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day82 古の技術

「読めるかい?」

「ううん、さっぱり」


中に書かれている文字は絵のようで、どこかで似た文字を見た事を思い出す。


「招待状の文字に似てるね」

「招待状も、古の技術で造られたものだからね。

 私達にもほとんど読めていないんだ。長い年月の中で、代々の長が研究しているのだけれど。

 このページを見て」


示されたページには宝石の絵とエルフの絵が描かれている。


「そしてこれが、代々の長の研究結果を纏めた研究書だ。

 本当にこれが正しいかはわからないのだけれど」


エアさんはもう1冊の本を開き、宝典の隣に並べた。

こちらの本の文字は読める。似た絵と一緒に、凝固についての話が書かれている。


「えーと、古の技術で使用されたと思われる凝固は……現在ではハイエルフのみが所有し得る……」

「そう、そしてこの部分……凝固された宝石についての部分を見て欲しい」


エアさんの視線を追い、研究書のページに視線を移動する。

そこには、凝固された宝石を実際に手に入れたこと、その経緯、それからその宝石について書かれていた。

経緯については、どうやらハイエルフに何度も頼んで、その上とんでもない額を支払って手に入れたらしく、まぁ、なんというか……若干嫌味を含んだ内容になっていた。

それはともかく、その宝石を使って指輪を作ろうとしたが、それを扱える者がいなかったと書かれている。

道具が壊れてしまい、誰一人として加工をすることが出来なかったそうだ。


「……スキルレベルとか?」

「んー……それだと、俺がライの融合した鉱石を使えないね」

「あ、そっか。俺と兄ちゃんの共通点……上位種族?」

「魔操……かな。属性が封印された鉱石や宝石、もしかしたら他にも素材に封印できるスキルもあるかもしれないね。

 そういう素材は魔操が使える人にしか扱えないってことじゃないかな?」

「なるほど……だったら、ジオン達が扱えるのは、俺の従魔だから?

 ……あれ? エルムさん、普通に扱えてたよ」

「うん? ん!? もしかして、凝固された宝石をかい!?」

「うん……あ、でも、宝石はエルムさんが直接扱ったわけじゃないかな?

 凝固された宝石じゃなくて、融合された鉱石なら、ぽいっと溶鉱炉に入れてたけど」

「融合?」

「凝固みたいに、鉱石に魔法を封印できるスキルだよ」

「……なんだって?」


エルムさんは融合についても知っていたけれど、どうやらエアさんはそうではないらしい。

融合について話すと、小さく唸りながら長い溜息を吐いた。


「……つまり、君の作った光球には、凝固と融合の2つが使われていると……?

 いや、光球については一旦、置いておこうか……。

 エルムが扱えた、か。宝典についてエルムには話しておくべきだったかな」


秘匿する理由は悪用とか色々あるのだろうけど、公表したほうが真相に近付けそうだと思うのは軽率だろうか。


「ハイエルフが凝固を使えるという情報自体は、ほとんど出回っていない高価な本ではあるけれど、知ることができないわけじゃないんだ。

 私も一応、研究の参考になるかと、読んだことがある」

「確かに、エルムさんも本で見たって言ってた。それに、融合の事も知ってたよ。

 真偽は不明だって言ってたけど」

「エルムなら持っていても不思議ではないね。

 ハイエルフに進化するエルフなんて滅多にいないから、真偽は不明だ。鬼神もそうなのではないかい?

