78 スウのやばさ2
その後、江東とフェンリルはデブリ回収を始めるが。
『まてまて! 止まらない、ぶつかる!!』
人型のままデブリに激突して、シールドを壊してあらぬ方向へ流されるフェンリルの機体。姿勢を整えようとして暴れるが、勢いをつけすぎてバランスを崩す。
諦めたフェンリルは、宇宙を流されながらシールドの自動回復を待つ。
ちなみにシールドは回復役に回復してもらわなくとも自動回復するが、フル充填まで1分は掛かる。
フェンリルが、暗い宇宙で唸った。
『宇宙で行動するの難しすぎるだろ・・・しかも人型なら、VRで動かせるからマシとか。戦闘機モードなんか、操縦するの無理だろ――そもそもなんで操縦桿を前に倒したら戦闘機が下に向いて、後ろに引いたら上に向くんだよ――逆だろ? なあケーリ、なんでなんだ?』
『それは俺にもわからない。昔の人に訊いてくれ』
(スウ副社長辺りなら詳しいかもしれないけど)と、思う江東であった。
ちなみにケーリがこの件をスウに聞くと、本当に答えは返ってきた。
「ほら、上に飛ぶ時パイロットは後ろに押されるじゃないですか。この状態で操縦桿を前に押して上昇を維持するの大変だと思いませんか? あと、見上げる時って身体を後ろにそらすじゃないですか。だから操縦桿を後ろに引くと上に向かう方が、直感的なんですよね」
という答えだった。ケーリは(やっぱ知ってたのかこの女子高生――)と、スウの性別と年齢を疑うに至った。
しかし、本当に宇宙では操作が難しい。
相対速度制御装置を使っても、まともにデブリに近づくことも出来ない。
ケーリは思う(これをちゃんと操作して接近戦なんて、とんでもない。自分なら、いつになったら出来るんだ)と。
「――宇宙でも、戦闘するなら銃を使うべきだな」
効率重視のケーリは、宇宙で戦闘するなら飛び道具を使おうと決心する。
そして効率重視のケーリだからこそ思う。
宇宙で接近戦をして、あまつさえトッププレイヤーなどと呼ばれている一式 アリスも十分異常だ。と。
「あの人、スウさんの事をいつも『化け物だ化け物だ』と言うけれど、貴女も十分化け物ですよ・・・」
江東が困惑していると、フェンリルがデブリの一つを両手で掴んで嬉しそうに掲げた。
『とれた! とれたぞケーリ!』
『ああ、おめでとう』
カブトムシでも捕まえたかのように掲げるフェンリルに、ケーリは思わず吹き出しそうになった。
『これ、幾らになるかな!?』
『スキャンしてみたらいい』
『スキャンか――できるかサモエド』
どうやらフェンリルの機体のAIの名前は、サモエドと言うらしい。
『できるぞよ。しばしお待ちを――ふむ樹脂だな。5クレジットになるだろう』
『5クレジットって幾らだ?』
『50円であるな』
『・・・50円か』
残念そうなフェンリルに、ケーリが諭す。
『金は1円から大事だぞ』
『それは分かるけどさ』
『まあ、せっかく初めて手に入れたんだ。記念品にでもしたらいいんじゃないか?』
『いいな、それ!』
ケーリは周りを見回して考える。
『てか、先に辺りをスキャンしたほうが良さそうだな――出来るかアドバルーン』
『出来るわよ、ミスター・ケーリ』
『じゃあ、たのむ』
『了解よ――スキャン開始』
『色々表示されたな――どれが高いんだ?』
『基本的に精密機器は高いけれど、ほとんどは機体をロストした本人が持ち帰っているわね。ただ、勲功ポイントが余っている人間がロストしたものはそのまま放置されている事が多いから、良いものが有る可能性はあるわ』
『なるほど。じゃあ、あの機体はほとんど手つかずだな――』
ケーリはスキャン反応が特に多い、F-22ラプターのような機体に目をつける。
『――ちょっと見に行ってみるか』
それは、撃墜されたマイルズの機体であった。
この機体を選んだ判断は大当たりで、かなりの収入になるとAIが言った。
とはいえ、ワープで持ち運べるデブリの数は多くない。
二人は一旦ハイレーンのストライダー協会に戻って、換金を終える。
「掘り出し物があって良かったな! 100万クレジットと15万勲功ポイントにもなった!」
マイルズの機体は、ほぼ手つかずで放置されていたので非常に高額で買い取りされたのだ。
一度に100万クレジットなど、普通の初心者が手に入れられるクレジットではない。
フェンリルは、買い取りを行ってくれたストライダー協会のロビーで喜ぶ。そんな彼の視界で、ケーリがウィンドウを開いて、何やら買い物をし始めた。
「ケーリ、なにを買ってるんだ?」
「広域を照らし出すライトがほしいと思ってな。デブリを集める時、暗いし見えにくくて困るだろう?」
