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Fの過去と謎の少女

20180907 更新しました。

          ※




 暫くして、会議を終えた勇希と三間が戻ってきた。

 今回は二人だけじゃなく、久我も一緒だ。


「宮真くん、遅くなってごめん。

 交代しよう」


「わかった。

 よろしく頼む」


 俺は三間と見張りを交代することになった。

 次の階層攻略が始まる前に、少し休んでおこう。

 そう思い部屋を出ようとすると、


「こいつがぼくを……」


 俺に目もくれず久我はドシドシと足音を立て柊に向かい歩み寄っていった。

 被害にあった男の顔に憎しみが宿る。

 同時に柊の表情に焦燥感が浮かぶ。

 久我を陥れたことを覚えている証拠だろう。


「貴様……よくもやってくれたな」


「久我くん……気持ちはわかるけど、暴力行為は避けてほしい」


「っ……わかっている!

 だが、このままじゃぼくの気が治まらない。

 おいクソ女……貴様はぼくに、殺されてもおかしくないだけの罪を犯した。

 クズが! クズがクズがクズがクズが!」


 自分を苦しめた変身能力者に、久我は鬱憤をぶつける。口から出る言葉全てが憎しみにまみれていた。

 それが暫く続き、


「ご、ごご、ごめんなさい……お、お願いだから……こ、殺さないで……」


 柊の口から謝罪を引き出した後も、久我は怒りを撒き散らし続けた。




          ※




 暫くして落ち着きを取り戻した久我が、罪人を睨み続けていた視線を勇希に移す。


「……九重、感謝する。

 キミのお陰で、ぼくが冤罪であることを証明できた」


 プライドの塊のような男が、勇希に対して素直な感謝を口にする。

 その瞳は尊敬を向けるように輝いていた。

 少し前までとは、まるで別人のような態度だった。


「私だけじゃない。

 大翔くんや、三枝さん……みんなの協力があったからだよ」


「勿論、宮真たちにも感謝している。

 だが率先して行動してくれたのはキミなのだろ?」


 どうやら今回の件で、勇希は久我に心底信頼されたらしい。

 自己中心的なトラブルメーカーではあるものの、この調子なら勇希には従ってくれるかもしれない。


(……どこかで使い道があるかもな)


 問題児に利用価値が生まれただけでも、久我を助けた意味があったというものだ。


「この恩は忘れない。

 もしもキミたちに困ったことがあれば、ぼくが必ず力になろう!」


 言って久我は自分の胸を叩いた。


「ふふっ、そう言ってくれるのは心強いけど……久我くんにはまず、クラスのみんなとも仲良くなってほしいな」


「く、クラスの……だが……――いや、わかった。

 九重の頼みだ。

 善処しよう」


 口をへの字にしながら、久我は渋々頷いた。

 これでクラス内の不和が解決できればいいのだが……あまり期待しないでおこう。




        ※




 俺は三間と見張りを交代して部屋を出た。

 休む前に、今後の予定を勇希と話しておきたかったのだが……。


『今はゆっくり休んでおいて。

 その間に私も考えをまとめておくから』


 具体的な相談は、俺が起きてからということに決まった。

 彼女の口振りからするに『何か』を仕掛ける算段を立てているのだろう。


(……ある程度の想定はしているが……)


 いや、今は余計なことは考えず休んでおこう。

 徹夜だったこともあるが瞼は重く身体は睡眠を欲していた。

 空腹も感じていたが……食事は起きてからでいいだろう。

 俺は自室に戻ると、直ぐにベッドに倒れ込んだ。




       ※




『ぎゃああああああああああああああああああああああっ!』


 突然聞こえた悲痛な叫びに、微睡んだいた意識が徐々に覚醒していく。

 目を開くと見えたのは、真っ赤に染まった世界。

 世界を染める上げていく夥しいほどの血液だった。

 べっちゃ、べっちゃっ……と音を鳴らして、地面に赤い水溜まりができていく。

 それはまるで絵具が跳ねているかのようにも見えた。


『なんで、なんでこんな……』


 圧倒的な力に蹂躙され、人間だった物が一つ、また一つと肉塊にくかいに変わっていく。

 赤い世界を生み出しているのは、その塊から噴き出す鮮血だ。


『やめて……やめてよ! お願いだから、みんなを助けて……!』


 泣きながら懇願する少女の顔に俺は見覚えがあった。

 エラーで繋がってしまったもう一つの『1組』の生徒で……Fと似た少女だった。


『……』


 涙を流す少女を、もう一人の女の子が感情のない瞳で見つめている


『アイン……! どうして!? どうしてこんなことを!?』


『……当たり前のことをしてるだけだよ?』


『当たり前って……』


『だって、友達だから』


『は……?』


 微かに漏れた声。

 少女の心を絶望が覆い尽くしていく。

 なぜかわからないが、俺はそう感じた。 


『わけわかんないよ……!

