嘘と本心
2017/1117 更新しました。
もしかしたら……という程度に想定していた。
少し面倒なことになったが、勇希と三間の性格を考えれば反対の理由は想像が付く。
「質問をさせてもらってもいいかな?
三枝さんが1組の生徒の生徒になることを、2組の生徒たちは納得しているのかい?」
やはりそのことか。
「納得どころか、2組は引き抜きというシステムすら理解してないだろうな」
「……だとしたらそれは、1組と2組の間に火種を生むことにならない?」
「僕もそれが気になった。
もし三枝さんを引き抜けば、2組との関係が悪化するよね?
そうなったら、協力していくことが難しくなるんじゃないかな?」
他クラスとも協力してダンジョンを攻略していく。
それが1組の方針になっていたのは、当然俺も覚えていた。
「……その危惧も理解できる。
2組が何も言わずに納得するかと言えば、それは難しいかもしれない。
担任――先生に質問があるんだが……」
一つ、確認するのを忘れていた。
「何かな~?」
「引き抜きを行う場合、どのクラスに引き抜かれたかは公表されるのか?」
「されるよ~。引き抜きに使用するポイントの半分は、クラスポイントになるからね~。 どのクラスに引き抜かれて、いくつポイントが入ったのかは、そのクラスの担任がしっかりと伝えるよ~」
そうなると俺たちが引き抜いたのはバレバレってわけだな。
「なら僕は引き抜きには賛成できない」
「大翔くんの気持ちはわからなくはないよ。
でも、私もみんなで協力していけばいいと思うんだ。
それに、2組と協力できるなら三枝さんの力も借りられるんじゃないかな?」
クラスの中心人物である二人の発言は、クラス全体に大きな影響を与えていく。
雲行きは徐々に悪くなっていった。
「あ~そっか。
引き抜きなんてしなくても、協力できればいいんだよな」
「クラス間で協力できれば、三枝さんの力も借りられるもんね!」
「なら引き抜きするメリットなんて、ほとんどないじゃん」
先程まで引き抜きに賛成していた生徒も、すっかり思考を誘導させられていた。
勇希たちの考えには一理ある。
だが、引き抜きするメリットは間違いなくある。
「反対の生徒がいるみたいだけどさ。
ボクはやっぱり賛成だな。
少し考えればわかることだけど、あんな広いダンジョンの中で都合よく三枝さんに出会えると思う?」
此花が席を立ち自分の意見を口にした。
「オレも宮真くんに賛成だ!
宮真くんがやるってんだから間違いがあるはずねえ!」
続けて野島が発言する。
ありがたいが、もう少し説得力のあることを言ってほしいものだ。
「賛成か反対かは個人的な意見も入るだろうが、此花の言ったことは事実だ。
ダンジョンの中で他クラスと遭遇できる可能性は低い。
今後、ダンジョンがさらに広くなっていく可能性を考えれば、より出会いにくくなるだろうな」
「言われてみればそうだよね。
そもそも、協力するにも他クラスの生徒に会えないんじゃ意味がないんだ……」
「……そうなると、やはり三枝を引き抜くべきなんじゃないか?」
半々とはならないが、此花の発言で引き抜きに肯定的な生徒も増えた。
一応、ここで反対意見に追い打ちを掛けておくべきだろう。
「俺は引き抜きをしても、デメリットは少ないと考えている。
間違いなく2組と争いが起こることもない確信がある」
「……確信? どうしてそう言い切れるんだい?」
三枝勇希は2組でイジメを受けているから。
排除されかけている生徒がクラスからいなくなって、怒る生徒などいない。
さらにポイントまで支給されるのだ。
引き抜きによる危惧は、イチャモンを付けられることくらいだろうな。
だが、三枝がイジメに合っていたことはなるべく伝えたくはない。
(……誰だって、イジメを受けていたなんて知られたくないだろうからな)
俺自身もイジメを受けた経験があるからこそ、あいつの気持ちがわかるのだ。
イジメにあうこと――惨めで、鬱屈とした感情が渦巻いて、自分という人間が最低な存在に思えてくる。
カーストの最下層。
人間的地位の崩壊――いや、人間であることすら否定されるような、イジメという行為は人間を壊すのだ。
勿論、三枝の気持ちを全てを理解しているとは言わないが、俺が嫌だと思うことはきっとあいつだって嫌だろう。
だから、この事は伝えずにおきたい。
あいつが1組のクラスメイトとして、少しでも生きやすくする為にも。
(……仮に、これを説得材料として使うのなら最終手段だ)
俺は最初からそう決めていた。
だから、ここにいる全員を俺は騙しとおさなくてはならない。
「3位通過の2組に支給されたポイントは250。
ギリギリ生活は出来るが余裕はないだろ?
そこで引き抜きによって、クラスメイト一人と引き換えにポイントが入ったらどう考える?
