day132 生産の日
「フェルダは大丈夫だった?」
「多分、大丈夫かな? 一応回復したよ」
「それなら良かったね」
ネイヤのライムタリスマンのお陰で以前同じ状態になった時よりも回復が早かったみたいだし、休んでいたらいつものフェルダに戻るだろう。
とは言え、根本的な解決は出来ていないのでいつまた同じ状態になるか分からない。
今は何も出来ないと言っていたし、いつか解決出来る日がくるまで色んな事を学んで備えておこう。
レベル上げもだし、呪いについてとか、他にも色々知っておいて損はないはずだ。
「兄ちゃんは、あの後ファイヤードラゴン倒せた?」
「倒せたよ。来李が魔道具置いて行ってくれてたから、前に一人で倒した時より随分楽だったな」
その辺にごろごろ転がしておいた魔道具が役に立ってくれたみたいだ。
「使わなかった分はどうする?」
「兄ちゃんにあげる! シアとレヴの呪痺があるから、俺達あんまり使わないんだよね」
「ありがと。ヌシに使うよ」
「普段使いにするにはちょっと……値段が高過ぎだよね」
「それだけ人気があるんだよ。属性スキルのレベルが上がったら状態異常の魔法スキルを使えるようにはなるけど、レベルが低い内はね。
ま、それはシアとレヴの呪言で知ってるだろうけど」
「レベルが低いと効いてるのかよく分からないよね」
確か魔法柱の次が状態異常の魔法スキルだったはずだ。
開放するスキルレベルがどれくらいかは分からないけど、魔法柱のスキルレベルは他の魔法弾や魔法纏に比べて上がりにくいから使えるようになるまで少し時間が掛かるかもしれない。
呪術と組み合わせた状態異常を引き起こす魔道具は最前線プレイヤーの人達がそれらのスキルを覚えて使えるようになるまでが売り時だろうか。
今の内にたくさん売って、最前線プレイヤーの人達がそれらのスキルを覚えた後は俺達が使う分だけ用意していくほうが良さそうだ。
冷気の魔道具は他の状態異常を引き起こす魔道具に比べて高くなっていたものの、状態異常を引き起こす魔道具自体は他の出品していたアイテムと比べて特別高い値段になったという印象はない。
と言っても、全体的に物凄く高くなっていたので随分な値段にはなっていたけれど。
兄ちゃんが人気があると言うのなら、そうなのだろう。
残りの槍43本を出品する時に一緒に出品しようかな。
今日は元々レベル上げは休憩する予定だったし、生産の日にしよう。
元になる鋳造品はシアとレヴがたくさん作ってくれているので、この後ログインしたら魔法陣を描き続けなければ。
◇
テラ街の物件は農業をすることを前提としているからか基本的に土地が広い。
つい先日購入したお隣の土地はもちろん、イベントのポイントで交換した家の庭も広い。
お隣の土地と合体した我が家はそれはもうとんでもない広さの庭になっていた。
そんな庭には羊用の厩舎と馬用の厩舎が建ち、畑を荒らさないようにそれぞれに柵が建っている。
それから、農業や畜産の道具を入れる倉庫が1つ、素材を入れる為の倉庫が1つ、動物たちの餌を入れておく為のサイロも建っている。
サイロとは言っても、貯蔵のみしかできないそうなのでほとんど倉庫と変わらない。
現実だと乳酸発酵だかなんだか……とにかく、そういった行程はあの乾燥させる魔道具《光風魔乾燥機》で出来ているらしい。
広くなった上に建造物も増え、家自体も少し大きくなり、ぐるりと背の高い生垣に囲まれていても、これだけ広ければ圧迫感はない。
少し大きくなった家の外観はほとんど変わっていないけど、一部に屋根が出来ていた。
恐らくあそこは石工用スペースだろう。作業場との出入りがし易い様に扉も追加されている。
「でかい窯置こうかな」
「トーラス街の家だとベランダで焼いてたもんね。
大きな窯だと前より大きな陶芸品が作れるようになる?」
「だね。《聖水の水瓶》作り直すよ。あれ、でかい岩くり抜いて、削ってるだけだから」
「陶芸で作ったほうが性能が良くなったりするの?」
「さぁ……作ったことがないから分かんないけど、ま、軽くはなる」
「なるほど。軽いほうが助かるよね。俺は特に。
大きな窯は魔道具にして良い?」
「ん、よろしく」
