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day123 過去

「ふーん」


ノッカーの集落のある洞窟内に堕ちた魔物が出たらしいと告げると、リーノは何の関心も湧かないというように無表情でそう言った。

なんらかの反応はあると思っていたので、どうしたものかと頭を悩ませる。

普段明るいリーノが無表情になるのは充分な反応だとも思うけれど。


「集落の場所からは離れてるみたいだし、堕ちた魔物も動いていないみたいだから、今のところ被害はないみたいなんだけど……どうする?」

「ライがしたいようにしていいぜ。ライが助けたいって言うなら、それで良いと思う。

 ただ……あんま行きたくはねぇから、俺は留守番でも良いか?」

「それは構わないけど……リーノは、どうしたい?」

「……わかんねぇ。助けたいとも、ざまぁみろとも思わねぇ」


関わりたくないってことだろうか。

前に俺が落ち込んでいた時に、リーノは『俺にも……分かるから。見ない方が、聞かない方が楽だって気持ち』と言っていた。

つまり、知りたくないのだろう。知ってしまっても、そこに触れたくないのだろう。


「だったら、他の人達に任せて俺達は普段通り過ごそう。

 最終的には封鎖するみたいだし、一番の解決策は討伐より集落の人達に移動してもらえるよう説得することだろうからね」

「封鎖? できんならさっさとしてしまえば良いのにな。移動したくねぇって言ってんのか?」

「そうみたい。よくわからないんだけど……集落の人達はその場所には元々化け物? が、いたって知ってたみたいで、化け物が化け物になっただけだから大丈夫って言ってるみたいだよ」


俺のその言葉にリーノの顔色がさっと悪くなった。

ぎりと奥歯を噛みしめる様子に、何か地雷を踏んでしまったかもしれないと慌てる。


「化け物が化け物に、だって……? そうかよ……。

 ……ライ、やっぱ、行って良いか? あそこには、大事な物があるんだ」

「う、うん。リーノの大事な物があるなら取りに行かなきゃだね。

 えっと……それは、集落にあるの?」

「いや、堕ちた魔物がいる場所」

「え……? どこにいるか、分かるの?」


どうして堕ちた魔物がいる場所に大事な物があると分かったんだろう。

そもそも、堕ちた魔物がいる場所だって、集落からは離れてるみたいとしか伝えていない。


「馬鹿みてぇだよな。そこに俺はいないってのに」

「え?」

「……そいつらが言う化け物は……俺のことだからな」

「リーノが……?」

「……ノッカーって、小さいんだよ。シアとレヴくらいか、もう少し小さいくらい。

 大人になってもそのまま。シアとレヴは大きくなるけどな」


妖精族の身長が小学生低学年くらいだと言うのは、βの頃に妖精族を選んだ兄ちゃんから聞いていた。

リーノをテイムした時に、妖精族にしては大きいみたいだからそこがユニークなのかなと考えはしたけど、リーノの種族は『妖精族 (ノッカー)』でただの妖精族ではないから同じではないのかもしれないとも思っていた。


「子供の時なんてシアとレヴの半分くらいしかねぇし、でも俺の身長はシアとレヴよりでかかったし……まぁ、そんな状態だとどう言われるかなんて決まってる。どういう扱いされるかもな。

 俺はずっと隠れてたし、基本的に集落には近付かなかったから、だから俺が堕ちたとしてもそのままだって思ってんだろ」


突然変異種に対する扱いが酷過ぎやしないだろうか。

イリシアもそうだし……他の皆にはそんな過去はなさそうだけれど。

とは言え、ジオンは対人よりも環境に問題があって、ネイヤは飛べなくて他の烏天狗の人達に置いていかれてしまったみたいだから、やはり突然変異種である苦労はあったのだろうと思う。


「……集落には行きたくねぇ。場所は分かる。ずっといたからな。

 討伐もしなくて良い……ただ、あそこに置いてきた物を取りに行けたら、それだけで良いんだ……」


ぎゅっと両手を握って、苦しそうに、悲しそうにそう言ったリーノの言葉を否定するわけがない。

大きく頷いて取りに行こうと俺が答えるより先に、ジオンが口を開いた。


「堕ちた魔物を討伐せずに、物だけを取りに行くのは難しいのでは……?

