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day122 羊と馬

早めの時間にログインして朝食を食べた後、トーラス街の家で頭を悩ませる。


これといってやる事がない。

イベント前とイベント中にしたいと思った事も全て終わってしまった。

カヴォロとテラ街に行くのは、オークションの入札終了日、day126の予定だ。


オークションに出品する用のアイテムを生産しても良いけど昨日たくさん出品したし、飛ぶ剣の元になった剣は8本、槍の罠の元になった槍は95本も残っているからそれらが片付いてからまた生産をしようと思っている。

槍は多すぎてさすがにまだ装飾が終わっていないけれど。


いつも何かしらの目標があってその為に狩りをしていたから、暇だから狩りをしようって考えがあんまりない。

こういう時にレベル上げをしておけば、何か目標が出来た時のレベル上げに取られる時間は減るだろうけど。

備えて狩りをするか、図書館で勉強するか、それとも……。


「うーん……」

「どうかされました?」

「馬っていくらくらいだと思う?」

「ふむ。ピンキリだと聞きますが……安くても100万CZ以上したかと」

「100万以上……」


手持ちと銀行の入金分を合わせたら全部で約250万程ある。

オークションに出品しているアイテムの落札結果を待ってからでも問題はないのだけれど。


「羊は?」

「40万CZくらいじゃなかったかしら。

 当時と同じ値段なのかはわからないけれど……」

「40万か……2匹は買える……。

 ねぇイリシア。馬1頭と羊2匹買ったとして、テラ街の家の庭で飼えるかな?」

「ええ、大丈夫だと思うわ。それ以上増やすとなると狭いかもしれないけれど」

「お金が貯まったら増やしたいと思ってるけど、その時は……隣の家買おうかな。

 家はなくしちゃって、全部庭にしたら増やせるよね」

「ふふ、左隣は土地だけみたいだから、お家を解体しなくても大丈夫そうよ」

「土地だけ……なるほど。土地を買って好みの家を建てる事もできるんだね」


大工さんに頼めば自分好みの家を建てる事が出来るのだろう。建築スキルがあれば自分達でも建てられる。

どの街でも景観ルールがあるみたいだから街の雰囲気に合った家にはなるだろうけど、2階建てが良いとか、地下が欲しいとか、部屋割り等を最初から決められる。

家を買って改築や増築で追加するよりお金も掛からないはずだ。

とは言え、今はまだ土地を買うだけのお金がないし、それは次の目標にしよう。


「皆は乗馬したことある?」


イリシアだけは『少しだけ』と答えたけど、他の皆は首を横に振った。

俺も同じだ。乗馬体験なんかもしたことがない。


「馬に乗るのにスキルは必要なの?」

「乗馬スキルがありますよ。ですが、乗るだけなら取得しなくても問題ないそうですよ」


魔物から逃げ切れるようなスピードで駆けるとか、障害物をひょいひょい越えるような乗り方をするには乗馬スキルが必要なのだそうだ。

だったら取得しなくても大丈夫かな。


「馬車で手綱をとるのも乗馬スキル?」

「いえ、スキルは必要ないそうですよ。

 御し易さは変わるかもしれませんが、こちらも速度を出さない限りは問題ないかと」

「なるほど。乗馬スキルは取得しなくて大丈夫そうだね」


そこまでの速さは求めていない。

それはそれで気持ちが良さそうだけど、全員分の馬があるならともかく1人で爆走する場面はないだろう。


「よし! ギルドに行って聞いてみよう! 柵は……どうしようか? いるよね?」

「そうね。生垣に囲まれてはいるけれど門があるわけではないから、外に逃げ出しちゃうかもしれないし、畑も荒らされちゃうかもしれないわね」

「柵なら街で売ってる柵さえありゃ俺達でも建てられるぜ。前にクリントの家の柵の修復したしなー」

「そう言えばそうだったね。街で探してみよう」

「テラ街に売ってたよ。トーラス街は柵置くような庭のある家ないからね」


街の中なら魔除けもいらないし、そんなに高い買い物にはならないはずだ。

そうと決まれば早速、テラ街の家に行こう。農作物の様子も気になるし。

先日の生産で使った素材もいくつか持って行こう。


素材置き場にある素材をいくつか選んでアイテムボックスに入れ、トーラス街の家から出てギルドに向かう。

最初にこの街に来た時と比べると本当に人が増えたと思う。

とは言え、住宅街辺りにはあまり人はいないけれど。

家を買うプレイヤーは未だ少ないらしい。


「ライ君」

「ん? 秋夜さん。最近よく会うね」

「まー、家も近いしねぇ」


ログイン時間だって似たり寄ったりだろうから、出掛けるタイミングも近い時間なのだろう。

クラメンの人達には会わない……と言うか、いても皆と話していて気付いていないだけかな。

あちらも俺達を見かけたからって話しかけてこないだろうし。


どうやら秋夜さんもギルドに向かっているようだ。

秋夜さんと並んでギルドへの道を進む。


「新しいデスサイズ作ってくれない?」

「前に作ったのって、イベント前だっけ?

