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day126 出品終了

「なにごと……?」


秋夜さんが来る前にオークションの結果を確認しておこうと開いたウィンドウに並ぶ数字の大きさに目を見開く。

イベント前に出品した時は買取価格の10倍くらいの値段になっていたこともあったけど、今回はそれ以上だ。

何かイベントがあるんだっけ……いや、そうだとしたら兄ちゃんが教えてくれているはずだ。


クリスタル争奪戦を経て、ジオンとリーノの作る武器がどれ程優れているか分かったので高くなるのも分かる。

と言っても、それは今までも変わっていないはずだ。

武器だけで22,685,200CZなんてことになっている。

確かに魔道具で使っていた剣と槍も含めて35本も出品していたけど、それにしたってそれぞれの落札価格が跳ね上がっている。


「どうかしましたか?」

「出品してた商品がびっくりする値段で落札されてるんだよね」

「おっ、やったな! 馬買えるな!」

「そうだね……隣の土地も買えると思う……」

「おうまさん?」

「ボクものってみたい!」

「うん……一緒に乗ってみようね」


魔道具も魔道具製造スキルを覚えているプレイヤーが俺と空さん、それからジャスパーさんくらいしかいないみたいなので希少だろう。

帰還石や呪術と組み合わせた魔道具は俺しか作っていないみたいだし理解はできる。

その中でも相手を凍らせてしまう冷気の魔道具が群を抜いて高くなっているのはよく分からない。


「動きを止めたいなら他にも……麻痺と睡眠もあるのに、どうして冷気の魔道具だけこんなに高くなってるのかな」

「氷晶弾を融合してるからじゃない?

 進化属性だし、一番効果が高いんだと思う」

「なるほど。オークションのページには効果時間や効果の高さは書いてないけど……あ、そうか。

 お祭りでジャスパーさんが使ってたところを見たのかな?」


一番不思議なのは艶麗染剤だ。

言ってしまえばただ髪を染めるだけのアイテムなので、売れるかどうかは謎だった。

冒険に直接関係ない日用品、例えば家具や雑貨、小物等はほとんど売れないと聞いている。

菖蒲さんもガラス細工品はほとんど売れないと言っていた。

売れるのはグラスやお皿くらいで、それも数種類のサイズを1つずつ持っていれば充分なので、あまり売れていないとのことだ。

他にも様々なガラス細工品を作っているらしいけど、そのほとんどを街で売ることになってしまっているとか。

家を買わないプレイヤーが多い中、ガラス細工で作られた飾りを買う人は少ないのだろう。


染める薬と戻す薬のセットで買取価格が9,100CZ。出品時の価格は2倍の18,200CZにした。

カラー剤と考えると高いけど、飲むだけで一瞬にして色が変わるから手間も時間も掛からないし、戻す薬を飲むまでは所謂プリン状態になることなく半永久的にその色のままになるそうなので、18,200CZは高い買い物でもないのではないかと思う。

