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アイテム売却券

20180325 更新1回目

              ※




 4階層の攻略は3位通過に終わったが、クラスメイトたちが悲観する様子はない。


「はぁ……今回は残念だったね」


「でも3位ならまだマシだろ?

 ペナルティがあるわけじゃないしさ」


「それに九重さんたちのパーティがボスを討伐をしてくれてるから、なんだかんだでポイントに余裕はあるよね」


 先を考えれば全く余裕はない。

 しかし、その事実を直視出来る生徒はほぼいない。


大翔やまとくん。

 あいつの言っていたアイテム売却券って、アイテム欄に登録されてる?」


「すまん、ぼんやりしていた。

 直ぐに確認する」


 アイテムメニューを開く。

 すると、アイテム売却券の文字が確認できた。


「ああ、担任の言っていた通り5枚あるぞ」


「わかった。

 アイテムを売却して、ポイントを手に入れることが出来るのは大きいね」


「所持しているアイテムが、いくらで売れるか後で試してみるか?」


 俺の言葉に勇希が頷く。


「みんな、タウンへ戻ろう! 食堂に集合次第、各班の状況を報告して」


 指示を受けて、クラスメイトたちはタウンに向かった。




            ※




 ダンジョン攻略後の定期会議で、各班のリーダーが探索状況の報告を行う。

 多くの情報を共有する中でわかったのは、今回の4階層攻略では2組の妨害がなかったことだ。


(……やり方が姑息だが、上手いな)


 敵ながら、俺は羅刹に感心してしまう。

 3階層で他クラスを妨害することに注力することで、俺たちに恐怖を植え付け警戒させた。

 しかし4階層では一切の妨害はせず、ダンジョン攻略に集中することで階層攻略を1位で達成した。


(……面倒な相手だ)


 今更後悔しても遅いが、3階層でやりあった時に倒せなかったことが響きそうな気がしてならない。


(……羅刹が『種を蒔いた』と言っていたのは、恐怖を植え付けた……という意味だったのだろうか?)


 いや、それだけではないか。

 恐らくいくつかの意味がある。

 2組にいると仮定される変身能力者の力を使うことで、生徒同士に猜疑心を抱かせ、争わせ、自滅させること……。

 単純に意味ありげな発言を口にすることで、戸惑いを与えることが目的だったのかもしれない。


(……言葉は武器だな)


 こうして羅刹の言葉を考えさせられている時点で、あいつの策略は成功しているようなものだろう。


(……だが九重勇希の存在は、羅刹にとっても想定外になりつつあるだろう)


 今の勇希のやり方を知った時、あの男はどんな反応をするだろうか?