 気を引くにしても、そう長くは持ちませんし……」

「たしかに……」


動かないとは言え、最前線プレイヤーの人達がデスマーチをしていると言う話を聞くに、その場所に訪れた相手に対しては容赦なく攻撃をしかけてくると見てよさそうだ。

まぁ、触れられただけであの状態異常の羅列が並ぶわけだから、攻撃らしい攻撃をしているわけではないかもしれないけれど。


「大丈夫じゃない? ま、時間は掛かるけど。テイムしたら良いだけだし」

「それはそうだけど、俺はテイム出来ないし……」

「別にライじゃなくても。ライにはサモンが使える知り合いもテイムが使える知り合いもどっちもいるでしょ」

「……は! ソウムとよしぷよさんか!」

「ん、その2人。ま、よしぷよってやつはスライム以外テイムしたくなさそうだし、ソウムじゃない?」

「聞いてみる!」


堕ちた元亜人や魔物に会ったらテイムが必勝法だ。

俺のテイムは使用できないからその方法を除外してしまっていたけど、俺達だけでどうにかしようとする必要はなかった。

早速フレンドリストを開いて、ソウムにメッセージを送る。


『TO:ソウム FROM:ライ

 堕ちた魔物の話知ってる?』


『TO:ライ FROM:ソウム

 知ってるよ 昨日やられたから』


『TO:ソウム FROM:ライ

 堕ちた魔物をテイムしに行かない?』


『TO:ライ FROM:ソウム

 え、あれを? いらな・・・』


確かに堕ちた魔物が仲間になると言われたらそういう反応になるのも分かる。

そう言えば、最初にリーノをテイムした時はその懸念について一切考えてなかったな。

まぁ、堕ちた元亜人がテイム出来るかだけを気にしていたからだろうけれど。


『TO:ソウム FROM:ライ

 大丈夫だよ! テイムに成功したら元の姿に戻るよ!』


『TO:ライ FROM:ソウム

 元の姿って言われても・・・今家にいる?

 よくわからないから、家行って良い?』


『TO:ソウム FROM:ライ

 テラ街の家にいるよ。待ってるね!』


ウィンドウを閉じてソウムが来るのを待つ。


「討伐……とは、違うか。洞窟からいなくなることにはなるけど良いかな?」

「構わねぇよ。俺はただ、物を取りに行くだけだから。

 それであいつらが勝手に助かってたとしても、俺には関係ない」


和解したいとか関係の改善をしたいとか今の自分を認めて欲しいとか思えなくなってしまう程に、リーノと集落の人達との間には溝があるようだ。

それは凄く悲しいことだと思う。だからと言って、俺はリーノが望まないのに何かをするつもりはない。それではただのお節介だ。

リーノが望んだとしても、俺に出来る事はないかもしれないけど。


外からカランコロンと鐘の音が聞こえてくる。この音は柵と一緒に買って家と庭を囲む生垣の出入口に設置した門に付いている鐘の音だ。

早速ソウムが来てくれたのだろう。

家から出て門に向かい、門を開くとそこにはやはりソウムの姿があった。


「いらっしゃい、ソウム」

「押し掛けてごめんね。メッセージでも良かったんだろうけど、聞いた方が早いかなって」

「来てくれて助かったよ。ありがとう」


家の中に案内して作業場の椅子に座って貰い、冷蔵庫からアイスティーを取り出して陶器のグラスに注ぎソウムの前に置いてから俺も椅子に座る。

他には碌におもてなしできないけど、飲み物は常備しているのでせめてものおもてなしだ。


「早速なんだけど……堕ちた魔物ってテイムできるの?」

「うん、出来るはず」


これまで堕ちた元亜人をテイムして仲間を増やしてきたことを話す。

ソウムは驚いた顔でリーノとシア、レヴ、イリシアに視線を向けて、俺に視線を戻した。


「そうだったんだ……てっきり全員、召喚石かと……」

「ソウムはそうなの?」

「ダイヤはフォレストスラグ、クラブはクラーケンがドロップした召喚石だよ」

「フォレストスラグって召喚石ドロップするの!?」

「レアだとは思うけど、10回くらい倒したから……」

「なんでそんなに……?」

「ちょっと手品スキルで試したい事があって、ほとんど動かない大きい敵を探してたらフォレストスラグだなって」

「なるほど……」


1人で10回も倒したのか……確かに俺達もシアとレヴがいたから弐ノ国のヌシであるフォレストスラグは楽に倒せた。

壱ノ国のヌシであるヴァイオレントラビットの方が苦労した覚えがある。


「だから、サモン用のテイムは覚えてるけど、これまで使ったことないんだよね。

 テイム出来るまでどれだけ時間かかるかわからないし、移動も時間かかるし……洞窟の中迷路みたいで道覚えてないから、ノッカーの人に聞きながら行かなきゃだしで、いつテイム出来るか本当に分からないけど良い?」

