day123 テイムの魔力
『魔力が途中で途切れている。届かぬことには契約も拒絶もできぬ』
「ソウム、魔力を届けなきゃいけないみたいだよ」
「魔力を届ける……? どういうこと……?」
「多分、呼びかけが届いてないんだと思う。
テイム使った時の魔力を魔獣さんに届くように操作した方が良いんじゃないかな?」
「え、無理……魔力感知持ってないから、操作とかよくわかんない……」
この前作った魔力が見えるようになる魔道具を持ってきておけば良かった。
家に取りに行っても良いけど戻ってくるのに時間が掛かる。
ソウムの声も聞こえてはいるけど、一方通行だ。
魔獣さんが理解して応えてもソウムには届かないので、会話が成り立つわけじゃない。
会話が成り立たない相手と過ごして今のまま意識を保てるかわからない。
「だったら、俺が魔力を見るよ」
「そもそも魔力を届ける方法がわかんないんだけど……? て、【テイム】……」
ソウムをじっと見つめていると、テイムの詠唱と共に手元にふわりともやが現れた。
そのもやはソウム自身のもやと比べると凄く薄くて、よく目を凝らして集中しなければ見えない程に弱弱しい。
その色を更に薄くしながらゆっくりと魔獣さんに伸びていくが、煙が風に吹き消されるかのように見えなくなってしまった。
「うーん……俺もテイムで魔力を操作した経験がないから分からないけど、届け~って思ったら届くと思うよ!」
「えぇ……届け~届け~……【テイム】……届いた?」
「少し伸びたね」
少しだけ距離は伸びたけど、すぐに霧散してしまった。
恐らくあのもやが魔獣さんの元に届かなければテイムが成功しないということだろう。
はじめてのモンスター石や召喚石と同じだ。呼びかけが届かなければ応えられない。
「スキルレベル1だと無理なんじゃ……?」
「うーん……無理ってことはないと思うけど……」
無理だとしたら俺はリーノのテイムに成功していないだろう。
種族特性の反映によって了承があれば必ず成功するってスキルになっているから1回で成功しただけと言われたらそうだけれど。
魔力感知・百鬼夜行のようなスキルがなくても、魔獣さんのような堕ちていない話せる魔物がフィールドにいたら、会話でテイムの了承を得られることもあるだろう。
その場合、スキルレベルが足りなかったら成功できないのだろうか。了承した側からすると拍子抜けも良いところだ。
それに、スキルレベルが関係するなら召喚石でも失敗すると思う。
召喚石はテイムを持っていないと使えないそうなので、召喚石を介してテイムをしているのと同じだろう。
スキルレベルが低いと強い魔物や亜人に呼びかけが届かないのならば、序盤も序盤のキャラクターカスタマイズ中にジオンの召喚に成功するわけがない。
もちろん、スキルレベルが高いと呼びかけが届きやすいとかはあるだろうけど。
スキルレベルが上がったら意識せずともテイムに籠る魔力量や呼びかけの際の魔力が増えて、届く前に消えてしまい難くなるとかではないだろうか。
「詰んだか……」
「大丈夫! スキルレベルが関係あろうとなかろうと、スキルレベルを上げたら良いだけだよ!」
「成功しなきゃ上がらないんじゃないの?」
「成功した時の方が貰える経験値は多いみたいだけど、失敗でも経験値は貰えるみたいだよ」
「それって、ライの種族特性が反映されてるテイムだからではなく?」
「多分? 妖精ちゃんはスキルを使用したら上がるって言ってたけど」
「あー……種族とか職業の話の時に言ってたかも」
ちなみに俺のテイム・百鬼夜行のスキルレベルは14だ。
リーノとシアとレヴ、イリシアしかテイムはしていないけど、テイムした相手のランクが高いからか成功で一気に上がった。
シアとレヴの時は成功するまでに何度もテイムを使っていたので、エルムさんの家と教会を行き来している間にも上がっていた覚えがある。
「【テイム】、【テイム】、【テイム】、【テイム】……」
「2回目のが一番届いてたよ!」
「……【テイム】!」
『吾の主となる者は魔力の扱いに慣れていないようだ。
不慣れな内は魔力の所在を知る必要はない。在ると思えば在るし、無いと思えば無い』
魔獣さんの言葉を伝えると、ソウムは首を傾げた。
「……哲学?」
