day128 岩山脈のヌシ
レベル上げ週間2日目。本日のログインはトーラス街の家だ。
昨日の狩りでは順調にレベルを上げることが出来た。
レベル上げだけに集中して、近くにある素材に目もくれず、鬼気迫る勢いでほぼ1日中狩りをし続けたお陰で俺のレベルは58から61になった。
上がっても2かなと思っていたので、3つも上がったのは嬉しい誤算だ。
兄ちゃんの種族特性によって強くなったキラーツリーを倒すのも慣れてきた。
ステータスが高くなっているので攻撃に当たってしまうとたくさんHPが減ってしまうし、倒すまで時間はかかるけど、何度も戦っていれば動きのパターンは大体分かる。
たまに想定していない動きをする時もあるけど対応は出来ている。
対応が出来るのはシアとレヴの呪痺のスキルレベルが上がり、麻痺状態の効果が上がったからでもある。
兄ちゃんの種族特性で強くなっている分麻痺耐性も上がっているだろうけど、今の呪痺であればほとんど動けないくらいの麻痺になっている。
キラーツリーは火と雷が弱点だそうで、麻痺は一応雷属性含まれるから効きが良いのだろうとのことだ。
ステータスが高くなっていないキラーツリーであれば、完全に動かない麻痺状態に出来るかもしれないとも言っていた。
「今日は弐ノ国の岩山脈のヌシに挑戦だよ!」
「はい、頑張りましょう。パーティーメンバーはどうしますか?」
「今日は昼と夜を交代しようかなって思ってるよ」
これまで昼はジオン、フェルダ、イリシア、ネイヤで、夜はジオン、リーノ、シア、レヴ、フェルダだったけど、今日は逆だ。
岩山脈のヌシは適正レベル60くらいだと聞いたので、このメンバーで問題ないはずだ。
ドラゴンらしいし、フェルダの種族特性のお陰で楽に倒せるのではないかと思う。
出来れば何度も倒してレベル上げしたいけど、どうやら昨日と一昨日の岩山脈ではヌシ待ちの列が出来ていたらしいので今日も多そうなら1回だけになりそうだ。
ヌシからは召喚石が出ることもあるみたいだから、ひょっとしたら召喚石ゲットも出来るかもしれない。
「イリシア、ネイヤお留守番よろしくね」
「ええ、何か作っていても良いかしら?」
「もちろんだよ。材料足りなさそうだったら買って良いからね。
街に売ってなかったら露店広場にはあるかもしれないし……あ、お金置いていったほうが良いかな」
「あら、あら、うふふ。大丈夫よ。
昨日貰ったばかりだし……買い足すものはないと思うわ」
「そう? それなら良いんだけど」
「わしもポーション作っとくから、あるだけ使ってきてええよ。撒いてこい」
「撒きはしないけど、こまめに回復するようにするね」
ネイヤのお陰で高品質な初級、中級、上級のポーション、ハイポーション、マナポーション、ハイマナポーションが揃っている。
それからエリアルポーションとエリアルマナポーションも初級と中級がある。
他にも麻痺や毒等の状態異常の解除薬も用意してくれたので、どんな状態異常になっても大丈夫だ。
「それじゃあ行ってきます!」
「いってらっしゃい。頑張ってね」
「おお、土産話楽しみにしとく」
イリシアとネイヤに手を振り、家から出る。
今日はこのままトーラス街から岩山脈に向かう予定だ。
ヌシは頂上付近にいるそうなので、道中のワイバーンを積極的に倒しながら向かうとしよう。
フィールドに出たら早足で岩山脈に向かう。
この辺りの魔物も倒して良いけど、あまり効率は良くない。
ワイバーンも効率が良いとは言えなくなっているけど、フェルダがいるなら別だ。
倒すまでに時間が掛からないから量が稼げるし、魔石も手に入る。
そういえば、ヌシのドラゴンからも稀に魔石がゲットできるらしい。
滅多に出ないそうだけど、一応オークション等でいくつかは売られているのだとか。
これまで出品するだけでどんな商品が出品されているのかほとんど見てなかったので知らなかった。
たしか……《火竜魔石》ってアイテム名だったかな。
アイテム名からして火のドラゴンなんだろうなと予想できる。
どうせ失敗する召喚石より、火竜魔石のほうが嬉しいかもしれない。
「岩山脈に来るのも久しぶりだなー!」
「そうだね。先に進むと前の街に戻って来なくなっちゃうのは寂しいよね」
