表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/249

day73 新しい盾

「エルフの集落か。良いね。俺も連れて行って」

「もちろん! 寧ろ兄ちゃんに連れて行って貰うことになるんだろうけど」

「どうかな。ハイエルフでも大丈夫かはわからないよ」

「一番確実なのは、招待状なんだけど……エルムさんに伝手があったとしても貰えるかわからないよね。

 あと……パーティー組んでなくても大丈夫なのかな?

 兄ちゃんだけ残して俺達全員迷子なんてことに……」

「同行してたらパーティー組んでなくても大丈夫そうではあるけど……そうなったら大変だね」

「それもエルムさんに聞いてみよう」


招待状のこと、ハイエルフでも迷わなくなるのか、そして、パーティーを組む必要があるのか。

ログインしたら手紙を送っておこう。


「兄ちゃん達、クラン作った?」

「作ったよ。何人かβの頃からの知り合いも入ってくれた」

「βの人……うぅん、強敵だね。クラン名は何にしたの?」

「俺の種族特性の『鏡花水月』……来李は種族特性をクラン名にしたみたいだって話をしたら、俺達もそうなったよ」

「鏡花水月って確か、魔法攻撃力が物凄く上がる代わりに、魔法以外の攻撃スキルが使えないってやつだよね?」

「そう。それから、俺の防御力が紙になってるのもこれ」


俺や兄ちゃんのように拘りがないのなら、クラン名に使えそうな種族特性は多そうだし、考えつかない時にはおすすめだ。

秋夜さんのラセットブラウンはどんな理由で付けられたのだろう。秋夜さんが付けたわけじゃないと言っていた気がする。


「兄ちゃんの種族特性ってことは、クランマスターは兄ちゃん?」

「いや、朝陽だよ。朝陽の種族特性にしたらって言ったんだけどね。

 ちなみにサブマスターはロゼ」

「他のプレイヤーと関わる場面が多そうだもんね」

「そうだね。来李達は他に誰か誘わないの?」

「カヴォロには生産頑張る隊があるからなぁ」

「ふふ……そう言えば生産頑張る隊、今は生産職しかいないみたいだけど、戦闘職プレイヤーが加入したら脅威だって言われてるみたいだね」

「シルトさんもベルデさんも、凄い生産職プレイヤーだもんね」


シルトさんは、盾部門1位、防具部門でも3位だったそうだし、ベルデさんは木工部門2位。カヴォロは言わずもがな。

お披露目会の時は5人いるって言ってたけど、他の2人は何の生産職の人なのかな。

今は更に増えているかもしれない。


「クラーケンの時に集まった人がそのままいるなら、確か……縫物部門1位の人と、調薬部門2位の人がいるんじゃなかったかな」

「わ……なるほど。それは脅威だね」


料理、盾、甲冑、杖、弓、縫物、ポーション……それも、一級品とまではいかなくても、良い性能の物が用意できるということだ。

俺達のクランと合体したら、なんでも作れそうだ。空さんは1人で割となんでも作れそうだけど。


何にせよ、詳細が出ない事には何を用意するべきかもわからない。

レベル上げをしておけば問題はないだろう。


それに、イベントはまだまだ先だ。

今は哀歌の森に行くべく、頑張らなければ。





先日シルトさんの露店があった場所へと向かえば、シルトさんを見つけることが出来た。

露店はまだ開いていないようで、ベルデさんが開いている露店の傍でぼんやりとしている。


「こんにちは、シルトさん」

「あ! ライさん! こんにちは!」


ベルデさんにも挨拶をと思ったけど、たくさんのプレイヤーが集まっていて、忙しそうなので諦めた。


「盾、出来てますよ!」

「早いんだね。もしかしたら、まだかもって思ってたんだけど」

「昨日、《クラーケンの骨》を貰ってすぐに作り始めたので……なかなか良いのが出来たと思うんですけど」


そう言ってシルトさんは、《クラーケンの骨》で作られたのであろう波の装飾が一部を覆う、全体的に淡い青色の盾を取り出して、俺に見せてくれた。

海がモチーフになっている盾なのだろう。《クラーケンの骨》を使うと海のモチーフの盾が出来るのか、それともシルトさんが海をモチーフにした盾を作ったのか。


『マリンバックラー☆3

 防御力:34

 魔法防御力:33

 装備条件

 Lv25/STR27/DEF15/MND18

 効果付与

 耐水属性+4

 耐毒+2』


「わ、凄いね。こんなに強い盾を作ってくれて、ありがとう」

「いえいえ……! 《クラーケンの骨》あってのことなので……!