「なるほど。でも、これ高いぜ? 10万クレジット――100万円もする」
「先行投資ってやつだよ、金で金を買う」
「金で金って買えるのか?」
「金プラス人や物や時間ってのを混ぜて、錬成する必要があるけどな」
「ケーリって、錬金術師だったのか」
「正にな」
「お金の錬金術師!」
「褒めるなよ」
ケーリは、フェンリルの褒め言葉にニヤリと自称ニヒルな笑顔を向けるのだった。
こうしてヘルメス戦跡の宙域に戻った二人は、再びデブリ回収を開始する。
するとフェンリルが感嘆の息をもらした。
『このライト、ホント便利だな。周囲が真昼みたいになって、簡単にお宝が見つけ出せる。さすがケーリ!』
『ふふっ、もっと褒めてくれていいぜ』
『おうよ! よっ、一人株主総会! よっ、ビタミン脳細胞! よっ、未来まで見通すハップル宇宙望遠鏡!』
『褒め方が独特だな。あと「一人株主総会」って出資者いなくね? ――駄目じゃねーか』
知らない言葉を無理やり使おうとするな。と呆れるケーリ。
やがて黙々とデブリを集め始めた二人、ふとフェンリルがバーサスフレームで大きな機関銃を手に取り言った。
『ケーリ、この機銃まだ使えるってよ! いいヤツだから俺のバーサスフレームに搭載してみる!』
『なるほど、そういう強化方法もあるのか』
そこから更に数十分の活動をして、ケーリがフェンリルに言う。
『こんなもんにするかな。あんまり大量には持って帰れないし』
『また往復作業になるのか』
『まあ、まだ機体に慣れてないし、操縦してるだけで楽しいから苦にもならないけど――ん?』
デブリ地帯に向かってくる一機のスワローテイル。
スウの物ではない、緑色に塗装されている。
『スワローテイルとは、珍しいな。いや、最近はそうでもないのか? ――パイロットのIDはさくらか』
『あ、みなさんもここでデブリあさりを?』
通信ウィンドウに現れたのは、中学生くらいの女の子だった。
『中学生――? ずいぶん若い女の子だな』
ケーリが言うと、中学生くらいの女の子は笑って返す。
『中学生はそうなんですけど。僕、男ですよ』
『は!? ――男!?』
通信相手は言うが、ケーリの眼にはどうしても女の子にしか視えなかった。
『でもIDもさくらって』
『あ、それよく言われるんですが、本名が笹倉路々 なんですよね。そこから取ってさくらです』
『・・・な、なるほど』
ケーリは、自分も本名をもじっている手前なんとも言えなかった。
『IDが女の子っぽくてややこしいって言われるんですけど、ID変更手続きって面倒くさいじゃないですか。だからそのままにしてます。リスナーさんからもよく言われるんですけども』
『リスナー? 君、配信とかやってるのか・・・ノーガードすぎないか?』
『問題はないですけど――みなさん、いい人ですし』
『うむむ』
ケーリは、この中学生がちょっと心配になった。そうして(配信者なら、スウチャンネルに所属させられないか、そうしたら何か有ったら力になれる。涼姫や風凛に相談してみるか――もちろんさくらといという中学生がいいなら、だが)とも考えるのだった。
ちなみにアリスは名前だけの社長で、事務所運営に一切関わっていないので、事務所のことを相談しても無駄である。
『あの、よかったら僕もデブリあさりに参加させてもらっていいですか? 最近始めたばかりで――と言っても、3ヶ月位は経ってますけど。――本当に最初の頃、何回もスワローテイルをロストしちゃって、パーティーにも入れてもらえなかったし。勲功ポイントも、クレジットもカツカツで』
『参加するのは良いけど。――なんで扱いにくいって言われるスワローテイルを止めないんだ?』
『助かります。――えっと、スウさんって人に憧れてるんです』
『・・・・あの人も罪深いな』
『でも、最初の頃は飛行機乗りだとパーティーとか入れてもらえなかったんですが、スウさんのお陰で最近はパーティーに入れてもらえるんですよ』
『なるほど、評判に貢献してるのか』
『超有名配信者ですからね、コラボしたいなあ』
『コラボ・・・・なあ』
(実はスウさんに対してのコラボ依頼は、ものすごい量が来てるんだ。金払うからコラボしてくれって人までいる。正直一式 アリスの影響力超えちゃってるんだよ。けど、こんなことスウさんは知りたくないだろうし。一式 アリスは気にしないだろうけど――というか本人気づいてるけど。スウさんが気にしてしまいそうなんで、俺も沖小路専務も全部を黙っているんだけども)
『登録者数3万人程度の僕が、烏滸がましいんですけども』
『あの人は喜ぶと思うけどな』
(――キョドるだろうけど。あの人が初対面でもまともに話せるの、小学生くらいじゃないか?)