そんな艶麗染剤はなんと、一番高い落札価格で約12万CZにもなっていた。

帰還石の最高落札価格とほとんど同じだ。さすがにその値段を出して髪を染めたいとは俺は思わない。


「……完売はありがたいけど、ここまで高くなると怖いね……」

「あらあら、安くなるよりずっと良いわ。

 その値段でも買いたいって人がいるのはありがたいことだもの」

「そうだね。久しぶりの出品だったってこともあるし、待っててくれた人がいたんだよね」

「艶麗染剤は初めて出品しとるから、待っとる人なんぞおらんと思うが」

「確かに。状態異常の魔道具もそうだね」


とは言え、それでもそれが欲しいと思ってくれた人がいたということだ。

量も結構あったし……それでも全部合わせて36,423,800CZはとんでもないと思う。


「まぁ……うん。売れて良かったってことにしよう。

 残りの剣と槍も出品しておこうかな」

「槍の装飾、まだ全部出来てないんだよなぁ。半分くらいは出来てるけど」

「半分っていうと、50本くらい?」

「んー……52!」

「それじゃあ52本一気に出品しちゃおう」


大量に同じ物が出品されていたらここまで高くなることもないだろう。

今回は珍しく、俺がいない間に出品できるものを作った人はいないようだ。

リーノは槍の装飾、イリシアは秋夜さんの防具の生産をしていたみたいだけど、他の皆はスキル取得ができるかもしれないと農業のお手伝いをしていたらしい。

残念ながら1日半のお手伝いでは取得できなかったようだけれど。


「よし。あとは秋夜さんを待って……あ」


外からカランコロンと鐘の音が聞こえる。来たみたいだ。

家から出て門に向かい声を掛けると、秋夜さんの声が返ってきた。

門を開いて中に招き入れる。


「おはよう、秋夜さん」

「おはよ。出来てる?」

「うん、全部出来てるよ」


玄関に向かう途中で、羊がめぇと鳴き声を上げた。

その鳴き声に反応した秋夜さんが羊に視線を向ける。


「羊毛なら街に売ってんのにわざわざ家で飼うかねぇ。世話めんどくさそ」

「俺はほとんど何も……餌入れに餌を入れるくらいしかしてないね。

 他のお世話はイリシアがしてくれてるんだよ」

「へぇ……この畑も?」

「うん。皆でお手伝いはしてるけど、基本はイリシアだね」

「ふぅん。まー、うちにも農業するやついるけどさぁ、こんだけの種類育てるのはねぇ」

「秋夜さんのクランって生産出来る人結構いるんだよね?