トーラス街の家には窯を置く場所がなかったから、その都度簡易の小さな窯をベランダで組み立てて、焼き終わったら解体していた。
毎回解体するので魔道具にしていなかったけど、これからは置きっぱなしにできるから魔道具にしたほうが便利だ。
これまでは窯に火を点けるのに、真っ赤な塊の着火剤のような魔道具を入れていた。
街に10個セットで売られていた魔道具で、1度使うと使えなくなるらしい。
家の中に入って、空さんが作った裁縫用の生産道具をアイテムボックスから取り出し、広くなった1階の作業場に置いていく。
それから、広くなった分壁から離れてしまっている生産道具達も移動して……邪魔にならないようにあちこちに置かれている素材は外の倉庫に入れて。
改築後の片付けは完了だ。
今回の改築、増築費用は1,600万CZ。お隣の土地が860万CZだったから、全部で2,460万CZだ。
家をもう一軒買えるくらいの値段だけど、その値段で買える家だと結局改築や増築をしなければいけないだろう。
今はこのテラ街の家を快適にするのが優先だ。
「さて、馬……と言いたいところだけど、その前に。
ファイヤードラゴンが落とした素材確認しておこう」
狩りをしている間、それからその後も確認していなかったのでファイヤードラゴンから何がドロップしているのか分かっていない。
火龍魔石は何個手に入っているかな。兄ちゃんと倒した2匹も含めて17体くらい倒しているのだから1個くらいは手に入っていて欲しいけれど。
翼膜、皮、爪、肉……この辺は倒せばほぼ確実に手に入る素材だろう。
お肉は錬金術用に分けて、残りはカヴォロのお店に送り付けておこう。
ちなみに、錬金術用のお肉は生のまま置いていると腐るので、基本的には完全に乾燥させて保管している。
生のままのほうが良い時もあるそうだけど、ないならないで大丈夫とネイヤは言っていた。頼もしい。
「火竜魔石は……3個だね。5、6体に1個の確率なら悪くはない……のかな?
うーん……もったいなくて使いにくいね。いつかここぞと言う時に使おう……」
「そう言って、ライは使いそうにねぇよなー」
「……俺もそう思う……」
露店やオークションでも売られているらしいし、後でチェックしてみようかな。
値段によっては買っても良いかもしれない。
火竜魔石を使った魔道具がどうなるか分からないけど、普通の魔石を使うより良い物が出来るのは確実だろう。
「あ! 召喚石出てる! 1個!」
「おや、運が良かったですね」
「ね、運が良かったよ。でも、1個かぁ……成功する気がしないね」
「そうねぇ……1個だけだと不安よね。でも、大丈夫よ。
レベル上げのおまけみたいなものなのだから、仲間が増えたらラッキーくらいの気持ちで良いと思うわ」
「失敗前提で使うなら売ったほうが良いと思う……」
「うっちゃうの?」
「やってみよー?」
「そうだね。物は試しだよね」
大きな机と俺の作業机の間のスペースに召喚石を置く。
今すぐ仲間が欲しいというわけでもないけど、いつだって仲間は募集中だ。
これまでより丁寧に、魔力を届けることを意識して口を開く。
「契約召喚! ……よし! 馬を買いに行こう!」
さくっと切り替えて、次の予定に移るとしよう。
「皆はどうする?」
「園芸屋さんに行きたいのだけれど、馬を買った後に寄れるかしら?」
「もちろんだよ。畑を広げるの?」
「ええ、そうなの。そうしようと思って……良いかしら?」
「うん、楽しみにしてるね。それじゃあ、馬を買った後は園芸屋さんに行こう」
「俺は窯作っとく」
「分かった。フェルダは留守番だね」
「ボクたちみんなの道具作っていい?」
「足りないのがあるの?」
「ううん。でも、新しくてもいいよー」
「なるほど。最近新しくしてなかったもんね」
シアとレヴが作った道具だからそもそも性能の良い道具ではあるけど、竜胆鉄等のランクが上の鉱石が手に入ったので、それらで作った道具のほうが性能が良くなる。
道具もだけど魔道具も今ある素材を使って作ったほうが性能が上がるだろう。
テラ街の家、トーラス街の家、それからアクア街のクランハウスに置いた生産道具は、それぞれ作った時にあった素材を使って作っているので性能がばらばらだ。
