59 世界の重要人物を送迎します
私はゲートの仕様を知らない人々の心配をしながら、スマホでゲートの開通式を観る。
ゲートの設置場所は、急ピッチで作られたらしいけど立派な物だった。
星と言えばギリシャ神話ということで、真っ白なギリシャの神殿を現代風にアレンジした建物が、スマホに映っていた。
神殿みたいな建物には日本の政界や世界中の研究者、招待された各国の要人など、そうそうたるメンバーが集まっている。
ちなみにアメリカの大統領の姿はない。さっきの配信みてたしなあ。
――というかゲートの権利を取られたから拗ねたんだって、ヴィックが言ってた。
そのヴィックは今、大統領の代わりに来たアメリカの外交官さんの護衛についている。
運営がゲートが出現すると言っていた定刻の時間――つまり正午ピッタリ、用意された中央の白い台座の上に、青いゲートが現れた。
「ほんとに出た」
「出現したわね」
不思議な光景に、私とフーリはしばし感心。
スマホの中では偉い人達がゲートの出現をみて、一斉に拍手をした。
沢山のフラッシュが、報道陣から炊かれた。
次はテープカットの様だ。
上品な女性の声で、テープカットを行う人物の名前と説明が読み上げられていく。
歴々が、台座の前に用意されていた紅白のテープの後ろに並んでいく。
内閣総理大臣、中央宇宙省大臣、宇宙交通局の局長。
それから、株式会社・宇宙エネルギーの取締役。
あとは、ゲートの管理会社になるらしいグループの会長。
最後に読み上げられたのは、日本にゲートを誘致して宇宙交通局を作った立役者さんだった。
さらにマスコットキャラらしい『ゲート君』という名前の、真っ黒な団子に色んな惑星をオナモミみたいにくっつけたキャラの着ぐるみまで、後ろに控えた。
ゲート君は、元気よく手を挙げたりしている。
さっきの運営とのやり取りを思うと、ちょっと心が痛い。
立役者さんが、にこやかにゲート君と握手を交わす。
ゲート君は『ようこそゲート!』とか言っていた。ゲートが語尾らしい。
テープカットに参加する黒いスーツに身を包んだ人たちが、テープの前で美人な女性に、装飾が凄い金色のハサミを渡される。
今回は海外の招待客が多いので、招待客はテープカットに参加しないようだ。
青いゲートを背景に、レッドカーペットに並んだ偉い人達が緊張した面持ちで、各国の招待客を含む方をみた。
司会進行の清潔な感じのお姉さんが、カットのタイミングを宣言する。
『それでは、ハイレーン成田ゲート。今、開通です!』
ちなみにゲートを設置した場所は。成田空港に近い千葉の長原村。
フェイレジェ省は「海外から来る人の利便性の為に、成田空港に置きたい」と言ってたけど。私は、村おこしにもなるんじゃないかと長原村を提案してみた。
すると、国土交通省が鉄道を整備できると飛びついた。
最初はフェイレジェ省と国土交通省が、バチバチにやりあってた。
で、最後にはフェイレジェ省が折れた。
というかさっきの運営との会話からすると、ゲートは外人さんが使えないんだし、資源運べないんだし成田空港に設置しなくてよかったよ。
もう村おこし位にしか使えないもん、あれ。
歴々がファンファーレと共にテープにハサミを入れる、紅白が風に揺れた。
盛大な拍手が巻き起こり、眩しいほどのフラッシュが画面に溢れた。
続いて、小学生の男の子と女の子が花束を総理大臣と、立役者さんに贈呈した。
小学生がゲート君と握手した。
総理大臣に、清潔そうなお姉さんが質問する。
『総理、ゲートが開かれたことで日本はどの様に変わると思いますか?』
『ゲート産業は、我が国の一大プロジェクトとなります。大きな躍進を期待します』
いよいよ、ゲートに人々が入るセレモニーになった。
控え銃をした自衛官の人が先導しながらゲートに入り、続いて立役者さん、宇宙交通局局長、中央宇宙省大臣、内閣総理大臣、宇宙エネルギーの取締役、管理会社の会長。と入っていった。
さらには各国の招待客が、護衛とともに入る。
「ん」
