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day57 みんなで生産

「とりあえず、《鉄》500個、《銅》200個、《玉鋼》200個買ってきたよ」

「ありがとう兄ちゃん。いくら?

 多分今の所持金じゃ払えないだろうけど……」

「俺が払って良いよ」

「これは払う! お使いに行ってもらっただけだし!」

「そう? んー……588万CZだね」

「おぉ……さすがにその量買うと結構な額になるね」


空さんに105万とお兄ちゃんに588万、合計693万の借金だ。

あれ? 銀行にどれくらい入ってたかな……ほとんどなくなりそうだ。

全部売れたら戻ってくるはずだから頑張ろう。


「あぁ、そうだ。さっきの分貰ってきたよ」

「もう売れたの!?」

「待ってた人、たくさんいたみたいだね」


鉱石と共に、1,449,000CZが取引ウィンドウに表示される。

これで、空さんの分は取り戻せたとほっとする。


「それから、ここにくる途中でエルムに会ったんだけど」

「うん?」

「これを渡すようにって」


そう言って新たに《魔法陣が描かれた羊皮紙》と《大型の石工箱》が表示された。


「なんだろう?」

「んー……渡したらわかるって言ってたけど。

 忙しそうだったから詳しくは聞けてないよ」


若干頭を傾げつつ、取引ボタンを押す。

アイテムボックスに入った鉱石達を作業場の宝箱に移動させて、《魔法陣が描かれた羊皮紙》を取り出す。


「……? あ! これ、鋳造用の冷蔵庫のやつ!?」


鋳造作業コーナーの、冷蔵庫を置く用に開けていたスペースに《大型の石工箱》を設置する。

エルムさんの家にある物とは少し違うが、よく似た扉付きの大きな箱が設置された。


自分で作りたいと言っていたから完成品ではなく、でも、時間がないだろうからと魔法陣を用意してくれたのだろう。

さらりと見た感じでは《氷晶魔石》を使う魔法陣のようだった。

イベントが終わったらこれを元にして鋳型を作ってもらおう。そうしたら《氷晶鉄》を使った冷蔵庫が作れるはずだ。


大急ぎで扉を開けて、底に魔法陣を描き写す。


「ライ、凝固されてない宝石、凝固するよ?」

「うん! そこの宝箱に入ってるーありがとう!」


魔石入りの宝箱から《氷晶魔石》を取り出して、魔法陣を完成させる。


「ライくん、これお婆ちゃんのやつ?」

「似たやつだよ」

「わーやったー!」


エルムさん宅にあるやつよりは、俺のスキルレベルが低いから性能は劣るだろうが、それでも作業スピードがぐんと上がるだろう。

動作確認はしていないけど、エルムさんが俺に合わせて描いてくれた魔法陣だし、問題はないはずだ。


魔石に黒炎属性を封印しつつ、それから鉄に氷晶弾を融合しつつ、コンロの魔法陣を描いていく。

最初に作ったコンロで動作確認と調整は済ませておいたので、あとは量産するのみだ。

先日の魔道具工房での作業を思い出しながら、どんどん手を動かしていく。


今回は《黒炎鉄》を使った武器、コンロは作っていない。

《黒炎魔石》を使う分はステータスに黒炎属性の文字は表示されないけれど、《黒炎鉄》を使用すると黒炎属性の文字が表示されてしまうからだ。

作っている人物を隠すのであれば、そうしたほうが良いだろう。

黒炎属性を使うプレイヤーが他にいない……かは、わからないけど。今のところは俺以外に使っていないようなので、俺に結び付く可能性が高い。


「完成した武器、持って行くね。

 それから、カヴォロにコンロ持って行くよ」

「ありがとう兄ちゃん!」


黙々と作業を続けて、いくつかの生産品が完成したところで、兄ちゃんが口を開く。

至れり尽くせりである。それ程に切迫した状況ということでもあるのかな。

レベル35と45の刀が1本ずつ、45のブレード2本、35のブレード2本、そしてコンロ8個を兄ちゃんに渡して、作業を続ける。


「それじゃ、また戻ってくるよ」

「あ! 兄ちゃん住居者登録しておいたから、ノックしなくても大丈夫だからね!」

「りょーかい。行ってきます」


さぁ、作業を続けよう。






「はぁあぁ~~~つかれた……」


べたりと作業台に上半身を預けながら息を吐く。


「お疲れ様、カヴォロにご飯貰ってきたよ」

「ありがとう兄ちゃん……」


ここにいないカヴォロにもお礼を告げつつ、ご飯を受け取る。

たくさんあった鉱石、宝石の宝箱がすっからかんだ。