「んん……想像力が大事ってことなんじゃないかな?」
「口の中に魔力があるって思ったら、本当にあるってこと?」
『……慣れぬ内はそれで良い』
「それで良いみたい」
うんうん唸りながらテイムを繰り返しているソウムの魔力を見続ける。
魔力について特に考えずにテイムを使用した時の魔力量は一定のようだ。そこを基準に減ったり増えたりしている。
ということは、他のスキル、例えば黒炎弾とかでも魔力を籠めたら威力が高くなったりするのだろうか。
高くなるとしてもスキルレベルによって最大値が決まってそうだ。
魔力を籠めたスキルレベル1と魔力を籠めていないスキルレベル10の黒炎弾が同じ威力になるとは思えない。
もしそうなら、次のスキルの開放の為以外にスキルレベルを上げる必要がなくなる。
威力が上がるとしても、1つ上のレベルの魔力を籠めていない状態の威力くらいだろう。
「うっうっ……出来ないぃ~! レベルも上がってるのに~!!」
「大丈夫だよ! どんどん近付いてるよ!」
「本当? 見えてないからいまいちわかんないんだけど……」
「大丈夫大丈夫。もう少しだよ。多分」
「不安しかない……【テイム】、【テイム】……」
よしぷよさんの時も思ったけど、テイムの成功率が低すぎやしないだろうか。
確かに今回はイレギュラーな相手だし、成功率が低いらしいユニークモンスターよりも更に成功率が低いとは思う。
スライムをテイムするのにもあれだけ時間が掛かっていたわけだし、ジオン達を迎えに行けるのはいつになるだろうか。
「【テイム】、【テイム】、【テイム】ぅう! ていむぅ……あ゛ー!!!!」
「お、おお……落ち着いて、落ち着いて。大丈夫だよ!」
「もうやだー!!!」
何度も何度も繰り返しテイムをしていればMPは尽きる。
自棄酒のようにマナポーションを飲み始めたソウムの姿を横目に見つつ、これまでソウムが放ったテイムの魔力について考える。
俺が魔力感知で見えている魔力はこの世界の人達の魔力感知で見える魔力とは違うだろう。
エルムさんは魔力感知を取得していないけど、ネイヤの目の周りに魔力が集まっているようだと言っていた。
俺はネイヤの目を見ても魔力が集まっているなんて分からない。
俺に見えるのは身体の中心にあるもやのみだ。そのもやの大きさや色に差はあるけれど。
図書館で読んだ本には身体全てに魔力は巡っていると書いてあった。
魔力感知が上達したら、身体全体の魔力の在り方や動きが見えるのではないかと思う。
兄ちゃんの魔力感知はそれに近いのかもしれないけど、全部が一色に染まり切っているからまた違うだろう。
だけど、黒炎弾や魔法陣を描いている時に籠めた魔力……つまり、外に放出された魔力であれば、もやだけでなく魔力の在り方が見えていると思う。
例えば黒炎弾の全体を覆う魔力だったり、渦巻く魔力だったり。
と言うことは、ソウムが放ったテイムの魔力についてはほとんど正しい形で見えているのではないだろうか。
「もう少しだと思うんだけど……今ソウムってどういうイメージでやってるの?」
「えっと……シャボン玉がふよふよ飛んで行く感じ……?」
「なるほど……」
『しゃぼんだまとは何だ?』
「んー……簡単に言うと泡だね。空を飛ぶ泡だよ」
『ふむ。所在を知る必要はないとは言ったが、知覚できぬと分からぬこともあるか。
テイムの魔力は煙のようなものだ。魔力に不慣れな者が操作しても、煙が泡になることはない』
「ね、ソウム。泡じゃなくて、煙を伸ばすようなイメージでやってみて。ほそーく伸びる感じ!」
「煙が伸びる……煙草の副流煙みたいな感じ?」
「多分……?」
俺はもちろん、俺の周りの人達が誰も吸わないのでよく分からない。
随分前にどこかで見かけた時に白の細い煙がふわーっとなっていたような気がしないでもないけれど。
「んん……【テイム】」
「良い感じだよ! ……あっ、消えた……」
ゆっくりと伸びていた魔力がぷつりと切れて消えてしまった。
でも、この調子なら届くのに時間は掛からないのではないだろうか。
「【テイム】……ちょ、ちょっと、ライ。
煙の先がどこにあるか、指で教えて……!」
「わかった! 今ここ! それで……こう動いて……あ。消えちゃった」
「結構ゆっくりな感じなのね。分かった。……【テイム】」