さくらも加わり3人はデブリをあさりだす。
やがてさくらが、巧みにスワローテイルを操縦して、小さな精密機械を確保しながら尋ねた。
『この一帯を照らしてる大型ライトって、誰かの持ち物ですか? ああすればデブリが探しやすいんですね』
そんな質問に答えるのは、フェンリル。
『ケーリのアイデアだぜ――てか、さくらって操縦上手いよなあ、スイスイと小さなデブリを確保してる――でも確かに、小さな高い物を沢山持って帰ると効率が良いよな』
(さくらって・・・もう呼び捨てかよ)ケーリは、フェンリルの図抜けたフレンドリーさに―――呆れ半分、感心半分の気持ちになった。
『はい、小さな高いものを集めるのが良いですよ。操縦は、かなり練習しました』
さくらにバーサスフレームの操縦の仕方を教わるケーリとフェンリル。
二人はだが、四つ有るロケット噴射をそれぞれ操作するという、慣れない操作に戸惑った。
『これは・・・普通はやらない操作だから、相当な練習時間が必要だな』
フェンリルも出力レバーを細かく操作していたが、頭を抱えて叫んだ。
『ウガー! 細かすぎてむり!』
さくらが可憐にクスクスと笑って、二人に返す。
『最初はそんなもんですよ。でも、スウさんの感度設定にすればだいぶ楽になりますよ』
さくらの言葉に、ケーリは思い出した。
『そういえば、初心者訓練で言われたな、感度設定とか』
『はい。ただ繊細な設定にすると戦闘時にまともに戦えない。戦闘時に合わせると、繊細に動けないってなるんで、幾つも設定を作って切り替えるといいですよ』
早々に戦闘機形態でバーサスフレームを操る事を諦めたフェンリルが、さくらに尋ねる。
『ロボ形態を操るVRでも、そういう設定はないか?』
『VRの方は・・・あくまで体のトレースなんで細かい設定はできませんが――反応の良い機体が使いたかったら、人型形態しかない、変形機構の無い物を使うと関節とかが自然らしいです』
『機体の問題になるのか。じゃあ買い替えるためにも、デブリ集めで勲功ポイント貯めないとな』
気合を新たにするフェンリルの後方で、出力レバーを操っていたケーリが、ふとウィンドウに目を移した。
そこに映る、男の子。
(しかしこの少年、可憐というか・・・まつ毛は長いし、垂れ目の眠た気で・・・・唇は桜色で艶やかな。――いや、俺は何を考えてるんだ)
順調に脳が破壊されていくケーリを尻目に、さくらとフェンリルは会話を続けた。
『うわー、本当に大型ライトって便利ですね! 僕も買おう。あ・・・・でもクレジットがなあ』
『さくらもPT組まないか?』
『それは――スワローテイルだとあんまり誘ってもらえないので、凄く嬉しいです!』
『今後も一緒に行動すれば、ケーリのライトを使い放題だぜ。でもリーダーはケーリだから、ケーリに入れてもらわないと。良いだろケーリ』
「しかし、さくらに『好き』とか迫られたら、断われる男が何人いるのか」
呟いてケーリは「ハッ」と我に返る。
(――だから俺は何を考えて――いかん、どんどん脳がバグって行く!!)
通信を返さないケーリに、フェンリルが首を傾げた。
『おーいケーリ、訊いてるのか? 通信が届いて無いのか? おーいケーリ、さくらをPTに入れてくれよ』
(あの少年は、同じ人間なのか?)
ケーリの眼の前に大きなウィンドウが開いて、フェンリルの顔が映った。
『おーい、ケーリ!』
『うお――っ、ぉお? ど、どうした?』
『さくらもPTに入れてくれよ』
『ああ、そういう事か、分かった。――ちょっと頭がパニックになってたんだ、すまん』
『大丈夫ですか?』
さくらに心配そうな瞳を向けられて、胸がキュンとなるケーリ。
(やべぇぞコイツァ。しっかりしろ、正気を保て桂利!)