 えっと、この盾で、大丈夫ですか?」

「うん、これ以上ない盾だよ。是非、この盾を売ってください」

「はい! ありがとうございます!

 202,400CZ……あ、いや、3倍にしますね」

「ん……ううん、その値段で大丈夫だよ」

「でも、素材も売って貰ってますし……」

「シルトさんの頑張りに対する対価なんだから、気にしないで。

 それに、俺だけシルトさんから安く売って貰ったなんて知られたら、怒られちゃいそうだからね」

「そっ……そうですか……ありがとうございます!」


確かにこれまでの盾と比べて3倍近くの値段になっているけど、その分性能はぐんと上がっているし、使っている素材が違うのだから、当然だ。

取引ウィンドウに202,400CZを入力して取引を完了する。


「アイアンバックラーだと、この淡い青色の部分は木材だよね?

 これは、なんの素材?」

「木材ですよ。とは言え、青色の木材は……今のところ、見つかってないんですけどね。

 《クラーケンの骨》を使って作ると、何故か青色になるんですよ」

「なるほど……そういうこともあるんだね。確かに鉄の部分も青みがかってるね」

「そうですそうです。フィールドにいるモンスターの素材だと、色はつかないんですけどね。

 ライさんってヌシの素材を使って作った装備って、見た事ない感じです?」

「うん、見たことないね」

「ヌシの素材を使って作った装備も色が変わるんですよ。

 恐らくボス級モンスターの素材だと色が変わるんじゃないかと」

「なるほど」


魔法鉱石の色が薄ら変わるように、素材からの付与でも色が変わるのだろうか。


「《クラーケンの骨》を使って素材からの付与をしたの?」

「出来たらよかったんですけど、素材付与は失敗ばかりなので……。

 貴重な《クラーケンの骨》を使うのは勿体なくて、出来てないんですよね。

 耐水属性の効果付与は《クラーケンの骨》を使った装備だと必ず付くんですよ」

「へぇ、そうなんだ? なるほど、それは強い装備が出来るわけだね」

「そうなんですよ! ライさんに譲っていただけて、本当に良かったです」


《クラーケンの骨》を鑑定しても、付与数値が表示されているわけではないが、素材自体に耐水属性が隠しステータスとして存在している可能性はあるのではないだろうか。

《クラーケンの骨》だけでなく、他の魔物の素材にもありそうだけど、ボス級以外の場合は素材からの付与でなければ付与されない、とか。


「ヌシの素材から付与……素材付与? した場合はどうなるの?」

「勿体なくてしたことがないですね……変わるんですかね?

 ヌシだけでなく、素材付与は失敗ばかりなので、なかなか作れないんですよ。

 失敗しても、装備自体が壊れるわけじゃないのがせめてもの救いです」

「なるほど。付与スキルだと、色は変わらない?」

「……変わらない、ですね……」


そう言ったシルトさんは、何やら考え込むような素振りを見せた後、俺に視線を向けた。


「キャベツさんとそういう話、しないんですか?」

「ん……しない、かな? あ、でも、素材からの付与の成功率を上げるコツがあるって話は聞いたけど」

「え!? コツがあるんですか……!? そっか……! そうですよね……!