 確か65のデスサイズだったよね」

「そうだねぇ。90のやつよろしく」

「90……もうそんなに高いんだ……」

「まだ90じゃないけど、受け取った時にはなってるんじゃないかねぇ」


秋夜さんのレベルは兄ちゃんより少し高そうだ。

ジオンに視線を向けると快く頷いてくれたので、STRとINTを尋ねる。


「INTは19になってるだろうから、それで付けれるだけの属性よろしく。

 STRは……150くらいかねぇ」

「150!? 素手で殴っても倒せちゃいそうだね」

「まー、同レベル帯と比べてもSTRは高い方だけど、その分INTないからねぇ。

 それに、デスサイズ以外使えないし」

「あ、そっか。まぁ、了解。90のデスサイズだね」

「それと、防具も作ってくれない?」

「防具も? 良いけど……それならもう、アクセサリーも作る?」

「そうしてくれるとありがたいけどねぇ」

「リーノ、イリシア、出来る?」

「おう!」

「ええ、もちろんよ。でも、先に作らなきゃいけない服があるから、すぐには出来ないけど良いかしら?」

「いつでも。よろしくねぇ」


兄ちゃんの分は昨日完成して渡したけど、使いたい植物がまだ育っていないとかで他の人達のはまだ出来ていない。

今日も生産の日になりそうだ。俺は何を作ろうかな。


「遅くてもday126の朝には渡せると思うよ。

 多分、トーラス街の家にいると思うけど……いなかったらテラ街の家かな」

「ああ……はいはい。この前行ったし覚えてる」

「あの時だけでよく覚えられるね……」

「そんな難しい道じゃなかったしねぇ。

 まー、狩りに行く前にでも取りに行くよ」


ここまできてもフレンド登録をしないのは最早意地だと思う。お互いに。

登録したところで、取引以外の連絡はしなさそうではある。


「そーいえばさぁ、知ってる? 堕ちた魔物が出たんだって」

「そうなの?」

「僕は堕ちた魔物に関わりたくないからよく知らないけどさぁ。

 テラ街のギルドに依頼があるらしいよ」

「へぇ……俺も堕ちた魔物はちょっと、ね。堕ちた元亜人ならともかく」

「テラ街にいるやつらがこぞってデスマーチしてるらしいよ。

 よくやるよねぇ。あんなの勝てるわけないのにさぁ」

「デスマーチ……」


負け戦になるのが分かってて依頼を受けようとは思えない。

そんな依頼、いくら最前線プレイヤーとは言え、現在テラ街にいるプレイヤーで達成できるとは思えないけれど。

ああでも、ギルドで依頼を受けるのはプレイヤーだけではないのか。

この世界の冒険者も受けるらしいし……とは言え、堕ちた魔物を討伐するなんて出来るのだろうか。


「テラ街の近くにいるの?」

「知らない。どっかの洞窟の中にいるとは聞いたけどねぇ。

 まー、4日前だか5日前だかに貼り出されたらしいけど、テラ街はのどか過ぎるくらいのどかだし、それなりに離れた場所なんじゃない?」

「そんな前に? 兄ちゃんは何も……あ、そっか。キャンプしてたからか」

「は? キャンプ? 暢気なもんだねぇ。

 まー良いや。じゃ、僕は狩りにいくから」

「あ、うん。それじゃあ、4日後に」


転移陣受付で受付を済ませた秋夜さんは転移陣部屋に入って行った。

俺達もテラ街に移動しよう。


移動したテラ街のギルドは前回来た時と特に何も変わらない。

前回と違うのは受付で真剣に話を聞いているプレイヤーやこの世界の冒険者の人達がいるくらいか。

さっき秋夜さんが言ってた堕ちた魔物についての話を聞いているのかもしれない。


気にならないと言ったら嘘になるけど、今はとりあえず羊と馬だ。