桂利がパトスに抗っているとスマホが鳴った。
衝動のままにスマホに出ると、聞こえてきたのは一式 アリスの声だった。
『ちょっと江東さん、スウさんにコラボ依頼いっぱい来てるの、なんで黙ってたんですか!』
わずかに憤りの入った声だった。
だがケーリは一式 アリスの美貌を思い出して少年の可憐さを追い払い、若干冷静さを取り戻せたので、一式 アリスへの感謝を心に抱いた。
『あ、とうとうバレたんですか? でもなんでバレちゃったんですか』
『音子さんが、「スウ、なんでコラボ受けてくれひんのや? 正直、コラボじゃなくてもええんやけど、せめて一緒に遊んでくれひんか?」って言ってくれて発覚したんですよ! どうするんですか! スウさん沢山の人のコラボ依頼を無下にしていた事になっているのでショックのあまり、靴下に描かれたキャラに話しかけながら、どこを見ているのか分からない目になってるんですよ!』
なにやってんだ、アノ人。
『ほら、こんな事言ってますよ!』
スマホから聴こえてくる、スウのうつろな声。
『チャッピー。僕、スキルがないから王様に追放されちゃったよ、田舎でスローライフしたいなぁ』
『意識が異世界転生してしまってますよ!! ――あとチャッピーって何者ですか!? リイムも心配そうな目でみてます!』
「チャ、チャッピーが何者かは分かりませんが、危険な状態ですね。何かアイデアを考えてみます」
(ほんとにヤベぇなあの人、色んな意味で)
思ったより重篤だったので、江東はスウのヤバさを思い知りつつ急いで頭を働かせる。
(スウさんに来ているコラボ依頼は数百件を超えている。しかし無下にするのが辛いとなると、全員とコラボをしたがるはずだ。だがそんな事は物理的に不可能だ。――それに登録者数が近いもの同士でコラボするのが普通らしいが、スウさんの場合最早登録者数の大小の問題ではない――なぜならスウさんほどの登録者数のプレイヤーが日本にいないからだ。――そもそもスウさんほど登録者数が増えると、最早自分のチャンネルを伸ばすためにコラボという意味合いは必要ない――ならば)
「では、大会でも開きましょうか」
『大会ですか?』
「はい、スウさんはできるだけ沢山の人とコラボがしたいんだと思うんです。でも個別にコラボするのは不可能です――ならみんなを一斉に集めて、大会でコラボしてしまいましょう。バーサスフレームを用いたレースとかどうですか?」
『それ、良いですね! *スウさん訊いて下さい!*』
しばらくバタバタという音がして、スウの元気な声がスマホから聴こえてくる。
『江東さんありがとうございます! 確かに大会にすれば一気にコラボできますね!』
『いえいえ、では段取りや連絡などは私にお任せ下さい』
『良いんですか!?』
『勿論ですよ。そのための事務所ですから』
ちなみに桂利がやっているのは、今や経理だけではない。小さな事務所なので、裏方業務は桂利と風凛がすべて行っている。
通話が切れて、ケーリはさくらがコラボをしたいと言っていたことを思い出す。
『さくら君、スウさんとコラボしたいって言ってたよな?』
『えっ? ――はい』
『できるぞ』
『ふぇあっ!?』
さくらの驚きの声が上がり、長いまつげに覆われた瞳をしばたたかせるのが視えた。
『今、スウさん主催のバーサスフレームを使ったレース大会を開くことになった』
『ど、どういう事ですか? ――どうしてそれをケーリさんが』
『実は俺、スウチャンネルの関係者なんだよ』
『『ええええええ!?』』
さくらだけではない、フェンリルまで驚いている。
『ほ、本当ですか!?』
『本当だよ』
『なんで黙ってたんだよ、ケーリ!』
『いきなり言えるわけ無いだろう。俺スウチャンネルの人間なんだ~とか吹聴して回ってたら、解雇されちまうわ』
『確かに』
『というわけで、日程やルールやら教えたいから連絡先を事務所に送っておいてもらえるか?』
『は、はい! あ――でも今直接、連絡先を伝えてもいいですか? ケーリさんとはまた一緒にフェイレジェで会いたいんで――あっ、ライト借りたいとかじゃないですよ!?』
さくらに「また会いたい」などと言われて、胸が締め付けられたケーリは自分の頬を平手打ちする。
ウィンドウの向こうで自らメガネを吹き飛ばした人物に眼を丸くしたさくらに、ケーリは何事もなかったかの様に返す。
『ああ、そういう事なら構わないよ』
『さくら、俺とは?』
『勿論フェンリルさんとも会いたいです!』
こうして、大会が開かれる運びとなった。