 けれど、宝典を知る者からしたら間違いばかりというわけではない」


エルムさんは凝固のことは知っていても、宝典の事は知らない。

宝典を知るエアさんは、エルムさん以上にその本から得る知識があるのだろう。


「ハイエルフが魔法を宝石に封印できるってことは書かれていたけれど、加工については書かれていなかった」


俺が渡した魔法鉱石が加工できないって事をエルムさんは知らなかったって事だ。

エルムさんとジオン達の共通点は……。


「共通点……尤?」

「尤……? 君達、尤を持つ者なのかい?」

「尤を持つ者はシアとレヴだな。

 俺は……両方。ジオンとフェルダは、尤を継ぐ者だ」

「そ、れは……すまない。そうか……。

 ……君達は聞きたくない話かもしれないけれど……」


エアさんは一度口を閉じた後、重々しく口を開いた。


「尤を持つ者、それから尤を継ぐ者は、一定数以上存在しないという説があるんだ」

「聞いたことあるね。世界中の尤を探して歩いたわけでもなし、本当かどうかわかんないけど」

「……事実、師匠がこの世を去る時にしか継げませんし、それに……1人しか継げませんから、あながち間違えでもなさそうです」


やっぱり、尤を継ぐ者は、尤を持つ師匠が亡くなってしまった後に継げるものだったようだ。

予想が当たっていたからって、喜ぶことは到底できないけど。


「尤は、遥か昔、それこそ古の技術が使われていた時代から、現在まで継がれてきたそうだ。

 そして、その説では、継ぐ者がいなかった場合、新たに尤を持つ者が生まれると」

「生まれながらに尤を持つ人は、ほとんどいないってエルムさんに聞いたよ」

「そうだね、極僅かしかいないそうだ。

 ……だからこそ、尤を継ぐ者になりたいと言う人はたくさんいる。それは、知らないからだ。

 尤について詳しく知るのは、それなりに職人として腕を磨いた時か、私のように友人にいるかさ」

「……俺なら、尤を継ぐより、極致を目指すけど……」

「そう。最初はそうでも、知ってから極致を目指す人は多い。

 ……けれど、知った上で師匠の死を望むような恥知らずもいないわけではない」


尤について、皆話し難そうにするわけだ。

俺に尤の話をしてくれたのは、エルムさんとガヴィンさん。実際にそれが起きた2人だ。

おまけにエルムさんは、命を狙う可能性のある俺に話したくはなかったのだろう。

天地がひっくり返ってもそんなことしないけど。


「属性が封印された宝石や鉱石を扱える者が、魔操を使える者と尤を持つ者、継ぐ者なら、納得は行く。

 どちらも、古の頃より存在し、また、古の技術で使用されたと思われる能力だ」

「なるほど……極致では無理なのかな?」

「さて……極致に至れる人も僅かだからね。年月だけでなく、本人の素質が何よりも必要のようだから。

 私個人としては、扱えるのではないかと思うけれど……極致は、尤に届いた者なのではないかと思うんだ」

「なるほど、尤に届いた者だとしたら、扱えそうだね」


尤を継ぐ前は極致だったというフェルダが、本当に凄い職人さんなんだと再認識する。

それに、ガヴィンさんも。ガヴィンさんは扱う事ができるのだろうか。

石工職人さんだから、鉱石や宝石は使わない……あ、色を付けるのに使うって言ってたかな。


「いやはや、君達には驚かされてばかりだね。

 しかし、この発見を研究者達に話すには……エルムにも話す必要があるね。

 2人は、どうかな?」

「俺は構わないけど……あ、エルムさんに任せる!」

「俺もライと同じで」

「そう……そこが一番厄介なのだけれどね。

 けれど、君達の事を思うなら、私とエルムの中だけで留めておいたほうが良いかな」

「そうなの?」

「ああ、研究者達に狙われる……囲い込まれる可能性があるからね」

「なるほど……」


怖い。お手伝いならともかく、囲い込まれるのはさすがに困る。


「んー……やっぱり、エルムさんに任せるよ」

「わかった。エルムとよく話し合っておくよ」


これが本当に大発見というのなら、研究者の人達は知りたい情報だろう。

だからと言って囲い込まれたくはない。

この世界の事を何も知らない俺ではどうしたら良いか分からないけど、エルムさんなら俺達が困るような事にはしないはずだ。


「エア、この宝典は何について書かれているのかな?

