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day92 呪術スキル

今日も今日とて呪いと解呪の勉強だ。

昨日は呪いの確認を追えた後、約2時間程しか勉強できなかったけど、今日は朝からエルムさんの家に訪れて勉強している。

途中一度お昼ご飯を食べに出かけた以外はずっと書斎に籠っている。


「ライくん、読める?」

「うん、読めるよ。シア、レヴ、ありがとう」


読んでいるだけじゃ忘れてしまいそうだったので、本を読みながら気になった部分や覚えておいた方が良さそうな部分、あと、個人的に気になる呪いの手順について、そしてその解呪の手順等を羊皮紙にメモしておいた。

俺がそうして羊皮紙に書いている姿を見た皆も、俺と同じようにメモを残してくれていた。

皆のメモと俺のメモを眺めながら、更にもう1枚羊皮紙を広げて、纏めていく。


情報を纏めるのは結構好きだ。

特別勉強が好きと言う訳でないけれど、綺麗に纏められると達成感がある。


「こうして調べていると、呪術を取得したような気になりますね」

「あはは。あ、でも、呪術スキルがなくても、簡単なのなら出来るんだっけ」

「初歩の初歩なら出来るみたいだね。……や、異世界の旅人だとどうなるんだろ」

「試してみる? って気軽に言えるものじゃないね」

「だなー! あ、魔物相手なら良いんじゃね?」

「最終的に倒しちゃうとは言え、呪うのは可哀想……いや呪言使ってるんだから一緒か。

 一定時間くしゃみが出続ける呪いとかかけてみる?」

「ふふ。必要な道具が集まりますかね」

「くしゃみの呪いは確か……対象者の髪……無理そう」

「おひげじゃだめー?」

「どうかなぁ」


簡単な呪いなら必要なアイテムを揃えて手順を踏めば、呪術スキルを持っていなくても可能らしい。

解呪も同じく、簡単な呪いの解呪ならスキルがなくても可能のようだ。

ちなみに、呪いも解呪も呪術スキルだ。


呪術スキルは呪いや解呪が使えるようになるだけで、自分で新たに生み出すか、こうして調べて覚えなければ使えないみたいだ。

逆に言えば、知っているならどんな呪いや解呪も出来る。必要なアイテムを集めることが出来れば、だけど。


シアとレヴの呪言は特別で、アイテムも手順も必要なく、スキルを使うだけで呪いをかけることができる。

それに、黒炎属性や刀術のように、スキルレベルを上げたら新たなスキルが使えるようになる。


「呪いと魔道具を組み合わせたりできるのかな」

「それは……凶悪な魔道具ができそうですね」

「怖いよね。使う機会はなさそうだけど」

「祭りなら使えるんじゃねぇか?」

「呪いを撒き散らす……? 組み合わせ方がわかんないや。

 考えてる内にお祭り当日になっちゃいそう」


エルムさんなら知ってるだろうけど、イベントまでは魔道具に関わる質問ができない。

出来るかどうかも分からない事を試すより、罠や他の魔道具を作ったほうが良さそうだ。


これまでに調べた結果、呪いは大まかにわけて2種類。

対象者に害を為す呪いと為さない呪いの2種類だ。圧倒的に害を為す呪いのほうが多いけど。

それに、害を為さない呪いも場面によっては害を為すような呪いが多い。

例えば泣いている人を泣き止ませる呪いとか、眠れない人の眠気を誘う安眠の呪いとか。

安眠の呪いは状態異常の睡眠とは違い、なんか眠いなってなる程度のものらしい。


永遠に続く呪いもあれば一時的な呪いもある。

精霊さんにかかっている呪いは間違いなく前者だろう。

期間が長ければ長いほど、そして強力な呪いになればなるほど、必要なアイテムは手に入り難い物になるし、手順も複雑になる。

必要なアイテムは聞いたことのないアイテムばかりだった。悪魔の左目、とか。


解呪だと強力な呪いになればなるほど手順は複雑になるけど、アイテムはそこまで入手困難な物ではないらしい。

まぁ、こちらも俺は聞いたことのないアイテムばかりなのだけれど。

呪いに使うアイテムはなんというか、黒魔術って感じの名前が多かったけど、解呪のほうは植物が多そうだ。

先日種を手に入れた朝露草の文字も見かけた。


精霊の呪いについて見つけた情報は、エルムさんが言っていた事と変わらず、精霊にしか使えない強力な呪いだと言う事しかわからなかった。


