10 空母にご招待されます
私が喜ぶポルックスとカストールを眺めていると、グランド・ハーピィに襲われている集団から通信が入った。
『こちら、星の騎士団所属空母ラストアンサー。救援感謝する。そちらの所属を明かされたし』
え、私の所属? ・・・・なんだろう――・・・・ボッチなのに、何かに所属してるの?
私が、ずっとボッチなのに自分は何に所属しているんだろうかという哲学的問題に直面していると。
「舞花、みなさん、大丈夫ですか!?」
八街さんが、妹と友人の安否を確認した。
『・・・お、お姉ちゃん!?』
『あ、このフィルターの声はアリスさん! みんな、もう大丈夫だ! アリスさんが助けに来てくれたぞ!!』
『うおおおおおお!!』
喜びに湧く空母の人に、八街さんが焦りだした。
「いや――舞花、みんな! 私が助けたわけじゃ――ちがいますよ・・・・!」
❝え? アリス?❞
❝星の騎士団のアリス?❞
❝なら、赤い閃光のアリスじゃね?❞
❝そういえば、あの赤いパイロットスーツって――❞
え、八街さんって、赤い閃光のアリスだったの!?
いや、それよりも。
私は八街さんに、こっそり通信を送る。
『八街さん。赤い閃光のアリスってバレても大丈夫なの? 事務所とか』
『心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です、事務所は私がプレイヤーをやってる事を知りません』
『良かった―――』
『というか、鈴咲さんがみんなを助けてくれたのに、わたしが助けたなんて勘違いさせちゃって。あとで言っときます』
『えっ!? そ、そういうのは、気にしないで・・・?』
❝じゃあさっき『赤い閃光のアリスでも、こんな超絶テクニック出来ない』って言ってたのは❞
❝本人かよ!❞
❝本人が言うなら仕方ない❞
❝本人が言うなら仕方ない❞
❝てか、スウと赤い閃光のアリスがリアル親友とかヤバくね?❞
❝コラボ見てみたい!❞
❝スウたん、アリスたん。合体メカ探して、合体しよう。――真勇合体アリスウ❞
いやいや、私と八街さんが親友とか――友達って言うのも失礼なのに・・・・。
私が「嬉しいけど、困ったなあ」と笑っていると、
「し、しんゆう合体とか止めて下さい!」
八街さんが顔を真っ赤にして、珍しくちょっと怒った。
ほら、怒っちゃったじゃん。
私は、空母ラストアンサーの方々に通信を向ける。
「じゃあ、星の騎士団の皆さん。あとは雑魚を掃討するだけです!」
『アリスさんの機体に、もう一人いる?』
『アリスさんの補助パイロットさんか、頼む!』
『母船が消えても、俺たちにはグランド・ハーピィは厳しいんだ』
私は皆さんに返事をする。
「お任せ下さい! じゃあ私達が敵を引き付けるんで、広範囲の最大火力で敵を殲滅して下さい!」
『オーケー! 光崩壊エンジン出力最大へ!!』
『了解、光崩壊エンジン出力最大へ!』
『チャージ開始』『チャージ開始!』
『アリスさん、3分間敵を引き付けて下さい!』
『『『よろしくお願いします!!』』』
『お、お姉ちゃん・・・』
喧嘩してるせいか、舞花ちゃんの声がぎこちないな・・・話しかけにくいのかな。
八街さんが空母から流れてくる声に反応して、私に頭を下げてくる。
「操縦してるのはスウさんなのに――あ、あとで言っときますね」
「いや、本当に気にしないでいいから・・・」
こうして私は敵を引き付けながら戦う。
でもちょっとエンジンを全開にしたり、黒体放射系も全力で使いすぎて〈臨界黒体放射〉は、しばらく使えないな。
敵が多くて、エンジンを切る暇が無かった。
無理すれば発射できるけど、大した威力が出ないで光崩壊エンジンが止まる。
〈励起翼〉の通常版なら問題ないけど。
そんな事を考えながら、敵を引き付け撃墜していると、遠くで小型の人型機が被弾した。
八街さんのクランの人の機体だと思う。
コックピットが剥き出しになった。
――中には、まだ中学生くらいの少女。
八街さんが叫ぶ。
「舞花―――ッ!!」
あ、あの子が舞花ちゃん!? ――八街さんの妹!? ――まずい!!
