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day96 探し物

崩れた建物を前にむくむくと罪悪感が膨れ上がる。

瓦礫掃除と言えば聞こえは良いが、火事場泥棒のほうが近い。


「ここがいいかな?」

「宝さがしー!」


シアとレヴは安全第一と書かれたヘルメットを被って、気合は充分だと言うように小さなスコップを持った手を挙げた。

元気なのはシアとレヴだけで、他の皆は顔に罪悪感を浮かべている。


ヘルメットはトーラス街で買っておいた。

人数分買おうかと思ったけど、リーノとシアとレヴの分だけだ。

俺やジオン、フェルダには角があるのでヘルメットを装備することができない。

角がある人用のヘルメットもこの世界にはあるらしいけど、トーラス街では見かけなかった。

リーノのヘルメットは3,500CZ。シアとレヴの子供用ヘルメットは2,800CZ。

お求めやすい値段だけど、防御力もそれなりにあり、装備条件もない。


アクセサリー扱いなので、装備ウィンドウで指輪を装備解除してヘルメットを装備設定しておいた。

アクセサリー枠は3個だけど、フェルダのように装備としてではなくお洒落としてあちこちにアクセサリーを付けることは出来る。

4つ以上のアクセサリーを付けている場合、数値が高いものが優先的に3つ選ばれて自動で装備に設定されるが、手動で設定することもできる。


「シア、レヴ。この家に来た理由ってあるの?」

「「おっきな家だから!」」


シアとレヴがこっちこっちと連れてきてくれたのは、この集落で一番大きな家だった。

他の家よりも被害が大きいところを見るに、最後はここに皆逃げ込んだのではないかと予想出来る。

2階部分はほとんど崩れていて、大きな瓦礫が辺りに落ちている。


「……よし、探そうか」

「そうですね……ここまで来たら止まるわけにはいきません」


精霊の呪いに対抗できる呪いがあるのかないのか、探してみなければ分からない。

今の俺達の道はここに続いている。ここで途絶える可能性もあるけれど。

そうなったらもう、精霊の集落に乗り込む他ない。


中から押さえられているのか、扉から中に入ることは叶わず、扉の横の崩れて穴が開いた壁から中に入る。

壁際には机や棚などが積み上げられており、それが僅かでも壁を厚くして中への被害を減らそうとした跡なのだと分かる。


「ライくーん」

「本あるよー」


この光景を前に立ち竦む俺達とは違い、シアとレヴはいつも通りどころか、宝探しを楽しんでいるようだ。

ぐぅと呻き声に似た音が漏れ出る。


「気を付けてね。怪我しないようにね」

「「はーい!」」


どうやら瓦礫の下に本を見つけたらしいシアとレヴが、しゃがみ込んで瓦礫を除け始めた。

俺達は顔を見合わせ頷いて、シアとレヴの傍に向かう。

比較的瓦礫の少ない場所にあったその本は、少し瓦礫を除けただけで手に取ることが出来た。


「えーと……小説みたいだね」


瓦礫の下に埋もれていた本は縒れていて、煤けている。

表紙を軽く払い、中に書かれた文字を流し見れば、大衆小説であろうことが分かった。


「後の事を考えてある程度は片付けておきましょうか」

「そうだね。出る時に崩れたなんてことになったら大変だもんね」

「片付けながら探すしかねぇな」


大きな瓦礫をフェルダが移動させ、小さな瓦礫を俺とシアとレヴで片付ける。

俺達が移動させた大中小様々なサイズの瓦礫は、ジオンとリーノに外へと持ち出してもらう。


いくつか見つかった本は全て目的の本ではなかったので、一か所に集めておいた。


「うーん? こっちかなー?」

「ボクもこっちだと思う」


ある程度の瓦礫が片付け終わると、シアとレヴが別の部屋へと移動して行く。

辿り着いた部屋は先程の部屋よりは荒れていない。とは言え、2階から落ちてきたのであろう瓦礫が転がっている。

恐らくリビングだったのだろうけど、先程の部屋に動かした為か、家具はほとんど見当たらない。


「目的地があるの?」

「うーん……」

「わかんない……」


何か薄らと思い出しているのだろうか。

つい先程まで本を探そうと地面を見ていた2人は、今は辺りにきょろきょろと視線を彷徨わせている。


「……ま、道作ろうか」

「そうだね。その方が良さそう」


捜索は程々にして道を作る事に専念する。

