day121 生産の日
「珊瑚と真珠も凝固出来るみたいだよ」
「おぉ~!」
「こっちも全部凝固しとくね」
本日は生産の日。場所はテラ街の自宅だ。
兄ちゃんにはここ最近集めた宝石の凝固をお願いしている。
お昼過ぎにはソウムも来てくれるそうだ。
リーノの宝眼で見えないものは凝固出来ないのかと思っていたけど出来るようだ。
採掘で採った宝石は無機質、珊瑚や真珠は有機質とかなんとか。
よくわからないけど、有機質の物はリーノの目に反応しないけど宝石は宝石ということだ。
「60の武器だけで良いのですか?」
「んー……兄ちゃん達はもっと高いみたいだけど、とりあえず今回は60で」
「アクセサリーも同じで良いか?」
「うん、よろしくね。使う魔法鉱石、魔法宝石の数は生産頑張る隊の人達に作った物と同じ数でよろしくね」
「おう! 装飾始めるまではアクセサリー作っとくぜ!」
ジオンは武器、リーノはアクセサリーと装飾。
他の皆は堆肥と肥料が揃ったそうなので、外でイリシアの農業のお手伝いをしている。
俺もお手伝いをしようか迷ったけど、作りたい物や手を加えたい物が多いので生産を始める事にした。
まずは《帰還石》から作ろう。
暇を見つけては封印していた闇の魔石の在庫はそれなりにある。
先日のキャンプから帰るのに《帰還石》を7個使ったから3個しか残っていない。
兄ちゃん達とカヴォロ、ソウムに渡した分が6個。俺達は俺が使えばパーティー全員が帰れるので1個だ。
パーティーを組めていなかったリーノとフェルダは従魔召喚で呼びだした。
《帰還石》を2個作る手間に比べるとMPを消費して呼び出したほうが楽だ。
「今日から出品再開?」
「うん、そのつもり。結構お金使っちゃったからね」
「自分達で用意できるんだし、そんなに買うものもないだろう?」
「使う時の額が結構大きくてね。主に住居関係なんだけど」
「なるほど。トーラス街の家も増築と改築で結構使ってるんだっけ」
「そうなんだよね。今欲しいのは馬と羊だよ」
魔道具製造スキルのレベルが上がって使えるシンボル等が増えたので、今回からは《帰還石》の魔法陣を改良してみることにした。
イベントを経て前よりも魔法陣について理解が深まって……いたら良いけれど。
少しは深まったと思うので、これまで細かくたくさん描かなきゃいけなかった魔法陣を若干簡略化できた。
それでもこれまでに描いたどの魔法陣よりも複雑だ。
ちなみに、エルムさんが描くなら2つのシンボルと1つの記号で出来るらしい。それぞれが複雑な形ではあるけれど。
「兄ちゃん、《帰還石》残ってる?」
「残ってるよ。ほとんど使ってないからね。
狩り中に脱出する為に2回と……争奪戦前にグラーダを誘いに行った時に使ったくらい」
「グラーダさんを誘いに行った時に……?」
「はは、ちょっとね。それより、次の出品も武器とアクセサリー?」
「他にもお祭りで作った魔道具の残りを出品しようと思ってるよ。
魔法陣は少し描き変える予定だけどね」
呪術と組み合わせた魔道具については、対魔物だけに作用するような魔法陣をエルムさんに教えて貰えたから変更して出品する予定だ。
それから、槍の罠や剣が飛んでいく魔道具は描かれた魔法陣を消して武器として出品しようと思っている。
魔道具状態の時の槍や剣には装備条件はない……と言うより例えば槍の魔道具であれば槍も土台も全て含めて1つの魔道具としてしか鑑定できないので、武器単体の性能は判断できないけど、元は装備条件レベル40の槍とショートソードだ。
キャンプからテラ街の家に移動した後、次にログインした時の予定を皆に話してからログアウトしたら、ログアウトしている間に出品予定の魔道具を全てテラ街の家に皆が運んでくれていた。
他にも俺が使うであろう本類も持ってきてくれていたので、トーラス街の家と行き来することなく作業が開始できている。
「名前はそのまま匿名?」
「あー……名前か。匿名じゃなくて良いんだもんね。
うーん……別に匿名のままでも問題ない気がするけど……」
「ま、そうだね。そもそも匿名で出しても武器とアクセサリーと魔道具はライが出品した生産品だってわかるだろうけど」