コックピットの中のパイロットの舞花ちゃんの前に、グランド・ハーピィが立ちはだかる。
少女の表情が、恐怖に染まる。
あのまま攻撃を受けたら、舞花ちゃんは完全に消える。
私の脳裏に、ファックスという言葉が浮かぶ。
(舞花ちゃん―――助けないと!)
でも黒体放射系武器を使いすぎたんで、〈臨界黒体放射〉はまだ使えない。
というか〈臨界黒体放射〉は小さなガンマ線バーストだ。
あの子のパイロットスーツが安いものだと、ガンマ線による放射線の影響が怖い。
ドリルドローン?? 実弾系!?
――いや弾丸より、コッチのほうが疾い!!
私は、スロットルレバーを最大へ。
閉じた歯から鋭い息を吐いて、気合を入れる。
「―――ッシ」
足をコックピットの床に叩きつけ叫んだ。
―――「ゾーンに入れ」と!
「――うぉおおおおおおおおお!!」
〈励起翼〉を展開して左サイドの透明なカバーを叩き割り、レバーを引いて、加速リミッターを解除。三択ブーストでさらに加速。
後ろで八街さんが、スキルを準備する気配がした。
❝どうした❞
❝正面の人型機、やばい❞
❝だけど死んでも復活するんだろう?❞
❝なんかスウさんの瞳の光が消えて怖いんだけど❞
❝この子、マジになるとさらに影に沈むのか❞
「称号発動―――〖伝説〗!! いっけぇええええええええええええ―――ッ!!」
❝称号?❞
❝称号ってなんだ?❞
『マザーに追いつけない!!』
『ママ、速すぎる!!』
悪いけど、〈ドリルドローン〉は置いてく。
急激な加速により、猛烈なGが私達を襲ってきた。
だけど本当に怖いのは、カーブする時のGだ。
私と八街さんのシートが倒れて、寝転ぶ姿勢になる。
スワローさんの色が、黒から白銀に変わったのが分かった。
私は目を剥き出して、特機化したスワローさんの全速力で少女を狙うグランド・ハーピィへ突っ込む。加速は私が気絶しないギリギリのラインで行う。
だけど、別のグランド・ハーピィの一機が、私達の前に立ちはだかろうとした。
『邪魔だ、―――どけぇッ!!』
私は〈汎用バルカン〉でグランド・ハーピーを撃って、宇宙空間で弾き飛ばす。
抵抗0の宇宙空間を転がったグランドー・ハーピーは、上手く止まれずに飛んでいく。
私が方向転換の為にスワローさんをコントロールして稲妻の様に飛ぶと、凄まじいGが牙を剥いて、意識を刈り取ろうとしてきた。
きつい、気を失いそうだ。
でも今は、負けるわけにはいかない!
舞花ちゃんは殺させない―――!!
パイロットスーツが脳に酸素を送ろうと、骨が折れるんじゃないかと言うほど収縮する。
すると、
「〖重力操作〗!」
八街さんが、私にスキルを使った。
私に掛かるGが大分楽になる。
八街さんも辛いはずなのに!
舞花ちゃんはいつの間にか宇宙用ヘルメットを着け、座席に固定されている。
彼女は、脱出用転移装置があるシートのサイドレバーを引いているが、転移が行われない。
転移装置が壊れているんだ―――このままじゃ、舞花ちゃんが死ぬ。
SOUND ONLYの通信から、なにか覚悟したような舞花ちゃんの声が、聴こえてくる。
『お姉ちゃん、ごめんなさい――』
待って舞花ちゃん・・・今生の分かれに、最後の謝罪みたいな声だけど。
『――私、あのワンピースがお姉ちゃんの大切な思い出の品だなんて知らなくて・・・』
八街さんが身を乗りだすようにして、焦った声を出す。
「舞花! ―――いいから、もう怒ってませんから! 諦めないで!!」
私達の視線の向こう――遠くの舞花ちゃんの涙の笑顔が、スワローさんの方を視る、
『お姉ちゃん―――大好きだから。ずっと、ずっと・・・』
「舞花・・・そんなのわたしも同じです! ―――だから生き残って!!」
舞花ちゃんからの通信が切れた。
「スウさん、舞花を助けてぇ―――!!」
舞花ちゃんが正面に向き直って、静かに目を瞑った。
「大丈夫、まかせて!!」
死なせるもんか・・・死なせるもんか。
死なせるもんかぁぁぁあああ―――!!