この機会に新調しても良いかもしれない。クランハウスの生産道具はほとんど使っていないけれど。
「炉とか研磨機とか……そういうのも新調したいね」
「ん、窯作ったら炉作っとく。ネイヤの大釜は変わんないからまた今度ね」
「おお、道具のことは分からんから任せる」
イリシアの木工で作られた裁縫道具もまた今度、かな。
木工以外で作るなら用意できるけど、針や鋏はともかく、機織り機なんかの大きな道具は鋳造で作ると重くて作業するのが大変だろう。
イベントの時にベルデさんに作って貰った機織り機等の木工品の裁縫用道具1セットはトーラス街の家に置いてある。
それらと同じ道具……と言っても、ベルデさんの作った木工品より性能は若干劣るけど、今テラ街の家とクランハウスにある裁縫用道具はイベントのポイントで交換したものだ。
空さんに作って貰った道具は羊を飼い始めてから必要になった道具なのでテラ街の家にしかない。
ベルデさんや空さんに頼んでも良いけど……空さんは馬車用のキャビンを既にお願いしている状態で追加のお願いをするのは申し訳ないし、ベルデさんに3セットもお願いするのは申し訳ない。
お願いしたら作ってもらえそうだとは思うけれど。
俺が今木工を覚えたところで、ベルデさんや空さんの木工品はもちろん、今あるイベントで交換した道具の性能には届かない。
練習を続ければいつかは良い性能の物が作れるようになるし、いつかのことを考えたら今覚えるべきなのかもしれないとは思っているものの、魔道具製造スキルを優先したいこともあり中途半端になりそうだと思う。
「そんじゃ、俺も道具新調の手伝いしとくぜ!」
「ありがとう。俺も……チョークが短くなってきて使いにくくなってるけど……チョークって何で作るの?」
「錬金術で作れるぞ。ついでに色んな色のインクも作っとく」
「ありがとうネイヤ。楽しみにしてるね」
これまで使っていた道具は槍と一緒に出品してしまおう。
とは言え、ジオン達が使っていた生産道具の使用条件が満たせる人がいるかという心配はある。
ジオン達は皆尤なのでどんな使用条件の道具でも使えるし作れるけど、例えば使用条件がスキルレベル100の道具を作るには、使う素材の品質やランクも高くなければいけないし、その道具を作るスキルのスキルレベルも高くなければ作れない。
シアとレヴが生産用の道具を作る場合、鋳造のスキルレベルだけならいくらでも高い使用条件の道具を作れるけど、今ある素材の品質やランクで作れる使用条件の道具になる。
シアとレヴが作った道具は大体60くらいの使用条件だ。
魔道具に関しては俺のスキルレベルで作れる使用条件になっているので物凄く高いわけではない……と言っても、使用条件50くらいの魔道具にはなっている。
どうやら魔道具に関しては他の道具や装備を作る生産スキルと比べると低いレベルでも上の使用条件の魔道具が作れるようだ。
例えば鋳造のスキルレベルが1だとしたら、作れる道具の使用条件は5らしいけど、魔道具だとスキルレベル1で使用条件10の物が作れる。
取得条件が特殊で他の生産スキルを持つ人達よりもレベルを上げ始める時期が遅いからだろうか。
カヴォロの料理スキルがキャンプの時点で40くらいだったと思うので、恐らく他の生産メインのプレイヤーのスキルレベルもそれくらいだろう。
魔道具は魔法陣を描き替えたら良いとして、鋳造で作られた道具はどうしたものかと思っていたら追加で溶かした鉱石が必要にはなるものの、使用条件を下げる調整が出来るそうなのでお願いしておいた。
馬を買って、園芸屋さんに行って、それから生産。
生産は皆の道具の新調。つまりは魔道具もある。
出品用に呪術と組み合わせた魔道具も作って、全員分の道具が完成したら元々使っていた魔道具の魔法陣を書き換えて。
恐らくトーラス街の家とテラ街の家、それからクランハウス用の3セットずつできるだろうけど、運搬作業はまた今度かな。
他の家の道具はその時に出品しよう。
「それじゃあ……買い物は俺とジオン、イリシアの3人で行ってくるね」
「おう! 行ってらっしゃい!」