 そんなことを考えながら俺は彼女に顔を向ける。


「2組の妨害がなかったのはプラスに考えておこう。

 みんなが被害に合わなくて本当に良かったよ」


 周囲を安堵させるように、勇希は温かく優しい言葉を伝えた。


「他のクラスと接触したパーティはいる?」 


「九重さん、うちのパーティは3組と4組に接触したよ」


 答えたのは第3パーティのリーダーだ。

 確か名前は……箒星恵ほうきぼしめぐみだったな。

 個人的な印象としては、特徴のない平々凡々なクラスメイトだ。

 下手に個性が強い人間をリーダーにするよりは、パーティが纏まる気はする。


「これは推測でしかないんだけど、3組と4組はかなり険悪な関係にあるみたい」


「……どうしてそう思ったのかな?」


「3組と4組の生徒が、モンスターを討伐しているところに遭遇したの。

 でも……モンスターを討伐した後、喧嘩……っていうか、戦闘を始めてちゃって……。 止めに入ったんだけど、どっちも半狂乱っていうか、もう余裕がない感じで……」


 俺自身が状況を見たわけではないが、箒星の悲痛な表情を見れば、かなり切羽詰まった状況だったことは想像できた。

 3組と4組は常に階層攻略で最下位争いをしているクラスだ。

 獲得ポイントを考えれば、もしかしたら日々の食料すら余裕がない状況だろう。

 さらに下位クラスにはペナルティがある以上、精神的にもかなり追い込まれているはずだ。

 自滅してくれるなら問題ないが、このまま放置しておけば……最悪は大きな爆弾になってしまうかもしれない。


「……死傷者は出た?」


「その……4組の生徒が、かなり大きな怪我を負った人が出ちゃって……それでみんなが正気に戻ってくれたんだけど……本当に殺し合いをしているみたいだった……。

 あんなの見ちゃったら、このままじゃいつか自分たちもって、そんなことを思っちゃって……」


 室内の空気が重くなる。

 不安が伝染していく。

 事実ではあるが、こういった話を皆に伝えるのは問題があるな。

 今後は情報規制する必要があるかもしれない。

 伝達する情報は精査した方が、クラス内の混乱も避けられるだろう。


「……わかった。

 ありがとう、箒星さん。

 辛かったと思うけど、ちゃんと報告してくれて助かるよ」


 勇希の柔らかな笑みに、箒星は安堵したように息を吐き席に座った。


「みんな……今の話を聞いて不安に思ったのかもしれない。

 でも、安心して!」


 負の空気が蔓延する前に、勇希は皆に呼びかけた。


「3組と4組の生徒は互いに誤解があるだけだと思う」


「ご、誤解って、なに?」


 クラスメイトの一人が小声で尋ねた。


「2組の変身能力を持つ生徒を利用する事で、羅刹くんは3組と4組の生徒が争うように仕向けたんだよ」


 この発言は勇希の推測でしかない。

 当然、彼女自身もそれを理解しているだろう。


「私たちだってそうだったでしょ?

 変身能力者のせいで、クラス内で亀裂を生みかけた」


 言って1組のリーダーは七瀬に目を向ける。

 すると一斉にクラスメイトたちの視線が集まった。


「た、確かに……変身能力者の話を聞かなかったら、三枝さんが悪者になってたよね」


 そして3階層攻略後に起こった事――七瀬が三枝を一方的に責める姿を、生徒たちは思い出していた。


「わかっていると思うけど、七瀬さんを責めたいわけじゃないよ。

 ただ、ちょっとした誤解が大きな問題を生みかねない。

 こんな状況だもん。

 変身能力者の存在に気付いているのは、私たち1組と5組だけ。

 3組と4組にはその情報はないはずだよ」


 勇希の発言は不確定だ。

 羅刹が3組と4組の争いを誘発したことは断定していい情報ではない。

 だが、生徒たちにとってはそんなことはどうでもいいのだ。

 自分を安心させる為に、希望があればそれにすがるしかない。

 人間は弱いから救いを求めるのだ。


「な、ならやっぱり、羅刹を倒さないとだな!」


「そうだよね!

 人を争わせようとするなて、羅刹って人は絶対におかしいよ!」


 皆、クラスのリーダーの考えに同調を始めた。


(……きっと、みんなわかっているはずだ。

 でも、認めたくはないのだろう)


 人は人を傷付ける。

 それが当たり前だ。

 助け合う事も出来る……が、それは心の余裕を持ってこそだ。

 追い込まれたら人間は、何をするかわからない。

 それは歴史を振り返っても証明されていることだ。


「私たち1組は、みんなで協力してこの状況を乗り越えるの!

 だからどんな小さなことでもいいから、不安や不満があったら、誰かに言う前にまずは私に相談してほしい。

 必ずみんなの力になるから、一人で悩まないでね」


 頼りなるリーダーの言葉に、皆が導かれていく。

 彼女を信じていれば大丈夫だ。

 自分たちはきっと生き延びられる。

 多くの羨望の眼差しが勇希に向けられ、押しつけがましいほどの信頼が寄せられていく。


「それじゃあ、この話は終わりだよ」


 生徒たちの不安が消え去ったところで、直ぐに勇希は話を切り替えた。

 これ以上、この話を続けるメリットはないと判断したようだ。


「次はアイテム売却券について話そうか。

 みんなこれまでに拾ったドロップアイテムを一度、机の上に全部出してもらっていいかな?」 


 ドロップアイテムに関しては、今後はクラスの共有財産ということで話が決まった。

 アイテム売却券の存在がある以上、それを否定するものはいなかった。

 何せ持っているアイテムが全て、ポイントに変えられるのだから。

 その後は、売却券の効果を確かめるべく、一つ一つの売却価格を調べることとなった。

「……これは凄いね」


 皆が見守る中、勇希が戸惑うような声を上げた。

 現在所持するアイテムの中で、最もポイントへの変換率が高かったのは――レアアイテムでもある転移石だった。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
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