「間ぁにぃぃ合ぁぁぁえええぇぇぇええええええぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」
舞花ちゃんを狙うグランド・ハーピィが、口のようなものを開いた。
――内部が発光している。
舞花ちゃんの身体が、痛みに耐えようとするように強張った。
私は〈汎用バルカン〉を連射。
スワローさんの速度が乗って、発射する弾丸の速度は更に速くなる。
違わずグランド・ハーピィに命中した。――だけどハーピィを倒しきれない。
弾かれたハーピィは、舞花ちゃんを狙ったままだ。
「しつこいんだ、お前ッ――消えろ! ――その子は、殺らせるかァァァァァァァ―――ッ!!」
私はグランド・ハーピィを掠めるように飛ぶ。
〈励起翼〉で、ひまわりの種の様な機体を、舞花ちゃんから弾き飛ばす――遠ざけるように体当りして、薙いだ。
衝撃で、スワローさんも宇宙を転がる。
ヤバイ、このままじゃ私が気絶する。
急いでスロットレバーを落とす。
機体をコントロールしながら、速度を緩めて行く。
頭を振って咳をしながら息を吐くと、頭上に爆発している光が視えた。
望遠映像にも、消滅するグランド・ハーピィが視えていた。
宇宙空間だから、しばらく光は残っていた。
頭に酸素を送るため、深呼吸して息を整えて通信をする。
『ま、舞花ちゃん、―――今すぐ空母に戻って!』
『え、誰――助かっ―――? あっと、――は、はい!!』
舞花ちゃんが空母に向かうのを見て、私はホッと一息。
❝疾え。グランド・ハーピィが真っ二つ❞
❝舞花ちゃん、助かって良かった❞
❝なんか、一瞬ワロの色変わらなかった?❞
❝称号ってなんだ?❞
❝スキル持ちも少ないけど、称号持ちは更に少ないからな。〖伝説〗の称号なら、もう一人の〈発狂〉デスロのクリア者も貰ってたらしい。バーサスフレームを特機化するんだとか❞
❝〈発狂〉デスロのクリアの報酬か❞
❝だけど、もう一人って使ってるの元々特機なんだろう? ――意味ないじゃん❞
❝にしても、とんでもない速度だったぞ、あんな速度でよく小さな小型機を掠めるなんて神業できるな・・・・❞
ドリルドローン達も、会話をしている。
『うちのマザーは、本当に人間なんだろうか?』
『ぼくは、目覚めてからずっと疑ってる』
私の後頭部の向こうから、すすり泣く声が聴こえて来た。
「―――舞花・・・舞花・・・! ・・・良かった!! ―――スウさん、ありがとうございます・・・本当にありがとうございます―――」
私は、八街さんを振り返る。
「大丈夫!? カメラマンさん! ――ごめん、とんでもない飛び方をして! Gは――身体はなんともない!?」
八街さんが立ち上がって、抱きついてくる。
「―――それより妹を助けてくださってありがとうございます! Gなんて問題ないです!」
「そ、そっか良かった、ごめん。舞花ちゃんを助けたのに、八街さんになにか有ったら・・・って・・・良かった」
「いえ! 謝らないで下さい!! それより舞花を救ってくれて、本当に有難うございます・・・っ!!」
「・・・・うん、八街さんの妹さんが助かってくれて、本当に良かった」
八街さんが何かを思い出したように、顔を上げた。
「あっ!――後ろから、さっき弾いて躱したグランド・ハーピィが来ます!」
私も見れば、こちらに迫ってくるグランド・ハーピィ。
「――不味いっ!」
私は慌てて囮役を再開した。
数時間後、私達はグランド・ハーピィの脅威を防ぎきった。
『難易度異常〝大いなる女王〟をクリアし、グランド・ハーピィ母船及び子機3千を撃破したことにより。銀河クレジット20万、勲功ポイント40万が手に入りました』
こうして、舞花ちゃんを助けられたのだった。