時折パラパラと頭上から細かい瓦礫が降ってくるので、その度に上を見上げて安全を確認しながら片付けを進めていく。


道が出来た頃、シアとレヴがぎゅっとお互いの手を握って、次の部屋へと進んで行った。

後を追えば、物は散乱しているが、瓦礫はあまり落ちていない部屋に辿り着いた。


「壊れちゃってるね」

「これは使えないねー……」


シアとレヴが鋳造用の炉の前で哀しそうに溢す。

ここは作業場だろうか。シアとレヴが使う道具に良く似た物が転がっている。


散乱した本を1冊手に取る。どうやら鋳造の本のようだ。

ちらりとフェルダに視線を向けると、フェルダは頷いて、倒れた本棚を起こした。

散らばった本を1冊ずつ、丁寧に本棚へ収めていく。

鋳造の本、鉱石の本、細工の本。そして各地の装飾についての本等、ここで鋳造が行われていたのであろうと察せられる本ばかりだ。


あちこちに散らばる本を皆で丁寧に本棚に運んでいく。

部屋の隅に落ちた本を手に取り、一歩踏み出した瞬間、足元からミシリと音がした。


「ライさん!!!」


何か踏んでしまったかと視線を下に動かすより先に、ガラガラと足元が崩れ落ち、俺の体は吸い込まれるように落ちていく。

慌てて頭を庇うも、けたたましい音に包まれながら、俺の体は瓦礫と共に地面に叩きつけられた。


「いったぁ……はぁ……良かった……」


意識があることに安堵の息を漏らす。

HPは減ってしまっているが、生き埋めでリスポーンなんてことにならなくて良かった。


とは言え、俺の周りは瓦礫で埋まってしまっていて、何も見えない。

頭上の瓦礫をどかそうとするも、悲しいかな。俺ではぴくりとも動かすことが出来なかった。


「ライ! 無事か!?」

「助けてぇ~……!」


思っていたより情けない声が出る。


瓦礫の向こう側からトンっと地面を叩く音が聞こえた。

誰かが下りてきてくれたようだ。


「いやー……運が良いと言って良いのか……」

「フェルダ! 助けて!」

「ん、待ってて」

「どうですか!? 降りて良いですか!?」

「ん、降りてきて大丈夫だよ。ライを踏まないようにね」


続けてトン、トンと誰かが下りてくる音が聞こえてくる。

恐らくジオンとリーノだろう。


「ライくーん!」

「大丈夫ー!?」

「大丈夫、大丈夫」


ゴトリゴトリと俺の周りの瓦礫が1つずつなくなっていく。

撤去された瓦礫の間から、頭を出す。


「死ぬかと思った!」

「無事で何よりです……」


ひょいとフェルダに持ち上げられ、瓦礫の外へと出される。


「助けてくれてありがとう」

「焦ったぁ~! 急に落ちんのやめてくれよなー!」

「不可抗力だよ……」


ポーションを飲みながら辺りを見渡し、ぱちりと瞬く。


「なるほど……運が良いと言って良いのか……不幸中の幸い、かな」

「多分、ここだね。2人の目的地」


決して広くはないこの部屋には、ぎっしりと本が並べられた本棚や見た事のない素材の入った棚が置かれていた。


「地下室……と言っても、上に繋がる道ないね。

 落ちる以外にくる方法あるのかな」

「さぁ……何か仕掛けがあるんだろうけど。

 シア、レヴ、降りてきて良いよ。1人ずつね。受け止めるから」

「「はーい!」」


天井に空いた人1人分程の穴から降りてきたシアを、フェルダが受け止める。

シアを地面に降ろすと、次にレヴを受け止めた。


さて、この部屋に俺達が求める本はあるのだろうか。

一冊の本を抜き取り、ぱらりと本を開くと、中には呪言について書かれていた。

エルムさんの家で見た本以上に詳細に書かれている。


「うん! ここだね! 皆で手分けして探そう」

「「はーい!」」


呪いや解呪の本は背表紙や表紙に何も書かれていないことが主流のようだ。

中を見るまで何もわからないので、1冊ずつ確認する必要がある。


羊皮紙と人数分の羽ペンをアイテムボックスから取り出して、皆に渡しておく。

羽ペンはヘルメットを買った後に、文房具屋さんで全員分買っておいた。

ついでにお絵描きが大好きだったと言うシアとレヴの為にスケッチブックと色鉛筆、クレヨンも買った。

どうやらこの世界では羊皮紙より紙のほうが高いらしい。


「んあ、これエルムの婆さん家で見た本だな」


これだけたくさんあると被ってしまうのも仕方ないだろう。

