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変わらないもの

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 さらにダンジョンを進んで行く。

 マップの未到達エリアが、どんどん到達エリアとして書き換えられていく。

 マッピングスキルがない状況では無限に続くと錯覚してしまっていて、余計に広く感じてしまっていたのだけど。

 こうして進んでみると、道が様々分岐しているだけで、極端に広いというわけではないようだ。

 通路を正確に把握して無駄を省くことで、移動効率は段違いになっている。

 徐々に1年2組の教室があると予想される地点に近付いていた。

 このまま何事もなければ、無事に到着でき――


「っ!?」


 強烈な寒気を感じた。


(……なんだ?)


 心が騒めくような感覚に、俺は慌てて周囲を警戒する。

 この先に間違いなく何かいる。

 しかも……。


(……後ろからもかよ!)


 最悪なことに、後方からも何かが近付いてきている感じがした。


「宮真くん?」

「この先から、嫌な感じがしないか?」

「あたしは、何も感じなかったけど……?」


 三枝は不安そうに俺を見た。 

 嘘を吐いているわけじゃないだろう。

 本当に何も感じていないのだ。

 だとすると――さっきの獲得したスキル、気配察知の効果か?

 思い当たるのはそれしかない。

 つまり――


(……この先にモンスターがいる?)


 だが、ただモンスターがいるだけで、こんな悪寒を感じるものなのだろうか?

 前方の強烈な気配は動いてはいない。

 その場に留まっているようだ。

 対して、後方からの気配はどんどんこちらに近付いてくる。

 挟み撃ちされる心配がないだけ、まだマシだが……。


「ねぇ、大丈夫? 顔色、悪いよ?」

「体調が悪いわけじゃないんだ。

 ただ、この先には行かないほうがいい気がする」

「え、でもうちのクラスを目指すんだよね?」

「ああ。

 遠回りになるかもしれないが、別ルートを探してみよう」


 ダンジョンの通路は複雑に入り組んでいる為、思いがけない通路を発見できる可能性だってある。

 とにかく、この先には進むべきではない。

 理屈では説明できないので、説得の材料はないも同然だが……。


「わかった。

 宮真くんがその方がいいって思うなら、きっとそうなんだよね」


 三枝はそう言って笑みを浮かべた。

 その笑みは、今日会ったばかりの俺に全幅の信頼を寄せているようだった。

 それはどういう意味での信頼なのだろうか?

 打算的なものなら、それでいい。

 少なくとも俺は、生き残る為なら全力を尽くし、三枝も生きる為に俺と協力している……というのが俺の考えだ。

 だがもし、三枝が俺を無条件に誰でも助けるような善人だと思っているようなら……。 それは勘違いもはなはだしい。

 いざとなれば俺は――三枝のことも切り捨てる。 

 俺は、俺と勇希だけが生き残ることが出来れば、それでいい。


「……一旦、この場から離れよう。

 この嫌な気配から離れたい。

 ただ、後方からも何かが近付いているから慎重に進んでくれ」

「何かが……? ……うん。わかった!」


 俺たちは踵を返した。

 直ぐに魔法を放てる準備だけはしておく。

 こちらに迫って来る魔物が、もしゴブリンやホーンラビットであれば、油断しなければ倒すことは出来るはずだ。

 だが、あの強烈な気配――あれにだけは近付いちゃいけない。

 もし戦闘にでもなれば、勝ち目は薄いだろう。


「三枝……止まってくれ。来るぞ」

「わ、わかった!」


 三枝はホーンラビットの角と、ゴブリンの盾を構える。

 視界の先で、複数の影が動いた。


「何かいねえ?」

「モンスター……じゃ、ないみたいだな?

 もしかして、他のクラスメイトじゃないか?」

「そうなのかな? お~い、もしかしてお仲間~?」


 気楽な声が聞こえてきて、思わず警戒心が薄まる。


「もしかして……!? ――やっぱりだ! 大翔やまとくんだよね!」


 え……?

 なんで俺の名前が……――って、まさか!?


「ゆ、勇希!?」

「やっぱり、大翔くんだ!」


 信じられなかった。

 が、間違いない。

 本当に勇希だ。

 彼女が泣きそうな顔で、こっちに走って来る。


「……宮真くん、あの子ってもしかして……」

「ああ、クラスメイトだ」


 でも、なんで……?