 凝固……ハイエルフについて?」

「いいや、迷宮の石についての宝典さ」

「なるほど……詳しく見ても良い?」

「構わないよ」


兄ちゃんはそっと、壊れ物に触れるように宝典を手に取り、ぱらりとページを捲った。

俺と同じく兄ちゃんにも、そこに何が書かれているかはわからないだろうけれど、絵だけでも分かることがあるかもしれない。

宝典とそれについて書かれた本を見比べる兄ちゃんの横から、ページを覗き込む。


「……この辺り、融合のことじゃない?」

「ん? あ、そうかも? この絵は他のページの宝石とちょっと違うね」

「研究書では触れられてないね。……あ、これは魔法陣……この当時の魔法陣は術式だっけ?」

「そうみたいだね。んー……あ、このシンボルは、エルムさんに貰った本に書いてあったのに似てるかも。

 似てるだけで、違うけど……やっぱり、魔道具って古の技術の名残なのかな」

「聞いている限り、そうじゃないかと思うけど」

「うーん……エルムさんが分からない事を俺が理解できるわけないね」

「はは、確かにね」


あ、でも、理解が出来なくても、なぞるだけならできるんだっけ。

さすがに俺のスキルレベルでは厳しいのかもしれないけど。


融合が使われていて、それから、核になっているのであろう宝石には凝固……それも何度も繰り返されている。

魔道具に近い装置だとしたら、魔石はどこにあるのかな。


「……これが魔法鉱石なら、術式をなぞるだけでは無理なのかな」

「ん? ああ、ライの《氷の宝箱》みたいな?」

「そうそう。兄ちゃんの魔法宝石のお陰で軽くできたやつ」


《氷の宝箱》に、後付けで風属性の魔法宝石を使って、《風の宝箱》と似た効果の魔道具を作ったように、魔法鉱石で効果を増やしたり、調整している可能性は高い。

魔法鉱石だけじゃなく、核になっているであろう凝固が繰り返されている宝石以外に、魔法宝石も使われているかもしれない。


「うん? その話、詳しく聞いてもいいかい?」

「うん、えっと……《氷の宝箱》は簡単に言えば冷蔵庫の宝箱バージョンなんだけど、物入れたら重くなるから、軽くしようと思って。

 《風魔石》と《氷魔石》の両方を使えたら可能なんだけど、俺のスキルレベルでは魔石は1つしか使えない。

 だから、風属性が付与された凝固された宝石……魔法宝石を使ってリーノに宝箱に細工してもらって、軽くしたんだ」

「そんなことが……魔法陣以外で魔道具の効果を上乗せできるのかい?」

「うん。エルムさんも知ってたし、魔道具職人なら知っていることなのかも」


俺が鬼神だと知って、融合が使えるなら炎属性が付与された鉱石を持っていないかと聞かれた覚えがある。


「……魔道具について詳しくないけれど、エルムを魔道具職人の基準にしてはいけないことはわかるよ……」

「うん……」


カヴォロにも魔道具に対する知識がずれていると言われたんだった。


「エルムの師匠は古の技術に最も近いと言われていた伝説の人だ。そして今は、エルムが。

 一般的な魔道具職人とは比べ物にならない程の知識と技術を持っている。

 きっと他の魔道具職人は知らない……付与スキルで可能とは知られているかもしれないけれど」

「付与スキルはほとんど使われないんだよね?」

「そうだね。使ったとしても微々たるものだから……それを可能にする魔法鉱石や魔法宝石、か。

 なるほど……それを知れば、これまでに理解できなかった箇所も繋がるかもしれない」


捲られたページに視線を向ける。


必要なのは、核になる魔道具。宝石だと言っていたけど、これは多分、魔道具と似た装置なんじゃないかな。

この魔道具は、凝固を繰り返し行える事と迷わせる効果のある術式が描かれている……と思う。

そして、術式だけでは不可能な事を、何かしらの付与がされた魔法鉱石を使って可能にしているのだろう。

実物を見たわけでもないし、どのように使われているのかわからないから、他にも何か違う用途があるのかもしれない。招待状についてもわからないし。


「ライ君、君なら作れるかい? 同じ物でなくとも、似た物を。

 レンにも手伝って貰って」

「うーん……無理かな。スキルレベルが足りないと思うし、それに、魔道具の知識も」

「エルムがいたらどうかな?」

「んん……融合できる属性が限られてるし、融合も凝固も進化属性が必要なんじゃないかって思う」

「なるほど……確かに、古の技術が基本属性だけで再現できるとは思えないね」


あの霧1つ取ってもそうだ。実際に霧が出ているのか、それとも幻なのか、どちらにせよ、基本属性で再現できそうにない。

特殊進化先に霧属性と幻属性があったとして、何と何の特殊進化なのか。

霧……水と火とか? んん……冷やすんだっけ……? 幻は……なんだろう。さっぱりわからない。


古の技術の再現なんて、凄く惹かれるけれど、難しそうだ。

いつか……遠い未来に、挑戦出来たら良いな。

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