封印前の魔石もなくなってしまったし、今度エルムさんにワイバーン以外で手に入る方法を聞いてみよう。どこかにお店があるかもしれない。


最終的に、空さんから買った50個分のコンロを作ることが出来た。

ジオンが作った武器の本数は刀が10本、ブレードが10本、グラディウスが6本にバスタードが6本の計32本だ。

いつもぴしっとしているジオンもさすがに疲れたのだろう。机に突っ伏している。


「最後に持って行った分のお金も貰ってきてるよ」

「持っていく傍から売れるの……?」


兄ちゃんが現れる度に武器が追加されていたら、兄ちゃんの知り合いを探れば俺に辿り着きそうだけれど。

あぁでも、元々ロゼさん達の露店で売ってもらっていたわけだし、ロゼさん達の知り合いであることは知られているのか。

βからの知り合いもいるだろうし、他にも正式サービスから出来た知り合いもいるだろうから、対象者が多すぎるのかな。

もしまた品評会があった時は参加したいとジオンも言っていたし、いつかは俺達だと分かるのだろうけど。


有難いことに、全ての生産品が売れて、空さんと兄ちゃんへの借金も返済することが出来た。

本当は直接渡したかったけど、空さんには兄ちゃんからお金を渡してもらった。今度改めてお礼を言おう。


「……うわぁ……」


最後の売上を兄ちゃんから受け取り、所持金の額を見て声を上げる。

忙しくて途中はあまり気にしていられなかったけれど、落ち着いた今、とんでもない金額だとドキドキする。

所持金21,744,361CZ。もう、怖い。


「せ、生産職ってすごく儲かるんだね……」

「はは、ライ達の武器や魔道具は凄いからね。誰でもってわけじゃないよ」

「そっかぁ……みんなのお陰だね」


これだけあれば、良い家を買えるのではないだろうか。

恐らく作業場にしているこの家は一戸建ての最低金額である1,000万程度だろうと思う。賞品で交換したものだし。

だったらもっといっぱい貯めたほうが良いのかな。


現在の時刻は『CoUTime/day57/22:08』だ。この時間じゃ銀行は開いてない。

明日の10時から『大規模戦闘:銀を喰らう者』は開始だ。


「んー……明日の朝、急いで銀行に行かなきゃ」

「デスペナルティないみたいだし、間に合わなくても大丈夫だよ」

「そうだけど、この金額を持ち歩くの凄く怖いよ!?

 あ、でもマナポーション買いたいからお金残しておかなきゃ」


亜空間の中に行ってから空さんにマナポーションを売ってもらおう。

他にも、そうだ。カヴォロの強化料理を買わなきゃ。さすがにこの状況で、周りに人がいる中お金はいらないなんて言わないだろうし。


「俺達も亜空間の中で生産した方が良いかな?」


明日どれだけの人が参加するのかはわからないけど、コンロはともかく、武器はあればあるだけ良いはずだ。

他にも何か、戦闘で使える魔道具なんかも作れるかもしれない。例えば……バリアのようなものとか。


「いや、ライ達は戦闘だよ。防衛線に参加してた人は……カヴォロは別として、前線だね」

「そっかぁ。今はまだ俺も、一応最前線プレイヤーの一員なのかな!」

「そうだね」


最前線プレイヤーという響きににんまりと頬が緩む。

この街にいる他のプレイヤーと比べるとレベルは低いし、すぐに置いて行かれるだろう。

防衛戦では経験値は入らなかったし、まだ33だ。

兄ちゃんのレベルは48だし、秋夜さんだってレベル45のデスサイズを装備できるレベルなわけだし。


「防衛に参加してた人達は中心になって纏めて欲しいって話もあるらしいよ」

「伝達係みたいなこと?」

「どちらかと言うと部隊長?」

「へぇ~大変だね」

「はは、ライもだよ」

「え? いや、無理だけど……」


プレイヤーと話す事が得意でない俺ができるわけがない。

最近は前よりたくさんの人と……あれ? 結局、カヴォロしかフレンドいなくない……?

ロゼさん達とも前より話せるようになったけど、それは結局、兄ちゃんの友達だからって感覚が強いし。

それ以外は……秋夜さんくらいだ。あの人は別枠だ。なんか違う。


防衛戦中も周りにいた人に声をかけるなんてもちろんできなかったし、視線を向けて確認するくらいしかできなかった。それもちらっと一瞬だけ。

いや、でも、声を掛けられることもなかったし、防衛中なんてそんなものなのかな?


体に視線を向ける。エルムさんにステータスの上がりやすさの話を聞いた時から毎日腹筋と腕立て伏せをしているが、変化はない。

イベントの時だったから……20日くらい? ログインしてない日もあるから、10日ちょい、かな?

