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day12 鍛冶のその前に

「え? 兄ちゃん修正終わったの?」

「ひとまずね。今はみんなで確認してるところ。

 問題なければ終わり」

「そっか~! お疲れ様!」

「ありがと。ようやくログインできそうだよ。

 今、ゲーム内はどれくらい経ってるんだっけ?」

「11日だよ。あ、でも今は12日になってるかな」


ゲームの中だと12日も経っているけど、現実では正式オープンから3日しか経っていない。

正式オープンの日に2、3日後に終わるんじゃないかと兄ちゃんは言っていたから、どうやら予定通りに作業は進んだようだ。


「ログインするまでもう少し時間かかりそうだし、更に1日2日過ぎそうだね」

「ロゼさん達に追いつけるかな?」

「どうだろうね。差が開いたまま合流しても差は縮まらないし、暫くはソロでレベル上げかな」

「一緒にレベル上げする?」

「はは。それもいいな。でも、来李とも差があるからね。

 来李が普段狩りしてる場所では一緒に狩りできないかな」

「そうだけど……でも、俺兄ちゃんと一緒にゲームしたい」

「うーん……わかった。それじゃ、明日の朝ログインする時は一緒に遊ぼう」

「うん! 何する? レベル上げ?」

「んー……そうだなぁ」


兄ちゃんは一度言葉を止めて俺の顔を見てにやりと笑った。


「ヌシ倒すの手伝ってくれる?」

「嘘でしょ!?」





「おはようございます。今日は早いですね」

「おはようジオン」


今の時間は『CoUTime/day12/8:05 - RWTime/14:25』。

ウィンドウを閉じて溜息を吐く。


「どうかしましたか?」

「ああ、ごめんね。実は兄ちゃんが……あ、俺兄ちゃんがいるんだけど」

「ええ。ロゼさんでしたか? あの方と話している時にそう言っていたので覚えてます」

「そっか。兄ちゃんがそろそろこっちにこれそうなんだよね」

「おや。それは楽しみですね」

「うん。凄く楽しみだよ。

 えーと、4日後の朝かな。一緒にヌシを手伝って欲しいって言われてね」


話の結果、結局一緒に倒しに行くことになってしまった。

現実時間の明日の朝までにレベルを上げると言っていたし、兄ちゃんが足手纏いになることは絶対にないから前回より楽にはなるだろうけれど。


「え? ヌシですか?」

「あ、ごめんね? 勝手に約束してきちゃったけど、良かった?」

「いえいえ。私もお兄さんに会ってみたいと思っていたので嬉しいです。

 少しびっくりしましたが、ライさんのお兄さんのお願いなら断る理由はありません」

「そう言ってくれると助かるよ。

 ……よし! 兄ちゃんに良いとこ見せないとね!」

「はい! 頑張りましょう!」


2回目のヌシに備えてレベル上げをしてもいいが、昨日せっかくたくさん鉱石を集めたのだから、今日は鍛冶場に行こう。

装備が強くなればその分楽に倒せるようになる。


「さて、朝ご飯を食べて鍛冶場に行こう」

「久しぶりの鍛冶なので不安ですが、必ずやライさんに今できる最大限の刀を作りますね」

「期待してるよ」


昨日魚介のパスタを食べたレストランへ行って、パエリアを注文する。

2人分なそうなので、ピザの時と同様に1つを2人で食べていく。

うん。美味しい。


「そう言えばジオン、料理スキルも覚えられるってことだよね」

「そうですね。機会があれば覚えてみたいですね」

「カヴォロが露店で使ってた料理道具は持ち運びできるみたいだったし、それ買う?」

「いえ、今は大丈夫です。

 これまで碌に料理したことがないので、道具があっても何をしていいのかわからないんですよね。

 暫くは本を読んで勉強しておきます」

「そっかぁ。俺も全然わからないからなぁ」


パエリアを食べ終わると、昨日教えてもらった鍛冶場へ向かう。

鍛冶場の扉を開けるとむわりと熱気が溢れてきた。


「そっか。火を使うんだもんね」

「ええ、そうですね。暑いですが、平気ですか?」

「うん。大丈夫だよ。あれ? ジオンって氷鬼なんだよね?