「あのね、ここには神様がいるんだよー」
「神様? ああ、教会があるもんね」
「だからね、悲しいときとか寂しいときに神様にお願いしたらいいんだって!」
「そうだね。俺も悲しい時は……」
お願いしようかなと言いかけて、はたと止まる。
なるほど。シアとレヴが教会にいたのはそういう理由だったのか。
「……悲しい時はお願いしなきゃね」
「うん! 叶えてくれるんだよー!」
「ボクたち寂しくなくなったよ!」
「そっか」
恐らく、この世界に神様はいない。正しくは神という種族はない、だろうか。
いるとしたら『Chronicle of Universe』の運営の人達だろう。
朧雲と呼ばれる人達だ。昔は教会にいたのだろうか。
運営がいちプレイヤーの願いを叶えてくれるかはともかく、この世界の人達を見守っているのは確かだろう。
「出てきた。俺先行するから、付いてきて」
「うん、よろしくね。フェルダ」
駆け出すフェルダの後に続く。
その跳躍力でたんっと跳び上がったフェルダが地面に叩き落してくれたワイバーンに攻撃を仕掛けていく。
俺達は基本的に魔法を温存して戦うので、近接武器が届く範囲に敵がいないと戦えない。
リーノとシア、レヴ、そしてお留守番をしているイリシアは別だけれど。
再び飛ぼうと翼を動かすワイバーンに攻撃を仕掛け、空に向かうのを止める。
でこぼこした足元に気を付けながら攻撃をしているとすぐに倒せた。
以前ここで狩りをした時と比べると格段に早くなっている。
「ライ! 3体落とす!」
「了解! ジオン1人で倒せる?」
「お任せください!」
「ありがとう! シア、レヴ、いくよ!」
「「はーい!」」
「リーノはフェルダと一緒に!」
「おう! 指一本……爪一本フェルダには触れさせねぇぜ!」
辺りにはちらほらとプレイヤーの姿が見える。
中にはクリスタル争奪戦の時に戦ったプレイヤーの姿もあった。
普段はプレイヤーから離れた場所で狩りをしているけど、今日はプレイヤーの傍を通って進まなければ頂上に辿り着けない。
ロッククライミングをするなら別だけど、ワイバーンが飛び回る場所でロッククライミングは無理だ。そもそもしたことがない。
他のプレイヤーを邪魔しないように、素早く倒して先に進んで行く。
足場の悪い坂を駆け上りながら戦うのはなかなかの重労働だ。
「「【呪痺】」」
「ありがとう! 【疾風斬】!」
斬撃音と共にエフェクトが舞う。
視界の端でジオン、リーノ、フェルダが戦う姿が見える。
程なくしてそれぞれの場所でもエフェクトが舞った。
「そろそろ頂上だよ」
「ふむ……どうやら人はいないようですね」
「そうなの? それならすぐに戦えそうだね」
順番待ちをする必要があるかもしれないと思っていたけど、すぐに倒せそうだ。
今日は皆、ヌシ討伐しないのだろうか。
カプリコーン街からトーラス街に行く道は2つあるが、基本的にはフォレストスラグがいる道が選ばれるらしい。
ドラゴンがいるこちらの道から進む人はほぼいないようだ。
ほとんどの人がフォレストスラグを倒した後、参ノ国に行ってレベルが上がってから岩山脈のヌシを倒しに戻ってくるとか。
たくさんいたワイバーンの数が減り、全くいなくなった頃、ヌシの姿を捉えることができた。
真っ赤なドラゴンだ。鑑定してみると『ファイヤードラゴン』と表示されている。
悠々と地で寛ぐファイヤードラゴンの燃えるように真っ赤な目がぎょろりとこちらに向く。
ばさりと翼を広げる姿を見て、慌ててシアとレヴに視線を向ける。
「シア、レヴ! 呪痺!」
「「【呪痺】」」
今にも羽ばたこうとしていた翼がぴたりと止まった。
ほとんど動けなくなったその姿ににんまりと口角が上がる。
「シア、レヴ。呪痺が切れないようにお願いね」
「うん!」
「任せてー!」
「「【呪毒】」」
ファイヤードラゴンもワイバーンも大きさが違うだけで戦い方は同じだ。
飛ぶ前に倒す。飛んでもなんとか地面に降りてきてもらって倒す。
スキルレベルの上がった呪痺がある俺達なら、一度も空に飛ばせることなく倒せそうだ。
「【黒炎弾】!」
ファイヤードラゴンの体を黒炎が包む。
恐らく火の攻撃は耐性があるだろう。しかし、さすがは最終進化の黒炎属性。