「んー……こんな感じかな」


カリカリと羽ペンを走らせ、ここまで調べた事を纏め終えると同時に、ピロンと音が鳴った。


「……うわ、俺呪い使えるかも」


通知音と共に現れた文字に顔を顰める。


『【呪術】スキルの取得条件を満たしました』


魔道具製造スキルの時と同じだ。

なるほど。こうして調べて一定の知識を得ることで解放するスキルもあるようだ。

……生活魔法も覚えられるのではなかろうか。


「取得するのですか?」

「覚えよう、かな。解呪するのに必要だろうから。

 解呪の方法わからないけど……」


必要SPは20。魔道具製造スキルと同じだ。

一定条件で解放するスキルのSPは20なのだろうか。


早速覚えてステータスを確認すると『スキル』に呪術が追加されていた。

シアとレヴの呪言は『戦闘スキル』だったけど呪術は違うようだ。

スキルレベルはなし。知ってさえいればなんでも使えるのだから、スキルレベルは関係ないのだろう。


「普段使いが出来るようなスキルじゃないし、少し勿体ない気がするね」

「だなぁ。簡単な呪いでも結構めんどくせぇし、呪いって大変だなー」

「呪いより解呪で使うスキルだね。呪い師の仕事も基本は解呪」

「そんなに呪われる人がいるの?」

「呪ってくるのは何も人だけじゃないからね。魔物からも貰うし」

「なるほど……呪ってもなんのお咎めもなし?」

「呪術を使える方が少ないですからね……それに、呪いを知る機会なんて、そうそうありません」


エルムさんは普通には手に入らない本をどうやって手に入れているのだろうかと不思議に思う。

伝手があるのだろうけど……呪い師さんの知り合いがいるのかな。


「うーん……呪いと解呪の事は多少理解できたけど、精霊の呪いについては進歩なしだね」

「そうですね……」


全員で溜息を吐く。

これまでと違って、テイム出来たら終わりってわけじゃない。

完全に専門外の事なので手立てがわからない。


「手あたり次第、書斎の本読んでみるしかねぇかなー」

「交渉材料なしに精霊の集落に行ってみる?」

「やめたほうがよいかと……」

「そっかぁ……」


コンコンとノックの音が響き、ガチャリと扉が開いた。


「何か見つかったかね?」

「さっぱりだよ。あ、でも呪術スキル覚えたよ」

「なんだと? 異世界の旅人は、本当にとんでもないな。

 おや、これは君が纏めたのかね? ほう……よく纏められている」

「へへ、ありがとう。纏めておかないとすぐ忘れちゃうから、俺。

 ね、エルムさん。呪い師さんの知り合いとか……いたりしない?」

「いるにはいるがね……忙しいやつでな。なかなか連絡が取れない。

 君達が書斎に籠っている間に手紙は送っておいたが……」

「わ、手紙送ってくれてたの? ありがとう」

「あまり期待はするな。いつ返事がくるかもわからん。

 私の予想では祭りがとうに過ぎた頃に返ってくるだろうと思っている」


うぅんと小さく唸ったエルムさんは、宙を見て、あっと小さく声を上げた。


「そうだ! あいつがいるじゃないか! あいつならここにない本を持っているはずだ!」

「えーと?」

「ヤカさ。魔石屋のな」

「あ!! ヤカさんのところに行かなきゃいけないんだった!」

「ほう? ならば、善は急げだ。

 あの店は20時まで開いているから、まだまだ間に合うぞ」


現在の時刻は『CoUTime/day92/18:22』だ。急いで行こう。


「それじゃあ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。またいつでも来い」


取り出していた本を本棚に入れ、散らばった羊皮紙と羽ペンをアイテムボックスに入れる。

借りていた皆の分の羽ペンはエルムさんに返して、早速ギルドへ向かう。


行き先はアクア街だ。

アクア街の観光はあまりできていないし、イベントが終わったらゆっくり観光したいな。

先日辿り着いた村……薬師の村もギルドに行っただけで全然観光していないし。

名前から予想するに、調薬が盛んな村なのだろうけれど。


転移陣で辿り着いた先、アクア街のギルドから出て、魔石屋への道を進む。

扉の兎とじっと見つめ合ってから、扉を開いた。


「……ああ、ライ。魔石?