 付与スキルもコツがあるんだから、素材付与にもありますよね!」


そう言って、キラキラと目を輝かせるシルトさんの姿は、俺が黒炎属性を使えると知った時のエルムさんによく似ていた。

本当に生産が好きな人なんだろう。これまでもそうなんだろうとは思っていたけれど、コツを聞くわけではなく、コツを見つけてやろうと目を輝かせている所を見るに、本当に好きなんだという事が分かる。


「あ! 付与スキルの成功率を上げる方法、知ってますか?」

「ううん、知らないよ」


ジオンも付与スキルのことはわからないようだった。


「付与スキルにもコツがあるみたいなんですよ。

 まだまだ失敗も多いんですけど、最近は前より失敗しなくなりまして……ここだけの話……」


シルトさんは一度言葉を止めると、噂話をするように、口の横に手を置いて小さく口を開いた。


「付与する時に全体に満遍なくスキルを……じわじわと使うというか……」

「魔力を調整する感じ?」

「魔力……魔法弾ならそうなんですかね?

 優しくこうじわーっと。ふわーっと全体を包んだ後、ぎゅっとする感じで」

「……なるほど」


わかったような、わからないような。

どのスキルでもやはり魔力の扱いが肝になるようだ。


にこりと笑ったシルトさんは、こちらへ傾けていた体を起こす。


「……聞いちゃった後で言うのも申し訳ないんだけど、聞いて良かったのかな?」

「んふふ。実は誰かに聞いてもらいたかったんですよ。発見したぞーって。

 でも、何度も挑戦してやっと分かったことなので、ほいほい教えたくはないですし」

「シルトさんの努力の賜だもんね」

「うへへ……ありがとうございます。

 ライさんなら言っても大丈夫だって思ってて」

「うん、言いふらしたりしないよ」

「それもそうなんですけど、それに、ライさんには借りがあるので!」

「借り?」

「はい! 見向きもされていなかった私の露店で、盾を買ってくれたことです!」


それは借りとは言わないのではないだろうか。


「盾を買ったお礼ってこと?」

「借りです! お礼でもありますけど……やっぱり、借り、ですね」

「ん……シルトさんの力になれてたみたいで、良かったよ」

「はい! とても力になって頂きました!」


知らぬ間に人助けが出来ていたようだ……やっぱり、お礼じゃなかろうか。


「終わり! 終わりっす! 閉店!

 杖なんてそんな買い替えるもんじゃないでしょ!」


近くで上がった声に顔を向ける。

半ば強制的に露店を閉じたベルデさんは、残念がるプレイヤー達から逃げるように、そそくさとシルトさんの隣へとやってきた。


「ども、ライさん。お陰でお客さんいっぱいっすよ」

「? うん、忙しそうだったね」

「あー……なるほど……あ、もう細工してもらったんすね」


俺がログアウトしている間にリーノが細工したシアとレヴの持つ杖に、ベルデさんの視線が動く。


「キャベツさんの装飾って綺麗っすよね。繊細で、素人目にも凄いってわかるような。

 俺も細工覚えてるけど……センスがないんすよねぇ」

「細工って、スキルレベルが上がるとどうなるの?」

「あー……使える鉱石とか宝石が変わるのと……装飾のモチーフって言うのか……形?

 そういうのが、なんとなく分かるっていうか。

 だから、オリジナリティ溢れる装飾しようってなったら、結局センスが必要なんすよ」

「なるほど……大変だね」


例えば、この世界でよくあるような伝統の飾りなんかは、スキルレベルが上がることで、なんとなくわかるようになるってことだろうか。

カヴォロモチーフだったり、俺の刀に細工してくれるモチーフは、リーノのオリジナル……この世界でよく使われるモチーフが元になっているのかもしれないけれど、リーノの経験とセンスで作られたものだ。


「それじゃあ、そろそろ行くね。盾、ありがとう」

「あ、はい! 買い替える時はまた御贔屓に!」

「杖も、良かったらまた買いにきてくださいね」


さて、今日はトーラス街周辺で一日中狩りだ。

岩山脈で楽に戦えるようになれば、迷いの森には行けるだろう。

適正レベル自体はもっと高いと思うけど、これまでも適正レベル以上の場所を移動してきたことを考えれば、そう遠くない未来に迷いの森に辿り着くことは出来そうだ。

迷わなければ、だけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[気になる点] 鏡花水月って名称そのまま使ってて大丈夫なんですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