怒りを向ける生徒よりも、安堵……いや喜ぶ生徒すらいるだろうな」
「……あ~……最低な話だと思うけど、こんな状況じゃ自分が助かることを一番に考えちゃうもんな」
「確かに目先の利益に飛びついちゃうかも……」
それっぽい理屈を伝えることで、上手く思考を誘導していく。
現状、1000ポイント以上保有する俺たち1組ですら余裕はない。
だからこそ、2組はもっと辛い状況にあるのだ。
「……確かにその通りかもしれない。
でも、三枝さんと仲がいい生徒だっているかもしれない」
「おいおい、知り合って1日でそれほど親しい生徒ができると思うか?」
「それは……」
事実、俺たちだって仲がいいという関係は到底築けていないのだ。
人間は誰しもそう簡単に他人に心を許したりはしないのだから。
「それともう一つ。
2組の生徒は三枝のマッピングスキルについて知らない。
だから三枝が引き抜かれても、一生徒がいなくなったという程度の認識しかもたないだろうな」
「……え? そうなの?」
「だったらいいんじゃない?」
「それでポイントが貰えるなら、揉めるより感謝されそうじゃね?」
「だろ? 考えようによっては、ポイントに余裕がある俺たち1組が恵みを与えた……そう言えなくもないんだからな」
「……うちら、めっちゃいい事してるじゃん!」
「助けてあげたってことだもんね」
こういう反応が返ってくるあたり、既にポイントを多く持つ自分たちが、他クラスよりも上だと考えている生徒もいるようだ。
(……笑えるな)
協力と口にしておきながら、既に対等であるとは考えていないのだ。
上にいる自分たちが協力してやっている。
そんな風に考えている生徒がいるなら、協力関係など簡単に破綻するだろう。
だが、今はそういう考えを持っている生徒がいたのは都合がいい。
「う~ん、やっぱり引き抜きもありなんじゃね?」
「だよねだよね! わたしもそう思うわ~」
こうして、クラス内の流れは傾いた。
まだ反対してる生徒もいる。
だが後は、
「三間、それに勇希も……三枝の引き抜きに賛成してくれないか?」
二人が賛成すれば、反対の生徒たちも頷かざるを得ないだろう。
「……私はやっぱり反対。
結果の話じゃなくて、順序が違うと思う。
引き抜きをするなら、2組のみんなに説明をしてからじゃないかな?」
勇希の意見は正論だ。
本来ならそうすべきだろう。
「……1組に来ること。
これは三枝自身が望んでいることだ。
勇希は三枝が一人で探索していたのを見ているよな?」
「あ……そういえば、1階層でも2階層でも2組の生徒とは一緒にいなかったよね?」
「三枝が探索に出ようとした時、2組の生徒たちは誰一人賛同しなかったそうだ」
「え……?」
嘘だ。
実際は三枝は2組を無理やり追い出されたのだ。
だが、二人を納得させるには騙し通すしかない。
「3階層でも三枝は多分、1人で探索に出ると思う。
だが階層が上がればモンスターも強くなっていく。
その状況で、三枝は次も生き抜けると思うか?
上手く誰かと合流できればいいが、ダンジョンだって広く難解になっていくんだぞ?
下手したら無駄死にだ」
そう。
今回三枝を引き抜けなければ……彼女が次に生きていられる保証はない。
2組に残れば、きっと三枝はまた1人でダンジョンの探索を強制されるのだから。
「頼む。――この引き抜きは、三枝を助ける為でもあるんだ」
俺はクラスメイトたちに頭を下げた。
本心と嘘が入り混じる。
だが、俺はあいつを助けると約束した。
いや助けたいと思っている。
この気持ちは、間違いなく本物だ。
これでダメなら……いや、間違いなくこれで状況は動く。
そう信じて、俺は二人の言葉を待った。
「……なるほど。
宮真くんが三枝さんを引き抜くことに拘ったのには、そんな理由があったんだね。
だとしたら僕も三枝さんのことは放ってはおけない」
「ダンジョンを一人でなんて……。
だとしたら、そんなの放ってはおけない。
そういう事情なら、私は引き抜きには賛成だよ!
2組のみんなは驚くと思うけど、事情を説明して理解してもらうしかないよね」
クラスのリーダ-である二人からも賛同を得ることに成功した。
「助かる!」
柄にもなく、二人には本気の感謝をしてしまった。
後はとんとん拍子。
「これは人命救助ってことだもんね。
なら、ボクたちは全面的に正しいじゃん」
「おう! 流石は宮真くんだ! 引き抜きはすべきだろ!」
「事情が事情だし、1組にもメリットはあるし、人助けできるならいいんじゃね?」
「うちもそう思う! てかしない理由なくない?」
もう反対する生徒はいない。
満場一致で、三枝勇希の引き抜きが決定したのだった。