「わかるかな?」
「そりゃね」
性能が他の装備と比べて高いのだからそれもそうかと納得する。
「魔道具は空さんもジャスパーさんもいるから、俺とは限らないと思うけど」
「ああ、ジャスパーも覚えたんだっけ。でも、空はオークションで出品はしないからね。
ジャスパーも自分用に作るくらいでほとんど魔道具作ってないんじゃない?」
「どうだろう? でもまぁ、狩りが好きな人みたいだし、生産する時間あんまりなさそうだよね」
「だろうね。んー……詐欺みたいな事が起きてるらしいよ」
「詐欺? 何の話?」
聞けば俺達以外にも匿名で付与武器を出品している出品者がいるらしい。
期間は短く、値段は高く設定されて出品されているそうだ。
そこまでは別に匿名で出品できるのだからそうする人もいるだろうし、詐欺でもなんでもないが、その後がちょっと問題らしい。
有難い事にジオンの作った武器が出品されるのを心待ちにしている人は多く、また、高い値段を払っても落札したいと考えている人が多くいるそうだ。
落札期間終了が迫った匿名で出品されている高額な付与武器を見つけて慌てて入札してしまった結果、求めていた付与武器じゃないってことが起きているとか。
随分慌てん坊のようだ。
でも、欲しいと思っている物があって、それと似た感じで出品されていたら慌てて入札してしまうかもしれない。
「それじゃあ、匿名はやめようかな」
その出品者の人が故意でそうしてるのかはわからないけど、間違って入札してしまう事は少なくなるだろう。
性能の数値を確認するよりも名前だけ確認する方が時間も掛からない。
個人的には名前だけじゃなくて性能もしっかり確認してから入札した方が良いと思うけれど。
「ただいまー」
「あのね、たくさんお手伝いしてきたよ」
「おかえりなさい。お手伝いしてくれてありがとうね」
「イリシアとネイヤは肥料あげてから帰ってくるって」
「そっか。時間かかりそう?」
「どうだろ。撒くだけだって言ってたしそんなにかからないんじゃない?」
帰ってきたシアとレヴ、フェルダは早速作業机に向かってソウムの大きな箱を作る準備を始めた。
実際に作り始めるのはソウムが来てからだ。
作業の合間に魔法弾と魔法纏のクールタイムが回復したら融合と封印を行い、魔法鉱石と封印魔石も増やしておく。
今回からは売りに出す装備で使う魔法鉱石の数も増えるし、時間を見つけて作っておかないとすぐになくなってしまうだろう。
「あっ……あー……」
前の魔法陣を描いてしまった。別にこれでも動くから良いけれど。
とは言え、新しい魔法陣に慣れたいので描き直してしまおう。
「ライ、珊瑚と真珠の凝固も終わったよ」
「ありがとう兄ちゃん。早いね」
「クールタイムが短いからね。魔法銃作って良い?」
「もちろんだよ」
イベントの時と比べると兄ちゃんのレベルは10くらい上がっているようだ。俺は5しか上がっていない。
やはりいつも狩りをしている最前線プレイヤーの人達のレベルの上がり方は違う。
自分用に使った分の7個と、出品用に10個の《帰還石》を用意した後は、剣と槍の魔法陣を消す作業に移る。
魔力を籠めて撫でるだけなので《帰還石》を作るよりも簡単だ。
ただ、量が多い。剣が飛んでいく魔道具は1つにつき7本の剣が使われていて、槍が飛び出てくる魔道具には1つにつき15本もの槍が使われている。
剣の魔道具は3つ分、槍の魔道具は8つ分……1つはジャスパーさんが持って帰っていたから7つ分。
何が凄いって、準備期間の2日間でそれらの剣と槍をジオンが全て作ってしまったことだ。
本人は全く同じ物を量産しているだけだからと言っていたけど、それだけじゃない事はわかる。
魔道具にしていた剣と槍は装飾はされているけど、槍のほうには魔法鉱石や魔法宝石が使われていないので魔法陣を消し次第リーノに渡して追加で装飾してもらう予定だ。
全て今日出品するわけではない。と言うより、さすがに量が多すぎるので今日中に全て装飾して出品するのは厳しい。
暫くは槍と剣を出品し続ける事になりそうだ。
「問題は槍を使ってるプレイヤーがそんなに多くいないって事だよね」