 友達なら――こんなこともうやめてっ! お願い……お願いだから!』


『……ダメ』


『ぇ……』


『これは救済。

 だから――みんな一緒に殺してあげる。

 この世界に囚われないように』


 そう言って、アインと呼ばれた女の子は、この状況に不釣り合いな優しい笑みを浮かべた。


『もう何も考えなくていいの』


 虐殺はさらに加速する。

 人だけではなく、この世界の全てを消失させるように。


『ぁ……ぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』


 少女の心には絶望と、それを遥かに圧倒する怒りが膨れ上がっていく。


『たとえお前に殺されたとしても、この恨みは忘れない。

 必ず――必ず私がお前を――』


『ダメだよ……。

 あなたはここで死ぬんだから』


 一切の慈悲もなく紡がれた言葉と共に、俺の意識は暗闇に呑まれていった。




          ※




「っ――」


 バンッ! とベッドから跳ね起きる。

 全身に嫌な汗をかいていた。

 今のは……。


「見たようだな」


「!? ――お、お前……」


 ベッドの端にFが座っていた。  


「今のは……なんだったんだ?」


「……ふむ。

 オリジナルスキルのレベルが上がって……私との繋がりが深まっているからなのだろうが……」


「おい! 聞いているのか!」


「うん?

 ああ……お前が見たのは私の過去だ」


 また情報開示許可が出ていない……と、答えを拒絶されるのかと思いきや、Fは拍子抜けするほど簡単に答えてくれた。


「過去? じゃあ……お前は元々、人間だったのか?」


「この姿を見ればそれはわかるだろ? 人間以外の化物にでも見えるか?」


「っ……じゃあ、あの時に会ったのも、お前なのか?」


「それは、先日のエラーの件を言っているのか?」


「そうだ。

 お前はまだこのダンジョンにいるのか?

 だとしたら、どうやって俺に接触している?」


「う~む……」


 俺の質問を受け、Fは頭を捻る。

 即答できないことなのだろうか?

 何かを隠そうとしているようには見えないが……。


「どう答えるか悩ましいが……そうだな。

 あれは私であり、私ではないとも言える」


 Fの発言はどうにも要領を得ない。


「どういうことだ?」


「あの時点ではまだ、私が今の私になるかわからぬのでな」


 それは、今のFにとっては過去の出来事と語るような口振りだ。

 まさかこの世界は過去に繋がる手段もあるのか?


「担任はエラーだと言っていたが、あれは事実だろうな。

 私も何が原因であんなことが起こったかはわからん。

 上手く利用すればこの世界の瓦解に繋げるかもしれぬが……エラーを発生させる為の手段がわからぬでは考えるだけ無駄であろうな」


 この世界には穴がある。

 それが今も残っているということは、担任たちですら修正できない……ということなのだろうか?

 もしくはわかっていて、敢えて残しているのか……それとも、下手に手を出せばこの世界が崩壊する危険があるのか?


「……大翔。

 今は強くなることだけを考えろ。

 生き残りたければな」


 言われて俺はFの夢を思い出す。

 アインと名乗る少女――そして担任たちに虐殺されるFたちの姿を。

 力がなければ……俺たちもいつか、ああなるということなのだろうか?


「さて……おしゃべりが過ぎた。

 余計なことを言っていると、私もこの世界に処分されかねんのでな。

 そろそろ失礼させてもらうよ」


「待ってくれ!

 その前に一つ――夢に出てきたあのアインって女は誰なんだ?」


「……あいつか?」


 俺の問い掛けにFは表情を歪ませ、


「あいつは私の友達で、この世界で一番――殺したい相手だ」


 それだけ言って姿を消した。

 結局……あの少女が何者なのかはぐらかされたまま――いや、もしかしたら答えることができなかったのかもしれない。

 これまでの状況から考えれば、Fもこの世界に縛られた者の一人なのだから。


『ピンポンパンポン! やっほ~、わたしの可愛い生徒たち!

 第五階層の攻略許可が下りたよ~!

 先生は忙しいので教室に行けないから、みんなで力を合わせて攻略がんばってね~』


 放送が入った。

 ついに五階層の攻略が始まる。

 まだ頭が重い。

 恐らく……それほど長い時間は眠れていないだろうが、


(……そんなことも言っていらないか)


 俺は身体に鞭を打ち皆が集まるであろう食堂に向かった。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
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