細い煙のような魔力が魔獣さんに向かって伸びていく。
薄くなったり濃くなったりと安定しないものの、じわりじわり動いていく魔力を俺と魔獣さんで固唾を飲んで見守る。
「消える消える! 頑張って!」
「む、難しすぎない……? うぅ……大丈夫?」
「大丈夫だよ! そのまま!」
「どう? もう届いた?」
「まだ、まだ……もっと……あ、消えそう!」
「ひぃん……生きてる!? 煙生きてる!?」
「大丈夫! まだ生きてるよ! 瀕死から回復したよ!!」
『くはは、賑やかなことだ』
少しずつゆっくりと伸びていく魔力は、時折消えそうになりながらも魔獣さんの元に向かっていく。
ソウムが副流煙でイメージしているからなのか、真っ直ぐに伸びるわけではなく、まるで波の模様を描いているかのようにゆらゆらと移動している。
「ううう……まだ!?」
「もうちょっと! あとちょっと! 最後まで気を抜かないで!」
「ぐぬぬぬ……」
煙のような魔力の一番先にソウムの視線が注がれる。
ソウムは魔力感知を持っていないので見えているわけではないだろう。
だけど、何かしら魔力を感じているのかもしれない。
ゆっくりゆっくり、波を描きながら、それでも確かに魔獣さんとの距離が縮まっていく。
あと少しだ。俺もソウムも魔獣さんも、一言も発することなく、魔力の行く末を見ている。
そして、魔力の煙の先が魔獣さんに触れたその瞬間、ふわりと魔力が広がり魔獣さんを包んだ。
『……ああ、しかと届いた。吾はお主を受け入れよう』
魔獣さんの体を覆っていた粘着質な物体がぼとりぼとりと次々に地面に落ちていく。
瘴気が薄くなり、やがて消えて、魔獣さんの姿が明らかになっていく。
「吾は名も無きワーグ。さぁ、主よ。吾に名を」
全ての闇が晴れ、俺達の前に現れたのは真っ白な大きな狼だった。
冷気を纏う真っ白な長い毛を漂わせるその姿に圧倒される。
「……ぁ……えっと……スペード……君の名前は、スペード」
「承知した。吾が名はスペード。
主の従魔として励むことを約束しよう」
「よろしくね、スペード。すぐに呼ぶから」
その言葉を最後に、魔獣さん改めスペードは光に包まれやがて消えた。
ソウムが取得しているのはサモンなので、常に一緒にいるわけではない。
「【サモン・スペード】」
キラキラ舞うエフェクトと共にスペードが現れる。
「うわ……MPの消費量えぐ……あ、ちょ、待って、MPほとんど残ってない」
「俺、上級ハイマナポーション持ってるよ! 飲んで飲んで!」
クイックスロットに登録している上級ハイマナポーションを取り出し、ソウムに手渡す。
「上級……? あ、やばいやばい。ごめん、もらう。飲む」
聞けばサモンはサモンを使用した時だけでなく、召喚されている間もMPを消費するらしい。
その代わり、召喚されている間サモンモンスターのステータスが上昇するそうだ。
また、常に一緒に狩りをできるわけではないから、レベルも上がりやすいのだとか。
「上級ハイマナポーションの回復量やばすぎ。なにこれ。
え、ライ。これ売ってくれない?」
「もちろん! 今はまだ錬金術でしか作れないみたいだし、出品もしてないからレアだよ!」
「わーい! レアアイテムゲットだぜー!
あ、僕の他の仲間達も紹介しなきゃだよね。
【サモン・ダイヤ】、【サモン・クラブ】」
ダイヤと呼ばれる小鳥とクラブと呼ばれる黒猫が現れる。
召喚数に制限はないらしい。MPがあるだけ召喚が可能なのだそうだ。
「うわうわ……! MPの消費えっぐ……! スペード召喚してる時にダイヤとクラブを呼ぶのは無理そう……。
はー……レベル上げ頑張ろう……僕もテイムにしたら良かった……は? 強……!」
ウィンドウを眺めているソウムが驚きの声を上げた。
恐らくステータスを見ているのだろう。
「喧しいやつよな。吾が従魔となったのだからもっと落ち着かんか」
諫めるような言葉を発したものの、その声には楽しさが滲んでいるように感じた。
ソウムとスペードが話す姿を見て笑みが零れる。
これにて一件落着。
さぁ、ジオン達を迎えに行こう。
活動報告にて本作についてのお知らせがございます。
お手数をお掛けしますが、本日投稿分(2022.08.17)の活動報告をご確認いただければ幸いです。




