていうんだよ。正装な。今日は国王陛下に謁見する日だって伝えただろ?」
「あっ、そうだった。そうだった。ごめん、完全に忘れてたよ」
「そうか、そうか。これからは陛下に会う約束だけは忘れないでくれよ。頼むから。俺もお前も宮廷から給料貰ってんだから」
「はーい。いただきまーす」
エルヴィンは苦笑いしながら国王陛下に会うことを忘れないで欲しいと頼む。そうだよね。この国で一番偉い人に会うのを忘れちゃ駄目だよね。
私だって、普段なら流石に忘れないんだけど、あの時は実家の新聞記事が気になっちゃって――。
まぁ、いいや。ご飯食べよ。わー、今日はハムエッグじゃん。美味しそうだな。
「それで、リアナ。そのボサボサの頭で陛下に謁見するのだけは許さねーからな」
「分かった、分かった。きれいにするって。エルヴィンって、お母さんみたいだなぁ」
「あと、着ていくドレスとかグローブとか、そういうの全部用意しといたから。あと……多分、というか絶対にお前一人じゃ着替えられないからメリッサを呼んでおいた。あいつ、前にパーティー組んでるから話しやすいだろ? 着替えを手伝ってもらえ」
怖いくらいに準備しているエルヴィン。私ってそんなに何も出来ないように見えるのかな……。
そんなこんなで、私はやって来たメリッサに着替えの手伝いをお願いして、とても高そうな服装にドレスアップしたのだった。
こんなパーティーに行くような服装初めてだよ……。
「そういや、エルトナ宮殿は初めてか?」
「うん。最初来たときエルヴィンの家が宮殿かと思ったよ」
「ははは、だからビックリしてんのか。口が空いてるぞ」
エルトナ宮殿はたまげる程デカかった――。
うはぁっ! 村一つ入るんじゃないの? 何、するためにこんなにデカイの建てたんだよ……。
「じゃ、入るぞ」
「う、うん。ちょっと緊張してるけど大丈夫かな?」
「それを聞いて俺は安心したよ。リアナも人並みの繊細さを持ち合わせてるってな」
「えっ? それって褒められてるの?」
エルヴィンが安心したって言うけど、人並みの繊細さを持っているとは果たして褒め言葉なのだろうか。
まぁいいか。取り敢えず、国王陛下であるオウルストラ三世に失礼のないようにしなきゃって話だ。
この国を一代で大きくしたという王様ってどんな人だろう――。
「宮廷鑑定士、エルヴィン。参上いたしました」
「えっと、精霊魔術士、リアナ。本日はそのう――」
「いいから、頭下げて。俺が何とかする……」
恭しく頭を下げるエルヴィンと下げさせられる私。
こんなに、うやうやしてるエルヴィンを見るのも初めてだ。いつもは自信満々って顔でドヤ顔とキメ顔の練習ばかりしてるから。
「おおっ! お主が伝説の精霊魔術士か!! エルヴィン! ようやった! 精霊魔術士は是非とも我が国に欲しいと思っていた人材だったんじゃよ! 力も申し分ないと聞いておる!」
白髪の老人は玉座より立ち上がり、両手を広げて喜びを表現した。
なんか凄くテンションが上がっていらっしゃる。
この人がこの国の国王陛下。オウルストラ三世か。
そりゃあ絵本で見たのとは違うよね。確か、話によると60歳くらいのはず――
「――っ!?」
「この国を繁栄させることこそ王たるワシの責務! 繁栄には大いなる力を持つ人材が必要じゃ! 何十人でも、何百人でも、いや何万人でも足りんかもしれん!」
一瞬、国王陛下からとんでもない威圧感を感じたような気がする。
それによく見ると顔は老人だけど、体つきはがっしりしてるというか、服の上からでも筋骨隆々ということが分かるくらいだ。
そりゃ、小国を大国に育てて、今も尚……自国の発展を望むような人だもんね。
「アブソリュートドラゴンを拳一つで打ち破ったその豪腕の噂はワシも聞いておる。精霊魔術士、リアナよ。お主のその右手には神が宿っているのだ。この国の明日のためにこれからのお主の働きに期待する」
オウルストラ三世は私のこの悪魔の刻印が刻まれた右手に神が宿っているとまで言ってくれた。
この右手のせいで私は父親から疎まれて無能だと蔑まれてずっと生きてきたのに……。
エルヴィン、私はこの手をずっと恨んでいたんだよ。
だけどさ。変だよね……。最近、ちょっとだけ……この右手に感謝してるんだ。
「ふぅ、何か自分が謁見するよりも緊張したぞ」
「なにさ。私が失礼なことでも言うと思ったの? そこまで非常識じゃないよ〜」
長い長いオウルストラ三世の話が終わって、何事もなく宮廷から出てきた私たち。
まったく、エルヴィンは私のことをいつも子供みたいに扱って。
「はは、悪い、悪い。じゃあ、次に寄るところでも引き続き礼儀正しくしてくれよ」
「次に寄るところ?」
「ああ、お前もそろそろ顔を合わせた方が良いと思ってな。集まってもらったんだ。Sランカーのみんなに――」
エルヴィンはニヤリと笑って私の背中を叩く。
私以外に五人いるSランクギルド員に集まってもらった? ええーっ、それは、それで緊張するなー。
でも、どんな人がいるのかちょっとだけ興味があったりして――。
次回は他のSランクたちが出てきます!
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