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day42 魔除けの短剣

「出来た、かな?」


魔法陣を描き終えた短剣を見る。

ジオンに作ってもらって、リーノに魔法宝石を使って細工を施してもらった短剣だ。


「街で売っていた魔物避けの柵を参考にしたけど……柵と同じで良かったのかな」


動作確認をしてみるも、近くにモンスターがいないからか、魔法陣の光が、起動している時の光り方ではなく、待機状態の淡い光り方だった。

完成させることで、動作確認時よりも効果が上がるけれど、失敗しているかもしれないし、完成はまださせない。

ちゃんと魔物避けの短剣ができているのだろうか。


街で見かけた、魔物避けが施された柵の魔法陣が、光の魔石が使われているであろうと予想できる魔法陣だったから、俺もそれに倣って光の魔石を使った。

それから、魔法宝石で光属性を増やしたけれど、そもそも光属性が魔物避けになるのかどうか、いまいちわかっていない。

恐らく、光属性の強さ……付与数値だったり、魔石自体の品質、進化属性かどうか等で、魔物避け出来るモンスターの強さが変わるんじゃないかなとは思うけど。


「あのワイバーン凄く強かったからなぁ……俺のスキルレベルで作れるかなぁ」

「あー……強かったよなぁ。死ぬかと思った」

「そうですね……まさかあそこまで強いとは……」


昨日、ワイバーンと対峙した時の事を思い出す。


麓では受付のお姉さんが言っていたようにワイバーンは出なかったけど、採れる鉱石が鉄だけだった。

ワイバーンがいる場所まで行けば他の鉱石もあるとリーノが教えてくれたので、試しに1体だけを誘き寄せて戦ってみたけれど、見事に全員死にかけた。

防具が変わっていなかったら死んでいたと思う。これは駄目だと黒炎弾を打てば、一応倒すことはできたけど、その後は麓まで走って逃げた。


あんな危険な場所で、狩りをメインにしていない生産職の皆はどうやって集めるのだろうと考えて、金策の為に採掘や採取等の採取系スキルを取っている戦闘職プレイヤーは多いと、兄ちゃんが言っていたことを思い出す。

なるほど、需要と供給か。あとは、空さんのように隠密スキルを使うのかな。


それはともかく、倒せないなら魔物避けだと閃いた俺は、魔物避けの魔道具を作ることにした。

魔物避けについて聞こうと、街に戻ってエルムさんの家を訪ねたが、生憎留守だったので、街の中を魔物避けの施された魔道具を探し歩いた。


「とりあえず……フィールドに行ってみようか」

「そうですね。先にカプリコーン街の近くで試してみましょう」


ちなみに、短剣にした理由は、鉄だけしかなくて短剣しか作れないからとか、魔道具にできるような生産品がなかったからとかあるけれど、魔除けの短剣ってありそうだなって理由だ。