「あ……大丈夫。道は多分……」


リーノに視線を向ける。


「おう、わかるぜ。その場所なら集落のノッカーより詳しい」

「ってことで、俺達も付いて行くよ。それに、移動もテラ街から行くより薬師の村から行った方が早く行けるはず」

「そう聞いてるけど、奥に行けないって話じゃなかった?」

「大丈夫。絶対に迷わないよ」


哀歌の森のあの場所から行けたらもっと早くなるけれど。

鐘のある場所で暫く過ごせば転移陣と繋がるって話だったし、暫くあそこでのんびり過ごしてみようかな。

と言っても、迷宮の欠片を持ってる俺達は転移陣で移動出来るけど、ソウムは移動出来ないから歩くしかなさそうだ。

あの場所に一度行けば、リスポーン地点はあそこになるのでは……と思ったけど、あそこで倒れた時、薬師の村にリスポーンしたから違うか。


「えっと、いつ行く? 僕はいつでも良いけど……」

「俺もいつでも……day126は予定あるけど、それ以外なら大丈夫だよ。今日でも大丈夫」

「じゃあ、今から行こう。時間掛かるだろうし」

「うん、行こう! あ、討伐とは違うけど、テイムするってギルドで報告した方が良いかな?」

「一応まだ討伐依頼は受けたままだけど……うーん……テイムするって言って信じて貰えると思う?」

「あー……まぁ、どちらにしてもいなくなるんだから一緒だよね!」


ログアウト中に夜ご飯を食べながら兄ちゃんと堕ちた魔物について話した時に、最前線プレイヤーの人達はデスマーチを経てどうにもならないと諦めて普段通り狩りをしていると聞いた。

ジャスパーさんだけは武器で変わるかもしれないからとそれ以上の回数挑戦したみたいだけど、武器によって変わることはないと分かっただけらしい。

兄ちゃん曰く、ジャスパーさんが持ってる武器数種はジオンが作ってるし、ハンマーもシアとレヴが作っているので、それでダメージが通らないならもう無理って話になったとか。


「誰がお留守番する?」

「頼まれている服を完成させたいから、私がお留守番するわ」

「うん、分かった。それと……」

「わしも畑の様子を見とく」

「それじゃあイリシアとネイヤはお留守番よろしくね」


イリシアとネイヤにお留守番を任せて家を出る。

まずは転移陣で薬師の村に移動する為にギルドに向かおう。


「そう言えばソウムってレベルどれくらいなの?」

「僕79だよ」

「そんなに高いの……?」


ログアウト中に聞いた兄ちゃんのレベルが85だったから、最前線プレイヤーの人達とそんなに変わらないレベル……いや、兄ちゃんは最前線プレイヤーの中でも高い方みたいだし、レベル79は最前線プレイヤーだ。

強いとは思っていたけど、そんなに高かったとは。


「狩りと手品しかすることないから……ライは?」

「俺55……」

「嘘でしょ……!? 55!?」

「詐欺って言われたことあるけど、本当だよ。

 素材調達してる時間と生産してる時間も多いからね」

「あ、そっか。そうなるのか……。え、そのレベルでテラ街まできたの?」

「装備と皆のお陰だね。移動だけなら最低限の戦いだけで意外となんとかなるよ」

 

とは言え、そろそろ本腰を入れてレベル上げをしたほうが良いかもしれない。

これ以上最前線プレイヤーの人達と差が出来たら、次回以降のイベントは装備の力では勝てなくなるだろう。

適正レベルの高い場所で狩りをしていたらレベルも上がりやすいし、少しは差を縮めることが出来るはずだ。


テラ街のギルドは昨日と比べると人が少なかった。

兄ちゃんの言っていた通り、昨日1日で堕ちた魔物は無理だと諦めたプレイヤーが多いからだろう。

転移陣で薬師の村に移動する。ここからは徒歩だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 褒めていただけた(?)ので脳内でサンバ踊ってます
[良い点] 更新ありがとうございます [気になる点] リーノと仲良かった何かが堕ちたと予想
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