黒炎弾で減ったHPは半分以上。クールタイムの回復を待つことなく倒せるだろう。
『―――――――――!!』
大気を震わせる程の咆哮が上がる。
大きく開いた口の中でぶわりと赤色が広がり始めたかと思うと、その口から真っ赤な光線が飛び出してきた。
ファイヤーブレスってやつだろう。慌てて回避して様子を窺う。
ほとんど動けないとは言え、一切攻撃してこないってことはなさそうだ。
「ジオン! 気を付けて!」
「はい! 後ろに回ります!」
火の攻撃なら俺は耐性があるみたいだから大丈夫だけど、ジオンには特攻だ。
ジオンが移動するのを横目に見つつ、刀を振るっていく。
ちらりとリーノに視線を向けると、鋭い爪の生えたファイヤードラゴンの足目掛けて盾を振り下ろしていた。
盾でも攻撃できるのだろうかとHPバーを見てみれば、他の皆も攻撃しているから分かり難いけど少しだけ減っている気がする。
シアとレヴはリーノの傍で呪毒と呪痺、呪火が途切れないようにファイヤードラゴンの動向を窺っているようだ。
恐らく水は弱点だろうから、水弾も打って欲しいけど……夢中でじっと見つめているので邪魔はしないでおこう。
フェルダは辺りに大きな斬撃音を響かせながら、ファイヤードラゴンに大ダメージを与えている。
堅い皮膚を抉るように切り裂くフェルダの猛攻で見る見る内にHPが減っている。
その斬撃音は武器のそれとほとんど変わらない。正直、フェルダ一人でも倒せそうだ。
「あと少し! シア、レヴ! 水弾お願い!」
「! はーい!」
「忘れてた!」
「「【水弾】!」」
断末魔を上げ地に伏せたファイヤードラゴンはエフェクトとなり、パキンと大きな音を立てて消えていく。
討伐に10分も掛かっていない。強くなったなとしみじみ思う。
「お疲れ様。大丈夫そう?」
「ええ、問題ありませんよ。麻痺になっていなければもう少し時間が掛かったでしょうが」
「麻痺してても尻尾は結構動いてたし、そっちは俺に任せてくれ。全部弾き返してやるぜ!」
「大丈夫だよー!」
「がんばるよ!」
「ん、何体でもいけるよ」
「よし、今日はヌシでレベル上げしよう!」
スポーンを待ちたいところだけどと辺りを見渡してみれば、ここに来た時よりプレイヤーが増えていた。
少し離れたところからこちらに視線を向けているプレイヤー達の姿が見える。
順番待ちをしていたのだろう。順番待ちにしては列があるわけでもなく、ぱらぱらと散らばっているけれど。
フォレストスラグ渋滞の時は列になっていたような覚えがあるけど、場所によるのだろうか。
独占するわけにはいかないので俺達も順番待ちの人達に加わって待つとしよう。
「んー……離れた場所で待ってたら良いのかな」
何とはなしに呟いたその言葉を拾ったプレイヤーが慌てた様子でぶんぶんと首を振った。
不思議に思い首を傾げていると、一番近くにいたプレイヤーが口を開いた。
「あの! 倒したいわけじゃないんです! 大丈夫です大丈夫です!
俺ら見てるだけなんで! 続けてもらって!!」
「見てるだけ……」
「いやっ、その、勉強になるなと!」
「そ、そう……? えーと……他の人達は……?」
そう言って周辺にいるプレイヤー達に視線を向けると、全員がこくこくと頷き、どうぞどうぞと言われた。
遠慮している……とかでもないみたいだ。
確かに強い人が戦う姿は勉強になるし、見たいと言うのは分かる。
俺が強い人かはともかく、ジオン達は強いから勉強になるだろう。
とは言え、人に見られながら戦うのは緊張する。
と、思ったけど、狩猟祭でも争奪戦でも見られていたのか。
モニターで映し出されていたらしいというだけなので、見られていたという感覚はないけれど。
大丈夫。いつもと変わらない。俺達の周りに人はいない。
そう自分に言い聞かせながら、ファイヤードラゴンのスポーンを待つ。
何度か戦って行動パターンが分かったら兄ちゃんと一緒に来てみようかな。
その時は恐らく、呪痺もここまで効かないだろうし、ここまで楽に倒すことはできないだろう。
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もしよろしければお手に取っていただければ幸いです。