「っと……その前に、つるはし交換しておかなきゃ」


賞品一覧を開いて、《祭囃子つるはし》を2つ交換する。1つ50ポイント、合計100ポイントだ。


これまで使っていたつるはしは、昨日麓で採掘している内に壊れてしまった。

品質が高い鉱石が取れる場所になればなるほど、つるはしのランクを変える必要があるようだ。

岩肌がいつもより硬く、なかなか掘る事ができなかった。

一応何度も掘り続ければ採れるけれど、見る見るうちにつるはしがボロボロになっていた。


《祭囃子つるはし》が2つ、アイテムボックスに追加されているのを確認してから、鍛冶場から出てフィールドへ向かう。

途中でお昼ご飯用にホットドッグを3つ買って、街から出た。


街からある程度離れた場所まで移動してから辺りを見渡す。

モンスターが近くにいることを確認して、早速、光の魔石を撫でてから短剣の魔法陣に触れる。


「んー……起動出来てないみたい」

「失敗か?」

「うーん……待機状態だから……失敗ではないと思うけど……んー?」

「待機状態……起動させる条件があるんでしょうか?」

「常時起動で描いたはずなんだけどなぁ。うーん……条件?」


全く同じ魔法陣を描いたわけではないけど、参考にしたのは柵の魔法陣だ。

その中に、中心を示すという意味で描かれているであろうシンボルがあったことを思い出す。

単純にこの魔法陣が描かれたアイテム……つまり短剣を中心にして魔物避けをするということだろうと俺も描いたけれど……。


もしやと思い、地面へ短刀を突き刺してみれば、するりと何の抵抗もなく短剣が地面へと刺さり、短剣を中心にして透き通った薄い膜のような光の壁が広がり始めた。

半径1.5メートル程の半球になるまで広がった壁を眺めて、ぱちりと瞬きをする。


「なるほど……刺さなきゃ使えないみたい」


柵を参考にしたからだろうか。刺すことができる道具で良かったなと安堵の息を吐く。


「さて……どうかな?」

「今のところは近付いてきていないようですね」

「俺、ちょっと出てみる!」


そう言って光の壁の外へ出てから、少し離れた場所まで走り、モンスターが攻撃を仕掛けてきたことを確認したリーノは、走って壁の中へと戻ってきた。

すると、リーノを追ってきたモンスターはうろうろと壁の外で彷徨った後、離れて行く。


「おっしゃ! 成功だな!」

「思ってたのとは少し違ったけど、魔物避けは出来てるね!」

「しかし……岩に刺さりますかね?」

「……それは……どうかな……。魔法陣変えたほうが良いかなぁ」


刺さりやすくする……いや、短剣の切れ味を上げるほうが簡単かな?

でも、そうなると、ジオンの短剣の切れ味が悪いわけがないし、刺さるのではないだろうか。


「一回試してみて、駄目なら変えようかな。

 とりあえず、簡易安全地帯ができてるわけだし、お昼にしようか」


先程買ったホットドックを取り出して、食べる。

安全地帯を探す必要がなくなったのは楽だ。問題はどれ程の強さまでのモンスターに効果があるかだけれど。

そもそも、俺のスキルレベルで、死にかけるようなモンスター相手に効果がある魔物避けが出来るのだろうか。


ただ、空さんや兄ちゃんの話を聞いている限り、魔道具製造スキルはどうやら他の生産スキルよりも、スキルレベルによって扱える品質やランクが高いように感じる。

恐らく、取得条件が特殊だからだろうと思うけれど。


「ごちそうさま。まずは岩に刺さるか、かな」

「おー。あとさ、元々範囲内に魔物がいた時はどうなんだ?」

「……確かに。試してから行こうか」


手をパンパンと払って、地面に刺さる短剣を抜けば、辺りを覆っていた光の壁が消える。

辺りを見渡し、一番近くにいるモンスターの傍へ寄って、短剣を地面に突き刺した。


「おぉ~なるほどなぁ~!」


広がる光の壁に押し出されるように、モンスターが離れて行く。


「範囲内のモンスターには効果がないようだったら、少しずつ移動して刺してってしなきゃだったから、これは便利だね」

「中から攻撃はできるんですかね? 試してみても?」


ジオンの言葉に頷いて応えると、ジオンは刀を抜いて外のモンスター目掛けて薙ぎ払った。

その瞬間、光の壁がパリンと音を立てて、消えてしまう。


地面から抜いて魔法陣を確認してみると待機状態に変化していた。


「刺し直したらまた起動できるね」

「それは良かったです。駄目にしてしまったのかと焦りました」

「大丈夫大丈夫。そうだったとしても、短剣がなくなっているわけじゃないから、魔法陣を描き直すだけだしね」


中からも攻撃できたら狩りが物凄く楽になるけど、さすがにそれは無理のようだ。

仮に出来たとしても、楽しくないだろうから使わないけれど。

とは言え、モンスターの目の前にいても展開することができる安全地帯というだけでも、充分凄い。


「それじゃあ、岩山脈に行こう!」


短剣と光の魔石をアイテムボックスへ入れてから、岩山脈への道を、道を阻むモンスターだけを倒しながら進んで行く。


切れ味を上げるにしても刺さりやすくするにしても、風属性だろうか。スパっと切れそうだって理由だけど。

そう言えば、この世界にあるのかはわからないけど、超音波カッターってものがあるんだっけ。

超音波……何の属性を使ったら再現できるだろう。雷……?