 ジオンこそ大丈夫? 溶けたりしない?」

「ふふ。大丈夫ですよ。

 暑さは得意ではありませんが、多少慣れました」


鍛冶スキルを持っていても暑くてできないなんてことがないようで安心する。

まぁ、これまでにそんなこと言ってなかったわけだから無駄な心配だったけれど。


お店とは違いカウンターはないので、辺りを見渡して人を探す。

きょろきょろと見渡していたら、離れたところで作業をしていた男性が俺達に気づいて、首からかけたタオルで汗を拭いながらこちらにきてくれた。


「レンタル希望か?」

「うん。空いてるかな?」

「今は誰もいねぇから、好きなとこ使っていいぜ。

 扉に数字が書いてある部屋が貸出用の作業場だ。

 個室だから人目を気にする必要もねぇぞ」

「人目?」

「商売敵に手の内見せるわけにはいかねぇだろ?」


なるほど。お金を稼ぐには他よりも優れた物か他とは違う物を売る必要がある。

スキルレベルや持っている素材で差はどうしたってできるわけだし、全員揃って同じものなんてことは不可能だ。

仮に全員が同じものを作って、同じ値段で売ったとしても、全員がそれを買ってもらえるわけではない。

手法の独り占めも良くないと思うけど、手法を言って回っても結局は全員が同じなんてことは無理だ。


「なるほど。確かにそうかも」

「だろう? ああ、レンタル料は1時間で800CZだぜ。

 鍛冶道具は初心者用ではないが、まぁ、普通だ」

「それじゃあ、5時間くらい? どう? ジオン」

「ええ、大丈夫ですよ」

「5時間だな? 4,000CZだ。

 延長する時はまた声掛けてくれ」

「了解」


どこでも良いと言っていたので、一番奥にある3と扉に書かれた部屋に入ることにした。

中は炉に火が入っていないようで、部屋に入るまでと比べて涼しく感じる。

部屋の壁際に鍛冶で使うのだろう道具が並んでおり、中央には大きな机が置かれている。


「この机に昨日の鉱石並べて行くね」

「はい。では私はその間に炉に火を入れておきます」


ジオンが炉に向かうのを横目で見つつ、アイテムボックスから鉱石を取り出して机の上に並べて行く。

宝石は装飾で使えると言っていたけど、使うだろうか?

一応鉱石とは別の場所に出しておく。


「銅、鉄、玉鋼……他にはどんな鉱石があるのかな」

「色々ありますよ。魔物が落とす魔金属というものありますしね。

 今ここに並んでいるのは数ある金属の中でも扱いやすい金属ですね」

「なるほどね。初心者向けかな?」

「玉鋼が他に比べると少しだけ難易度が上ですが、そうですね。

 初心者向けと言われたらそうでしょうね。スキルのレベルが低くても扱えますし」

「レベルによって扱える金属が違うの?」

「そうですね」


弐ノ国で最初に行ける鉱山で強い武器が作れる鉱石が出ても扱えるプレイヤーはいないだろう。

その国で出てくる鉱石でいかに強い武器が作れるかが重要だ。


「あ、俺の種族スキルね、金属関係なんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。金属持ってなかったし、よくわかんないから今まで使おうと思ったこともなかったけど」


ステータスウィンドウを開いて、種族スキルの詳細を表示する。



『【融合】 熔解された金属を融合する


 【熔解】 金属を熔解する


 【魔操】 自身と仲間の属性魔法を操る』


ウィンドウに並ぶ文字をジオンに伝える。


「ね? 魔操は金属じゃないけど、他は金属関係。

 聞いたことある?」

「いえ……ないですね。ですが、せっかく金属があるので試してみてはどうですか?」

「あ、それもそうだね。やってみようかな」


机に並べられた鉄を手に取る。


「【熔解】……ちょっ、うわぁ!?」


スキルを唱えると鉄がどろりと溶けて机へと手から零れ落ちてしまった。

水のようにさらさらとしているわけではなく多少の粘りがあり、机の上にべちょりと広がっている。

まるでスライムのようだ。モンスターのスライムではなく、洗濯のりとホウ砂で作るやつ。


「うわー……なんだろうこれ。

 あ、鍛冶って金属を一回溶かすんだよね? これ使える?」

「いえ……これは熱で溶けているわけではないので……」

「それもそっか。え、じゃあなにこれ。どうするの」

「さて……」

「まぁ……次ね。【融合】」


どろりと溶けていた鉄が元の形に戻る。

詳細な形は覚えてないけど恐らく元通りになっていると思う。


「……何に使うのこのスキル」

「さて……あ、2つ溶かして1つにするとかですかね?」

「なるほど」


言われた通り、2つをそれぞれ熔解すると、2つの鉄が重なるように広がった。

融合してみれば、どろりと溶けた鉄の上で1つだけが元の状態に戻った。

合体することはできないようだ。


「……MPの無駄だね!」


ちなみにそれぞれ20ずつMPを消費する。

さっきからの実験ですでに100のMPを消費している。


なんだかむしゃくしゃしたので部屋に置いてあった木のボウルに溶けたままの鉄を放り込んでおいた。

ジオンが鍛冶している間に使い道を考えてみよう。


「こうなったら、もう1つも試してみたいけど……ここじゃ無理かな」

「ふむ。これまで私の打った魔法に魔操を使ったことは?」

「ないよ。操る必要性を感じなかったからね」


連発できるなら操る意味はあるかもしれないけど、クールタイムがあるのでジオンの邪魔にしかならない。


「氷晶弾を浮かせますので、操ってみますか?

 氷晶なら建物に燃え移ることはありませんし、もし上手く操ることが出来なくても消せますよ」

「んん? 魔法って消せるの?」

「はい。消せますよ。冷却時間……クールタイムって言うんでしたっけ?