 確か……品評会の調薬部門で3位だった人って、秋夜さんのクランの人だったよね?」

「よく覚えてるねぇ。まー、そうだけど。生産はおまけみたいなものだねぇ。

 基本はレベル上げばっかしてるから、大したものは作れないよ」


イベントで上位を狙うには生産と戦闘両方必要なんだとこれまでのイベント傾向からも分かっているけど、両方というのはなかなか難しい。

俺達は生産寄りになっているからレベルが高くない。

秋夜さんのクランの人達はレベルも高くて、品評会で上位に入れる人がいるなんて本当に凄いと思う。


「うちの場合、君達みたいに一緒に動かなきゃいけないわけじゃないからねぇ。

 それぞれ別の場所で狩りしながら、ついでに素材集めできるし」

「そっかぁ。それでも凄いと思うけど」


玄関の扉を開けて中に案内すると、秋夜さんは周囲を見渡し、近くにあった椅子に座った。

秋夜さんの姿を見たジオンとリーノ、イリシアがデスサイズとアクセサリー、それから防具を持ってきてくれる。


「装備は全部、装備条件レベル90で作ってるよ」


秋夜さんは鑑定が出来ないので、ステータスの数値を伝えていく。

まずはデスサイズから。今回もユニークだ。


「攻撃力200? 随分高いねぇ」

「今回から違う鉱石を使ってるからね!」

「違う鉱石?」

「竜胆鉄と退紅玉鋼だよ」

「何それ。どこにあんの?」

「堕ちた魔物がいた洞窟だよ」

「へぇ……良いこと聞いた」

「それからアクセサリーが……」


アクセサリーはピアスとネックレスと腕輪で、こちらも当然のようにユニークだ。

なんの効果付与を付けたら良いのか聞いていなかったので、秋夜さんのアクセサリーに何を付けたら良いのか困った。

結局、一番多く残っていた耐寒にしたけれど。

次の街は寒いと言っていたし、周囲の敵も冷気の状態異常を引き起こす可能性がありそうなので結果オーライではないかと思う。

アクセサリー類で使う鉱石は全て耐寒の効果付与の付いた魔法鉱石を使っているので寒さに凄く強い秋夜さんになれるのではないだろうか。


「僕、別に寒さに弱い種族じゃなさそうだけどねぇ」

「黒炎属性を付けて欲しいとは聞いたけど、他は聞かなかったからね」

「何が付けられるか知らないからねぇ」

「たしかに。まぁ、次回以降があるなら、その時は伝えるよ。

 次は防具ね。まずは外套が……」


防具も同じくユニークで、外套と上半身、下半身、靴で全て同じ名前が付いている。

イベントのポイントで交換した祭囃子装備はセット効果のようなものはなかったけど、今回はセット効果で物理防御と魔法防御が高くなっているようだ。

追加効果だけでなく、イリシアが作っている上に装備条件がレベル90のものともなると随分数値の高い防具になる。

例えば外套であれば物理防御と魔法防御の合計が218なんて数値になっている。

ちなみに俺が装備している装備条件レベル50の外套は物理防御と魔法防御の合計が156だ。

その上、リーノが作った装飾品と色を染めるのに使った魔法宝石と魔法鉱石の効果付与も付いているのでとんでもない防具だと思う。


「……イベントの時の生産頑張る隊のやつらの服って誰が作ったの?」

「服はイリシアといわいさんが作ってたよ」

「そりゃ硬いわけだよねぇ。で? 買取価格いくら?」

「えっと……」


オークションウィンドウで街の買取価格を確認しながら秋夜さんに伝える。

買取価格だけでもなかなか良い値段になっている。

街で売られる時の値段は約3倍。その値段で取引したとしても結構な値段になるだろう。


「ふぅん……じゃ、7倍。全部」

「いやいやいや……全部を7倍にしたら、5,620,300CZなんてことになるよ」

「毎回毎回面倒くさいねぇ。僕との取引は7倍。この先も。

 それとも何? 僕が払えないと思ってる?」

「そうは思ってないけど……他にもお金使うでしょう?」

「武器、アクセサリー、防具以外で使うことある?」

「ポーションとか」

「さっきライ君が言ってたじゃん。うちには調薬できるやついるからさぁ。

 いらないって言ってんのに押し付けてくるんだよねぇ」

「なるほど……クランの施設とか……」

「なんで僕が全部出さなきゃいけないの」

「そうだったね……」


狩りをメイン、しかも最前線プレイヤーと呼ばれるレベルの人達が一番お金を使いたいのは装備だってことは分かる。

狩り効率が上がればそれだけお金を稼ぐことができるだろう。


「分かった。あ、そう言えば、前のデスサイズはどうしてるの?

 1つは今も装備してるだろうけど、その前のやつは?」

「クランハウスにあるけど」

「そうなんだ? 売らないの?」

「黒炎属性が付いてるデスサイズなんて売れないでしょ。

 まー、今はもうばれてるし、売っても良いかもしれないけどねぇ」

「あ、なるほど……その節はお世話になりました」

「本当にねぇ」


取引を完了すると所持金は42,316,964CZなんてことになった。

カヴォロとの待ち合わせ場所に行く前に銀行に行かなければ。


「そういえば……手品師? ライ君の知り合いの……」

「ソウムのこと?」

「多分それ。落ちた魔物の討伐依頼、達成したんでしょ?」

「ああ、うん。もう討伐したこと知られてるんだね」

「ソウム君の報告聞いたギルド職員が大騒ぎしてたからねぇ」

「なるほど……」

「テイムしたんでしょ?」

「うん、ソウムがね。一緒に行ってきたよ」

「ふぅん……ソウム君がどこにいるか知ってる?」

「何か用があるの?」

「僕はないけどねぇ。テイムだろうって分かってたし。

 どうやって倒したのか聞きたいんだってさ」

「秋夜さんが聞く為に探してるわけじゃないってこと?」

「プレイヤーに追いかけ回されて雲隠れしてるらしいんだよねぇ。

 面白そうだから情報流そうかと思って」

「教えるわけがない……まぁ、知らないんだけど」


待ち合わせをしない限りソウムとはなかなか会えないだろうと思う。

俺がこれまでに連絡なしでソウムに会ったのは、露店広場と崖の下と屋根の上だ。

露店広場はともかく崖の下と屋根の上はそうそう行かない。

どこにいるのか気になってきたので連絡して聞いてみようかな。


「まー良いや。じゃ、僕帰るから」

「うん、またね。ソウムを見つけても情報流さないであげてね」

「はいはい、考えとく考えとく」


考えないんだろうなとは思ったけど、それに突っ込むことはせずに扉から出て行く後姿を見送る。

早速狩りに行くのだろう。

なんだかんだ言って、一番取引をしている相手な気がする。


『TO:ソウム FROM:ライ

 隠れてるって聞いたんだけど、大丈夫? どこに隠れてるの?

 あ、誰にも言わないよ!』


『TO:ライ FROM:ソウム

 最前線プレイヤーに追いかけ回される恐怖で震えてる

 この前の洞窟で狩りしてるよ 内緒ね』


迷路みたいな洞窟の中にいるなら見つかりにくいだろう。

人がなかなか辿り着けない場所までスペードに連れて行ってもらっているのかもしれない。


困った時は呼んでねと送信して、ウィンドウを閉じる。

朝陽さんとロゼさんと空さんの防具も早めに渡さなければ。

兄ちゃんに明日渡して良いかメッセージを送れば、すぐに了承の返事が届いた。


「それじゃあ、行ってくるね。

 リーノ、シア、レヴ、お留守番よろしく」

「おう! 任せとけ!」

「お水あげとくねー」

「羊さんのご飯も!」

「ありがとう。任せたよ」


さて、まずは銀行に行こう。

その後はカヴォロとお出掛けだ。

書籍化についての続報がございます。

書影の公開もさせていただいておりますので、お手数をおかけしますが本日更新分(2022.09.16)の活動報告をご確認いただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もはやライ異世界人間国宝に指定されてませんか?(笑) [気になる点] 秋夜ふらっとソウムのいる場所に現れて散々揶揄って胃痛を発生させるけど、掲示板に乗っけないでしょ。 [一言] やり方は知…
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