フーリが何かに気づいた顔になった。
私は叫んだ。
「ちょっと待って!? 他国の要人も入るの!?」
「スズっちさん、あれ、不味くない!? 外国の人、帰ってこれないんじゃ!!」
「これないよ!!」
「絶対、大混乱になるわ。スズっちさん、あの会場に私を連れて行って!! 混乱を収めてくる! 私が混乱を収めている間にスズっちさんはハイレーンへ行って、要人さんを地球に帰してあげて!!」
「わ、分かった!!」
スマホの向こうでは、まだ入ろうとする海外の招待客を黒服の人が入ってはいけないと止めている。
帰ってこれない事に気づいたようだ。
被害は最小限になりそうだ。地球に連れて帰る人が一度で運べる人数ならいいんだけど。
不安に駆られている私に、フーリが何故か悪そうに微笑む。
「それで、スズっちさん。できれば沖小路運輸の人間として振る舞ってくれたら嬉しいわっ」
「え――う、うん」
さすが商売人・・・・今回の混乱の収拾を、沖小路宇宙運輸の手柄にするのね。フーリ、怖い。
暫くして、スマホの向こうで騒ぎが大きくなる。
『なにか、問題が起こったようです。皆様しばしお待ち下さい』
司会進行の女性の声とともに、黒いスーツの人が縦横に駆け回りだした。
やがて真っ青な顔の人がゲートから出てきた。
あ、資源を、向こうから持ち出せないことも分ったようだ。
そ、それは私のせいじゃないからね?? というか帰って来れないのも私のせいじゃないからね??
さらに他の国の招待客のお連れさんが、なにかを叫んでいる。
やっぱり運営の言ってた通り、帰ってこれなくなったのか。
私達は会場近くに到着、私はフーリを降ろして、ハイレーンに急行。
ハイレーンへのワープ中は流石になにも出来ないので、会場の混乱を見ていると騒然となるゲート前に、青いドレスに身を包んだ令嬢が現れて、彼女が各国の要人のお連れ様に、なにやら説明している様子が見えた。
やがて司会進行をしていた清潔そうな女性からマイクを貰って、説明を開始しだした。
『落ち着いて下さい皆様。わたくし沖小路グループ宇宙運輸代表、沖小路風凛と申します。ただいま各国からご招待致しました大統領や、大臣、高官の方がハイレーン側のゲートを使用できないというアクシデントが起きたようです。ですが、ご安心下さい。わたくしたち沖小路宇宙運輸がご招待客様をお連れ戻し致します。我々沖小路グループは、この様な事態の解決や、ゲートの無い地方からもハイレーンへアクセスして頂くため、沖小路宇宙運輸を設立致します。これにより人だけでなく、物資の輸送が可能になるでしょう。では我が社の担当が、大切なお客様を地球まで送迎させて頂きます』
フーリは、優雅に満ちたお辞儀を披露。
相変わらず、頭の先からつま先まで神経が一本通ってそうな、完璧な所作である。
彼女のお陰で、会場の混乱は一応、落ち着き始めた。
フーリはこの商機を逃す様子がまるでない。ただ、マッチポンプとは言わないけど。先に海外の方が帰れないのを知っていた私は、後ろ髪引かれる思いである。
帰れないのはホントに、私が要求したわけでも、決めたわけでもないからね!?
いっぱいゲートが出来るのは私のせいかもだけど、それはゲートが一つよりずっと良いと思うし! というか襲ってきたオルグスが悪い、全部彼奴等のせいだ!
なんて思っている間に、私はハイレーンに到着。
「イルさん大気圏突入開始するよ」
イルさんが飛行機を運転する姿勢になる。
『イエス、マイマスター』
すぐに大気圏突入して、ゲート設置する権限で教えてもらっていたハイレーンの首都近くのゲート開通先に向かった。
ハイレーンの街は、運営さんが言っていた通り元旦らしくて、飾り付けられている。
きらびやかな街を、いろんなSF民族衣装な人々が行き来している。
そんな光景を端に見ながら、街を離れゲート開通先に直行すると、なんか工事が始まってた。3Dプリンターで作るみたいに建物ができて行ってるけど。
ゲートを沢山設置する事になったからかな?