 消した場合でもクールタイムはあるので、消す必要はあまりないですが」

「そっか……それと、魔法って浮かせられるの?」

「はい。魔法によりますが、氷晶弾やライさんの黒炎弾といった『弾』とついた魔法であれば浮かせられますよ。

 多少慣れは必要ですけどね」


そう言ってジオンは掌を上に向けてぽんっと氷晶が舞う氷の塊を浮かせて見せてくれた。


「へぇ~! すごいね!」

「ありがとうございます」


いつもはモンスターに向かって飛んでいく氷の塊をまじまじと眺める。

綺麗な魔法だ。


「それじゃあ、いいかな?」


ジオンが頷いたのを確認して、氷の塊に手を翳す。


「【魔操】」


その瞬間、氷の塊がどろりと溶けた。

既視感を感じるが、先程とは違い、下に流れ出てはおらず俺の掌に引き寄せられるように浮いている。


試しに翳した掌を横に動かしてみると、伸びるように掌を追ってきた。

確かに操れてはいるが……。


「これじゃ、攻撃はできないね」

「……そうですね。どうやら私の意思で消すこともできなくなってしまうようです」

「そっか……元に戻すスキルもないし……そのうち消えるかな」


大きく溜息を吐いて、溶けた鉄を入れているボウルにべちゃりと落とす。

操るというだけあって、落とそうと思えばその先ついてくることはないようだ。


「……ん?」


ボウルの中が薄っすらと光っている気がする。


「……【融合】!」


ボウルにころりと金属が転がる。

気のせいじゃなければ他の鉄と比べて少し青みがかった色をしている気がする。

溶けた氷晶弾は……ない。


慌てて鑑定してみると『氷晶鉄☆3:冷気+2』と表示された。


「ジオン! これ、氷晶鉄だって、冷気+2って」

「本当ですか!?」

「うん、本当だよ。見て、ちょっと青くなってる」

「確かに……ですが、鉄に付与なんて……。

 本来、付加効果はモンスターの素材で付けるか完成品に【付与】スキルを使用するかで付与するものです。

 例えばポイズンラビットの角を使って毒効果を追加するとかですね」

「なるほど」

「モンスターの素材にしても付与スキルにしても絶対に付与できるというわけではありません。

 素材からの場合はある程度成功率を上げる方法がありますが、付与スキルはどうなんでしょうね。

 それと、付与スキルはある程度の付与効果を選ぶことはできますが何が付くかは基本的にわかりません」

「……これって凄いスキルなんじゃ……」

「間違いなく、強力なスキルですよ。

 もう1度試してもらっていいですか?」


頷いて、近くにある鉄を熔解する。

容器に入れる必要があるのかも試したいので、机で溶けて広がっている状態のままにしておく。

ジオンのクールタイムを待って、氷晶弾を魔操で操り溶けている鉄に重ねて【融合】。


「……氷晶属性+2だって」

「なるほど。こちらも何が付くかは運ということですね。

 ですが、恐らくその属性に近い付与が付くと思いますので付与スキルよりも付与効果を狙いやすいかと。

 あとは、これを使って作る武器がどうなるか、ですが」

「いくつかやってみる。鉄でいい?」

「はい。刀は作れませんが、肩慣らしも兼ねて短剣を作ります。

 5個必要ですが大丈夫ですか?」


熔解、魔操、融合の1セットでMPの消費は60。

さっきからの実験で使ったMPが200で、今残ってるMPは120だから2回分だ。

《初心者用マナポーション》は最初に貰った時のまま5個残っているが、1つ30しか回復しない上にクールタイムがある。


「んん……あ! 【魔力回復】ってスキルがあったけど、これってMP回復が早くなる?」

「はい。そうですね」

「覚えるから待ってて」


早速SP5を使用して【魔力回復】を取得する。

取得してすぐに一気に回復するわけではないので、《初心者用マナポーション》も飲む。


ジオンのクールタイムを待ちつつ、俺のMP回復も待って、3つの氷晶鉄を作る。

それぞれ『冷気+1』、『氷晶属性+2』、『耐寒+2』の付与が付いている。


「耐寒は、武器にはいらないよね?」

「金属は鎧でも使いますからね」

「それなら、これは使わないかな。もう1つ作ろう」


暫く回復を待って再度作った氷晶鉄は『沈黙+2』だ。


「ふむ。冷気と沈黙は状態異常ですね。

 数値が高くなればなるほど状態異常の成功率が上がります」

「なるほどね。2や3じゃほとんど入らないかな」

「そうですね。ですが、氷晶属性は攻撃力に関わりますよ。

 魔刀術でなくとも攻撃に魔法ダメージが乗りますので」


つまり、俺のようにSTRが低くても攻撃力が出せる。


「装備条件のSTRをライさんに合わせつつ、攻撃力を上げるにはと考えていましたが……解決できそうです」

「鬼神でよかった~!」


鬼神を選んでなければSTRは普通にあっただろうけれど、それは言わない約束ってことで。

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