day67 生産
「お邪魔します。広くなったね」
「兄ちゃんいらっしゃい!」
今日は生産の日だ。ここ暫く生産の日……それと、生産の為の素材集めの日が続いているけれど、金策の為にも頑張らなければ。
わいわい言いながら、同じ場所で生産する時間が好きなので、今日も楽しい1日になるだろう。
「君がフェルダだね。俺はレン」
「話は聞いてる。ライの兄貴だな」
「そうだよ。ライをよろしく」
フェルダが仲間になったことや、銀の洞窟に行ったこと、その他ここ数日で起きたことは、ログアウト中に兄ちゃんに全て話している。
ちなみに、兄ちゃんの話も聞いたけど、クラーケン討伐後のほとんどの時間は狩りをしていたそうだ。
岩山脈のヌシも倒したいとかで、弐ノ国で一番強い敵が出る岩山脈でレベル上げをしているらしい。
トーラス街側の岩山脈で狩りをしているらしいけど、ワイバーンの強さはカプリコーン街側でも、トーラス街側でも変わらないとのことだ。
「はい、これ。言ってたやつね」
「ありがとう、兄ちゃん! 助かるよ」
取引ウィンドウには《魔石》が40個と表示されている。
俺からは《帰還石》を10個、ウィンドウに並べて、取引を完了する。
今持っている全ての《帰還石》だけど、兄ちゃんに貰った《魔石》があるのでまた作れる。
「こんなに良いの? ありがと」
「街に帰るのが大変な時とか使ってね。
兄ちゃんだと、そんな場面あんまりなさそうだけど」
「はは、そうでもないよ。使わせてもらうね。
それで、凝固するんだよね?」
「うん! よろしくお願いします!」
様々な色の宝石が入った《風の宝箱:大》2つを兄ちゃんに見せると、兄ちゃんは少し驚いた顔をした後、笑って頷いた。
兄ちゃんに凝固して貰う為の、岩山脈と銀の洞窟で採った宝石達だ。凝固しない宝石は別の、先日家具屋で買った収納に入れてある。
「じゃ、早速していくね」
「うん! あ、魔法鉱石、好きなの使って良いからね」
「道具は使えそうですか?」
「んー……うん。ここにある生産道具で作れるよ」
「「レンくんの道具作りたい!」」
「あはは。うん、じゃあ、お願いね」
「良いの? ありがと」
「レンくん、どれー?」
シアとレヴが鋳型を持って、兄ちゃんと話をしている姿を眺める。
今日は、兄ちゃんの魔力銃も新調する予定だ。
狩りの合間に、エルムさんに貰った本や図書館の本を読んで、銃工のスキルレベルも上げていたそうだ。
それから、ギルドで生産依頼も受けたと言っていた。
自分用の銃以外は鍛冶場で数個作っただけらしいけど、エルムさんの言っていた通り、俺達の場合は、技能と知識、どちらかを向上させるだけでスキルレベルが上がるようだ。
ちなみに、スキルレベル上げの為に作った武器は、露店でもオークションでもなく、街で売ってしまったらしい。
「アタシたちはレンくんとカヴォロくんの作るねー」
「それから冷蔵庫も!」
「うん、よろしくね」
「俺は銀と金使って、全員分のアクセサリー作るぜ!」
「兄ちゃんのもお願いできる?」
「おう! 任せとけ!」
「俺は何しようかな……」
「んー……」
冷蔵庫の鋳型やティーポット、ティーカップは俺がログアウトして眠っている間に作ってくれていた。
カヴォロにお皿をプレゼントしても良いけど……揃えて用意しているだろうし。
「俺の炉、お願いできないかな?
