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壊れたヒーロー

20180212 更新1回目

 支配者の抑圧から解放され、気が抜けた生徒たちはその場で腰を下ろした。


「……た、助かった……のか?」


「羅刹……あいつ……!

 完全にアタシたちを殺すつもりだったよ!」


 美玲の表情に浮かぶのは怒りと恐怖。

 だがその恐怖を覚えたのは美玲だけではない。

 迷いなく人間を殺すことの出来る『異質』との邂逅は、この場にいる者たちの身を竦ませていた。


(……オリジナルスキルの効果が切れるまで、あと数分ってとこか?)


 これだけあれば、3階層のボスを討伐が可能かもしれない。

 ボス討伐のポイントを得る為にも、出来れば倒しておきたい。

 が、さっきの羅刹が召喚したモンスターとの戦闘で、俺自身のレベルもかなり上がっている。 


 現在のレベルは30。

 一気に11レベルも上がっていた。

 さらに大量のマジックポイント、スキルポイントを得ている。

 今なら3階層のボスを、オリジナルスキルなしでも倒せるんじゃないだろうか?

 羅刹は確かに厄介な相手そうだが、


(……羅刹がモンスターを召喚できるなら、利用できるかもしれない)


 俺の一匹狼と、あいつの召喚スキル? は非常に相性がいい。

 そしてあいつは、俺のオリジナルスキルの効果を知らない。

 次に戦闘した際も大きなレベルアップが可能になるんじゃないだろうか?

 皆が羅刹に脅える状況化で、俺はあいつを利用する為の算段を考えてしまう。

 この世界にだいぶ毒されていると感じながら……。


「あ……け、怪我をされた方はいますか?

 いたらおっしゃってください!」


 周囲を見回して、樹が生徒たちに声を掛ける。

 この状況下で他人のことを考えらえる辺り、樹は大した人物だ。

 怪我を負った生徒に治癒キュアを掛けて回る樹。

 その行動のお陰もあり、周囲の生徒たちは落ち着きを取り戻していった。


「しっかしよ~、宮真くんは流石だぜ!

 あんな化物共を一人で倒しちまうんだからな!」


 野島、今、その話に触れるな。

 5組の生徒たちが説明しろ! って、目を俺に向けてるじゃないか。


「あ、そうだ。

 ねぇ、ヤマト。こいつらどうする?」


 此花の目が地面に倒れ伏せる2組の生徒に向いた。

 ナイスだ此花! まずは話を逸らそう。


「……羅刹の能力について聞き出すか」


「そ、そうだよ!

 あいつのあのモンスターを召喚できる力!

 あれについて説明して!」


「何か弱点とかないの?」


 美玲を始め、この場にいる者たちの詰問が飛ぶ。


「……」


 だが、2組の生徒たちは何も答えない。

 俺たちに苛立ちをブツけられても、何も感じていないようだ。

 これは、羅刹という支配者に恐怖してのものなのだろうか?


「おいテメェら! 何か言いやがれっ! ぶっ飛ばすぞ!」


 怒声を上げた野島が、バタバタと一人の生徒に近付く。

 そして胸倉を掴み上げた。

 今にも殴り掛かりそうだ。

 だが、そこまでされても、彼らは怯えた様子一つ見せない。


「おい! マジでぶっ飛ばされてえのかっ!」


「……殴りたきゃ殴れ」


「っ――」


 野島が拳を振り上げる。

 誰もそれを止めようとしない。

 それは当然のこと……だと俺は思っていのだが、


「やめて!!」


 一瞬、誰の声かと思った。

 が、それが勇希のものだという事に気付いた。


「なんで! なんで! どうして!? なんでこんなことになるの!?

 生徒同士で傷付け合って楽しいの? 何が楽しいの?」


 勇希の様子がおかしい。

 これは誰に向けた言葉なのだろうか?


「いきなりこんな世界に飛ばされて、クマの着ぐるみにダンジョン攻略しろなんて言われて、わけわかんない状況なのに、なんで生徒同士が喧嘩するの!? わけわかんないよ! 協力しなくちゃいけないよね!? モンスターがいるんだよ! 食料だって限られてるんだよ! 危機的な状況だってちゃんと理解してる!? みんなで生きて元の世界に戻ろうって思うのが普通じゃないの? それともみんな、足の引っ張り合いが大好きなの!? それとも、殺し合いが大好きなの? 人殺しがしたかったの? だとしたらそんなの絶対おかしいよ! こんな世界おかしいよ! みんなおかしいよ! おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!」


 勇希は叫び続けた。

 そんな勇希に俺たちは唖然としてしまって、声も出せなくなっていた。


(……ゆ、勇希が、壊れた……)


 俺の憧憬――ヒーローの象徴。

 そんな九重勇希が、喚き散らし、頭を抱えて、蒼白な顔をしている。


「お、落ち着いてくれ、勇希……」

「おかしい、おかしい、おかしい、おかしい……」


 俺の言葉は届かない。

 まるで自問自答するように、勇希は同じ言葉を繰り返し続けた。

 俺は何も言葉を紡ぎ出すことが出来ないまま、壊れていく勇希を見守るだけしか出来ない。

 ボロボロになって倒れても、ヒーローは立ち上がる。

 なら勇希は?

 彼女は……また立ち上がることが出来るのか?

 いや、違う。

 ヒーローは応援してくれる人々がいるからこそ、立ち上がるんだ。

 じゃあ、勇希を応援してやれるのは?

 助けてやれる奴は……?

 俺は――


「……勇希、お前は間違ってない」


「え……?」


「問題は羅刹だ。あの男を倒せば全クラス協力できる。

 今回の生徒の襲撃事件だって2組の生徒が犯人だ。

 あいつが争い合う原因だ」


「げん、いん……?」


「そうだ。原因は取り除かなくちゃいけない」


 きっとそれは、本来の勇希が望むやり方ではない。

 だがそれでも俺は、勇希の理想自体は間違っていない。

 そう伝えてやりたい。


「……俺が力になる。

 勇希の理想を叶える為に、邪魔な奴は全員排除してやる」


「……私の理想を……」


「そうだ。

 だから――俺を利用しろ!」


「利用……?」


 俺はこの時、勇希を救う為に、勇希を利用することを決めた。

 今までのやり方では彼女の心が壊れてしまう。

 だから――


「お前に出来ないこと全て、俺がやってやる!」


 九重勇希という壊れたヒーローと、それを陰から利用する俺の手によって、このダンジョンの情勢は大きく変化する。

 この日、この場で――この世界を揺るがす大きな改革が始まっていくのだった。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
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