空いている受付に足を進め、職員さんに声を掛ける。


「こんにちは。羊と馬を買いたいと思ってるんだけど、いくらくらいかな?」

「はーい、こんにちは! どういう用途ですか?」

「羊は羊毛、馬は馬車用だね」

「でしたら……一番安い羊が35万CZ、馬だと……皆さんで乗ります?」

「うん、そのつもり。荷物を運ぶ時もあるかも」

「でしたら力強い子が良いですよね~。250万CZですかね!」


250万CZか。どちらかしか買えそうにない。

だったら、馬はまた今度にしようかな。

馬車用のワゴンも今すぐは用意出来ないし、庭が広いと言っても馬に乗って走り回る程広くないから練習出来るスペースもない。

馬はお隣の土地を購入してからになりそうだ。


「銀行引き落としって出来る?」

「出来ますよ!」

「そっかぁ……うーん……うん。羊を2匹ください」

「はい! 増やされる予定はありますか?」

「んん……出来れば増やしたいけど……素人でも大丈夫かな?」

「愛情を掛けて育てていればぽんっと誕生しますから大丈夫ですよ!」

「ぽんっと……?」

「はい! 見た事ありませんか?」

「ないかな……」

「こう、光がふわーっと集まってきて、ぽんっと小さな羊がですね!」


なるほど……プレイヤーがギルドで簡単に購入できて育てられる事を考えると、リアルにするわけにもいかないのだろう。


「それじゃあ、雄と雌1匹ずつお願いします」

「はい! お渡しに3時間程掛かりますがよろしいでしょうか?」

「大丈夫だよ」

「了解しました! 銀行引き落としにしますか?」

「お願いします」

「それではギルドカードをお貸しください!」


ギルドカードを手渡し、お姉さんが確認すると目の前にウィンドウが現れた。

雄と雌の羊が1匹35万CZずつ、合計70万CZと表示されているウィンドウに目を通してから『確認』ボタンを押す。


「えー……はい! 引き落としを確認できました。

 こちら差し上げますので、よければお読みくださいね~」


そう言って表紙に『動物を育ててみよう!』の文字が並ぶ小冊子を手渡される。

ぱらりと中を捲ってみれば、そこには羊の他にも馬や牛等といった動物のおすすめの餌や育て方、使う道具やあったら便利な魔道具について書かれていた。これはありがたい。


「では、3時間後に登録されているお家に……あら、2軒あるんですね?

 クランハウスもあるみたいですし、どちらにお届けしますか?」

「テラ街の家にお願いします」

「了解しました! それでは3時間後にお届けしますので、家にいてくださいね~。

 他に何かございますか?」

「んー……あ、お隣の土地っていくらくらいかな? 売却されてる?」

「お隣……ああ、はい! 売土地ですよ! えー……860万CZですね!」

「なるほど……ありがとう」


それにプラスして改築費も必要だから、1,500万CZくらい見ておいた方が良いかな。

改築費と言っても生垣を広げて貰うくらいだからそんなに掛からないかもしれないけど。

厩舎は……小冊子を見る限りすぐに必要ってわけではなさそうだ。


「愛情たっぷりに育ててあげてくださいね~」


さて、柵を買って帰ろう。

小冊子に載っていた道具や魔道具は俺達で用意できるだろうから、買って帰る必要はなさそうだ。

ああそうだ。羊を飼うことになったとクリントさんに手紙を出しておこう。

よし、まずは郵便局だ。

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