「ああ……大丈夫だよ。一定以上はいるから。
それに、槍スキルも覚えてるってやつもいる」
「あ、そっか。最前線の人達って色々使い分けるのが主流なんだったね」
「そういうこと。ライ達が作った槍があるなら覚えてみようって人も多いと思うよ。
攻撃力の高い武器があるなら、そっち使った方が効率良くなるし」
「なるほど……狩りに慣れてる人なら何使ってもそれなり以上に戦えるんだね……」
羨ましい限りだ。
俺は刀以外は慣れるまで時間が掛かりそうで、色々使ってみたいって気持ちはあるけどなかなか手が出せないでいる。
「ただいまライ君。早速レン君の服を作るわね」
「あ、おかえり。うん、よろしくね」
「わしはどうするかね。ポーション類は売らんのよな?」
「ポーション類は露店広場で大量購入する人が多いみたいだからね。
ああでも、この前作って貰った爪の色を変える……《艶麗塗料》みたいな調薬では作れない物をお願いしたいな」
そう言って、みきさんにマニキュアを渡しに行かねばと思い出す。
夜ご飯にカヴォロのお店に行く時に、来て貰える時間がないかカヴォロにメッセージで聞いておこう。
「ほんなら、色を変えるもんを作るか」
「《艶麗塗料》以外で?」
「そーさな……作った事はないが、出来るだろうよ。次は髪の色でも変えてみるか」
「髪の色! 俺も変えてみようかな」
「ライはそれが一番似合っとる」
「そう? でもたまに気分を変えてみるのも良いよね」
この世界では皆色んな髪色をしているから、突飛な色でも違和感なく溶け込めるだろう。
これまでと全然違う髪色になった事に対する違和感はあるかもしれないけれど。
早速作業を開始したネイヤの大釜からボンっと大きな音が聞こえ始める。
どうやら完成以外でもしょっちゅう爆発するようだ。
失敗の時の爆発とは違うらしいけど、ネイヤが失敗するところはこれまで見た事がないので、どんな爆発音なのかは分からない。
初めて聞いた時は驚いたし今も驚いているけど、その内気にならなくなるだろう。
「凄い音したけど」
「大丈夫。これから日常風景になる予定だよ」
目をまん丸にして大釜に視線を向けた兄ちゃんは俺の言葉に小さく笑った。
さすがの兄ちゃんもあの爆発音には驚いたらしい。
「よし! 全部……消えたかな? 忘れてるやつは……うん、大丈夫そう! リーノ、後よろしくね」
「おう、任せとけ! んじゃ、今作ってるアクセサリー完成したら、そっちの装飾に移るぜ」
「ありがとう。槍は急ぎじゃないから、ジオンが作った武器の装飾を優先してね」
さて次は……兄ちゃんの魔力感知をどうにかする魔道具を考えようかな。
他の呪術と組み合わせた魔道具の魔法陣の描き替えは後回しだ。
兄ちゃんに頼まれた後、エルムさんに会っていないので出来るか出来ないかの答えは全く出ていない。
本を机の上に広げて、先日図書館で調べた時の羊皮紙も広げて、なんとか対処方がないか考えていく。
魔力感知スキルを取得する方法は分かっても、魔力感知を消す方法はわからない。
それじゃあ先に、魔力感知スキルを取得していなくても魔道具で魔力を視覚で感知できるようになる方法を考えてみよう。
それが分かれば魔力を視覚で感知しない魔道具を作れるようになるかもしれない。
視覚となるとやっぱり眼鏡だろうか。
でも、兄ちゃんに眼鏡は……似合うけど、常に付け続けるとなると勿体ないと思う。
これは好みの問題だから、常に付けている方が格好良いって思う人もいるだろうけど。
うんうん唸りながらあるかもわからない答えを探して頭を悩ませていると、こんこんとノックの音が鳴った。
「はーい」
『……あ、僕……ソウム』
扉の向こうからソウムの声が聞こえてきた。
すぐに扉を開いて中に招き入れて、フェルダの作業スペースにある椅子に案内する。
「いらっしゃい、ソウム!」
「お邪魔します……」
「皆作業してて碌なおもてなしできないけど、良かったらくつろいでね」
「う、うん……あ、これ、お土産。街で売ってたケーキだけど……」
「え! 気を使わせちゃったみたいで……でも、ありがとう。
わ、たくさん! おやつの時に皆で食べようね」