 勇希は教室に戻ったはずなんじゃ……?

 なのに、なんでダンジョンにいるんだよ。

 しかも、勇希と一緒にいるのは見覚えのない生徒ばかりだ。


「ああ~、良かった。やったね、宮真くん!

 これでまた仲間が増えた! わたしたちきっと助かるよ!」

「……そうだな」


 嬉しそうな三枝。

 助かる可能性が上がったのだから、喜ぶのは当たり前だろう。

 だけど、ここに勇希がいることだけは、俺は素直に喜べなかった。


「大翔くん、本当に良かった! 無事だったんだね!」


 勇希が俺に駆け寄ってきた。

 俺のそんな感情に、当然のように勇希は気付いていなかった。


「……なんでまたダンジョンに来た?」

「え……? なんでって……」

「教室に戻れなかったのか?」

「ううん。あの後、ちゃんと戻れたよ。

 野島くんも助けられた。全部、大翔くんのお陰だよ!」


 野島……? と一瞬疑問に思ったが、あの三白眼の不良の事を言っているようだ。


「だったら、なんでまたダンジョンに入ったんだ!」


 思わず苛立ってしまう。

 これじゃあ、俺がなんの為にリスクを犯したのか……。


「なんでって、当たり前だよ!」

「あ、当たり前……?」

「だってあの時、大翔くんは私たちを助けてくれた!

 だったら今度は、私が大翔くんを助ける番だもん!」


 ……ああ、馬鹿だ。

 九重勇希って女の子は、どうようもない馬鹿だ。

 大馬鹿だ。

 変わらない。

 変わっていない。

 なんで助けに来たのか。なんて聞いたのが馬鹿らしくなるくらいに。

 

(……いや、期待していなかったと言えば嘘になる)


 九重勇希はずっと、俺のヒーローだった。

 彼女のならもしかしたらと、押しつけがましいほど信頼するほどに。

 誰かに期待すれば落胆することになるなんて、とっくに知っていることなのに、勇希だけは昔と変わらないまま、俺の勝手な信頼に応えてしまった。

 ヒーローがいるなんて、子供の頃に抱いた幻想が、その憧れが――変わることなくあり続けてくれた。


(……そのあり方は俺にとっては憧れだ。同時に、人としてはあまりにも異常だ)


 彼女はあまりにも自己犠牲が過ぎる。

 二度と誰かの為に、自らを危険に晒すようなことはして欲しくはない。

 だけど、それでも……


(……ありがとう、勇希)


 彼女が俺を救いに来てくれた事が、どうしようもないほど嬉しいかった。

 ……だからこそ、俺は――彼女がヒーローであり続けることを、二度と嬉しいなんて、思ってしまってはダメなんだ。


「勇希、頼むから。

 二度と、誰かを助ける為に無理なんてしないでくれ」

「……それは私のセリフだよ。

 次は私たちを助ける為に無理なんてしないでね。

 もし無理をするなら、その時は一緒に乗り越えること。

 約束してくれる?」


 一緒に?

 そんなこと出来るか。

 勇希だけは絶対に危険な目に合わせることはできない。

 だが、ここで約束できないなんて言えば、勇希も無茶をするかもしれない。


「勇希が無理をしないって約束するのなら、俺も約束する」

「うん! じゃあ約束だね!」


 笑みを浮かべ、俺に小指を向ける。


「約束のゆびきり」

「……わかった」


 小指を結び、俺と勇希は約束した。

 だが、これは口約束だ。

 悪いが、俺はいつでも勇希との約束は破る。

 彼女を危険な目に合わせるつもりはない。

 何があろうと、何を利用しようと、絶対に。


「お二人さん、お熱いね~!

 まぁ、探し求めていた人に出会えたんだもん仕方ないと思うけど。

 でそろそろ自己紹介してもらえると嬉しいかなぁ」


 茶化すような声が聞こえて目を向けると、


「あ、ごめんね、扇原さん! それにみんなも……」


 扇原と呼ばれた女生徒が、微笑ましそうに俺たちを見守っていたのだった。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
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