建物に駆け込むと、7人の要人さんと14人の護衛さんが見えた。
迎えが来るって既に連絡が入っているのか、混乱などはなかった。
というか流石に各国の要人、危機に際しても堂々としたものだった。
ゲートに入った外国の要人さんは確か、アメリカの外交官さん、ポーランドの大統領さん、トルコの大統領さん、サウジアラビアの皇太子さん、イタリアの大統領さん、ドイツの外交官さん、イギリスの外交官さんって感じだったかな。
あとヴィックもいる。
私は緊張してしまう――だって世界中の偉い人が眼の前にいるんだもん。
控えめに言って、大緊張。
ヴィックが私にウィンクしてきたんで、ぎこちない笑顔を返しておいた。
護衛の人も考えると、運ぶのは3回になりそう。
私は、カクカクとした動作で彼らに頭を下げる。
「み、皆様、お迎えにあがりました。お、沖小路宇宙運輸です。どうぞ安心して、私についてきてくりゃさい」
最後噛んだし。
一応英語でも伝えておく。伝わったようで、みなさんが笑顔になる。
「君が、沖小路宇宙運輸の人か!」
「本当に来てくれたな!」
「ひゃ、ひゃい!」
トルコの大統領さんっぽい方が、私の顔を見て驚く。
「ん? 待ってくれたまえ、君の顔を知っているぞ。そうだ! 君は――もしや、スウさんではないか!?」
イギリス系ぽい要人さんが返す。
「な、なんだと!? スウだと!?」
え、なんで知ってるの!?
私は顔を背ける。注目されるのは苦手なんだもん。
だけどこう、フェイレジェって顔を隠せるヘルメットじゃないから・・・。
「――やっぱりスウさんだ!」
「――彼女はスウじゃないか!」
「――Oh my God!」
「な、なんで皆さんが私のことを知ってるんですかぁ・・・!?」
要人さんたちに恐怖の瞳だけを向けていぶかしがる私に――というか慄く私に、トルコの大統領さんが、目を輝かせて答えてくれる。
「当たり前じゃないか! 君が今回のゲートをもたらしたのだから、今回の主役ではないか! 日本では英雄扱いだったろう! なぜ今日の式典に出席しなかったんだい?」
英雄扱い? 文字通りそれほどでもなかったけど。出席しなかったのは、
「い、命がピンチだったからです」
「そうだ、見たよ先程の攻防! オルグス同盟連合国の卑劣な行為を真っ向から退けた、あの光景!」
「ああ、見せてもらった! まるで映画だった! ――君が我々を地球に運んでくれるなら安心だ!」
ヴィックがなにか、誇らしげに笑っていう。
「彼女は、協力プレイではなく、ソロプレイならばフェイレジェ最強とも呼び声が高いプレイヤーですから!」
ボッチなら最強って言われてる気がしてならない――私が卑屈なんだろうか。
「しかしなんとも、まだ幼い少女ではないか」
「はっはっは、日本人は幼く見えますからね、彼女はアレでもハイスクールガールですよ。若いですが、幼くはないです」
「なんと・・・」
「しかしそれでも、十分驚異的な訳だが」
とりあえず、このまま私について会話されてたら地球に帰れそうにない。
緊張でつっかえながら、促す。
「あ、あの皆さん。地球の皆さんが心配していると思うので、は、早く帰りませんか。まずは8人ほりょ」
ま、また噛んだし。
「捕虜!?」
要人さんたちの護衛がちょっと色めき立つ。
「違います、噛んだだけです!」
私の慌てっぷりにヴィックが微笑む。
「大丈夫ですよ、彼女は気弱なので慌てて舌が回らなかっただけです。さあ、みなさん地球に帰りましょう」
ホッ・・・ヴィックありがとう。
「そうだな、騒ぎになっているだろうしな」
「では、飛行機の中でゆっくりと話を聞かせてもらおう」
え? ――ちょ・・・・ま、まって? 会話は続くの?
私、「ハイ」か「イイエ」以外の会話は苦手なんだけど。