その程度じゃ筋肉は付かないか。レベルもそんなに上がってないし。

性格も特に男らしくなったなんて思えやしないし……寧ろ色んな人に甘やかされているような気がするし。筋肉もないし。

こんなんじゃ駄目だ。友達なんて出来るわけない。


「あぁあああああ~~~……」


頭を抱えて唸る。

最前線プレイヤーとか有名プレイヤーとか、そういうのに憧れはあるし、今はその括りに入れているようだから嬉しい。

そういうプレイヤーになれたら、友達が出来るんじゃないかなっていう下心もちょっぴりあったけれど、世の中そう簡単ではないようだ。


でも、本当は注目されるのは少し怖い。

今、俺が注目されているのかされていないのか、俺にはわからないけど、されていると分かったら怖気づいてしまう。

俺にはそれが好印象なのか悪印象なのかわからない。知るのが怖いからだ。

目を向けなければないのと一緒で、何も知らなければ悲しくならないから逃げている。

今の自分に自信が持てたら、目を向けることが出来るようになるんじゃないかって思うけど。


このままだと駄目な方向に向きそうだと頭を振って思考を切り替える。

自信を持つための第一歩! 筋肉があればなんとかなる!


「兄ちゃんは部隊長するの?」

「いや? そういうのは俺も得意じゃないね」

「でも兄ちゃん、防衛線の時、弓の人に頼んでくれたんだよね?」

「俺しか伝えられなかったからね。

 それに、防御力が低すぎて自分の事で精一杯だよ」

「あーそっか。大変だよね」


明日のイベントへ思いを馳せる。

アイテムドロップとかあるのかな。どちらの依頼も報酬は明日以降のようだ。

それに、緊急だったからなのか、報酬の詳細は書かれていなかった。


「そういえば、生産ができるとかデスペナルティがないとか、亜空間の情報って出てるの?」

「うん? ライはギルドで聞いたんじゃないの?」

「ううん。俺は昨日の夜、エルムさんに聞いたんだよ。でもそっか、ギルドで聞けるのか。

 皆がいる時に伝えようかなって思ってたけど、皆知ってるみたいだったから不思議だったんだよね」

「トーラス街と他の街のギルドでは情報量が変わるみたいだけど、ちゃんとトーラス街の情報もプレイヤーに広まってるよ」


ギルドによって情報量が変わるのか。

確かに事が起きているトーラス街が一番情報があるのは当然か。

クラーケンを閉じ込めている亜空間もトーラス街の所有する亜空間なわけだし。


「広まってるなら大丈夫だね。召致系だって聞いて大丈夫かなって思ってたけど」

「ん?」

「防衛の時と違ってたくさん人がいるから大した問題じゃないんだねぇ」

「いや……召致?」

「うん! 召致!」

「なるほど……最初から話して貰えるかな?」

「うん? うん。えっと……亜空間って色々特徴があるらしいんだけどね」

「へぇ、そうなんだ? 中の形とかそういうこと?」

「そういうのもあるみたいだけど、元々の用途なのかなぁ。

 ……あれ? もしかしてこの情報出てない……?」


兄ちゃんの反応を見て、ふと思い至る。

ギルドで情報が出ているのなら、結構重要な情報だし、当然伝わっていると思ってたのだけれど。


「……最初に聞いたきり聞いてない、とかかな。

 今はその情報出てるのかもしれないけど、俺も最初に聞いてから聞きに行ってないからね」

「なるほど……それは確かにそうなるかも」

「詳しく教えて貰えるかな?」

「うん。亜空間が作られた時の用途……例えば生産のスピードが早くなるとか、魔物が強くなるとかあるみたいなんだけど。

 亜空間の研究ってほとんど出来てないみたいで、判明できてない亜空間のほうが多いんだって」

「なるほどね。魔物が強くなるかどうかは実際に魔物を入れなきゃわからないってことだね」

「そうそう。それで、トーラス街の亜空間は、召致系のようだって今回分かったんだって」

「召致系って言うと……」

「うん。魔物が魔物を呼んでるんじゃないかって言ってた。

 エルムさん達も中に入ったわけじゃないから詳しくはわからないらしいんだけど、中の魔力の数が、増えてるって」


中が見れていないから、どんな魔物が増えているかとか、敵対する魔物なのかとかはわかってないらしいけれど。

ただ、魔力の数が増えることはあっても減ることがないから、敵対する魔物だろうとのことだ。


「なるほど……それ、伝えてくるよ。ギルドにも新しい情報ないか聞きに行ってみる。

 教えてくれてありがと」

「ううん! 俺も碌に確認せず皆知ってるんだなって思ってたから、話せて良かったよ」

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