刺さらなかった時の対処法を考えながら走っていた為、気付けば岩山脈の麓に辿り着いていた。


「昨日の今日じゃやっぱ生成されてねぇな~」

「鉄だけだとダガーしか作れませんし、他の鉱石も欲しいですね」

「だなぁ。それから、ホワイトクォーツな」

「そちらは急ぎではありませんので、後からでも大丈夫ですけどね。30以上の武器で使うものですし」


2人の話を聞きながら、地面を眺める。

切れ目とかがあればそこに刺したのだけれど、残念ながら見つからない。


物は試しだと、早速岩肌に突き立ててみれば、先程草原の地面に刺した時と同じく、するりと短剣を突き刺すことが出来た。

もしかして、超音波が発生していたりするのだろうかと、魔法陣を思い出してみるが、さっぱりわからない。

後でもう一度魔法陣と本を見比べて原因を調べておくとして、今は岩に刺さったことを素直に喜ぶ。


「後は、ワイバーンに効果があるか、だね」

「どのように試しますか?」

「うーん……それはやっぱ、少し離れたところで刺してみて、近付いてくるか、かな?」

「それか、目の前まで行って刺すかだよなぁ~」

「リーノの案のほうがすぐに結果がわかるけど、危険だよね」


これ以上の光属性の効果は、今の俺のスキルレベルでは出せそうにないので、完成させてしまおう。

地面に刺さる短剣を抜き取り、魔法陣の上で魔石に力を込める。

チョークで描かれた魔法陣に光の魔石が溶け切ったら完成だ。


「効果がないなら、どっちにしても危険じゃねぇか?」

「それはそうだけど……それじゃあ、ばっと行って、ばっと刺して、駄目なら帰ってくる?」

「そうですね。そうしましょう」


山道を進み、ワイバーンがいる場所まで向かい、岩の陰からワイバーンの様子を3人で伺う。

1匹でも大騒ぎだったのに、そこには2匹のワイバーンがいた。


「そんじゃ、俺が行くぜ。俺が一番防御力高いし、効果が無くても帰ってこれるし」

「んー……大丈夫?」

「だいじょーぶだいじょーぶ」


逡巡して、リーノに短剣を手渡す。

リーノはにかりと笑って、短剣を受け取り、早速ワイバーンの元へと走り出した。


「リーノ! 気を付けて!」


1メートル程の距離まで詰めた時、鋭い爪がリーノへと襲い掛かる。

リーノはそれを盾で受けながら、腰を低く落とし、地面へ短剣を突き刺した。


広がる光の壁に阻まれて、ワイバーンがリーノから離れていく。

その様子を確認した俺達は、ほっと息を吐いて、リーノの元へと走る。


「【従魔回復】……それと、リーノ、ポーション」

「おー、ありがと!」


受け取ったポーションでリーノが回復するのを見届けてから辺りを見渡す。

やはりと言うべきか、高い場所はワイバーンの数が多い。

地面に刺すまでの間が危険だけど、採掘はできそうだ。


「ん……遠くに大きなもやがある」

「ヌシですか?」

「あ、そっか。ヌシかな」


離れた場所にある禍々しい大きなもやを見ながら、ジオンの言葉に納得する。

あっちには近づかないほうが良いかな。


「よし、それじゃあ、採掘だね!」

「おう! これがあれば、鉄以外の鉱石も採れるな!」

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