呪言について書かれた本を読み進める。

呪毒、呪痺、呪火、呪闇……シアとレヴがこの先覚えるであろうスキルだ。

呪言では精霊の呪いには対抗できないようなので、さらりと読んで要点だけメモしたら本棚に戻して、次の本を抜き取る。


頁を捲る音と羽ペンが文字を綴る音、時折本の内容について話す声だけが聞こえてくる。

1冊確認したらまた1冊。全員で順番に1冊ずつ確認していく。

この数日で本を読むスピードが上がった気がする。いや、斜め読みのスピードだろうか。

ざっと読んで気になる単語が出てきたら視線を戻して読み込んで、メモする。


「これは多分、禁術かな。ヤカのとこで見たやつに似てるけど」

「海の呪い……体内が徐々に海水になる……?」


この呪いは体内全てが海水になるまで続くようだ。最後は死に至るとして、途中経過はどうなるのだろう。

例えば血液が海水になったとして……血液と海水って似てるんだったかな。

人体の構造について詳しくないのでわからないけど。


「どうやら水に関係する呪いが多いようですね」

「それと海の中の魔物に対する呪いだなー」

「使う素材も海の中で採れるものがメインみたい」


エルムさんの家やヤカさんの家で見た本と同じ本もあったが、それ以外は3人の言う通り水に関する呪いや海中で使う事を前提とした呪いが多い。

もちろんそうじゃない本もあったけど、ほとんどがそれだ。


「あ、これ遺物の本だな。

 なに書いてんのか全然わかんねぇや」

「宝典まであるの!? 凄いねこの部屋……」

「多分、集落の長の家なんだろね」

「なるほど……」


だとしたら、この部屋にくる方法は古の技術なのだろうか。

リーノの持つ本を覗き込んでいると、はらりと1枚の紙が落ちてきた。

小さく切られた羊皮紙のようだ。


手に取り、そこに文字が書かれている事に気付いて、文字を追う。

慌てて書かれたのだろうその文字は、乱雑で読みにくい。

そこには、この紙を見つけた人へのメッセージが書かれていた。


『悪用しない者が見つける事を願っている』


そう最後に綴られた文字を読んで、顔を上げる。


「……全部、持ち出さなきゃ」

「全部、ですか?」

「この部屋の本や素材を全て持ち出して、隠して欲しいって書いてる。

 無理なら、燃やして欲しいって」


恐らく集落の長が最後に残した手紙なのだろう。

ジオンに手紙を渡して、辺りを見渡す。

一つずつアイテムボックスに入れるのは無理だ。棚ごとアイテムボックスに入れるしかない。


手紙を読んだ皆が俺を見て頷いた。

それぞれが手に持っていた本を本棚に戻し、床に落ちてしまっていた本や素材を片付けていく。

羊皮紙と羽ペンもアイテムボックスに入れておこう。ここではもう使わない。


「ライ、多分どこかに遺物がある。見つけられない?」

「んん……魔力感知してみる」


魔道具の魔力だって凄く集中して見ればもやのように見えるのだから、遺物の魔力だって見えるかもしれない。

部屋の隅々まで、見落としのないように視線を送る。


「壁の中!」

「あー……さすがに壊すわけにもいかないし、一旦保留だね」


片付いた部屋を見渡し、近くの本棚に手を添える。


『取得権があります。取得しますか?』


『はい』と表示されたウィンドウを選択すると、目の前から本棚が消えた。

アイテムボックスに《本棚》が追加されていることを確認して、部屋の本棚と棚、棚に入りきらなかった素材をアイテムボックスに入れていく。


「……この本棚が最後だね」


ふと目に入った色に、手を伸ばす。シアとレヴの瞳の色によく似た色の本だ。

表紙を開き、ぺらりぺらりと頁を捲っていく。

書かれた内容に、自然と口角が上がった。


「……見つけた! ネーレーイスの呪い!」

「おっしゃ! 任務完了だな!」


最後の本棚をアイテムボックスに入れる。

ネーレーイスの呪いについて書かれた本は別に入れておいた。

アイテムボックスはもうぱんぱんだ。全部入って良かった。


「後はヤカさんに相談しないとね。この部屋の本と素材のことも」


悪用するつもりは一切ないけど、だからと言って俺が持っていて良い物とも思えない。

一番良いのは、他のネーレーイスの集落の長に渡す事なのだろうけど。

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