 連絡くれたら用意しといたのに」

「今日はヤカさんにお願いがあってきたんだ」

「僕に? なに?」

「今度のお祭りに、俺と一緒に参加してくれないかな?

 俺のクランではないんだけど……」


俺のクランのサポート枠に入ってくれたガヴィンさんの事、それから同盟クランである生産頑張る隊の事を話す。


「婆さんは?」

「エルムさんは参加禁止って言われちゃったみたいで……」

「それはそれは……暫く近付かないほうが良いね。

 絶対機嫌悪いやつじゃん」

「あー……怒ってたね」

「だろうね。祭りかぁ……見に行くのは良いけど……」

「難しい?」

「ライに言うのもなんだけど、異世界人に積極的に関わりたくはないね。

 異世界人じゃなくても気味悪がられるのに」

「気味悪がられる……? 格好良くて優しいお兄さんだけど……」

「は? ないない。ないね。どんな印象よ。

 お兄さんって歳? でもないし。

 ああ、でも見た目はそうなるのか?」

「うん?」


年齢がびっくりするくらい年上っていうのは、この世界ではよくあることだろうから、気にしたことはあまりない。

とは言え、ヤカさんの今の発言は若干引っかかる。


「あー……や、気味悪がられるから、あんま言いたくはないんだけど……。

 まぁ……婆さんの弟子なら、大丈夫か……?」

「あ、いや、言いたくない事は言わなくて大丈夫だよ」

「んー……僕、リッチなんだよね」

「へ? ……ん!? えっと、それって、いき……生きて……?」

「死んでる死んでる。まぁ、厳密には違うけど」

「えっと……俺の世界のイメージでは、リッチって、骨……スケルトンみたいな、そういうイメージなんだけど」

「魔物はね。あー……まぁ、亜人のリッチは生者寄り、魔物のリッチは亡者寄りって思ってたら良いよ」

「へぇ~! そうなんだ……! わー! 握手できる?」

「そんな反応……? できるけど」


差し出してくれた手とカウンター越しに握手をする。

ヤカさんの手は氷のよう……とまではいかないけど、ひんやりとしていた。


「幽霊かなんかと勘違いしてない?

 言っとくけど、ファントムも触れるからね」

「あ、そうなの? そっかぁ」


アクア街のギルドのお姉さんも、幽霊の話を聞いた時に『アンデッドやファントムではなく?』と言っていたので、幽霊が魔物として出てくるわけではなさそうだ。


「気味悪いでしょ。死人が歩いてるようなもんだし」

「全然! あ、でも、後ろから大きな声で驚かされたら叫ぶと思う……」

「それは僕もびっくりする。……あっそ。

 ……良いよ。ライのクランのが良かったけど、まぁ、当日一緒ならそれで」

「やった! ありがとう!」

「ライが一番信頼してる相手に、うちの店教えといて。

 面倒だからあんま広めないでって言っといてくれる?」

「ん、わかった。カヴォロって友達に伝えておくね」


早速カヴォロに了承が取れた事をメッセージで送っておく。

カヴォロがこの店に来てサポート枠の招待が出来るかはわからないけど、そこはカヴォロがなんとかしてくれるだろう。


「参加するだけで報酬あるらしいし、上位に入れたら追加で貰えるっぽいから、楽しみにしとくよ」

「そうなの?」

「知らなかった? じゃなきゃ参加しないでしょ。

 ギルドの依頼からなら、依頼金も貰えるみたいだけど……ま、お互い知らない相手だし、色々あるよね」


サポート枠、か……これからお互いの印象が変わったら良いなと思う。

この世界の皆は、俺達プレイヤーにあまり良い印象を持っていない。

最初からそういう設定だったとは思えないし……まさかとは思うけど、βの頃に大喧嘩とかしたのだろうか。


「魔道具作んの?」

「そのつもりだよ。エルムさんに罠の作り方の本、借りたんだ」

「あの婆さん、そんなの隠し持ってたのか。

 封印前の魔石持ち込んでくれたら、基本属性の魔石の心配はしなくて良いよ。

 進化属性は……まぁ、少しなら。さすがに商品全部は持ち込めないけど」

「良いの? あ、ちょっとだけ、期待はしてたんだけど……」

「当然。参加するなら、上位狙うよ」

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