持ち運びやすい、小さいやつが欲しいんだけど」
「うん! フェルダ、お願いね。
リーノも中に置く鉄板お願い」
「ん、小さいやつね」
「おう!」
「ありがと。これで外でもスキルレベル上げられるよ」
「私は武器ですね」
「うん、よろしく。あ、そうだ。オークションに出品しておかなきゃ」
皆がそれぞれ作業を開始したのを横目に見ながら、ウィンドウを操作していく。
まずは、これまで俺達が使っていたアクセサリーだ。
と言っても、俺がログアウトしている間に暇だったからと新しい色の宝石と付け替え少し弄ったとかで、俺達が使っていた時とは印象が変わっている。
ピアス、指輪、腕輪……全部で14個。
それぞれを街の買取価格の4倍で設定して出品しておく。
後は、エルムさんがきていた日と俺がログアウトしていた日に、ジオンが作ってくれた武器も出品しておこう。
俺がいない間に作った武器は、フェルダが鑑定して確認してくれたそうなので、俺が鑑定する必要はない。
スキルレベルを上げる為に鑑定しても良いけれど、今回はそのまま出品してしまおう。
「フェルダー」
「ん? あぁ、【闇纏】」
「ありがと!」
銀の洞窟へ向かう道中、それから前回生産した時に、闇弾を多く使って貰ったお陰で、闇纏を覚えることが出来た。
その結果、闇の魔石を作れるようになったので、魔道具の元になる冷蔵庫と炉が出来るまでは、《帰還石》を作ろう。
皆の魔法弾を融合、闇纏を封印しつつ、皆で生産をしていく。
「ライ、鉄板できたぞー」
「ありがとう」
鑑定して黒炎属性が付与されていることを確認して、魔法陣を描く為にチョークを手に取る。
前回の炉と同じで……と、思ったけど、兄ちゃんのスキルレベルを考えると同じというわけにはいかない。
一番楽なのは黒炎属性も《黒炎魔石》も使わないことだけど、兄ちゃんの炉だ。気合を入れて作らねば。
前回の魔法陣を改変しつつ、テストをしながら魔法陣を描いていく。
フェルダの様子を窺えば、2階から持ってきた岩を使って炉を組み立てている姿が見えた。
あれは何の岩なのだろうか。ガヴィンさんが使っていたようなマグマが固まった岩なのかな。
「リーノくん、こっちきてー」
「どした?」
「ここ、削って」
「おう。ここだな?」
シアとレヴが作った生産道具の調節をしてもらうようだ。
受け取った生産道具を持って、作業机へ向かったリーノは早速言われた箇所の調整を始めた。
「リーノ、こちらに置いておきますね」
「おー、頼んだ」
ジオンがリーノの傍の机に、完成したブレードを置く。
生産道具を調整しながらちらりとそのブレードに視線をやったリーノは、何かを思案しながら魔法宝石の入った宝箱に視線を移した後、手元へ視線を戻した。
恐らく、どんな細工にしようか考えていたのだろう。
「炉、出来たよ」
「ありがとう」
先程の鉄板を入れて、再度テストをしてみる。
「どうかな?」
「いいんじゃない?」
フェルダの返事に笑顔で頷いて、リーノに視線を向ける。
生産道具の調整が終わったようで、早速それを兄ちゃんに渡している姿を見つけた。
「リーノ、炉に細工お願いできる?」
「おう。フェルダ、一緒にやろうぜ」
「ん。じゃあ、そっち持ってく」
細工が終わってから、完成させよう。
《闇魔石》を手に取り、描きかけだった魔法陣の続きを描く。
スキルレベルが上がったから、前回作った時より使えるシンボル等が増えてはいるけど、考え直すのが大変なので、前回と同じ魔法陣だ。
ちまちまとぎっしり魔法陣を描いていく。
「リーノくん、できた」
「おう、やっとく!」
……リーノ、忙しいな。
どの生産品も細工できるので、引く手数多だ。
生産する時はいつもこうなってしまうので、売却用のアクセサリーの数はあまり多く作れていない。
アクセサリーが作れなくなってしまうのが申し訳ないと思っていたけれど、リーノ曰く、アクセサリーを作るのも好きだけど、装飾するのも同じだけ好きだから問題ないそうだ。
「冷蔵庫固まったー!」
「1個分できたよ」
「おっ、先にそっち終わらせるか」
ばらばらになった冷蔵庫を組み立てるのはリーノとシア、レヴでするらしい。
パズルのように、鋳造品を組み立てて行く3人の姿を見ながら、鋳造用の冷蔵庫の魔法陣が描かれた羊皮紙を手に取る。
今回は氷晶属性の《氷晶鉄》を使って作るので、前回の魔法陣とは違う、先日エルムさんに教えて貰いながら描いた魔法陣だ。
「組み立てと装飾、出来たぜー」
「うん、すぐに完成させるね」
エルムさんに教えて貰った魔法陣なら間違いない。
内部の床に魔法陣を描いて、《氷晶魔石》を使ってさくっと完成させてしまう。
出来上がった鋳造用の冷蔵庫……《冷却庫》は、シアとレヴの作業スペースに置いておく。