ドリルドローンのポルックスに『ママ』と、スワローテイルにスリスリというか、ゴリゴリされながら、空母ラストアンサーに呼ばれたので着艦。
その後、私と八街さんは、ラストアンサーのブリーフィングルーム兼映画館という場所に呼ばれる。
そうして、なんか謝罪された。
「アリスさんじゃなくて、もう一人の方が助けてくれたなんて!」
「お、お姉ちゃんより強い人がいたなんて・・・」
頭を下げる男性と、私に抱きついている舞花ちゃんに、八街さんがちょっと怒る。
「だからスウさんが助けてるんだって、何度も言ったじゃないですか!」
私は慌てて、八街さんを宥める。
「良いから! 皆さんも気にしないで下さい! やち――カメラマンさんもまた舞花ちゃんと喧嘩になったらどうするの」
八街さんが慌てて口を抑える
勘違いしていたというプレイヤーさんたちと舞花ちゃんが、ペコペコしてくる。
特に艦長さんはリアルでは営業マンさんらしく、オーラまで見えるような見事な姿勢でお辞儀をしている。
「スウさん、本当に有難うございました! 勘違いしてすみません!」
とにかく顔を上げてもらわないと。
「学校の先生みたいな年齢の人に頭下げられると辛いです! そ、それより空母の中すごいですね」
私は、話の流れの変更を試みた。
でも実際、空母ラストアンサーの中は凄いんだ。
この映画館もそうだし、沢山の居住空間どころか遊戯スペースまである。
なんなら食堂もあるし。
私がスワローさんの中で映画を視る時は、VRなんだけどな。
私もいつか空母を持てるかな?
艦長さんが頭を上げて笑う。
「みんなの意見を取り入れたんですよ」
良かった話の流れが変わった。
でも、もう一個問題がある。
私に抱きついている舞花ちゃんだ。
私が困った顔で舞花ちゃんを視ると、舞花ちゃんは私の顔を観察するように見ていた。
え、なんか変かな・・・福笑いのパーツ並べ方、間違えてる?
「ねえ、スウお姉ちゃんって・・・お姉ちゃんのスマホ――」
舞花ちゃんが何か言い掛けた所で八街さんが、舞花ちゃんの口を抑えた。
「むごっ」
「シーーー!!」
八街さんが、暴れる舞花ちゃんから手を離すと、舞花ちゃんは私の眼を観ながら頷いた。
「・・・・やっぱり、間違いない」
え、なに・・・どうやらパーツ配置に間違いは無いみたいだけど。
いった舞花ちゃんが、私の胸に顔を埋めた。
「スウお姉ちゃん・・・・本当に怖かったの、ありがとう・・・・・・」
いや、ごめん問題ないな。
年下の女の子に抱きつかれるのは、あったかい、キュンと来る。ここに住みたい。
しかも八街さんの妹なんだよ。
容姿も、ハーフなんだろうか? ――可愛いと美人を足して割らない、美しさ。
こんな子に抱きつかれてドキドキしない人間の血は、きっと赤くない。
「ここにヘブンは有った?」
❝昇天すんな❞
❝何を考えてるんだよワロw❞
八街さんが、舞花ちゃんをそっと私から離して距離を取らせる。私涙目。
まあ、それより、舞花ちゃんに尋ねないと。
「勲功ポイントは入った?」
「うん! 今回のワンダリングイベントをクリアしたことで銀河クレジットが10万と勲功ポイント10万が入ったよ!」
「良かった。また何か有ったら言ってね?」
「いいの!? ほ、本当にありがとう―――! もうプレイヤーを止めようか迷ってたから。スウお姉ちゃんがそう言ってくれるなら、まだ続けられそう」
「あ・・・・でも、あんまり危ないことはしないでね」
「うん、安全に気をつける!」
「あと、アリスさんとも仲直りできたよね」
「・・・うん」
舞花ちゃんが、八街さんに向き直る。
「ごめんね、お姉ちゃん」
八街さんが首を振る。
「舞花が助かったらいいんですよ」
舞花ちゃんが、八街さんに抱きつく。
本当に、良かった。―――姉妹かあ。
この後私は、女子中学生のチャットアプリのIDをゲットしたのだった。