これで鋳造品の完成スピードが上がった。
その分、リーノの元へ次から次に生産道具やカトラリー類が置かれることになるけれど。
《冷却庫》の元になった箱は、冷蔵庫のような見た目だけれど、仕切りもなく、野菜室や冷凍室もない、1ドアの大きな箱だ。
冷蔵庫として使うなら、野菜室はともかく、冷凍室は必要だろうか。
そもそも、《冷却庫》と同じく氷晶属性+15で作ったら、食材はかちこちになってしまうらしいので、冷蔵庫と冷凍庫は別に作る必要がある。
カヴォロなら2つ作っても問題ないだろうけど、俺達の家には必要ない。そんなに入れるものもないし。
うちは冷蔵庫だけで良いかな。カヴォロには冷蔵庫と冷凍庫の2つを作ろう。
「ねぇ、仕切りって追加できる?」
「ぺらぺらで良いなら俺でも出来るけどなー物乗せるのには向かないぜ」
「フェルダくん、できる?」
「じゃ、こっちで仕切り作って、鋳型にしとくよ」
鋳型の元になった石工品や生産道具、道具はその後使うことは出来なくなるようだ。
かと言って、耐久度がなくなった時のように壊れて消えてしまうわけでもない。
売却は可能だけど、鉱石だろうと石だろうと木工だろうと0CZだった。
無料の不用品回収のようなものなのだろうか。回収した後、リサイクルする方法があるのかはわからないけど。
残しておいても邪魔になるので、これまで鋳型の元になったアイテムは、時間がある時に纏めて売却……基、回収してもらっている。
ちらりと兄ちゃんに視線を向けると、黙々と物凄い速さで融解、魔操、凝固を繰り返していた。
完成した魔法宝石がどんどん積み重なって山になっており、2個あった宝箱のうち1個はあと少しで空になりそうだ。
「わ、凄い」
「はは、まだまだあるから頑張らないとね」
俺達の会話を聞いたジオンが、振り向いて、魔法宝石の山を見てぎょっと目を見開いた。
「……魔法宝石、運びましょうか。
レンさんが使いたい宝石は避けておいてください」
「りょーかい。宝箱の中身出しとくね」
そう言って、兄ちゃんは片方の宝箱に入った残り少ない宝石を全て取り出した。
空になった宝箱に、俺とジオンで山になった魔法宝石を入れていく。
完成したグラディウスと共に、宝箱を持ってリーノの元へ向かったジオンは、リーノの傍にある宝箱の中身を移して、空になった宝箱を持って戻ってきた。
「ありがと。次からはここに入れておくね」
笑顔で頷いたジオンは、炉の前へと戻って行った。
さて、俺も続きを描かなければ。
「おっしゃ! 完成!!」
リーノの声に顔を上げると、窓から差し込む光が赤く染まっていることに気付いた。
ころころと目の前に並んだ《帰還石》は全部で12個。魔石にみっちりと魔法陣を描くのは時間が掛かる。
俺の分は5個もあれば充分だろう。7個はオークションに出してしまおう。
オークションページを開き、《帰還石》の街の買取価格を確認する。10,700CZだ。
街のお店でこれが売っているとしたら3倍、つまり32,100CZ。高い。転移陣32回分だ。
危険な時に逃げるために使うことができるわけだし、デスペナルティで減るお金を考えると、高くはないのかもしれない。
お金のない序盤はともかく、ある程度お金に余裕ができ始めると、大目に持ち歩いているだろうし。俺もそうだ。
とは言え、いつものように4倍で出品するのはどうだろうかと悩んで、2倍の21,400CZで出品しておいた。
「ライ、武器は35と45だね」
「ん、ありがとう」
フェルダが鑑定しておいてくれた武器を受け取り、全て出品しておく。
午前中に出品した分と合わせて、全部で15本の武器が出品されていることがウィンドウで確認できる。
「兄ちゃん、強い魔力銃できた?」
「うん、出来たよ。それに、炉と生産道具、それからアクセサリーも、ありがと。
ユニークだなんて驚いたよ」
「俺も驚いたよ。さすがだよね」
フェルダに作ってもらった炉を魔道具にしたところ、ユニークの炉が完成した。
それから、リーノの作ってくれたアクセサリーも。
ちなみに、鋳造品は、ユニークになることはほぼないらしい。
確かに、鋳型さえあれば量産できるわけだし、ほぼ出来ないというのは頷ける。
……が、目の前にずらりと並んでいるカトラリーのウィンドウには、全て『銀菜』という文字が浮かんでいた。
小さなスプーンのウィンドウには『銀菜デザート☆4』と表示されている。
ちなみに、鋳型用に貰ったデザートスプーンは《銀のデザートスプーン》だった。
つまり、ユニークアイテムだ。そもそも、☆4なので確定だ。
冷蔵庫と冷凍庫もユニークだし、この後の事を考えて、遠い目をしてしまう。
また怒られるな、これ。今回も交渉に時間が掛かりそうだ。




